ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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八話

学校へ行こう

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 無事に風呂を終えて廊下に出ると柴沢が待っていた。

「ライ様、お部屋へご案内します」
「あ、ありがとうございます…客間空いてたんですね」

 何故かそれには答えず背中を向けて歩き出す。戸惑いつつもその背中を追いかけた。廊下を進み何度か曲がった先で大きな庭と離れが見えてくる。位置的に本邸の裏だろうか。

「こちらをお履きください」
「え?」

 つっかけを差し出される。どうしてと目をぱちくりとさせるが柴沢はやはり答えずに進んでしまう。砂利の敷かれた庭を突っ切って離れの前に移動した。こじんまりとした離れだが綺麗に掃除されていて広さとしても小さめの一軒家ぐらいは余裕である。

「こちらです。中の物はご自由に使っていただいて構いません。ごゆっくりとお過ごしください」
「え?客間…これ、客間じゃないですよね?」
「…」

 また無言。まさか本当に客間が全て埋まっていてこんな端っこに移動させられたのだろうか。

「わ、わかりました…」

 ここでごねたところで、柴沢の寝る時間が遅くなるだけだ。「案内ありがとうございました」と礼を言うと柴沢は少しだけ無表情を崩した。無表情なのに崩すって意味わかんないけども。

「…ユウキさんは昔から…とても大人びた子供でした」
「え、あ、はい(突然の回顧?)」
「教える前から大体の事ができてしまう為、言っても聞かず、誰に懐く事もない…難しいお方となってしまいました」

 容易に想像できる。あの親父さんですら育て方に悩むぐらいなのだ。世話人なら余計苦労させられただろう。

「人や物に執着しないからこそ、その反動なのか、時々狂ったように執着を見せる時がありました。地面に転がる歪な石、折れかけた鉛筆、死にかけの虫…どんなものでも気に入ってしまえば最後。それが壊れるまで傍に置き、壊れた後も世話人に破棄されるのを嫌って部屋の奥深くに隠してしまうのです」
「すごい執着心ですね…」
「はい。世話人がそれらを見つけ出せた事はありません。毎回迷宮入りして破棄できないまま。何度上から注意された事か…」

 こほんと小さく咳払いする。話しすぎたと顔をしかめた後、柴沢はいつもの無表情に戻った。感情のない鉄の仮面だ。

「という事で、ライ様もお気を付けください」
「え」
「失礼します」

 意味深な言葉を残して去っていく柴沢。
 (気を付けろって…今のは“物”の話だろ…?)
 案内された離れを見て、その周囲を確認する。やはり見張りはついてないように見えた。この状態ならいつでも逃げ出せるはずだが…。
 (とにかく、明日には出た方が良さそうだな)
 ソルの忠告もある。長居は無用だ。緩みかけていた警戒心を引き上げて離れに入った。玄関扉は内鍵がかけられるようになっていて

 カチャ

 なんとなく鍵をかけておいた。チェーンもつけておく。それからつっかけを脱いで中に入った。

「おお…」

 俺は、その広さに感動するのだった。

「これ全部使っていいって、どんだけ土地が余ってんだよ」

 地主は違うなと呆れつつ一通り探索する。裏口にも出入り口があってこちらも鍵がかけられるようになっていた(施錠した)。部屋は二つあり、簡単な台所と居間、トイレもあった。風呂以外ここで済ませられるという事だ。全体的な内装は屋敷と同じで、中にいる分にはここが離れとは気づけないだろう。

「えっと、布団…」

 布団の収納位置を探し出し、部屋の真ん中に敷いた。布団からはお香のような香りがして謎の安心感に包まる。倒れ込むようにして布団に入った。



 さらっ

 布擦れの音がした。泥のように眠っていた意識が覚醒する。頭が覚めるより先に体の感覚に集中すると腰回りに何か重いのが乗ってるのがわかった。肩にもペットボトルぐらいの重さの何かが乗せられてる。
 (まさか…)
 振り返るわけにもいかずじっと耳を傾けた。すうすうと穏やかな寝息が聞こえてくるが、うなじに吐息があたるほどの距離に体が強張る。横向きに寝てる俺に足と腕を巻き付けている誰かがいるらしい。誰かって、まあ十中八九ユウキだろう。なんでユウキがここに。てか、施錠の意味な。

「んん、ライ…」

 よしよしと撫でられた。その手付きにいやらしさはない。

 すうすう

 添い寝してるだけで何かするつもりはないらしい。俺に恋人ができて遠慮してくれてるのだろうか。いや、それなら添い寝もするなと言いたいところだが。

「…」

 どれだけ待ってもおかしな動きは見せなかった。少しずつ全身の強張りが解けて、眠気が戻ってくる。連日の疲労もあって眠気に困る事はない。
 (…なにビビってんだ、ユウキ相手に)
 ヤクザ一家というくくりは恐ろしいが、ユウキ自体に恐怖はない。何かあれば殴り返せばいい。

 “ただの子供なんだから”

 そう言い聞かせると今度こそ俺は深い眠りにつくのだった。


 ***


「おはようございます」

 朝日と共に刈り上げられた頭が目に入る。布団から上体を起こし、廊下で正座してる柴沢に向き合った。

「お、はよ…ございます…」
「申し訳ありません。何度声をかけても反応がなかったので、中に入らせていただきました」
「いや…はい…」

 相当深く寝ていたのか柴沢の声どころかユウキが立ち去る音すら聞こえなかった。横を確認すると誰もいなくて全部夢だったのかと思えてくる。寝ぼけつつも、布団を畳もうと腰を上げれば慌てて柴沢が制止してくる。

「ライ様は屋敷へお戻りください。ユウキさんがお呼びです」

 そういって私服を手渡された。昨日俺が着ていた服じゃなく、新品のものだった。なのにサイズはぴったりでしかも俺が選びそうなデザインなものだから色々と不気味だった。多分ユウキが準備したのだろう。その気持ち悪い程の準備の良さに顔をしかめる。

 ぱさっ

 裸で行くわけにはいかないし仕方なくそれに腕を通した。

「…あ、そうだった」

 ソルのスマホを上着に入れておく。何もないと思うが念のためだ。スマホと言えば…ユウキに借りていた方のスマホを思い出す。壊れてなかったと伝えたいが、それを伝えれば今はどこにあるのかとか、ソルが調べて監視されてる事に気付いたとか…色々探られるかもしれない。
 (今は下手な刺激を与えるべきじゃない)
 そう結論付けて一人頷いた。帰り際に伝えてついでにさらっと監視の事もつついてみよう。どうせユウキの事だしはぐらかされて終わりだろうが。そんな事を考えながら廊下を進んでいると、話し声が聞こえてきた。

「おけおけ、りょーかい、じゃしっかり休むよう伝えて」

 ユウキが制服のボタンを片手で留めながら電話していた。視線はすでに廊下に立つ俺へと向けられている。こっちこっちと手招かれ部屋の中で待機すると、電話を切ったユウキが近付いてくる。

「ライおはよう!寝癖ついててもイケメンだね」
「るせぇ、おはよ…今の電話は?」
「山田を病院に行かせた部下からの電話。なんか山田のやつ、昨日の夜から熱出てたらしい。どうりで眠そうにしてたわけだよ」
「えっ大丈夫なのか?」
「39度出てたし多分インフルだね。病院行ったし山田本人は大丈夫だと思うけど…問題は出席回数なんだよね」
「ああ…」

 不良というだけあって出席回数もギリギリなのだろう。自業自得ではあるが病気はどうしようもないしな…と同情していると、ふと、ユウキが顔を近づけてきた。にこにこと笑みを浮かべていて不気味である。

「な、なんだよ…」
「てなわけで、ライに頼みたい事があるんだよね」
「!」

 ギクリ

 嫌な予感がする。俺はその感覚に抗わず即座に体を動かした。

「待て、ユウキ。そろそろ学校行く時間だろ?俺も帰るから――…」

 ユウキの言葉を待たず、廊下に出ようとすると

 がしっ

 肩を掴まれた。

「まだ屋敷の中にいるし、俺の言うこと聞くって話は有効だよね?」
「いやあのー…」
「スマホ、たくさん使ってくれてありがとね?」
「……」
「昨日も、寝癖がつくまでぐっすり寝てもらえたみたいでよかったよ」
「…」
「というわけで一緒に学校へ行こうか」
「わかっ…――は?」



 キーンコーンカーンコーン

 授業の開始を告げるチャイムが鳴る。しんと静まり返った廊下をドキドキしながら進んでいると、前を歩いていたユウキが振り返ってきた。

「ここが俺らの教室だよ。授業中だから静かにね」

 当たり前に遅刻するなんて流石不良とからかってやりたいところだったが生憎今の俺にそんな余裕はない。頷いて応えるので精一杯だった。

 ガララっ

 見知らぬ教室の中へ後ろの扉から滑り込んでいく。すでに授業は開始されていて皆教師の方を向いているがどこからともなく視線は感じるもので。
 (ひいいいい…)
 全身から冷や汗が溢れた。もういっそ殺してくれと思ったが、前方にいた教師が「早く着席しなさい」と指摘してきて、俺は見知らぬ教室の見知らぬ机に当然のように座らされた。

「ちょうどいいしこの問題を…山田、答えてみろ」
「!」

 教師が俺を指さしてくる。ギョッとしたが、前に座っていたユウキが顎で「早く」と指示してくる。わかってる。わかってるが変に緊張してうまく歩けない。なんとか教師の横まで行って、手早く答えを書いていく。

「ふむ、よろしい…正解だ」

 俺が無事に正解を導きだした事に驚きつつ教師は授業を再開する。俺は駆け足で席に戻った。前に座っていたユウキが振り返ってにししと笑いかけてくる。

「ね?バレないでしょ?」

 自慢げな顔を向けられ、思いっきりユウキの足を蹴りつけた。



「狐一族秘伝の化け羽織。変身能力がない人でも化けられる便利なアイテムでさ、たまに変化できない子が生まれたりするし、来客中に問題が起きて客を変化させることもあるから、有事に備える為に家に何枚か置いてあるんだよ」

 昼食を買うために廊下を歩いているとユウキが楽しそうに説明してくる。俺の肩にかけられている羽織をヒラヒラとたなびかせた。こんな布切れ一枚で外からの見え方が変わるなんて信じられなかったが、鏡で確認すると山田の顔が映ってて驚かされる(ちなみに羽織の下は私服のままだ)。

「そんな大層なアイテム、部外者の俺に使っていいのかよ」
「いいのいいの。どうせホコリ被ってたし、何よりライは俺の大事な人だから、誰にも文句は言わせないよ」
「はあ…いまいちユウキの家が厳しいのか緩いのかわかんねえなあ…」
「あはは。でも、文句言いつつ結構適応してない?一限目は死にそうな顔してたけど、今は普通に廊下歩けてるじゃん」
「普通なわけあるか。こちとら捕まらないように必死なんだよ」

 頭では理解できても、誰かとすれ違う度心臓が飛び出そうになるし、視線を感じれば全身に冷や汗が浮かぶ。こんなハラハラ体験一日だって耐えられる気がしなかった。
 (はあ…早くスナックに帰りたい…)
 昨日はあんなに拒絶してたのに、まさか一日もせずに真逆の気持ちになるとは思わなかった。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。激しく動いたり羽織が脱げない限り変身は解けないし、昨日のうちに俺の髪の毛織り込んで力を底上げしてあるから、そこらの幻獣よりよっぽど良い変身ができてるはず!」

 昨日急に消えたのはこれの為だったのかと顔をしかめる。つまり前日からすでに俺が学校に来させられることは決定していた事になる。
 (やけに大人しいと思えばこんな爆弾を準備してたのかよ…)

「…はぁぁ」
「そんな嫌そうな顔しないで。本当は柴沢とか親戚に化けさせて途中から学校に来させるつもりだったけど、山田がインフルになったのも何かの縁だよ!せっかくだし生徒として楽しも?」
「誰が楽しめるか…こんな頭のおかしい状況…」

 バレたら一発で捕まるし、社会的にも死ぬ。というかスナック組に爆笑されるだろう。そんな未来を想像して背筋が震えた。

「えーー?俺と同級生になれたのに嬉しくないのー?」
「逆になんで喜ぶと思ったんだ。午前で出席回数やばいのは終わったんだろ。ならさっさと調べようぜ」

 俺がユウキに言われていた事は「山田として出席すること」だけじゃない。学生間で回ってる薬の調査も言われていた。多分こっちがメインなのだろう。学校内に入らないと調べられない事が多いと言っていたし、元々薬については気になってたから調べること自体に文句はなかった。
 (まさか山田に化けてやらされるとは思わなかったけど…)

「わかった。じゃお昼食べながら作戦立てよ。適当に買ってくるからあそこで待ってて」

 人があまりいない中庭のベンチを指さす。桜の木と思われる大木が横に立っていて日陰になっていて過ごしやすそうだ。

「あそこ、俺の特等席だから。誰かに声かけられても無視でいいよ。とにかく不要な接触は避けるように、いい?」
「はいはいわかったって」

 早く行けよと追い払えば頬を膨らましつつ走っていく。購買へ向かう学生達の波を搔き分けて走る姿は青春そのものだった。眩しいの何の。

「はあ…ほんと、何やってんだ俺は…」

 一人になった俺はベンチに移動して腰を下ろす。学生達を観察するわけにもいかず視線を空へと逃がした。どんよりとした空は昨日に引き続き重い雲に覆われている。
 (フィン…何してるかな…)
 俺がユウキの家に泊まるなんて気が気じゃないだろう。てっきり夜中に攫いに来るかと思ったがそこまで理性は失ってなかったらしい。…別に攫われてもよかったのにな、なんて思ったのは内緒だが。

「あのーちょっといい?」

 顔を正面に戻すと、若い男が立っていた。制服を着てないので学生ではないのだろう。ネームプレートを確認すると“教育実習生”と書いてあった。猫背で俯きがちな事もあってやけに気弱そうな印象を受ける。
 (なんで教育実習が山田おれに…?)
 なんとなく誰かに似ている気もしたが、こんな気弱な知り合いがいたらすぐに思い出せるはずだろうし他人の空似だろう。

「あのね…君さ、狐ヶ崎くんと、仲良いんだよね?」

 (狐ヶ崎…ユウキの事か)

「僕、彼に大事な話があって…その…仲介してもらえないかな?」

 そう言いながらキョロキョロと中庭や校舎の窓をしきりに確認している。大事な話って、ユウキに一体何の用だろう。そもそも教育実習生ならその立場を使って声をかければ済むことだろうに。
 (ただ話しかけるんじゃなくて、ユウキとお近づきになりたいって事か)
 それがどんな意図であれ、あまり良い内容ではないだろう。男のどんよりと暗い瞳を見て察した。

「…断る」
「そんな…じゃ、じゃあ、君にもいい事してあげるから、考え直してくれない?」
「…あ?」
「とびきり楽しくて気持ちいい事だよ」

 男が前屈みになって肩に触れてくる。途端、静電気のようなものが体に走った。体の奥がジワリと熱くなる感覚に不快感を抱くが、俺よりも男の方が驚いていた。弾かれたように手を離して二歩、三歩と後退る。

「……嘘でしょ…センパイが、どうしてここに…?」
「?」

「ちょっと、誰?」

 ユウキが怪訝そうな顔で近寄ってくる。男はユウキの姿に目を丸くした後、バタバタと足早に去っていく。

「何あれ?ライってばいつの間に教育実習生まで誑かしたの?」
「までって、誰も誑かしてねえよ」
「ほんとかな~?」

 からかうように目を細めてきた。自分以外と会話した事が気に食わなかったのか、目が全くといっていいほど笑ってない。怖い怖い。急降下した機嫌を逆撫でしないよう早口で答えた。

「急に声かけられたんだよ。ユウキと話したいって、それを断ったらなんか固まっちまって」
「…ふーん、俺とね。なんで断ったの?」

 俺の横に腰掛けて顔を近づけてくる。その手には購買の袋があり、カサカサと音を立てながら開封していた。中から焼きそばパンやおにぎりなど定番のものが大量に出てくる。

「俺が教育実習生と仲良くなるの、嫌だったの?」
「そうじゃない」
「じゃあなんで断ったのさ」
「…胡散臭かった。だからユウキに近付けたくなかった、以上」
「っぷ、はは!」

 噓偽りなくそのまま言えば、ユウキは噴き出した。

「ほんと、流石だよねえ…」

 そういって無邪気に笑う。どうやら機嫌が回復したらしい。ホッと胸を撫で下ろす。

「悪い奴センサーはちゃんと発動してるのになんでこう、変な奴ばっか引き寄せちゃうのかなあ…その癖規制レベルが低すぎるから周りは闇鍋状態だし、危なっかしいったらないよ」
「何の話だ…?」
「こっちの話。でもよかった、話す手間が省けたね。あいつは先月から教育実習としてうちの学校に来てるんだけど、名前は六島 修 むじま しゅう。山田と調べた限りではアイツが薬の売人…もしくは指示役のはずだよ。なんせ、アイツが来てから薬の流通が始まったからね」
「マジかよ。じゃあ六島を捕まえれば片付くんじゃ…」
「そう簡単にいけば楽なんだけどね~」

 ユウキからおにぎりを手渡された。代金を渡そうとすれば当たり前のようにつっ返され、揉めるのも面倒で大人しく受け取った。

「根っこを掴んでから追い込まないと、六島がスケープゴートにされて終わりだよ」
「元締めをしめたいって事か」
「そうそう。こんな正面から喧嘩吹っ掛けられて逃がすつもりはないよ。俺らのシマで舐めた真似しやがって…絶対後悔させてやる」

 そういってもぐもぐと焼きそばパンを頬張る。視覚から入る情報と聴覚の情報が全く噛み合わない。せっかく学生らしい事をしているのだし、台詞も学生らしいものにしてほしいものだが…。ため息交じりにおにぎりを頬張った。ツナマヨだった。普通に美味い。

「美味しい?」
「…ん」
「これとこれも食べていいよ。あ、ライはこっち系がいいかな~」

 袋から俺が選びそうなパンや飲み物を取り出してくる。流石ずっとストーカーしてただけあって俺の事を良く把握してらっしゃる。いや、本当は偶然と思いたいんだけども、ここまで来ると疑わない方が難しい。手渡されたお茶に口を付けつつ、視線を送った。これからどうするつもりだと問いかける。

「うーん。学生はつついた所で意味ないし、ひとまず六島を探りつつ、怪しい絡みがあればそれを追おうかなと」
「…了解」

 ストーキングなんて気乗りしないが証拠探しと情報集め両方できるのならやるしかない。何より今回の被害者は学生だし、躊躇ってる時間が惜しい。二人で購買袋の中身を空にして立ち上がったところで昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。



 教育実習生として授業をこなす間は動きがないと判断した俺達は、手分けして六島のロッカーや教員机など怪しい場所を洗った(職員室はユウキが教員に化けて侵入した)。だが流石に校内に薬を置いておくほど愚かではなく、普通の教育実習生らしい私物しか置かれていなかった。物的証拠は諦めるしかないだろう。

 ブーブー

 二手に分かれる時に渡されたスマホ(ユウキの予備②)が振動した。メッセージが一件。

 “六島そっち行った。下校時間だし誰かと接触するかも”

 授業を終えた六島が三階から一階へ移動しているらしい。ユウキはまだ別校舎だし、同じ校舎の俺が先回りして尾行すべきだろう。早速、教員がよく使う方だと説明されていた階段へ向かう。遭遇してしまわないように階段裏に隠れた所で、ちょうど六島が降りてきた。

「先生っ、あの、ちょっといいですか」

 俺と同じ一階の廊下から現れた学生が、階段の上にいる六島に声をかける。

「真野くんだね。どうしたの?」
「実は…この前いただいたものなんですけど…」
「ああ、どうだった?」
「はい…すごくよかったです…それで、その…」
「うん、もちろん、いいよ。でもごめんね。今ちょうど切らしてて…これから補充する所なんだ。明日まで待てそう?」
「は、はい…!」

 それから二人は明日の待ち合わせについて話し合ったあと階段を降りていった。六島と別れて下駄箱へと走っていくその背中を見つめる。真面目そうな学生だった。あんな子まで薬に手を出してるとは思いたくないが、あまりにも会話が怪しすぎる。
 (ちょうど切らしてる…補充する…か)
 この先で薬を受け取る現場が見れるかもしれない。ユウキにメッセージを飛ばしつつ六島の尾行を続けることにした。六島は職員室で報告(提出するもの?)を終わらせた後、裏門から外へ出た。駅とは逆方面で、お世辞にも治安が良いとは言えない荒んだ道を進んでいく。

「いらっしゃいませー」

 十分ほど歩いた所でコンビニに入っていった。客は誰もいない為、中には入らず自転車置き場の奥で待機しておく。

「…」

 五分、十分、十五分、いくら待っても出てこない。
 (おかしいな…)
 出入り口が別にもあったのかと焦り始めた頃、やっと六島が出てきた。

「???」

 六島は黒髪から淡い藍色の髪に変わっていた。服装も全然違うし、顔もメイクをしてるのか別人だった。あまりの変わりように一瞬人違いかと思ってしまう。ユウキ達一族も驚きの現代変化術(※人間)だろう。

 すたすた

 六島が再び歩き出した。夕方の暗さのせいで少し目をそらせば見失ってしまうだろう。少しだけ距離を縮めて、六島のあとをつけた。入り組んだ道を進み、やがて、鉄筋コンクリートが剝き出しになったボロボロの立体駐車場に到着した。電気も最低限しかついてないし、廃車一歩手前のボロボロの車が停められていて視界が悪い。いかにもと言う場所である。

 カツン

 コンクリートの地面だからやけに靴の音が響く。他の足音は聞こえない為六島は二階へと移動したのだろう。

「って、なんだこれ…!」

 駐車場内は死屍累々となっていた。ユウキと同じ制服の学生達が大の字になって倒れている。ほとんどの奴が不良だったが中には真面目そうな普通の学生もいる。一体何があったのかと彼らの体を確認しに行く。

「息はしてる…寝てるだけか…」

「ぎゃははは!」

「!?」

 後方からうるさいほどの笑い声が聞こえてきた。何事かと思えば、学生の一人がフラフラと体を揺らしながら近寄ってくるのだ。その足取り、目の血走り方、どう見ても正気じゃない。俺は後退りつつ周囲を確認しようとしてハッとする。いつの間にか同じように正気を失っている学生達に囲まれていたのだ。

「おいおい…」

 流石にこれは一人では相手できない。というか学生相手に手をあげられないのだが。そう思って足に力を込めた次の瞬間

 フオオ…

 車の合間から霧が溢れてくる。一瞬火事でも起きてるのかと思ったが霧に覆われた学生達がバタバタと倒れていくのを見て自然現象ではないと察した。慌てて振り返る。

 カツン、カツン

「あら、霧が効いてない子がいるじゃない」

 高らかに慣らされる足音と共に、背後の霧から背の高い人物が近づいてきた。
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