オメガで腐男子の僕がBL展開期待して女装風俗店に勤務したら何故かノンケドライバーに惚れていた件

リナ

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二話

腹の虫って空気を読まないよね…

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 “フルーツサンド専門店"

 店の看板にはそう書かれていた。シンプルかつ可愛らしいデコレーションのされたお店には仕事帰りと思われるOLや会社員が二、三人並んでいる。

 (あれって…昼間、クロさんが言ってたお店かな…?)

 甘口も気付いたのか、助手席の窓へ顔を向けた。しかし、すぐに顔を戻してしまう。勤務中だからと自重したのだろう。僕もこれ以上甘口に迷惑をかけたくなくて、喉まで出かけていた言葉を飲み込む。

 (もう余計な事は言わずに静かにしていこう…)


 グウキュルルルッ


 そう思ったのに、誤魔化しようのない音量の腹の虫が赤信号で停車している静かな車内に響き渡る。

 (ひええッ恥ずかしいいい!!)

 最後に食事したのは昼前だし、当然と言えば当然の“主張”ではあるが、流石に今この瞬間では止めて欲しかった。空気を読め、腹の虫。いや、腹の虫は「空気を読まない」で定評があるけども…。僕は顔を真っ赤にして「スミマセン!!」と縮こまる。

 グーーキュウウ~ッ

「あああ、甘口さんっ、うるさくてスミマセンっ」

 グキュウウウッ

「ほんとこれ、気にしないでくださっ」

 グウウウッ、キュルル…

「ううううッ(もうだめだー!!)」

 後部座席で悶える僕。腹を軽く殴ったが腹の虫は無視してくる。…むしだけに。…すみません。


「美味しそうなお店の前を通ると空腹が刺激されますよね」


 甘口が笑うわけでもなく穏やかにフォローしてくれた。その優しさに僕はうるうると涙をためて頷く。やっと車が発進したので、再び車内には騒音とも言えないほのかな物音がし始める。これで腹の虫が誤魔化せる…と安堵していると、今までずっとナビ通りに走っていた車が急に左折をして、最寄りの駐車場で停車した。

「ふぇ、」
「前原さん、そのお腹の鳴りっぷり…しばらく食事ができてないのでしょう。倒れてはいけませんし今から近くのコンビニで買ってきます。苦手なものや食べたいものはございませんか?」
「!」

 甘口はシートベルトを外し、こちらを向いてくる。

 (食べたいもの…)

「あ、あの…」
「はい」
「僕…、甘口さんと、みかんの…、ふ、を食べたい…です…!」
「!」

 甘口がキョトンと目を丸くした。その驚きように僕は赤くしていた顔を真っ青にして「すみません!今のなしで!!」とブンブン手を振る。

「お仕事中なのに…変なこと言ってすみません!今の聞かなかった事にしてください!」

 あわあわと取り繕うように早口で言うと、甘口は「…わかりました、少々お待ちください」と運転席を出ていった。一人車内に取り残された僕は

 (うう、またやらかしちゃったなぁ…)

 と反省タイムに入る。くたくたで頭が回ってないとはいえ何を言い出してしまったんだ、僕は。こんなしみったれた僕がフルーツサンドなんてシャレたもの生意気すぎるし、“甘口さんと食べたい"とか…勘違いも甚だしい。

 (甘口さんに車で送ってもらえて…二週間前の事を和解できて…、僕、舞い上がってたのかな…)

 それとも望とのセックスで気づいた“甘口さんに甘えたい"という衝動のせいか。

 (ああもう!だめだめ!)

 甘ったれた自分を引き締めるようにぺちぺちと頬を叩く。

「よし、…ん?」

 ふと僕は、助手席の真下…つまり、僕の足元へと目がいった。

「あれ…」

 暗くて見えにくいが封筒のようなものが見える…気がする。ビニールに包まれているから封筒が汚れることはなさそうだったが、どうにもそのサイズ感に見覚えがあって、

 (まさか…)


 バタン

「お待たせしました」

 そこで甘口が戻ってきた。僕はすぐに手を引っ込めて甘口に向き直る。

「甘口さんっ、おかえりなさ…はぁ!!それは!!」

 運転席に戻った甘口の手には、ケーキとかを入れるような白い紙箱があった。表側には可愛らしい装飾と一緒に“フルーツサンド専門店"の文字。

「せっかくご要望いただいたので…フルーツサンドをお持ちしました」
「わ、え、で、でも…甘口さん、…」

 楽しみにしていた甘口の前で僕だけ食べるのは申し訳ないし、だからって仕事中の甘口に無理矢理食べさせるわけにもいかないしで…変に葛藤していると、甘口がくすりと笑った。

「運転手は仕事柄、自分で休憩時間を決める事が多いんですが、今日はまだ休憩を取れてないので…よければご一緒してもよろしいですか?」
「!!!!」

 滅多に見れないその悪戯っぽい笑みに、僕の心はズキューンと撃ち抜かれてしまう。

「ぜ、ぜひっっ!!」
「ありがとうございます。ただ一つ問題がありまして、みかんサンドが最後の一つだったんです」
「!!」

 紙箱を見れば「みかん」の他に「キウイ」と「いちじく」が並んでいた。

「閉店時間が近い事もあって種類もこの三つだけになっていました。なので、こちらは前原さんがいただいてください」

 そう言ってみかんサンドを差し出してくる。確かにその三種類だったら普段の僕はみかんを選んでいるが、みかん好きの甘口に食べてもらいたいという気持ちも強い為「えっとえっと…」と迷ってしまう。そんな僕を見て甘口は困ったように笑い、みかんサンドを僕の手に乗せてくる。

「自分は他の二つのフルーツも同じくらい好きなので、お気になさらず」
「え、あ…」
「お手拭きもお渡ししますね」

 ボックス収納からウェットティッシュを取り出して「ご自由にお使いください」と運転席と助手席の間のドリンクホルダーに置いてくれた。

「…ありがとう…ございます…」

 なんだかんだ譲ってもらってしまって申し訳なかった。でもわりと空腹も限界に近かったので諦めてそのまま受け取る。

 カサカサ…

 (うう…指が震えてうまく開けられない…)

 永遠にビニール包装を鳴らしていると、甘口がすらりと長い腕を伸ばして

 すっ…

 白い手袋に包まれた指先で包装を開けてくれた。手で持って食べられらるように包装は半分残した状態で、みかんの断面側を僕に向ける。みかんがみずみずしくて、生クリームの甘い香りがして…とても美味しそうだった。じゅるりとヨダレが垂れてくる。

「これで食べられますか?」

 もう少し包装を剥がしましょうか、という意味の問いだったのだろうが、その時の僕はみかんサンドにしか目がいってなくて、

 (あぁ…、これを、甘口さんにあーんしてもらえたらなぁ…)

 その優しい手で食べさせてもらえたら、と無意識に口を開けてしまう。

「…!」

 甘口はパチクリと瞬きをしてから、手元のみかんサンドに視線を落とし、「どうぞ」と僕の口元に運んだ。


 ガブっ!!


 僕は空腹の獣のように条件反射で齧りついた。勢いがよすぎて包装も一緒に食べてしまうと甘口が「これはダメですよ」と引き抜いてくれた。

「美味しいですか?」

 甘口の問いかけにコクコク!と必死に頷く。生クリームの甘みとフレッシュなみかんの味が合わさってすごく美味しかった。食パンもふかふかもちもちだし…

 (こんなにオシャレな食べ物初めて食べた…)
 
 美味しすぎて一口だけで胸がいっぱいになった。いやそれはOL(のオシャレな胃袋)すぎるけど、とにかく僕にとっては初体験の事であることは間違いなかった。

 (って!あ!やばい!みかんサンド、こんなに食べちゃった!)

 僕は慌てて甘口の手からみかんサンドを受け取り、その口元へと持っていく。

 ズイッ

「はい!甘口さんも…どうぞ!」

 自分が食べかけた所を差し出すなんて正気の僕だったら絶対しないのに、その時の僕はいっぱいいっぱいで、あと…食べさせてもらえたのが嬉しくて、

 (甘口にも喜んでほしい、この美味しさを共有したい…!)

 無我夢中で甘口のマスクに押し付けていた。もちろんマスクにクリームがつかないようにギリギリの位置にしたが、甘口は一瞬顔を強張らせてから、すうっと深く息を吸い…ゆっくりとマスクを外す。

 すっ…

「!!」

 そこには、僕が想像していた何倍も、何十倍も整いすぎているお顔があった。優しそうな目元とお揃いの淡い微笑みを浮かべる口元。少し唇が薄くて、鼻筋が通った綺麗な鼻、フェイスラインも完璧だけど細すぎず男らしさもあるライン。清潔感と優しさを兼ね備えたスペシャルパーフェクトイケメンフェイスに僕は…

 (と、尊い…ッッ)

 眩しさすら感じて「ウッ」と顔を背ける。

「…失礼します」
「!」

 甘口の言葉で、慌てて前を向いた。

 ぱくり

 ちょうど甘口が僕の手に握られたみかんサンドを頬張るところだった。甘口の事だから遠慮して小さく齧る程度にするかと思ったが、そこは結構男らしくて僕ぐらいの大きめな一口だった。それもまたキュンとした。

 (ううわああああ!甘口さんがあああ!僕の手からあああ物をお食べにいいいい?!!もう一生手を洗えないよおおおお(※それは汚いのでちゃんと洗います))

 と内心悶えていると


「…すごく美味しいですね」


 甘口がすでにマスクを付け直した状態で感想を述べた。

 (あれ?!いつの間にマスクを??!)

 早業過ぎて気付かなかった。もっとご尊顔を見ていたかったが、これ以上は僕の心臓が持たなかったので逆によかったかもしれない。

「残りは前原さんがいただいてください」
「は、はい!!」

 僕は手元に残った最後の一口をぱくりと頬張って、また胸と胃袋を幸せな甘さで満たしていく。

「もぐもぐ…おいひいふぇふ!」
「ふふ、ほっぺも食べてますよ」

 甘口がくすりと笑って、頬についた生クリームを拭いてくれた。くすぐったくなるような甘い時間に僕はなんて幸せなんだろうと喜びを噛みしめた。


 (今日触れ合った誰ともこんな気分にはならなかったな…)


 どれだけ深く体を交わっても
 ドキドキと心をときめかせても…

 甘口との時間は唯一無二で、キラキラしていて、

 特別に幸せなものだと実感する。


 (ああ、毎日こうやって甘口さんの車に乗れたらなぁ…)


 僕は今日一番の幸福を感じながら、甘口に視線を送ってキウイサンドも開けてもらった。そしてまるで親鳥からエサをもらう雛鳥のように口を開けて待っていると甘口がまた食べさせてくれた。


 むしゃむしゃ…ごくん


 こうして、僕の好物に「フルーツサンド」が仲間入りしたのだった。

     
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