ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

文字の大きさ
49 / 159
七話

幻獣と始祖竜の話

しおりを挟む
 ユラァ…

 洞穴の前を横切るように黒い影が移動していく。その影はユラユラと不気味に揺れながら山の頂上へと向かっていく。影は一つではなくいくつもあった。まるで行進のように続いた後、音もなく姿を消す。

「今のって…」
「亡霊だっ!呪われるっっ!」

 ソルが抱きついてくる。ガタガタと全身を震わせながら首に腕を巻き付けてきた。

「苦しいって。落ち着けよ。あんだけハッキリ見えてるし人間だろ」
「はあ?!あれが人間だと?!大雨の中一体何してんだよ!!つーかてめえ冷静すぎだろ!ビビれよ!!可愛げねえなあ!!」
「いや俺に可愛げ求められても…」

「お二人もここに避難されてたんですね」

「うわっ!!」
「ひいい!!」

 揃って悲鳴を上げる。振り返るとレインコートを着た陸郎が立っていた。どこから現れたのかと瞬きを繰り返す。
 (洞穴の入り口はずっと俺達が陣取っていたし、誰かが入ってくるのは見てない…)
 俺達より先にここに来ていたにしてもどこに隠れていたのか。

「この奥に用がありまして、雨宿りもかねて避難してました」
「奥に…?」

 暗くて見えてなかったが洞穴の奥に道が続いているのか。

「チッ」

 陸郎の登場で、ソルが俺から離れていった。なんとか危機は去ったか…と内心胸を撫で下ろしているとそれとほぼ同時ぐらいに洞穴の入り口に再び影が現れる。ぬるりと現れた巨大な影にソルが絶叫した。

「ぎゃあああっ!亡霊だあっ!!」
「ダーレが亡霊ですって!失礼しちゃうワ!」
「「!」」

 まさかの声にギョッとする。

「ふーん、吾郎さんにここの事は聞いてたけど結構中はしっかりしてるノネ~」
「グレイ!…と、フィンも!無事だったか」
「ふふ、これを無事といっていいかは微妙だけどネ」

 グレイの後から茫然自失といった感じのフィンが入ってくる。二人とも滝行でもしたのかというレベルでびしょ濡れだった。外の雷雨を見ればそうなるのも納得だがフィンにとっては災難すぎる状況だろう。
 (滝に雷雨にずっと湿度MAX状態だもんな…)

「フィン大丈夫か?」

 声をかけるとやっと俺に気付いたらしい。無言で腕を回してくる。

 ぎゅっ

 びしょびしょの腕に抱かれ俺までずぶ濡れになった。
 (ったく、水に濡れると弱々しくなるよなあ)
 それもまたギャップで良いんだけどな。心の中で笑いつつ、丸まった背中をさすってやる。フィンはしばらく俺を抱いたまま元気を回復するようにじっとしていた。

「はぐれちゃった時はどうなるかと思ったけど。まさかライ達もここにたどり着いてるなんて…運命感じちゃうワ。二人は陸郎クンに案内してもらったノ?」
「いや、ソルが見つけてくれてさ」
「フーン~?」

 あら?という顔でグレイが見てくる。
 (やっべ…)
 ソルの服が変わってたり大雨の中洞穴を見つけられたり…狼化した痕跡が多々あるわけだがそれを突っ込まれると色々と厄介な事になる。頼むから突っ込まないでくれ、と視線で訴えるとグレイは眉を上げて陸郎の方に視線を移した。

「陸郎クン。ここって“竜のほこら"に続く道で合ってるカシラ?」
「はい、そうです。なので幻獣の皆様はこれ以上進まれない方がいいと思います」
「ソウね。この位置なら大丈夫そうだけど一応気を付けておくワ」
「“竜の祠"?奥に何があるんだ?」

 入ってすぐは気付かなかったが洞穴の中は綺麗に整えられている。人が利用していた形跡もあるし人工的に作られた洞穴なのだろう。“竜の祠"とやらの為に整えられているのだとしたらなかなかの労力がかけられている事になる。
 (竜、か…)
 名前のせいで一瞬龍矢の顔が浮かんでしまう。すぐに頭を振った。

「この山に長く言い伝えられている昔話がありまして、それが“竜の祠"に眠られている水竜様すいりゅうさまのお話なのです」
「水竜様?」
「かつてこの辺りは長い間水不足に苦しんでいました。そんなある日、水竜様が現れて山を荒らすほどの嵐を呼び込んだのです。嵐は何か月も続いた後、水竜様のご加護が雲として残り、それ以降山の水は一度も枯れたことがないと言われています」
「恵みの神様ってことか」
「はい。水竜様は水の恵みを与えた後この場所で眠りにつきました。ご先祖様は感謝と敬意を表して“竜の祠"を作ったのです。水竜様が穏やかに眠れるように、と」
「なるほど…」

 旅館の名前が“竜塚の宿”ってのにも納得した。
 (竜が眠る山の宿…か)

「自分達一族は水竜様に助けられた御恩に報いる為、この山と祠を守る役目を果たしているのです」
「素敵なお話ヨネ~」

 グレイが感慨深げにしている。

「疑問点がまだ残っているぞ」

 ふと俺の横にいたフィンが顔を上げた。やっと冷静さを取り戻したようだが虫の居所は悪そうだ。ピリピリしている。

「先程の、幻獣は“竜の祠"に近づかない方がいいという言葉、あれはどういう意味だ。この奥から…身の毛もよだつような嫌な気配がするのと関係してるのか」
「それは…」
「それについてはあたしが話すワ」

 グレイが電子タバコを咥えながら洞穴に背中を預けた。ふう、と白い煙を吐く。

「水竜様がこの奥に眠っているのはさっきの説明でわかったワネ?水竜様っていうのはこの土地独自の呼び方で本来は“始祖竜しそりゅう"と呼ばれてるワ」
「始祖竜?」
「そう、全ての幻獣の始祖となった古代種の事ヨ」
「!!」

 全員が驚きで停止する。昔話と思えば突然壮大な話になって…理解が追い付かない。
 (始祖竜に古代種に幻獣の始祖???)

「ふふ、突然ぶっこんでごめんなさいネ。でもこの話は今回の旅行の目的の一つでもあったのヨ」
「元々話すつもりだったって事か?」
「ええ、今のあなた達にとって一番必要な話だと思ったからネ。人間のライ、幻獣のフィン、元人間で半獣のソル。異なる立場のあなた達が互いを理解するには幻獣の成り立ちを知ってもらうのが一番と思って。衝突が生まれる理由の大半が“相手の事を知らない”からだモノ」
「「…」」

 フィンとソルが気まずそうに見合った。

「幻獣は現在、数え切れない程の種族数になっているワ。あたしが分類されるインキュバス一つとっても、夢を操って生気を奪う者もいれば直接接触して奪う者もいる。名称は同じでも、人間の世界に適応する為に、それぞれの形を獲得していってるワ」
「え、グレイってインキュバスだったのか?!」
「あら言ってなかったカシラ?」

 ふふっと笑われる。いや全然聞いてませんけど。抗議するように眉を寄せればごめんごめんと謝ってくる。

「ほら~あたしって、インキュバスの中でも飛びぬけて変わってるからサ?インキュバスでーすって名乗りにくいのヨ~」
「変わってるって…まあ、そうか」
「チョット、そこで納得しないデ。能力でって意味ヨ??」
「なんだ、そっちか」
「ライ~~!」

 頬をつねられた。

「ふむ、私も驚かされたぞ。インキュバスはもっと雑魚悪魔…いや、小者のイメージがあったが…グレイ程の力を得る事もあるのか」

 感心するようにフィンが言うと、グレイはニヤリと笑みを浮かべた。

「長生きしてると色々ネ?」
「…食えないな」
「ふふふ」

 フィンの驚き方を見るにグレイの能力はかなり特殊なのだろう。夢に誘う力、記憶操作、そしてその発動が広範囲で可能な事。実はこれが一番恐ろしいのだが…とにかく汎用性の高い能力だ。もしもこれが個性と年月で得たものだとしたら。
 (死なない体を持つ不死鳥はどうなんだろ)
 フィンの横顔を見つめる。死なない彼らもグレイのように長い時の中で新たな能力を獲得していくのだろうか。俺の視線を感じたフィンが横を向いて微笑んでくる。

「ん?」

 昨日ぶりの甘い笑みにくすぐったくなる。つい横へ視線を逃がすと

 じっ

 反対側にいたソルと視線がぶつかった。銀色の瞳がじっとこちらを見つめていてドキりとした。
 (い、いつから見てたんだ…)

「脱線しちゃったワネ。とにかく、こんなに種族数が増えた幻獣も元々は一つの種族だったノ。それがさっき話した古代種…“始祖竜"ヨ」
「始祖竜についてはわかってきたが、そもそも竜ってどんな感じなんだ?ファンタジーでよく見る…翼があって炎はいたりする感じで合ってるか?」
「そうそう。大方イメージ通りヨ。結構色んなタイプがあったみたいだけど山一つ覆えるぐらいの大きさのもいたみたい」
「マジか…」

 そんなのがいたら腰を抜かす、いや気絶するかもしれない。フィンがふむと腕を組んだ。

「竜がいた証拠はあるのか?私達程度の存在なら隠しきれてもその大きさでは人間にバレてしまうだろう」
「竜がいたのは数千年前の事ヨ。しかも山のように大きい竜はもっと昔だったからバレるも何もないワ。炎を吐いたり、天候を操作するみたいな特殊な力を得たのはサイズが小さくなってからだから結構最近の話になるのヨネ」
「小さくなる代わりに能力を得たって事か」
「ええ、でも結局、サイズを小さくするだけでは足りなくなった。だから竜はそれぞれの生息地に適した形へと進化していったノ。ある者は水の中を泳げるようになり、ある者は二足歩行で歩くようになった。それがあたし達、幻獣の始まりってワケ」

 まるで進化論だ。人間も元々はネズミのような恐竜だったと聞いた事がある。恐竜が人間へと進化できたのだから、竜が幻獣へと進化したと言われてもおかしくない。

「はっ!元々は竜だったとか、化物らしい成り立ちじゃねえか!よく絶滅しなかったもんだぜ」

 胡坐をかいていたソルが馬鹿にするように笑った。グレイがそれに向き直る。

「ソル。他人事じゃないのヨ。狼憑きになった瞬間、あんたはこっち側に変わった。あたし達と先祖を同じくする同族になったノ」
「アア?てめえらと同族だあ?!人殺しの化物集団と一緒にすんじゃねえよ!」
「ソル!」

 今までにない強い叱声。流石のソルも反論の言葉を飲み込んだ。

「今の時代を生きる幻獣の多くが人間に擬態する能力を有してるワ。もちろんあたしやフィン、あんたも…人型を保持して生活してる。それは何故だと思う?」
「…んなの知るかよ」
「世界の覇者が竜から人間に変わったからヨ。個としての力は最弱でも、群れでの強さは古代種すら上回るレベル。幻獣が束になっても敵いっこない…まあ、そもそも束になる事が難しいんだけど。ほぼ最強といっていい、新たな世界の覇者である人間と共存する為には同じ形に擬態する必要があったノ」
「けっ、それが進化だって言うのか!てめえらに誇りはねえのかよ?!」
「弱肉強食という摂理は残酷ヨ。弱者に選択肢はない。強者に狩られないように立ち回らなければ淘汰されるだけ。その残酷さは…あんたが一番わかってるでしょう」
「……」

 ソルが押し黙る。グレイが一息ついて俺達の方を向いた。

「以上が幻獣と始祖竜の話ヨ。長くなっちゃったけど、この奥にいる水竜様はあたし達にとってはご先祖様?みたいな感じで、それこそ遺伝子レベルで恐怖が刻まれてて無条件で震えあがっちゃうワケ」
「ふーん。俺には何も感じねえけどフィン達にはもっと違う感じに見えてるのか」
「ソウヨー」
「例えるなら、強大で恐ろしい化物が口を開けて待ち構えている感じだ」
「…そりゃ絶対入りたくねえわ」

 身震いする。俺達の反応にグレイは笑っていた。さっきまでの真剣モードが抜けて飄々とした表情に戻っている。

「あら?皆みてみて~!」

 グレイが洞穴の外へ出た。すでに雨は止んでいて森の中も少し明るくなっている。

「霧はまだ残ってるけれど、歩けそうジャナイ?」
「本当だ…!よかった…野宿は免れそうだな」

 外へ出て、伸びをした。他の面子も洞穴から出てくる。

「皆様、車までご案内します。こちらへどうぞ」

 陸郎が先導するようにけもの道を進んでいった。

「ありがとう~♪」

 ノリノリのグレイが追いかける。俺もついていくが、後ろ二人は怖いぐらい静かだった。フィンもソルも、今の話で思う所があったのか口を引き結んで黙々と歩いている。
 (これで少しは歩み寄れるといいが…)
 二人から視線を外し、ふと上を見た時だった。

「あ」

 狼と歩いていた時に見かけた鳥居がチラリと霧の合間から見えた。

「ん…?」

 鳥居の傍で複数の人影が屯っていた。
 (さっきの亡霊もどきはあいつらか…?なんか手元が光ってるな…)
 彼らの手元がチカチカと人工的な光の瞬きを放っており、何だろうと首を傾げていると横からフィンが覗き込んできた。

「ライ?どうしたのだ」
「いや…あっちに人影が見えてさ」
「人影?」
「おい!今度こそ亡霊かぁっ?!」

 ソルとフィンが両隣にきて反応する。三人で目を凝らすと、大学生ぐらいの若い男達が鳥居を囲むようにして騒いでいるのが見えた。

「ふむ。いるな。滝ツアーをしているわけではなさそうだが」
「青姦かあ??」
「…ちょっと見てくるわ」
「「ライ?!」」

 両隣から驚愕の声が降ってくる。構わず鳥居へ向かった。
 (水竜様…が本当にいるかはわかんねえけど…静かに眠らせてやりたいよな)
 陸郎や吾郎達一族が大事にしてきた山だ。あんな話も聞かされて他人事とは思えない。

「おい、何やってんだ」

 男達に声をかけるとビクリと肩を震わせて振り返ってくる。

「なんだよ。人間かあ。びっくりさせんなよお」
「びっくりはこっちだ。山奥で学生が何してるんだ。霧も出てるし、危ないぞ」
「はは!俺らただの学生じゃないんでえ~!」

 舌をだして馬鹿にするように笑ってくる。俺が一人だとわかって警戒を解いたらしい。ゲラゲラと笑う声が二日酔いの頭に響いてすごく不快である。

「お兄さんこそ、服装の感じ地元民じゃないんでしょ?何してんの?」

 リーダー格らしき男がニヤリと笑った。俺より唯一背が高くて偉そうに見下ろしてくる。ブリーチしすぎて色が抜けきった銀髪が特徴の男で、毛先にはビビットカラーのピンクが入っておりかなりカラフルだ。
 (すげえ髪だな…)

「何するも何も、同僚と観光に来ただけだが」
「へえ~?」

 じろじろと舐め回すように見た後、おもむろにスマホの画面を掲げた。

「?」

 何だと思えば例のバズ山動画だった。ネット環境がないのに見れるという事は動画を保存してあるのか・元データを所持しているのかのどちらかだ。まさかと嫌な予感がした。

「お兄さん、俺達の事知らないっぽいし自己紹介してあげる。俺らは登録者十万人越えの配信者でさ。ホラー系を主に取り扱ってるわけ」
「まさかお前ら…」
「はは、流石に動画は見てくれてたか!どもどもヨクバリ卍チャンネルでーす!」

 男達は「ご視聴ありがとうございまーす!」と声を揃えて言った後ぎゃははと笑った。
 (やっぱりこいつら…バズ動画に出てきた迷惑配信者か)
 どうりでこの濃い霧の中動じてないわけだ。二回目でしかもホラー耐性があるなら余裕だろう。よくよく見れば彼らはごてごてとブランドものを身に着けていた。相当動画で稼いでいるのだろうが、その裏で陸郎達のように困らされている人達がいると思うと複雑だった。

「この前の動画がバズりにバズったから、急遽明日の投稿分にもう一本撮ろうと思ってさ。普通に山を撮るのもインパクト薄いし肝試し用に色々仕掛けてたってわけ」

 鳥居には手のひらサイズの機械が取り付けられていた。センサーがあるのか手をかざすとチカチカと光を灯らせた。さっき光っていたのはこれだろう。

「ここは私有地のはずだぞ。撮影の許可はもらってるのか」
「はは!こんな山奥で許可も何もないでしょ!場所が特定される建造物もなければ人っ子一人いないんだぜ?逆に俺らの動画が広告になって観光客が増えてるわけじゃん?あんた達もその口っしょ?感謝してほしいぐらいだよねえ」
「感謝?寝言は寝て言え。お前らがやってる事は不法侵入というれっきとした犯罪だ」

 バッサリと切り捨てれば男の顔からすうっと笑みが消えた。静かに睨みあう。

「カメラ」

 銀髪の男が後ろの男に手を伸ばして命令する。小型のカメラを手渡され、それを弄った後…何を思ったのかレンズを俺に向けてきた。

「お兄さん、俺らの邪魔するってんなら社会的に殺すよ?俺らの影響力わかってる?今バズってる動画、100万インプレッションだよ?100万人がみてるの、わかるー?」
「…」
「100万人に晒されて、家族、友達、同僚みーんなに笑い者にされるの、怖いっしょ?嫌っしょ?あ、もし金が欲しいなら脅かし役として動画に出てもらってもいいよ。ギャラ結構払えるよ?俺ら、金もってるからさあ」

 あんたと違って、と見下してくる。チラリとカメラを確認するが、レンズの横に赤いランプがついていた。電波は届いてないはずだから配信しているわけではない。  
 (録画か)
 ならカメラは今すぐの脅威ではない。問題はこっちだ、と銀髪に視線を戻す。

「へえ、お兄さん落ち着いてるね」
「そっちこそ大人を舐めてると痛い目にあうぞ」
「へえ~?」

 ニヤリと笑って、後ろにいた男二人に目配せする。男達が俺を囲むように近づいてきた。

「押さえつけろ」
「「う~っす!」」

 たたっ

 男二人が同時に掴みかかってくる。先に接触してきた方の手首を腕で弾いた後、後ろに下がってもう一人の攻撃を体ごと避ける。ほんの一秒もない出来事だった。

「うわわ!!」
「おいっ!邪魔だ!!」

 どささっ!ベチャ!

「「うぎゃあ!」」

 前のめりに転んだ男の上にもう一人の体が覆いかぶさりバランスを崩した。ぬかるんだ地面に顔から突っ込み情けない悲鳴があげる。

「あーあ…何もないところでこけたのか?可哀想に」

 両手をあげながらそういうと、銀髪の男が悔しそうに歯噛みする。 

「このっ!!!」
「やっぱりこうなるか…」



 どすっ、どしゃあっ、ぐしょおっ

 何度目かの衝突音の後、やっと場が静かになった。男達は全員泥だらけで地面に伏したまま動けずにいる。

「はあ、せっかくのブランド服が汚れちまったな。そんなんで動画撮れるのか?帰った方がいいんじゃないか」
「…っっ!!」

 見るも無残な彼らをカメラに収めて言うと、銀髪の男が悔しそうに地面に拳を叩きつけた。

「覚えてろ!!」

 銀髪の合図で全員が起き上がり逃げ去っていく。残された俺は手元のカメラを一瞥して「しまった」と頭をかいた。

「やべ、カメラ返し忘れたな…」

 バサア!!

 突然背後の草むらが揺れた。何事かと振り返れば

「つ、強ええぇっ!!ライ!てめえゴリラかよ!!」
「うわ!ソル?!」

 草むらからソルとフィンが顔を出した。遅いと思えば隠れて見ていたのか。

「すげえなぁ!ガキとはいえ五人相手にして無傷とか可愛げなさすぎて逆に萌えるわ」
「なんでだよ。てか見てたなら助っ人しろよ」
「アア?!オレはリアルの喧嘩は専門外なんだッッ!」
「…なるほど」

 潔すぎる程の無力宣言に笑ってしまった。見た目は一番ヤンチャそうなのにな、と小突いてやった所でふと視線を感じた。

「ん?」

 じいっとフィンが難しい顔をして俺の方を見ている。

「フィンどうした?」
「…」
「まだ体調悪いのか?祠からは結構離れたけど湿気は相変わらずすごいもんな。少し休むか」
「いや…私は問題ない。それよりも…」

 一呼吸置いて、俺の腕を指差してきた。

「その腕はどうしたのだ?」
「え?…あ!!」

 しまったと血の気が引く。男達とやりあう時に袖がめくれて、赤く痕になった歯形が見え隠れしている。
 (やばい、さっきソルに手首噛まれた時のが…!!)
 慌てて隠そうとしたが

 ガッ

 すかさずフィンが手首を掴んで阻んできた。そのまま袖を下ろし見えやすい位置まで持っていく。

「この歯型…お前のものだろう?狼男」

 びくりとソルが反応した。あまりにも冷たい声に、向けられていないはずの俺まで凍り付いた。

「私のライに何をした?」

 フィンは氷点下の笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

陥落 ー おじさま達に病愛されて ー

ななな
BL
 眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。  国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。  そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。

人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。 そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。 「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。 「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。 これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...