オメガで腐男子の僕がBL展開期待して女装風俗店に勤務したら何故かノンケドライバーに惚れていた件

リナ(腐男子くん準備中)

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一話

…ぶるま、いこうかな(完)

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 ***


 翌日、目を覚ますと僕は自室の布団で大の字で寝ていた。


「え…、えぇぇッ…?!!」


 まさかの夢オチ?!

 そんなバナナ?!!


 と焦ったが、昨日手に入れたボンキ購入品(BL)をひしと抱きしめていたので…どうやら夢ではないらしい。慌てて兄に確かめに行くと「甘口が発情期になったお前を保護して家まで送ってくれた」という事になっていた。昨日の記憶は酒やら発情期やらで飛んでてうまく思い出せないが、なんとなくは覚えてる。ボンキから寄り道してブルームに行って女装して乱交現場に行って…

 (最後に甘口さんが助けてくれたんだ)

 まるで王子様みたいに、ヒーローみたいに駆け付けてくれた。

 (格好よかったなぁ…)

 でもこんなとんでも展開を兄が知れば発狂してしまうので、うまく誤魔化してくれた甘口さんには大感謝である。一応兄に聞いたが僕は運ばれてきたらしい。ドロドロの学生服ではなく、あくまで兄に怪しまれない状態で帰宅したのだ。そもそもボンキ購入品(BL)が手元にあるという事はロッカーに寄ってくれたのは確実となる。そこで僕の元々着ていた服も手に入れて、着替えさせてくれたのだろうが…

 (ひえええ、甘口さんが着替えさせてくれたなんて恥ずかしすぎるうう…)

 しかもただ着替えただけでは今日のこの平穏は訪れない。

 うちの兄、亮太は頭もよく勘も鋭い。しかもブラコンだ。弟の僕に関してはやけに神経質になる。あの兄を誤魔化すには、一滴たりとも乱交の証拠は残せなかったはず。

 精液の残り香なんて論外だ。


 つ ま り

 ①僕のドロドロの体を綺麗にする
 ②学生服を脱がす(真っ裸晒す)
 ③私服に着替えさせる


 の段取りを全て甘口にやらせた事になる。

 ①~③まで完了したらあとは荷物の中から身分証とかで僕の住所を探しだして車で送り届けるだけ…だが、

 (そ、そんな、そんな馬鹿な…)

 まさか全身ぐっしょりべとべとになった体を甘口に見られ、しかも綺麗にされたなんて…


「うひゃああぁ…!!」


 身悶えた。

 やばいやばい死ぬ。
 恥ずかしい。
 悶え死ぬ。

 だってそうだよ、精液がかかってたのは太ももと胸とお腹、そして…性器だ。


「うあああッ!万死ッッ!!!」


 僕のどろどろの性器を、あの美しく清廉な手袋に包まれた指で拭かせるなんて背徳的で興奮す…じゃない申し訳なさすぎる。普通に二度と顔向けできないレベルのやらかしだ。

 (うわーー!!しかも甘口さんノンケイケメンなのにーー!!そんな恐ろしい事をさせてしまうなんてー!!僕の馬鹿ーー!!)

 下手したらトラウマを植え付ける事になる。いやすでにもうトラウマになってるかもしれないが、とにかく、とにかく
 

「甘口さんんんごめんなさい~~~ッ」


 布団の中で悶えながら謝った。


 (…って、あれ…?そういえば、…、)


「おい、うるさいぞ兎太」


 ふと、ランニング帰りの兄貴が廊下から顔を出してきた。汗を首元のタオルで拭いながら布団で丸まる僕にすたすたと近付いてくる。

「そんなに元気なら起きてこいよ。もう発情期は落ち着いたんだろ?」
「う、ん…体は、平気…」

 もぞもぞと起き上がれば兄が布団の手前で膝をついた。

「なんか叫んでたけど、昨日の事でなにか思い出したのか?発情期になった時誰かに襲われたんなら俺がシメに…」
「違う、違くて…その、兄貴に、…聞きたいことがあるんだけど…」
「ん?なんだ?」

 兄が不思議そうに首を傾げる。僕は緊張の面持ちでボソリと言った。


「僕を送ってくれた時、甘口さんって?」

「は?」


 お前なに言ってんだ、と呆れ顔をされる。「甘口のマスクの有無」なんて、発情期中にレイプされてないか心配してくれてる兄に尋ねる質問ではないだろう。それはわかっていたが、僕にとっても死活問題だった。

 そう、甘口のマスクとはつまり、

「ねえ!お願い答えて!兄貴、甘口さんマスクしてた?!(目かっ開き)」
「…してたけどそれがなんだよ」
「エッッ」
「え?」
「ほんとに?!マジで顔見れてないの?写真とか撮ってない??」
「だから、マスクしてたって言ってんだろ。兎太を運んですぐ帰ってったし、顔なんて見る暇もねえよ。ってどうした、やっぱり甘口の野郎に何かされたのか??…よし、わかった。兄ちゃんに任せろ。今すぐ甘口の野郎を俺がシ」
「兄貴待って待って!違う!そうじゃない!」

 そのルートは今じゃない。落ち着いて兄貴。まあ…永遠に兄ルートなんてないんだけども(兄がレイプ犯をこらしめにいってその頼れる姿に僕が惚れる…みたいなBL展開は永遠に来ませんby兎太注釈)

「だがなぁ…」
「そんな事より僕お腹すいたなぁ~の作った昼ご飯が食べたいなぁ~(上目遣い)」
「…」
「いつも美味しくて栄養満点なご飯を作ってくれる大好き~(チラッ)」
「…、仕方ねえなあ」

 兄お気に入りの呼び方でゴマをすると「じゃあ飯の準備してやるか」と仕方なさげに兄が腰を上げ、廊下に消えていく。

「…ほっ」

 なんとか甘口から意識をそらせたらしい。兄と甘口がバトルなんてヤバすぎる。何より、乱交現場から救いだしあまつさえ兄を誤魔化してくれた神(※甘口)に要らぬ容疑をかけるわけにはいかない。感謝してもしきれない恩人だ。今度菓子折りもって謝罪しに行こう。

 (今度…か…そんな日が来るとはなかなか思えないけど)

 連絡先も知らないし、僕は昨日“トラウマメーカー"として甘口の記憶に刻まれた。こんな僕とは会いたくないはずだ。どうしても会いたいなら職場のブルームに行くしかないが…

 (それじゃストーカーじゃないかーー!!ノンケイケメンにこれ以上トラウマを植え付けるなッッ!)

「…、あ……そうだった、ノンケ……」

 そこまで考えて僕は昨日の記憶を遡った。車内での甘口とのやり取りをなるべく細かく、鮮明に、隅々まで思い出そうとする。

 (えっと、えっと…)

 大事なのは甘口が口移しで水を与えてくれたシーンだ。はマスクを外さないとできない行為だ。ということはつまり甘口はマスクを外し、素顔を晒した事になる。それを裏付けるように、甘口の柔らかい唇の感触や熱い吐息、温くて甘い水の味も体はしっかり覚えていた。なのに、なのにおかしい。

 甘口のだけが、どうしても思い出せないのだ。

 (くそうッッ!!僕のアホ頭!!!一番大事な場所を!!なんで忘れちゃうんだよッ!!)

 脳内で地団駄する。せっかく甘口が顔を見せてくれたのに、忘れてしまうなんて何たる失態か。人生をもしやり直せるならもう一度あの場面に行って今度こそ甘口の顔を凝視して記憶に刻むのに。いやいっそ墓石に刻むのに(こわ)。
 
(自問自答する時とっさに“ノンケイケメン”って思ったんだから多分甘口さんはイケメンなんだ…、多分…きっと……僕が記憶を飛ばすぐらいのとびきり甘いフェイスをしてらっしゃる……)

 そこまで考え、一通り悶えた後、スンと落ち着いた僕は布団からのろのろと抜け出した。


「……ぶるま、いこうかな」


 全く懲りてない前原兎太なのであった。






 一話…完

 
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