ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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七話

★今度は二人で

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 (あいつらぁ…!!)
 なんでこういう時は息ぴったりで仲良しなんだよ!元セフレ組め!と二人の消えた扉を睨みつけていると

「…ライ」
「ひっ、な、なん…だよ」

 もうとっくの昔に萎えていたものを撫でられる。興奮させるような動きではなくただ撫でるだけの動きに、逆に恐ろしくなった。

「フィン…なに、怖えって、わかった、出させてやるからっ」

 後ろに腕を回そうとすれば手首を掴まれギチリと固定された。良い角度でハメられた。これじゃ一ミリも腕を動かせない。

「いっ、ちょっ!フィン!?んっ、なに…!」

 うなじに吸いつかれ目を見張った。ちゅ、ちゅっとリップ音をたてながら首に吸いついてくる。この感じ、もう終わろうという雰囲気では全くない。逆に今から始まったのだと言わんばかりの優しい愛撫に泣きそうになった。また一から前戯をやらされるなんてたまったもんじゃない。肉体的にも精神的にも無理だ。軽くパニックになる。

「フィンっ!!まてっ、く、あっ、フィンっ!ンンッ」
「…」
「ま、てっ、やだって!ああっ!この…っ!ばかやろっ!!それ以上やったら別れるからなあっ!!」

 自暴自棄になって叫べばやっと愛撫が止まった。息を呑むような気配と、少しだけ背中に触れてる面積が減る。

「はあ、はっ、あんた…俺の体、弄って、ばっかで…自分のは、どうしてんだよっ…」

 息も切れ切れに尋ねる。昨日の温泉でも、今日の夕方もフィンのには全く触れていない事を思い出したのだ。

「一人では…してねえの?」
「恋人がいるのに自分でする気など起きるわけがない」
「はっ…」

 やっと人間の言葉で返してくれたことに安堵しつつその台詞には驚きを隠せなかった。自分で抜いてないのなら最後にフィンが出したのは一週間以上前の、猟師の一件が片付いた日まで遡ることになる(俺は一日一回は絞られてる)。てっきり水竜様に気圧されて不機嫌になってるのかと思ったが、禁欲も要因だったなんて…そりゃ欲求不満で爆発してもおかしくない。何で言わないんだよと呆れるのと同時に反省させられた。
 (…遠慮してくれてたんだ)
 まだ後ろが使えないから。フィンのを弄ってる内に互いに高まりすぎて無理矢理いれてしまったらよくないと自制してくれたのだ。そこらの男のであればなんとかできても、フィンのはまあ…デカいし。フィンをここまで我慢させた(キレさせた)のは俺の責任でもある。

「…はあ、フィン、腕どけろ」
「…」

 少しの沈黙の後腕の力が緩む。おかげで俺はやっと自分の意思で動くことができた。片膝を上げてフィンの肩に腕を回す。くるりと体を向かい合わせの形に戻して、オレンジの瞳を見下ろした。眉を寄せて何かに耐えるような表情を浮かべるフィンはいつもの紳士的な姿からは程遠くて

「酷い顔だな」
「…ライが不快なら顔を変え…ん、…」

 唇を奪って黙らせる。角度を変えて噛みついた後、ぺろりと口の端を舐めて、フィンの顔を両手で包み込み上を向かせる。
 (酷くて、すげえそそられる)
 いつもの優しい仮面を取り払い欲望をさらけ出す姿は最高に興奮した。もう無理だと思っていた体に熱が灯るのが分かる。

「誰が不快だっつったよ。あんたの顔は、俺のだ。…あんたにだって奪わせねえ」
「…殺し文句だな」
「あんたがいつもやってる事だろ」

 毎回仰々しく口説かれる俺の気持ちがわかったか。目の前にある顎を人差し指と中指でくすぐってやると、フィンはやっと口元を緩ませた。俺の腰を抱いたままもう片方の手でするりと背中をさすってくる。

「…すまない。少し頭に血が上っていた」
「少しじゃねえよ。ソルのを咥えさせられた時は玉潰してやろうかってマジで考えたからな」
「あれは…ライが奴の事が気になっているようだったから、希望を叶えさせようと」
「はあー?」

 ソル…いや、他人の視線によって我に返りパニックになっただけだ。そんな事少し考えればわかるだろと言いかけて口を閉じる。
 (そうだった…)
 フィンと俺では世界が別の形に見えてるのだ。言葉にしないと理解できない事はいくらでもあると真人で学んだはずだったのに。自分の愚かさに舌を打って、両足でフィンの腰を引き寄せる。至近距離でオレンジの瞳と見つめ合った。

「いつから俺はそんな尻軽キャラになったんだ。冗談じゃねえぞ」
「…ライ」
「俺もあんたに一つルールを作っとくわ」
「…?」
「その物騒な顔、俺以外に見せるな」

 そう告げれば、フィンは瞬きを繰り返した後、腰を抱く手に力をこめてきた。ぎゅううっと締め付けられる。

「つまり…ライにだけ欲情しろという事か?」
「いっ…え、っと…」

 指摘されて気づく。確かにとんでもない告白をしてしまった。だが今更撤回するようなみっともない事できるわけない。ああそうだ文句あるか!と力強く頷いて応えた。フィンが困ったように眉を寄せ、それから柔らかく微笑む。

「…ああ、約束しよう。私はライにだけ、この顔を見せる。だから…私も、ライがほしい」
「…十分、あげてるだろ?」

 なんだかんだ毎日イチャイチャしてるし心も少しずつ開けていけてる気がする。

「全然足りない。体だけじゃなく、心も、思考すらも私のものにして…ルールなんて馬鹿らしくなるほど、私の事だけで脳内を染め上げたいのだ」
「…重いって」

 重い。フィンは俺が求めるより深く重い愛を与えようとする。
 (重いけど…)
 真人に空けられた穴をフィンの重い愛が少しずつ埋めていってくれてるのがわかる。甘く心地いい重さ。それはフィンの腕の中にいる時のように酷く安心する。これに溺れたらよくないとわかっていても、癖になったら抜け出せないとわかっていてもハマってしまう…沼のようだった。

 (…重くて、安心するなんて…救いようがねえな)

 すりっ

 フィンの肩に額を擦り付けて、自分からも抱きしめ返す。

「あんたこそ、誰にも…余所見、すんなよ…」

 普通の状態であれば絶対言わない…言えない、相手に縋りつくような言葉を吐き出した。フィンはそれに息を呑んで、すぐに「当たり前だ」と囁いてくる。蕩ける程甘く掠れた声が鼓膜を痺れさせて、体がまた弛緩していく。顔を上げて見つめ合えば、唇が重なった。

「ふ、ぁ、…ん、ンン…」

 熱い吐息も、注がれる眼差しも、絡みあう舌も…何もかもが熱くて、気持ちよくて。与えられ続ける間もどんどん欲張りになってく。全然足りなかった。

「フィン…、早く、」
「だめだ。今日はまだ、私のは挿れない」
「ンな事言って…それで今回、爆発しかけた、癖に…、」

 固くなったフィンのを腹で擦ってやれば、くっと顔を歪め、彫刻のように美しかった表情が崩れた。その顔を見てるだけでイケそうだ。

 くちゅり

「うあぁっ…?!」

 指が第一関節の分だけ埋まり、背中がはねた。もどかしいほどの熱が積みあがった体は本来入れるべきではない場所に異物が入っても快感に変えてしまう。中に入った指はぐるりと内壁を撫でた後腹側に回ってきた。浅い位置の膨らんだ場所を戯れに引っ掛かれ、

「いぎっ、んあアアっ…!」

 あまりにも強すぎる刺激にフィンの肩に指が食い込ませる。血が滲んでいたがそれに謝る余裕はなかった。

「あああ…っ!!は、んんあっ、そこっ、ハアッ、やばっ、ああアッ」

 真人の時はほとんど通り過ぎるだけの場所で、それでも十分気持ちよかったのだが。こんな風に直接そこだけを刺激されるのは初めてだった。フィンに縋りつきながらどうしようもなく喘いだ。

「んんっ、うっ、んんぅぅ…っ!!」

 トントンと撫でられたと思えば引っ掻かれて。それだけで軽くイキかけた。いや、イってたかもしれない。もう境界線がよくわからない。全てが気持ちよくて、堪らない。あの二人がいなくなったおかげでやっと素直に刺激を感じられる。安心した体で受ける愛撫は段違いの気持ちよさだった。
 (だめだ、このままじゃまた俺一人っ…)
 フィンのに手を伸ばす。こんなに熱く触れあってるのに一人でなんて嫌だ。後ろが使えないならせめてこっちはと弛緩する体に鞭を打ち、ぎゅっと強く握り込んで手を動かした。

「ライ…っ」

 一度俺の手を止めようとフィンの腕が動いたが、再び腰の位置へと戻った。ぬるぬると汗で濡れる背中を撫でながら強く抱き寄せられる。そのまま唇が近付いてきて、無意識に口を開けた。舌を絡ませながら吐息の熱さに酔いしれる。熱い、気持ちいい。もっと、欲しい。

「…ライ、…ライ」

 熱に浮かされたように掠れた声で名前を繰り返す。その瞳はギラギラと熱に溶かされ、まるで燃え盛る炎のように爆ぜていた。
 (ああ、本当にあんたは)
 不死鳥なんだな、と手の内に吐き出しながら思うのだった。


 ***


 ちゅん、ちゅん

 遠くで鳥の声が聞こえる。意識が覚醒した俺は、ゆっくりと体を起こした。
 (…ここ、旅館の…個室か)
 下を見て自分の体を確認すると浴衣を着せられていた。当たり前のように体も清められている。結局、あの後フィンは一回では収まりきらず、外に出て涼みながら二回、中でもう一回とガチ目に死にかける程相手をさせられた。いや、まあ…気持ちよかったし「させられた」って言い方は良くないんだが。こっちは限界通り越して気絶までしたんだから少しは毒づいても許されるはずだ。

「ライ、起きたのか?」

 閉じられた襖の向こうから声が聞こえてくる。昨日の熱っぽい声が嘘のように落ち着いた声に戸惑った。

「ライ…すまない、昨日は無理をさせた。頼むから、顔を見せてほしい…」

 俺が怒っていると勘違いしたフィンが再度声をかけてくる。何か言わねばと口を開いた瞬間

 スタアアンっ!!

 湿っぽい雰囲気が嘘のように唐突に襖が開けられた。

「おい!ライ!生きてるかあ!」

 襖を叩き開けた犯人・ソルが仁王立ちで見下ろしてくる。浴衣ではなくすでに私服に着替え終わっていた。横で正座しているフィンも同じく私服。時計を確認したらチェックアウトまで一時間を切っていた。結構寝ていたらしい。

「…生きてる」
「声はちょい枯れてんなあ。立てるか?おぶってやろうか~?」
「…立てねえかも。手、貸せ」

 腕を伸ばして呼び込めば、ソルはにやりと笑って「仕方ねえなあ」と個室に踏み入ってきた。

 すっ

 その足が、一歩、布団の上に踏み込んだ瞬間、思いっきり足で払った。

「うわ?!」

 前のめりに倒れる体を肘で押し倒し馬乗りになる。うつ伏せになったソルの肩を踏みつけて自由を奪い、無表情で見下ろした。

「ソル…昨日はよくもやってくれたなぁ…?」
「は?!ちょ、落ち着け!」
「腹と顔と股間、好きな場所選べ。思いっきり潰してやる」
「ひいいいいい!」

 男としての死を迎えさせてやろうかと拳を鳴らせばソルは竦み上がった。

「待て待て!!オレはちゃんとルール守ってただろうがあ!」
「ルールを守ってようが俺が許すかは別の話だろうが。歯ぁ食いしばれ」

 そういって拳を振り下ろそうとした時だった。

「ちょっとちょっと落ち着きナサーイ」

 大部屋のテーブルで一服していたグレイが笑いながら声をかけてくる。こちらも私服に着替えてまったりしていた。

「元気そうで何よりだけど、こんな場所で乱闘はやめてチョーダイ。この部屋高いんだから」
「…グレイ」

 何が元気そうだ。昨日あんな事しておいてよくいつも通りに笑いかけられるな。げんなりつつソルの顎を足先で蹴りつける。

「がふぁっ!!」
 
 ただ、悔しいがグレイの言う通りで、旅館内で暴れたら迷惑になる。これぐらいが落としどころだろう。悶絶するソルを一瞥してなんとか怒りを収めてテーブルの方に行った。グレイの正面にどすっと腰を下ろす。

「はい、これ、陸郎クンお手製のお粥セットヨ~」

 胡坐をかくと同時に目の前に小鍋が並べられる。形が残る程度にとかされた米と山菜が切り刻んで入っていた。美味しそうだ。

「いただきます…あんたらはもう食べたのか?」
「ええ。ライ以外は二時間前にいただいちゃったワ。起こした方がよかったカシラ?」
「いや、いい」

 ほとんど気絶してたし起こしたところで反応しなかっただろう。黙々とお粥を食べ進める。酷使された心身に染みる優しい味だった。

「ライ、美味しい?」
「んー(うまい)」
「…無理させちゃってごめんなさいネ」
「思ってねえ癖に謝んな。どうせここで粥食ってるのもあんたの計画通りなんだろ」

 お粥セットまで用意させておいて今更謝られても。思いっきりジト目を向ければ少しだけ、ほんの少しだけグレイは申し訳なさそうにした。

「荒療治って言ったデショ。いくら言葉で言ってもおバカちゃんタチは聞き入れないでしょうし、裸の付き合いで無理やりにでも心の内を見せ合って、ルールも作っちゃおうと、思ったノ」
「ルールねえ…」

 まだ数分しか見てないがフィンとソルに喧嘩を吹っ掛けあう様子はなかった。ここに来る前とは全然違っていて、互いが横にいても噛みつかない程度には共存できている。ルールによる線引き(と裸の付き合い?)が効いてるのだろう。

「ったく…だとしても、良いように使われた俺のメンタルはどうしてくれんだ。普通に人間不信になるっつの」
「それを言うなら幻獣不信ジャナイ?」
「一緒だしどっちでもいいわ」

 最後の砦のグレイにまで裏切られるとは思わなかった。結果的にフィンと死ぬほど気持ちよくなれたし仲も深まった(?)からよかったが。次は俺とフィンの間を裂く計画を立てるかもしれないし、もっと酷い計画に巻き込まれる可能性もあるわけで。流石にそれを容認できるほど俺もお人好しじゃない。

 カタっ

 テーブルに手をついてグレイの胸元を掴んだ。無言で引き寄せれば、じっと上目遣いで見てくる。

「なあに?キスでもしたいのカシ…」
「…あんたの昨日の姿だけどな」
「!」

 グレイが目を見開いた。小さい声で、互いにしか聞こえないように囁く。

「どっちが本当のあんたなのかは知らねえけど…次何かしてきたらそっちの顔で揺すってやるからな」
「…あら、怖い」

 やられっぱなしじゃないからなと睨みつけて、乱暴に手を放す。グレイは肩をすくめて…困ったと言わんばかりの所作をしてるが前髪で覆われたその瞳は楽しそうに光っているのに俺は気づいていた。つくづく食えない男である。

「ライ」

 話が終わるのと同時にフィンが近づいてくる。自然光に照らされるフィンは眩しいほど清らかで美しい。昨日の事もあって見てるだけで腰がじんわりと熱くなった。流石に催す事はないが心臓はドキドキと高鳴っている。

「食べ終えたのなら、これを。そろそろ陸郎殿が来るはずだ」

 最終日に着る予定だった私服を手渡される。

「ん、ありがと。もう時間ねえもんな」

 すぐに脱いでしまおうと浴衣に手をかければ慌てて止められた。

「ままま!待て!ライ!あっちで着替えてくれ!」
「え?いや男同士だし」

 わざわざ別室にいって着替える方が気持ち悪いだろとつっこむ。だが俺に同意する者はこの場に誰もいなかった。

「何を言ってるんだ!!ライの裸を二人に見せる気か?!」
「くくっ昨日あんな事があったのに一切恥じらわねえ所が逆に萌えるよなあ」
「本当に、ちょっと心配になっちゃうぐらい男らしいワ」

 三者三様の反応だったが総じてありえないと首を振っている。なんだお前ら。そっちが勝手に盛ってるだけで俺が誘ってるわけじゃない。断じて俺のせいではない…はず。少し不安になりつつ、その場で私服に着替えた。着慣れた服に身を包むとやっと帰るのだと実感できた。
 (二泊三日だったのにすげえ濃厚だったな…)
 スナックに戻ったらちょっと感動してしまいそうだ。

「さてと、チェックアウトまで少し時間が残ってるし今の内に迷惑ボーイズの事を話しておくわネ」
「!」
「実は朝ご飯の後に話し合ったのヨ。ライが寝てる間にやっちゃったけど、顔合わせたくないだろうしいいデショ?」

 そうだった。温泉の出来事が濃厚すぎて忘れかけていたが針達もここに運び込まれてるのだった。一体今どうなってるのかとグレイの言葉を待つ。

「結論を言うと迷惑ボーイズはこっちの要求を全て飲んだワ。今は吾郎さんに連れられて病院で治療されてるはずヨ」
「え、つまり動画は消せたって事か?」
「ええ。ちょっとゴネたけど。収入減が無くなる~とか色々言ってネ」
「だろうな。どうやって言いくるめたんだよ」

「そこはオレが、ちょっちょっとな、手を回してやったぜえ」

 テーブルに頬杖をついたソルが得意げに言った。その手には二枚のSDカードが握られていた。

「まさかそれ」
「おう、配信者共のカメラから抜き取った。最近のカメラは優秀で色んなものに連携させられてっからなあ。奴らを脅す材料がた~んまり出てきたわ」
「そういうのって普通ロックされてるんじゃ…」
「おいおいオレの得意分野忘れたのかあ?この程度のセキュリティ、パソコンがありゃ丸裸にできるぜ」
「それ、色々と大丈夫なのかよ」
「ああ?盗撮して脅してきたのはあっちだぜ?毒を以て毒を制すって奴だ」

 悪い顔をして笑うソル。言っちゃ悪いが本当にコイツは何をやらせても悪役にしか見えない。

「というわけで動画の消去とバズ山への立ち入りの禁止を約束させたってワケ。もちろん誓約書も書かせたワ」
「なるほど…あとはネットがいつ落ち着くか、だな」

 針達が立ち入らなくなったとしてもネットで話題になってる内はバズ山の来訪者は途絶えないだろう。俺の言葉を聞いてソルは「よく言ってくれた」と言わんばかりに顔を向けてくる。

「それについても心配いらねえぜ。ネットに転がってた水竜様とばけも…幻獣関連の書き込みは消しといてやった。バズに乗っかった動画も手回して消してやったからもうじきネットの方も落ち着くだろうよ」
「…すげえ」

 揺すりによって手早く収拾をつけたのに加えて後始末まで。流石ハッカーだと文句なしに感心する。グレイの記憶操作もフィンの圧倒的な炎も便利だし優秀だが、今回みたいなデジタル方面のトラブルには全くと言っていいほど役に立たない。ソルのおかげで死角が更になくなり、スナック組の無敵っぷりが上がった気がする(どっかと戦争でもする気かよ)。

「あんたにしては良い事するジャナイ?」
「はっ、ライがイイ事してくれたからな――イッッデエ!!おい!グレイッ!てめえ!自分の腕力考えて殴れよ!禿げるわッッ!!」
「きゃんきゃんウルサイわね…あんたどうせ性欲強いし禿げるわヨ」
「アアッッ!?じゃあ性欲の権化のてめえはとっくの昔に坊主になってんだろが!!」
「あーら失礼ネエ。そんな事言うなら今度は命も吸い取ろうカシラ」
「おーやってみろよ!腹上死させてやらあ!!」

 元セフレ組、いやもうセフレ組でいいか、が仲良く言い合ってるのを苦笑と共に見守っていると、横にいたフィンも呆れるようにため息を吐いた。

 コンコンコン

 廊下からノックの音がする。グレイが少し大きめの声で返事すると陸郎が顔を出した。

「失礼します。お車の準備ができました。荷物をお運びします」
「荷物!そうだったワ!」

 俺はリュックだけだったがソルとグレイはそれなりに荷物があった。ずっしりと重いスーツケースを廊下へと持っていく。

「うーん、地酒も詰めちゃったしかなり重いワネ…。陸郎クン、せっかく来てくれたのに申し訳ないけど自分で運んじゃうワ」
「いえ、そういうわけには…」

 一緒に運びますと言いたげな陸郎にグレイは笑って答えた。ソルの首根っこを掴んで無理やりスーツケースを持たせる。

「この馬鹿が二人分運ぶからイイノ。どの車なのかもわかってるシ!じゃ、また後で~!」

 そう言い残してグレイとソルが出ていった。廊下からソルの不満げな声が聞こえたがすぐに聞こえなくなる。残った俺達は互いに見合った後、俺が口を開く形で沈黙を破った。

「陸郎、お粥、美味しかったぜ。昨日のおにぎりもありがとな」
「お口にあってよかったです」
「お口に合うどころか、ここで食べたものは全部最高だった。食材の組み合わせとか色々勉強になったし。なあ、この旅館の料理って陸郎が作ってるのか?」
「いえ…メイン料理と仕上げは親父です」
「つまりかなり任せてもらえてるって事じゃん。若いのにすげえな」
「いえ…そんな、自分なんて…」

 そういって俯く。何かを察したのかフィンが「最後に少し庭を見てくる」と言って大部屋の窓から外へ出ていった。庭の中心で大鳥の姿になったと思えば日光浴するように翼を広げ目を瞑る。ここの庭が気に入ったようだ。
 (気持ちよさそうだな…)
 視線を陸郎に移すと、フィンを強張った顔で見つめていた。

「…あのお姿は…」
「そっか、陸郎はあっちのフィンは初めてか。でかいし派手だけど危ない奴じゃねえから安心してくれ」
「ライ様は…驚かれないんですね…」
「いやまあ最初はビビったけど、今は可愛いぐらいだな」

 本人には言えないが、あんな風に寝転がってるとオレンジ色のヒヨコに見えなくもない(トラック並みに大きいけど)。陸郎は顔を強張らせたまま、震える手を自分の体に巻きつけた。必死に震えを抑え込もうとしてるらしい。

「陸郎?大丈夫か」
「自分は…幻獣が怖いんです。子供の頃にひっかかれて…小さなものでしたが、それ以来…幻獣のお客様を見る度拒否反応がでてしまって」

 なるほど。初対面から一貫して陸郎の表情が固かったのはそのせいか。

「親父みたいに幻獣相手でも分け隔てなく接しなくてはいけないのに、俺には…できなくて…怖くて、水竜様に仕える身なのに…本当に情けなくて…」

 陸郎は俯いたまま拳を強く握り締めた。
 (陸郎…)
 そんな葛藤があったのかと驚いた。ずっと静かに俺達を眺めるだけだった陸郎が初めて感情を見せた瞬間だった。

「なあ、陸郎。竜の祠ではいつも何してるんだ?」
「掃除と…蝋燭の交換などをしています。16歳で親父から任されてから、毎週欠かさず行ってます。それが…どうかなさいましたか」
「いや、何もできてないって陸郎はいってたけど…陸郎は旅館の仕事を文句ひとつ言わずこなしてるし、料理も真心込めて作ってくれてる。毎週欠かさずおつとめにいくのだって簡単にできるもんじゃねえし。俺から見たら全然、情けなくねえよ」
「ライ様…」

 肩に手を置くと泣きそうな顔の陸郎と目があった。

「幻獣とも別に仲良くなる必要ねえし、陸郎なりに付き合っていけばいいんじゃねえの?」
「…俺なりに…?」
「そうそう。俺だってこの通り毎回ズタボロになりながらあいつらと付き合ってるわけだし」

 自嘲するように笑えば、陸郎は瞬きを繰り返した後首を振った。

「…ライ様はすごい方ですね」
「え?」
「いえ、ライ様の言う通りです。自分も弱音を吐いてる場合じゃありませんよね」

 そういって震えの止まった手で緩みかけていた着物の紐を結び直していく。次に顔を上げた時、陸郎の顔にはもう不安は残ってなかった。

「精一杯、自分なりに幻獣と向き合っていきます」
「ん、応援してるぜ」

 (なんだかんだ水竜様も陸郎には感謝してると思うしな)
 週に一度だとしても自分を想ってくれる存在を感じられるのは、水竜様にとってもきっと救いになってるはず。

「俺らもまた泊まりに来るよ。その時は陸郎の作ったメイン料理を食わせてくれな」
「はい…お待ちしております」

 ふわりと優しい笑みを浮かべる。
 出会ってから一度も見れてなかったその笑顔は、とても心を温かくしてくれて。

「ここに来てよかった」と最後の最後に心の底から思わせてくれるのだった。






 静かになった部屋にフィンが戻ってくる。おかえりと言うと返事の代わりに腰を抱かれた。

「どうだった?初めての温泉旅行は」
「とても…刺激的だった」
「はは」

 本来はリラックス目的で行く温泉旅行なのに、結果的に乱れまくった旅になってしまった。それがおかしくて笑ってるとフィンが手を繋いでくる。

「ライ。昨日はありがとう。私の為に無理してくれて…嬉しかったし、気持ちよかった。心身ともに癒されたよ」
「そりゃ…どうも…」

 もう爆発するなよと呟くと、何故かフィンは視線を合わせないままさらりと言った。

「昨日は、満たされた」
「…え?」
「昨日と今日は別であって、今日の私には…まだまだライが足りないようだ」
「いやいやちょっと待て」

 足りないようだって他人事みたいに言うんじゃねえ。
 (あんなに搾り取ったのにまだ足りねえのかよ…絶倫か??)
 ドン引きしてるとフィンがこちらに向いて、蕩けるような微笑みを浮かべた。それから口付けてくる。

 ちゅ

「また旅行に行こう、今度は二人きりで…ずっととけ合えるように」
「~~~!!!」

 とびきり甘い恋人モードで囁かれる。心臓がバクバクとうるさいし飛び出そうだ。それを抑え込むように大きく深呼吸して
 (…ったく)
 今度は普通に温泉に入らせろよ、と笑ってから…力強く頷いた。
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