ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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九話

★火中の栗

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 そこから先の展開はまあ~予想通り、売人にメロメロ状態の不死身野郎を連れて妖精店に戻る事になった。売人も時雨の襲撃がトラウマだったのかオレ達から離れようとはせず移送が楽なのはよかった。問題は…

「あなたの名前は何と呼べばいい?美しい人よ」
「えっあ…僕は…シュウって言います…」
「そうか、シュウか。名前まで美しいのだな。またあなたの事を好きになってしまった」
「え////」

 甘ったるい台詞を吐き続ける不死身野郎とまんざらでもない売人に囲まれるという生き地獄を味わされた事だ。タクシーの中でもそれは続き(ちなみに不死身野郎はグレイのコートを着てる)わりと本気で発狂しかけた。

「グレイ姉様おかえりなさっ…!!ってコイツ誰よ!!意味わかんないぐらい臭いし!!!んもおおお!リリイの店は掃き溜めじゃないんだけどおおおお!」

 妖精店に戻ればクソガキの絶叫と地団駄までプラスされる。

「くそったれ…」

 頭を抱えながらため息を吐く。ライがいないとこんなに幻獣共やつらはカオスになるのか。頭のネジが取れやすい幻獣共を程よい塩梅で常識のレールに乗せる…ライの正常化パワーは偉大だった。
 (つーか、そうだ、ライ…あいつ生きてんのか?)
 試しに電話をかけてみたが、何度やっても応答はなかった。

「…チッ」
 
 昨日電話をかけた時もライは不安そうにしてたし、狐ヶ崎のガキが“盗撮ストーカー野郎”だという事もある。真面目に監禁を疑うべきだろう。グレイの方を見ると、眉間に皴を寄せ厳しい表情で天井を睨みつけている。店に戻ってきてからずっとこの調子だ。

「おい、グレイ」
「…」
「グレイ、おい!おいゴラあ!!聞けえ!!」
「…何よ。今、あんたの股間の相手なんてしてらんないわよ」
「そうじゃねえわ!ライの事だっつの!!あいつ今狐ヶ崎の所にいんだろ??流石にやべえんじゃねえの??」
「……そうね、そこも問題だわ」

 目を瞑り、眉間のシワを揉み解す仕草をする。クソ田舎旅行からずっとイレギュラーな出来事が続いてる。流石のグレイも疲労がたまってるか。

「とりあえず状況を整理しつつ、売人の彼に話を聞きましょ…」
「ライの救出は?」
「現状でいえば…難しいわね」
「…おい」

 見捨てる気か。責め立てるように睨みつければ、グレイは肩をすくめて「あたしだって助けたいわよ」と呟いた。

「助けたいけど、あたし達の所に連れ戻すことが“助ける”になるかわからないのよ。下手を打てばここにいる全員、皆殺しだってありえるわ」
「…そんなにやべえ状況なのか?」
「あんたが思ってる十倍はヤバイわ。時雨、さっき銃を持ってた男は龍神組の相談役よ。彼が出てきたって事はかなりの確率で龍神組が噛んでる事になる。もしかしたら組同士の抗争に巻き込まれてるのかもしれない。こんなの、火事の犯人捜しなんてやってる場合じゃないわ」
「抗争って…おいおい…」
「一体どれだけの思惑が交差してるかわからないけど、確実に言えるのは、あたし達は火中の栗を拾わされてる。…いえ、もしかしたら火中の栗そのものなのかも」

 とんだ四面楚歌だと吐き捨てる。

「その上、頼りになるはずのフィンまでおかしくなっちゃうし…もう詰みよ、詰み…」

 グレイはそういって店の奥側を見た。木でできたカウンターに不死身野郎と売人が並んで座っていた。オレ達に背を向ける形で二人は談笑している。くすくすと笑いながら時々体を触り合っていて、この殺伐とした状況でイチャつけるとはなかなかの狂いっぷりだと逆に感心した。

「…てめえはアイツの習性のこと知ってたのか?」
「雛の習性でしょ。噂では聞いてたし…ライと一緒に現れた時もあんな感じではしゃいでたから。デジャブというか、とても見覚えがあるわ」
「現れた時は…ってまさか!アイツがライにベタ惚れしたのって習性がキッカケだったのか??」
「…あたしが見てた限りはね。愛情が芽生えたのは習性が抜けてからでしょうけど、二人の関係に作用しているのは確かよ」
「!!」

 それは良い事を聞いた。不死身野郎の奴、異常なほどライに執着してるからてっきりもっと特別なキッカケがあるかと思っていたが。
 (なんだよ、メンヘラ習性を拗らせただけだったのか)
 余計ライを奪いやすくなったわけだ。きっとライは習性が発動する度に不安になる。なんてったって自分が習性をキッカケに好かれてるのだから、ライの存在そのものが習性=目移りの可能性を示唆している。今どれだけ二人が思い合えてるとしても、こんなに大きな穴があるなら一気に狙いやすくなったというものだ。しめしめと舌なめずりしてると「コラ」と横から窘められる。

「そういうのはライを取り返してからにしてちょうだい。…取り返せるかわかんない状況なんだから……」
「おいおい、弱気になってる場合かよ。中折れするのが一番ダセえんだぜ」
「はあ…中折れ?」
「童貞だとか包茎はな、極論自分だけの問題だしいいんだよ。問題は中折れで相手に気遣わせちまう事だ。セックスにそんな白けた気遣い持ち込まれた日にゃ切腹もんだぜ?相手の余裕取っ払って夢中にさせる。それが抱く側の最低限のマナーだろが」
「…いやだから何の話よ」

 あたし中折れした事ないししばらくソッチしてないんだけど、と白い目を向けてくる。

「バーカ、やるなら徹底的にやれ、そう言ってんだよ」
「…!」
「誰がどう動こうが、オレらを巻き込もうが、死人が出ようが関係ねえだろ。てめえの店への想いはそんなもんか?下手な気遣いなんて似合わねえ事してねえで堂々と復讐心に燃えてろ。天下のクズビッチ様が情けねえぜ」

 バシッと奴の尻を叩いてやれば、目を見開いてしばらく停止する。それから「はあ~~~っ」と見せつけるように大きなため息を吐いてきた。

「おおい!なんだその呆れ100%のため息はッッ!!!」
「違うわ…これは自分に呆れてんの」
「はあん???」

 オレが意味わからんと首を振ってると、

「…あんたが慰めてくれるなんて珍しい事もあるものね」

 くすりとグレイは久しぶりに笑った。そのまま耳に髪をかけたと思えば、前屈みになって顔を寄せてくる。

 ちゅ

「!」

 唇が重なった。オレとは基本キスをしたがらない癖に一体どんな風の吹き回しか。舌を入れてやろうと口を開ければ、逃げるように唇が離れていった。…何だコイツ。ガキみてえなキスしやがって。あまりにも消化不良で堪らず舌打ちすれば、くすりと悪戯っぽく笑われた。

「ふふ、ここで盛ったらリリイに追い出されるわよ。出禁にされたいの?」
「アア??てめえこそ欲求不満なら最初からそう言えや!」

 ここで犯してやろうかと中指を立てれば、がぶりと指先に噛みつかれた。甘い空気はオレ達には必要ない。お互いの欲求を埋めるだけでいい。オレ達は互いのクズさが一致してるからこそ一緒にいられる関係なのだ。そう言うように笑みを浮かべる。

「…グレイ」
「相手してあげたいけど今はダメ。全て片付いてから、思う存分搾り取ってあげるわ」
「チッ」
「でも、…ありがとね。おかげで少しだけ正気に戻ったわ」
「怒りを取り戻したの間違いだろ」
「よくご存知ですコト」

 あえて普段の口調に戻してからグレイは妖艶に微笑んだ。
 (そうそうこの顔だ)
 グレイとは付き合いが長いが、こうして余裕たっぷりに笑う姿が一番似合う。そしてしっくりくる。クズで悪巧みが大好きなビッチ野郎。それでこそグレイだ。

 ぱんぱん

「さあ、皆集まって、状況を整理するわよ」

 グレイが手を鳴らして店内に散らばっていた者達を招集した。



 売人のシュウという男はまず自己紹介を行った。グレイが「素直に話せば身の安全は保障する」と伝えたところ、面白いほどペラペラ話し始めたのだ。とんだ素人だなと笑えたが拷問する手間が省けたのは好都合である。

「ぼ、僕は…ムジマシュウと申します。普段は教育実習生として外国語を教えてます。教員になる前に前職を辞めてしまったせいで…その、お金がなくて、闇バイトに募集しました。色々やらされた挙句、最終的に売人をやらされる事になりました」
「薬というのは学生達を操ってるという噂の?」
「はい、そうです。“ヘブン"と呼ばれてる薬です。全て狐ヶ崎の指示で…実習先の高校で…学生達に…薬を流してます…」
「くくっとんでもねえ野郎だなぁ~」

 頬杖をついて気だるげに茶々を入れれば売人は「ひっ」と縮こまる。

「悩んでる教え子に薬物を渡して金儲けとは、可愛い顔して恐れ入るねえ~」
「すみませんすみません…っ!でも、無理矢理ではないです…っ!誘いに乗った子だけで…!それに、僕自身、狐ヶ崎の人たちに脅されてて逃げれなかったんです…!どうしようもなかったというか…っ!!」
「へえ?脅されてたらガキ共を薬浸けにしていいのか~大層ご立派な教育実習生サマだな~」
「ひうっ…!」

「おい、そこまでにしろ」

 不死身野郎が売人を庇うように手を伸ばした。

「シュウを責めても何も解決しない。責められるべきは薬を撒けと指示した狐ヶ崎だろう?ここで我々の亀裂が深まれば、相手の思う壺だぞ」
「……さいですか」

 クソみたいなメンヘラムーブを見せつけられ反論する気力すら失う。幻獣の習性ってのはこんなにも唐突に、根元から人格を変えてしまうのかと驚くのと同時に、狼男にそういうメンタル的干渉がなくてよかったと心の底から感謝した。

「シュウ、駄犬が怖がらせたな、大丈夫か」

 オレの胸中など露知らず、不死身野郎はプルプル震える売人の肩を抱き寄せる。

「ううっ…ぼ、僕がいけないんです…っ、僕が、弱虫だから…っ」

 売人は涙を流しながらその胸に抱きついた。不死身野郎はそれを優しく受け止める。吐き気が収まらない状況にイライラと貧乏ゆすりをしていると

「続けてくれるかしら?」

 横にいたグレイが表情を崩さぬまま言った。お涙頂戴の二人の様子に一切の感情の動きもなく情報の続きを求める。これはこれで恐ろしいもんだなと苦笑いした。売人は顔を真っ青にして早口で続けた。

「すみませんッ!えっとえっと、ふ、二日に一度、狐ヶ崎から薬を受け取る事になっていて…今日もその為に駐車場へ行ったんです。でもいつも薬を届けにきてくれる子が来なくて…戸惑ってたら銃を持った怖い人が現れて、殺されそうになってた所を…ぐ、グレイさんに声をかけてもらって…そこから先は皆さんが見た通りです…っ!」
「時雨とは知り合いじゃなかったのね。何故時雨があの場にいたのかわかる?」
「い、いえ…、…」
「そう。ちなみに薬を届けにきてくれる“子"って言い方が気になったんだけど、まさか子供が渡しにきてるなんていわないわよね…?狐ヶ崎の若い衆ってことよ…ね?」
「それが…その、」

 売人はキョロキョロと辺りを見回し店内に他の人影がないことを確認する。

「大丈夫。この店の中には狐ヶ崎の奴らはいない、あたし達だけよ」
「…で、でも…、その子……狐ヶ崎の下っ端じゃなくて…むしろ…やばい位置にいる子なんです……その子から薬を受け取っていたのは僕だけ、だし…」

 オレ達がその“子”を追えば、売人が漏らしたとすぐにバレる。相手は狐ヶ崎、ヤクザである。報復を恐れて言い淀むのも当然だ。

「シュウくん、ここまで話したら黙ってても一緒よ。怖いと思うけど、誰を警戒すべきかわからないと、あんたを守る事もできない。どうしようもないのよ」
「……っ」
「だから教えて、その子の名前を」
 
 グレイが真剣な顔で催促する。売人はハッとして下を向く。不死身野郎の両手が売人の手を包み込んでいた。

 ぎゅっ

「シュウ。私がいる。命を懸けてあなたを守ると誓おう」
「フィン…さん…っ」

 売人は嬉しそうに目を細め、決意を固めた様子で顔を上げた。

「ぼ、僕に薬を届けに来てくれていた子は…」
「…」
「……狐ヶ崎ユウキ、です」
「「!!」」

 ざわりと空気が震えた。グレイも不死身野郎も目を見張り、時が止まったかのように固まっていた。狐ヶ崎ユウキ。狐ヶ崎ユウキってまさか

 (ライを拐ってった茶髪のガキか???)

「待て待て意味わかんねえって…!自分の通ってる学校に薬をばらまくって…友達が巻き込まれてもいいのかよ??それに奴は狐ヶ崎の組長の息子だろ。今回の事で龍神組と抗争になりゃ身内を危険にさらす…下手したら親や兄弟まで殺されるかもしれねえ!そこまでしてあのガキは何がしてえんだ!頭わいてんのかよ???」
「ひいっ、ぼ、僕もわかりません…っ!薬を手渡される以外、雑談も、しませんし…っ」
「はあ??ちょっとは気になれやあ!!役立たずがあ!!!」
「ひゃいいい」

 大掛かりでハイリスクな行動のわりに、奴が得られた結果は「ライの回収」と「グレイの店を営業停止にする」だけだ。店に関しては「ライの回収」の為の一手と考えるのが妥当だし…奴が真に得たかったものはつまり「ライ」だけ。いくらなんでも少なすぎる。
 (ハイリスクローリターンってレベルじゃねえ…)
 肉親や友達、自分の立場・命すら投げ打って一人の男を求めるなんて狂ってるとしか言いようがない。

「…いや、奴ならありえる」

 不死身野郎がポツリと呟いた。その瞳には冷たく燃える怒りと鋭い殺意が込められていた。少し前までオレにも向けられていた明確な“敵意"だ。

「奴は一目見た時から、龍矢に似ていると思っていた」
「…龍矢、あんたの元の主ね」
「ああ」

 グレイの言葉に不死身野郎は殺意を散りばめながら答える。

「龍矢は元々狂気を生まれ持っていたが、奴の置かれてる状況が更にそれを加速させた。誰にも文句を言わせない権力と資金力、そして狂信的な部下たち。独善的な立場は狂気を膨らませるのだと痛感した」
「確かに道を外しやすくなるでしょうけど…ユウキくんにそこまでの狂気は感じないわよ?」

 ちょっとライに執着してるだけの普通の学生に見えたけど、と呟くグレイ。

「奴は“普通の学生"を演じているだけで確実にその奥底に狂気は存在する。龍矢の狂気をずっと傍で見てきた私にはわかるのだ。化けて世に溶け込もうとするのは狐の本能だが…あまりにも巧妙に化けたせいで、本人ですら自分の狂気に気づけていない」
「なんてこと…」
「今回のことで奴は自分の狂気を自覚するはず。そうなった時…開き直るか、更生するか……火を見るより明らかだ」

 “狂気の味を知った者は狂気を手放せない"

 まるで自分の事でも言うかのように重く吐き捨てた。シーンと場が静まり返る。

「ま、待ってよ!よくも知らない売人の言葉を鵜呑みにしないで姉様っ!狐ヶ崎ユウキが主導していた証拠は??証拠がないとただの妄言と一緒よ!!」

 そこまでずっと黙っていた妖精のガキが絞り出すように叫んだ。確かに…と皆の目が売人に向くが、急に疑われた事に動揺して何も言えずにいる。仕方なくオレは持ち帰っていたライの上着をテーブルに置いた。

「なに、それ」
「駐車場で拾ったモノなんだがなあ。この服からはライの匂いと、かすかに狐ヶ崎のガキの匂いもするんだわ」
「!!!」
「それに時雨が言ってたろ?狐ヶ崎はもういねえのかって」

 組として名指ししたのかもしれないが、傍観を決め込んでる狐ヶ崎が駐車場という前線に現れるとは思えない。つまり狐ヶ崎ユウキがあの場にいたのだ。薬を売人を届けに来たのか、ライを回収して用済みになったから口封じに来たか。どちらにせよ狐ヶ崎ユウキが敵として存在していた証拠を前に、皆、言葉を失くす。

 ボーン、ボーン、ボーン…
 
「!」

 店の壁にあった古時計が12時を伝えてくる。いつの間にか結構な時間になっていたらしい。オレも眠さが限界だった。

「…今日はここでお開きにしましょう」

 グレイの言葉にそれぞれが思い思いの表情を浮かべ立ち上がる。


 ***


 翌朝、まだ眠り足りなかったが尿意を感じて起きてしまった。仕方なく、あくび交じりに個室を出てトイレに向かうと

「ンああっ!はあっ、あああっ、そこ、きもちぃっ」

 それはそれは気持ちよさそうな喘ぎ声が廊下に響いていた。この声は売人の野郎のか、と寝起き頭のままなんとなく考えていると

「フィンさあんっ、ああっ!もっと、くださ…、アアンッ、んぐ、はあうっ、くび、しめてえっ」

 わーお、首しめプレイですか。やるじゃねえかと口笛を吹きながらさっさと背を向けた。

「…ん?」

 用を足して戻っていく道中で嗅ぎなれた香水が鼻をかする。なんだと視線を横にずらせば、ぬるりと動く長い影が見えた。

「おい」

 その影は呼び止められるとびくりと震え、気まずそうに振り返ってくる。奴の目の前には巣穴の入り口があり、店を出ようとしていたのだとすぐにわかった。

「あんた…もう起きてきたのね…」
 
 グレイだった。ロングコートを着ていて完全に出かける気満々だ。

「てめえ、何やってんだよ」

 火中の栗だとか何とか言ってた癖に、一人で外に出て死ぬ気なのだろうか。今更グレイが殺された所で収まる状況でもないだろうに。

「…少し見てくるだけよ。午後には戻るから。あんたはあの危なっかしい二人の事を見ておいて、今のフィンは何をしでかすかわからないしこれ以上状況を悪化されても困るわ」
「なんでオレが奴らのお守りを…っ、てか、外を見てどうすんだよ??下手に出歩けば狐ヶ崎のガキに殺されるぜ?」

 狐ヶ崎のガキは今ライを得て満足しているだろうが、これからも独占する為にはどうしてもオレ達(主に不死身野郎)の存在が邪魔になる。まず間違いなく消そうとするはずだ。奴の本気具合によっては薬で操った学生や狐ヶ崎まで使ってくるだろう。だからってこちらは反撃の手を封じられている。下手に噛みつけば最終目標の「グレイの店」を取り上げられてしまう。犯人への復讐も叶わなければ、抵抗する事もできない。とんだ火中の栗だ。

「…証拠さえ手に入れば警察は動いてくれるはず。いくら金を握らされてるといっても、決定的な証拠があれば捜査しないわけにはいかないわ」
「オレ達が狐ヶ崎に攻めこむんじゃなくて、警察を差し向けるってわけか」
「ええ、その為の証拠探しにいってくるつもり」

 確かにそれなら「グレイの店」を守りつつ狐ヶ崎に痛手を負わせ、ライも取り返せる…かもしれない。今の状況で唯一オレ達にできる反撃という事だ。ぱちぱちと乾いた拍手を送る。

「なーるほど、流石クズビッチ、人の思考の穴をつくのがうまいぜ」
「それ褒めてんの、ディすってんの」
「両方」
「はあ…あんたなら室内にいても調べられるでしょ?お守りの片手間に軽く洗っといてちょうだい」
「チッ!面倒事ばっか押し付けやがって」

 高くつくぜ、と唸ってると鼻をつままれた。

「…こんな事押し付けられるの、あんたしかいないじゃない」
「!!」
「頼んだわよ、ソル」

 弱った顔でそう囁かれドキリとする。一瞬、何とも言えぬ空気で見つめ合うが

「ね、可愛い可愛い子犬ちゃん」
「てめえなああッ!!!」

 悪戯っぽく笑ってグレイは去っていた。



 それから三時間ほど、ネット上の情報を搔き集めた。狐ヶ崎のシマで起きてる事件や事故を調べたり、学生達のSNSを覗いたり…だがどれも狐ヶ崎ユウキを追い詰められる程の情報は得られなかった。人の口に戸は立てられぬ、ならぬバカのSNSに戸は立てられると思っていたが認識が甘かった。薬による洗脳だか催眠のせいで学生間の情報統制が徹底されている。面白い程ヘブンの情報はなかった。

「こんのッ!クソガキが!!オレと情報戦で勝てると思うなよ!!」

 苛立ちをぶつけるようにキーボードを叩き、過去の薬物事件へと方針を変えた。“ヘブン”と同じような薬物は…もちろんネット上には転がってはない。あったら大問題だし当然といえば当然だが。

「となればだ、」

 陰謀論や都市伝説などが書き込まれる怪しげな掲示板を覗いてみる。そこでやっと面白い書き込みを見つけた。

 “チョコに自分の体液を混ぜる事によって相手の心を操作できる”

 バレンタインチョコのおまじない(もらった方は呪いより嫌だろうが)のような気持ちの悪いタイトルに目が留まる。そのスレッドの下にはコメントがいくつかついていて

 “悪魔の体液なら身も心も操作できるってよ”
 “そんな噂が流行った事なかったっけ?すぐに消されたけどさ”
 “言いなりにできるって最高じゃん、やってみようかな”
 “知り合いに悪魔がいるのかよ(笑)”

 (悪魔の体液で身も心も操作する…ちょっと似てるか…?)
 狐ヶ崎のガキは変化の能力を持つ幻獣だと言っていたし、学生の洗脳自体は別の幻獣がやってるという事になる。

「ヘブンを手に入れて調べりゃ協力者の幻獣が誰なのか、突き止められるかもしれねえな…」

 ふむ、とPCの前で頬杖をつく。
 (協力者の幻獣、悪魔、悪魔といえばインキュバスのグレイだが…)
 奴は大の薬嫌いだ。そんな事をするとは思えない。というか自分でこんな事(店を焼いたりヤクザに追われたり)を仕組んでいたらとんだドМ、いやサイコパス野郎だ。では一体誰が、何の為に、狐ヶ崎ユウキに協力しているのか。

「…」
「はあんっ、アアンッ、んああうっ、いやあっ、」
「…」
「あああ!もっとっ!やあっ、おくっ、ンあああアッ!」

 隣の部屋から漏れる喘ぎ声のせいで思考は中断された。

「クソが!!」

 せっかく思考がまとまりかけてたってのに邪魔しやがって。思いっきり壁を殴った。ぶつけた拳がビリビリと痛くなるほど強く、特大の壁ドンをお見舞いしてやる。

「ンあ!アアッ!ああああ~~~!!」

 しかし、効いてなかった。いや、聞いてなかった。逆に煽るように声が大きくなる。うん、本気で殺意がわいてきた。こっちが必死に証拠集めしてるってのにてめえらはナニをしてんだ。グレイからお預けを食らってる分余計に苛立ちは増して

「んやあっ!もっと、はあんっ、いいっ!!」

 やがてオレは、怒りのまま、奴らのいる部屋に乗り込んだ。

 ドガア!!

「てめえらうるせえぞ!!ブチ犯されてえのかあッ!!!!!」

 扉を蹴りあけながら怒鳴りつける。ベッドで絡み合っていた不死身野郎と売人は、乱入してきたオレの方を見ー…る事もなく、ただただ行為に没頭する。
 (コイツらぁ…ッ)
 売人はまだいい。淫乱っぽそうだし驚きはしない。だが、不死身野郎は別だ。習性で頭いかれてるとはいえ人が変わり過ぎだろうが。紳士キャラはどこへ行った。頭の血管を切りそうになりながらベッドに大股で近づき、四つん這いになって喘ぐ売人に手を伸ばす。

 がしっ

 しかしオレの手は不死身野郎によって阻まれた。

「シュウに触るな」
「はっ!!やっとオレが見えたみてえだなあ!クソメンヘラ野郎!!」

 奴の手を払い軽蔑の視線を向けた。不死身野郎は売人の体を抱いたまま、愛おしそうにその背中を撫でる。「んあんっ」と売人が甘く鳴いた。

「何の用だ、駄犬。勝手に部屋に入るな」
「騒音被害を訴えに来たんだよッ!!つーか、てめえなあ…、ライの事は覚えてねえのかよ!??」

 そんなにやってて罪悪感はねえのかと睨みつける。

「…もちろん覚えている」

 ライは大切な存在だ、と売人を抱きながら囁く。

「ライは私達の大切な仲間だし助けるべき存在だが、」
「はあんっ!んああっ、フィンさんっ…!」
「今はシュウから離れたくない」

 売人の奥を突いてかき混ぜて「愛してる」とのたまう。売人の中からはどろどろと奴が出したものが溢れて太ももを伝いベッドのシーツを汚していた。あの量という事は一晩中やってたのだろう。ライを覚えている状態で他の男と中出しセックスしまくりって…どんな思考回路してたらそうなるんだ。

「クソ浮気野郎じゃねえか」

 心底呆れ、軽蔑していると、ふと、売人の目がこちらを向いた。

「ああっ…、あな、た、のっ、名前っ」
「…」
「おし、え、て…?」

 恥辱と色欲にまみれながら笑う。そしてオレの膝辺りに掌を置いてきた。その瞬間、ゾクリと体の奥が痺れるような感覚がした。違和感に顔をしかめ体を強張らせる。

 (なんだ今のは…)

 ガブッ

 気付けばオレは奴の唇に噛みついていた。それから低く呻くように名乗る。

「そる、じ、さんっ」

 嬉しそうに売人が呼んできた。喘ぎ声の合間に何度も、何度も。その度に背中がゾクゾクと震え…息が荒くなる。

 (は??)

 何が起きてるのかと瞬きを繰り返した。見れば見る程、名前を囁かれば囁かれる程、売人に、シュウに目がいく。やけに目の前の裸がうまそうに見えて、自然と舌なめずりしていた。熱くなってきた体の衝動についていけず、思考だけが置いてかれる。おいおい、体と思考が連携とれてないんだが(下半身だけってのはよくあるが流石に全身はない)。

「なんだこりゃ…」

 シュウの体を弄りながら、どこかで味わった感覚に、あれ、と首を傾げる。

「そる、じ、さぁんっ、ああっ、ちょうだ、い…んあっ…っ」
「うるせえ黙れ」

 口を掌で覆ってから奴の喉に噛みついた。背後で売人の腰を抱いていた不死身野郎が暗く笑い見下ろしてくる。

 (…ああ、コイツ、確信犯かよ)

 舌打ちしながら、だけど我慢する事もできず、目の前の鎖骨に牙を立てた。
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