ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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八話

お泊まり?

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 ***


「ライっ!」

 呼びかけた背中は振り返らず行ってしまった。黒塗りの車が角を曲がり見えなくなる。

「あらあら、行っちゃったわネ~」

 グレイは苦笑いを浮かべつつ、楽しそうに口元を覆って笑っていた。全くもって楽しくない状況なのだが、と睨み付ける。

「有給は労働者の権利ヨ?こっちは断れないワ」
「しかしっ…奴の家に行かせるなんて危険すぎる…!今すぐ追うべきだ!」
「あんなプンプンしてる時に追いかけても逆効果ヨ。より家出期間が長くなるだけ。どうせ一日二日したら帰ってくるワヨ。狐に噛まれて泣いてるかもだけど」
「笑ってる場合かっ!奴は過去にライを監禁した危険人物なんだぞ!」
「危険人物って意味では今のあんたやソルも同じもんヨ?」

 呆れたと言わんばかりに私と狼男を交互に見てくる。

「今の暴走モードのあんたタチといたら壊されて使い物にならなくなるのがオチ。それがわかってたからライは離れたのヨ」
「私が暴走…?」
「そ、浮かれてるとも言うのカシラ。恋人になれて嬉しいのはわかるけど、本当にライを愛してるのなら追いかけるのは止めなさい。お店の為とはいえ、今回ライには酷くしちゃったし、その上自由も奪ったら流石に可哀想ヨ」

 盛りの付いたおバカ二人がいる場所に閉じ込めるなんてもっての外、と付け足す。

「…では、私はどうすれば」
「ライが帰りたいって思うまで待つノ。絶対に自分から呼び戻しちゃダメ。あんたが呼べばライは自分の意思じゃなくても戻ってきちゃうから」
「…それではダメなのか?」
「健全なお付き合いを続けたいなら意思と選択を奪うような事をすべきじゃないワ」
「もしも、もしもそれで戻ってこなかったら…っ??」
「それもライの選択という事ヨ」
「!!!」

 百歩譲ってライが店に戻らない事を選択したのならそれを尊重すべきだろう。
 (だがもしも狐の子が無理矢理閉じ込めた場合は?)
 襲われて出られなくなった場合、ライはどうしようもない。奴はただの子供ではないしいくら腕っぷしの強いライでもヤクザ相手(しかも集団)では何もできない。私の言いたいことがわかったのかグレイは冷静に返してきた。

「狐一族の今の長は比較的まともだから、未成年の内から外部の人間を囲わせるような無茶は、息子相手でも許さないはず。一日、二日はただのお泊まりだと思って余裕を見せる時ヨ。わかったワネ?」

 強く握りしめていた拳を解いて、正面のグレイと向き合った。

「はっ!ご高説ありがてぇがな!てめえだってライの事襲ってる共犯なんだぜ?どの口が言ってんだよ?」

 路地の端でスーツケースに腰掛けていた狼男が大きく舌打ちした。

「共犯って…ちょっとキスして胸吸っただけジャナイ。ちゃんと止めにも入ったしあんたタチと一緒にしないでチョーダイ」
「はは!クズビッチは言うことが違うねえ。共犯じゃねえにしても主犯には違いねえだろが。何が日頃の行い~だよ!ライからしたらもうオレらと同じヤベエ奴にしか見えてねえだろうぜ、ざまあみろ!」
「…」

 グレイは狼男を一睨みしてからため息をはいた。

「だって、あんまりにも…ライが可愛かったんだもノ」

 ずぶ濡れでボロボロですごく美味しそうだった、と悪びれずに言い放つ。その顔は日頃見せない野性味のある顔で、インキュバスの本能が顔を出していた。

「ほ~ら本音がでやがった」

 狼男がげんなり顔で肩をすくめて見せる。グレイとの付き合いが長い(深い)分色々わかるのだろう。珍しくライを案じるようにため息を吐いていた。

「わかった、わかったカラ。あんたタチばかり責めてゴメンナサイ。一緒に反省するワ。だから、ライが帰ってきてくれるのを信じて待ちまショ?」
「けっ」
「ああ…店で反省会でも行うか」
「いいじゃない~ヤケ酒なら朝まで付き合うわヨ!」
「まだ飲む気かよ!つーか酒なんて飲める状況かこれえ?」

 三人で振り返った。店の壁の全面が焼け焦げて真っ黒に染まっている。もしも内側から燃えたものであれば店内も酷い状況になってるだろう。互いに顔を見合わせて、それから私が一番手を買って出て…黒焦げの扉に手を伸ばした。


 ***


「…あ?」

 目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。いや、一度だけ見たことのある。昔ながらでいて定期的に張り替えられていそうな金の匂いがする和室の天井だった。

「ライ、おはよっ」
「?!」

 ユウキが、ルンルンと上機嫌な様子で声をかけてくる。俺が寝ている布団の横で漫画を読んでいた。

「びっくりしたよ。前回閉じ込められた家に向かってんのにぐうぐう寝れるなんて、ライってば相当疲れてたんだなあ」
「…図太くて悪かったな」
「あはは、褒めてるよ?」
「どこがだよ。てか起こせばよかったのに…ここまで運ぶの大変だったろ」
「いや全く?柴沢が軽いっすねって驚いてたよ」
「……」

 布団みたいに軽々と運ばれたと言われ普通に落ち込んだ。それを見てユウキはにししと悪戯っぽく笑った。イヤらしさの欠片もないあどけない笑い方に、強張りかけていた体から力が抜いていく。
 (変わるもんだな…)
 前もこの場所、この布団で目が覚めたのに…心境はかなり変わっていた。

「このまま二度寝する?漫画読む?」

 そう言って誘うユウキからは、全くと言っていいぐらい色気を感じないし、同性のお泊まりテンションそのもので。これでは俺の方が意識しすぎなぐらいだ。ユウキが寝てる方とは逆側に布団から足を出して「どっちもいらねえ」と首を振った。

「ねえねえ、じゃあクイズしよ!ちょっと模様替えしたんだけど、わかる?」
「わかるわけねえだろ」
「なんとなくでいいから!言ってみて!」
「はあ…?ったく…」

 あの時の俺に落ち着いて部屋の状況を観察できるほどの余裕はなかった。とはいえ家主の要望を無視するわけにもいかない。渋々部屋の中を観察した。見た感じ家具の配置に変化はない。ポスターや小物などはほとんど置かれてないシンプルな部屋だし、他に変わった事といえば…壁側がすっきりしてる事ぐらいか。

「…刀はどこいった」
「すご!正解!刀を片付けたんだよね、友達呼ぶ度隠すの面倒くさくなっちゃって」
「ああ…それは確かにな。てか、仲良くやれてるのか」
「うん、あの事件以来アイツらとつるむようになったんだよね。その中でも山田はよく家にも呼んでるんだ。俺にビビんないし、ばか正直で口も固い。ゲームがめちゃ強いとこも気に入ってんだよね」
「…そうか」

 先程の車内でのやり取りを思い出して、納得した。ユウキは頭が回るしあれぐらいばか正直な方が合うのだろう。
 (よかったよかった…)
 ユウキの口から友達の話が聞けるのは新鮮で微笑ましい。親心のような気持ちで喜びを噛み締めるとふと気づいた。そういえば山田はどこへ行ったのだろうか。明日から学校だろと指摘すればユウキは漫画を本棚に押し込みながら言った。

「山田なら客間で寝てるよ。叩いても起きなかったしこのまま朝まで寝てんじゃない?知らないけど、腹減ったら自分で冷蔵庫から取りに行くだろうし放っとけばいいよ」
「緩っ…」

 あの時の監禁されていた俺が嘘のようにユウキの家は緩い状態になっていた。見張りも、見える範囲にはいなかった。というかいないのだろう。今回は山田もいるのだし、よっぽど手荒な事はしてこないはず。
 (…よかった)
 当て付けのようにユウキの車に飛び乗ったはいいが、少なからずビビっていたのでホッと胸を撫で下ろした。
 (家は安全そうとなると、問題はこっちだな)

「ねえ、何して遊ぶ?」

 ユウキが目を輝かせて見上げてくる。今は良い子モードだが、ユウキの事だ。いつ悪い子に化けてもおかしくない。そうなった時俺はこの場であまりにも立場が弱すぎる。あまり警戒してる感を出さないようにしつつ(ユウキを変に刺激しないように)冷静に返した。

「遊ばねえよ。今、一時半だぞ。学生はさっさと寝ろ」
「えーつまんない」
「つまんなくねえ。てか俺も客間に移動するわ。ここにいたらユウキが寝れねえだろ」

 どうせこんなに広い屋敷なのだから客間はいくつもあるのだろう。俺の言いたいことがわかったのかユウキは頬を膨らませて言った。

「生憎だけど、客間は満室。この布団しか空いてませーん」
「はあー?子供みたいなこと言って…」
「俺子供だしー?」
「ったく、こんな時だけ未成年を使うな、腹立つ」

 べしっとデコピンを食らわせて立ち上がる。ユウキが目で追ってきた。

「え、どこ行くの?」
「トイレだけど。ついでにコンビニ探…あ」

 いつもスマホを入れてるポケットを撫でて思い出した。スマホ、ソルに預けてるんだった。
 (てか早めに言っといた方がいいな)

「ユウキ、悪い」
「ん?」
「貸してくれてたスマホ壊したかもしんねえ。本当…申し訳ない」
「あ、そうだったんだ。じゃあまた貸すよ!?今ならこの通り!最新型のも用意できるからさ!」

 スマホを並べてどうぞと言われるがそこまで面の皮は厚くない。

「いや、借りれねえよ。前のも弁償するから金額教えてくれ」
「ダメだよ!ライからお金をたかるなんてできない!」
「たかるって元々ユウキのスマホだろが」
「でも…」
「何の意地だよ。俺だって借りたもの返さないなんて恥ずかしい真似できるか。いいから払わせろ」
「ひえー…ライ、格好いい、惚れそう」
「…お前の周りは極悪人しかいねえのか?」

 至極当たり前の事を言ってるつもりだがユウキには違うのだろうか。ヤクザ一家だしそういう普通は歪んでたりするのか。いやどちらにせよここにいても仕方ない。立ち上がって廊下に出た。
 (確かトイレは…)
 記憶を頼りに歩いていく。すぐにユウキが横に並んできた。

「ちゃんと覚えてくれてるね」
「そりゃまあ…なかなか鋭く記憶に刻まれてるしな」
「俺も、ライがここに来てくれた日のこと毎日思い出してるよ」
「!」
「まさかこんなに早く泊まってくれるとは思わなかったけどね。そういう面ではお店の人達には感謝だなあ」

 俺だってまさかユウキの家に泊まることになるとは思わなかった。だがフィンとソルの暴走っぷりは洒落にならなかったしあの二人+淫魔から逃げるにはここしか思いつかなかった。

「トイレ行かないの?」

 ユウキがトイレの前で考え込む俺を心配してくる。

「行く」
「んじゃ俺この先にあるキッチン行ってるからね。ライもスッキリしたら来て。一緒に夜食食べよー」
「…わかった」

 先ほど俺がコンビニと言いかけてたのを覚えていたのだろう。つくづく頭と気が回る奴だ。



「えっと、こっちだったか」

 用を足して、ユウキが指差していた方に進んでいく。すると明かりがついてる部屋が見えてきた。近づくと声が聞こえてくる。

「そう、うん、わかった。薬の種類は?そう…またわかったら報告よろしく、うん、じゃね」

 ユウキが誰かと話しているようだ。淡々とした調子で先ほどまでの楽しそうな雰囲気は微塵も感じさせない。
 (トラブルか…?)
 多分相手先は電話なのだろうが、俺は電話が終わるのを待ってから中にはいった。昔ながらのキッチン…いや、台所か、にユウキが腕を組んで立っている。視線はもちろん俺の方に向けられていた。

「やほ、スッキリしたー?」
「…今の聞こえちまったんだが」
「あはは、ライは素直だねえ」
「何かあったのか?」

 内容はほとんど聞こえなかったが「薬」という単語が出てくるのだ。明るい話題ではないはず。俺がこのまま厄介になっていたら迷惑になるのではと案じてるとユウキは頭をポリポリとかいた。

「なーんか、学生の間でヤバイ薬が回ってるみたいなんだよね」
「!」
「もちろん俺らはばらまいてないよ?親父も調べてくれてるけど、回してる奴もやってる奴もほとんど学生だから手こずってるみたいでさ」
「それでユウキが調べることになったのか?」
「んーん。親父は俺が成人して家を継ぐまではどっちの仕事もさせる気がないから、俺は別の目的で動いてる。山田も手伝ってくれてて、今日もそれで同行してたんだよね」
「…なんかすごい時に邪魔しちゃったみたいだな…悪い」

 今更後悔したところで遅いのだが軽く頭を下げておく。ユウキはやめてよとすぐに否定した。

「俺にとっては一番の収穫なんだからそんな顔しないで」
「収穫…」
「あはは、だってあのヤンデレイケメンに見張られてるライを連れてこれるなんて夢みたいじゃない?なんか手強そうな仲間が増えててビビったけどさ」
「ヤンデレイケメン…」

 苦笑いをしつつ冷蔵庫の方を見た。俺の視線に応えるようにユウキがその扉を開けて「なんでも自由に使ってね」と言ってくる。この冷蔵庫は身内用なのか栄養ドリンクや缶コーヒー、軽食系が適当に並んでいた。野菜室を開ければある程度食材が揃っていて、迷った挙句…端っこの萎びている野菜に手を伸ばす。

「冗談抜きで、ライが泣かされてないか心配してたんだから」
「誰が泣くか馬鹿」
「えー?実際さっきだって、助けてって顔してたじゃん」
「…」
「てか何されたのさ?痴漢野郎とか聞こえたけど」
「……」

 無言のまま、野菜を切り刻んだ。フライパンに油を引いて手早く炒めていく。ユウキは俺の手元を見てからまた目を合わせてきた。

「ねえ、ライ教えて?スマホのお金いらないから、代わりにお泊まりしてる間は俺の言うこと聞いてよ、ね?」
「絶対金で払った方が安く済むだろそれ」
「あ~~安く済ませたいとかそういうこと言うんだ~~借り物壊しといて酷いな~~ライは学生から搾取する悪い大人だったんだな~~」
「うぐ…」

 スマホ代金は弁償するにしても今晩泊めてもらう事への礼だってできてない。文句を言える立場ではないのだと思い出し、フライパンの火を消した。野菜炒めを皿に並べていく。

「…ここにいる間だけだぞ」
「!!」
「言っとくが無茶振り系はなしだからな」
「もちろん!!ライが嫌がることはしない。だから話せる範囲で話してくれない?あの人たちに何されたの?その痣は?本当に大丈夫…?」

 服の隙間から色々見えたせいで余計不安にさせてしまったのだろう。ここまで見られて隠せば更に不信感が増すし素直に話すことにした。

「それが…」

「ええ?!何それ?!!仕事仲間で旅行いって温泉で4P?!帰りの電車で痴漢プレイ??爛れてる!!爛れすぎてるよ!!」

 ソルとの出会い(レイプもどき)は省略して、旅行で起きた事(主に温泉の)と電車内でのあれこれを伝えた。ユウキはドン引きしつつつ興味津々といった顔で続きを催促してくる。

「え、やば…あの顔で4Pとかしちゃうんだ。大人ってコワ…」
「はは、本当に。絶賛人間不信になってる所だ」
「ねえ…ライ、このまま家に住めば?」

 箸を渡しつつさらりととんでもない事を言ってのけるユウキ。

「そりゃ家出したくなるのも当然だよ。あの感じ全員ライにご執心っぽいし時間を置いたところでまた皆で襲われちゃうんじゃないの?」
「いやー…それは、ないと…思いたいが…」

 思いたいが否定する材料もないわけで。俺は気まずくなりかけた空気を破るように皿を指差した。

「とりあえず食おうぜ、腹減った」
「…そだね、ライの手作り料理初めてだ~嬉しい!いただきます!」

 ぱくぱくと野菜炒めを頬張る。ついでに作っただし巻き玉子も差し出せば、ユウキは目が溢れそうな程大きく見開いた。

「お、おいし、すぎる……ライ、結婚しよう?!!」
「しねえわ」
「ええーーー?ちょっとは悩んでよ。俺、結構優良株だと思うのに…」
「優良も何も未成年だろ、悩めるか。てか、一応恋人いるし」
「!!??」

 ガチャンと音を立てて箸が床に落っこちる。俺がそれを拾おうとしたところで手首を掴まれた。

「ライ、誰と付き合ったの?」
「…えっと」
「ヤンデレイケメン?」
「…フィンな、正解」
「そんなあああ…」

 床に四つん這いになって絶望している。ちょっと可哀想だった。

「もうちょっと手間取ると思ったのに、読みが外れたかあ…くそう…」
「ま、俺からコクったしな」
「はああッッ?!洗脳でもされた?!」
「されてねえわ。俺はそんなお手頃な頭してねえっつの。というわけだからユウキも俺なんか忘れて青春しろよ」
「嫌だよ!無理!!」
「無理でも何でもやるんだよ。俺は応えてやれねえんだから」

 ええーっと口を開けたユウキにだし巻き玉子を一つ押し付けた。もぐもぐと大人しく咀嚼したあと、悔しそうに「美味しい」と呟いている。

「…はあ」
「ユウキ?」
「俺…ちょっと用を思い出したから部屋に戻るね。残った分はラップしといて。あとで食べるから捨てないでね、いい?」
「え、あ…ああ」
「お風呂とかも自由に使っていいから、じゃ、おやすみ」

 そういってユウキは驚くほど呆気なく姿を消した。さっきまでの甘えん坊モードはどこへやら。面白いほど素直に身を引いたせいで逆に怖くなった。

「なんだあいつ?」

 ブブブっ

「ひぃっ!なんっ、え?!」

 ズボンのポケットが突然振動して、思わず立ち上がる。この振動が苦手で俺はなるべく上着のポケットにスマホを入れるようにしてるのだが
 (なんでズボンから…)
 ポケットに手を入れると、かなり薄型のスマホが入っていた。黒一色でアクセサリーもついてない。誰のものかわからない謎のスマホを片手に立ち呆ける。

「いつの間に…てか、こんな夜中に着信…」

 迷ったが何も知らないままでいるのも気持ち悪いし通話ボタンに指を乗せた。

「もしもし」
 <もしもーし、ケツは無事かー?>

 ブチっ

 反射的に電話を切った。不快感を隠さず机に捨て置こうとしたところでまた電話がかかってくる。

 <オイコラてめえ!こっちは親切心でかけてやってんのになんだその態度はぁ!!>

 ソルだった。そこら辺の迷惑電話よりよっぽどタチが悪い電話である。そもそも、

「いつ仕込んだんだよ、コレ」
 <そりゃ電車でてめえの体弄くってる時に決まってんだろ?気持ちよくなってて気付かなかったかぁ?くくっ>
「…チッ」
 <怒んなって。スマホがねえと不便かと思って俺の予備貸してやったんだ、感謝してほしいぐらいだぜ>
「ユウキといいソルといい…なんで普通にスマホの予備持ち歩いてるんだよ…」

 ぼやきつつも、外部に連絡できた事に少し…いやかなりホッとしている自分がいた。毎回やり方は悪いが地味に好プレーをしてくるソルがムカつく。基本クズなのに、なんでこういう事には気が回るんだ。

 <後ろ暗い生き方してる奴はこうなってくんだよ。で、そっちは無事なのか?あいつが“ライが監禁される"とかなんとか喚いてたぜ>

 フィンが心配してくれている。そうわかると、胸がきゅっと締め付けられた。一気に会いたい気持ちが膨れ上がってくる。だが今から帰るのは色々な面で不可能だ。

「…わかってる。明日になったら帰るつもりだ」
 <ならいいけどよお?あ、スマホな。無事に電源ついたぜ。壊れてはなさそうだ>
「ほんとか!!」
 <ああ、壊れてねえが一点問題っつーか、発見があった>
「発見…?」
 <ちょっと充電の減りが早すぎるなと思ってかるーく中を調べてみたらよ。位置情報から検索履歴、着信、メッセージ、スマホのホーム画面すらもぜーんぶ抜かれてたぜ>
「は?」
 <だから、てめえは監視されてたって言ってんだよ。ご丁寧な事に五分ごとに最新情報を送りつける徹底っぷり。こんなんじゃスマホっつーより首輪みてえだぜ、気色悪い>

 絶句する。監視されていたと言われて恐ろしくなったが、よくよく考えるとおかしいことではない。ユウキはヤクザの跡取り息子だし何かあった時のためにそういう機能を備えさせていた可能性がある。
 (ユウキが拐われた時とかに使えるもんな)
 だとしてもホーム画面の記録まで必要だろうか。ツッコミをいれてくる心の声を…ひとまず俺は無視しておく事にした。深く考えたら寝れなくなりそうだ。

 <一応今は電源切った状態と同じ情報を偽造して送らせてるけどな。このスマホ借りた相手って誰だよ?悪いことは言わねえ。そいつとは関わるのやめとけ。てめえに並々ならぬ好奇心があるみたいだからなあ>
「…どこかの痴漢野郎よりはマシだろ」
 <ははっオレは黙ってそんな事しねえし、そもそもンな楽しくも気持ちよくもねえ事しねえ。検索履歴はちょっと気になったから覗いたけど>
「おいコラ」
 <ははっ、安心しろって。どーでもいい検索履歴しかなくて白目になったっつの。…じゃ、生存確認もできたし切るわ。地下でパソコンが泣いてっから早く帰ってこいよな>

 待ってるぜという言葉と共に電話が切られた。俺は放心しつつ、皿を流しまで運んでいく。
 (ユウキが俺を監視していた?)
 俺に執着しているのは知っていたが、それにしてもスマホを使って位置情報やメッセージまで監視するのはやりすぎだろう。ユウキが所持していた時からの初期搭載だと願いたいが…それを確かめる手段はないわけで。

「はあ、風呂入って寝るか」

 このまま考えていても気分が落ち込むだけだ。俺はまな板や食器を洗ってから風呂に向かった。
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