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「そうか……」

思案するように瞳を伏せるシルヴァン。まつ毛が目もとに濃い影をつくった。
つくづく整った顔をしている。
羨ましい………。こんな顔だったら、俺の人生も違ってたんだろうなーと思わず遠い目になってしまう。

「シエル?ぼうっとしているね。具合が悪い?」
「っ、あ、ごめ、なひゃ、ちがいます、だいじょうぶ……」

舌がもつれて上手くしゃべれない。
いつもこうだ。
心の中じゃ考えをまとめられるのに、口に出すと、噛むし、つかえるし、へにょへにょになってしまう。
この話し方のせいで、ずいぶん馬鹿にされてきた。
いや、しゃべり方だけじゃなく、全部か。ちくしょう。
だけど、シルヴァンは気味悪そうな顔も、嫌な顔もしなかった。家族にでさえ疎ましがられてきた俺は、それだけで好感度が爆上がりしてしまう。

「だったらいいのだけど。……立てるかい?私の屋敷に行こう。少し休んでいくといいよ」
「ひゃい……」

俺の腰を抱いて、シルヴァンは立ち上がった。
あー、並んでみるとすごくよく分かる。シルヴァンは、すごく背が高い。
俺は170センチそこそこ。だから、たぶん185とか?もっとかも。190センチ、あるかもしれない。

「歩けるかい?難しそうだったら、転移魔法をつかおうか」
「転移………まほ、う?」
「?そうだよ」
「魔法」
「うん?どうしたの?」
「まほう……つかい、な、なんです、か?」
「ああ、意外だった?よく言われるよ。どうやら私はウィザードらしくない見目のようだからね。実際、魔法よりも剣術のほうが得意だしね。ただ、私の家系が……」

シルヴァンがしてくれる、穏やかで丁寧な解説が、ちっとも頭に入ってこなかった。
俺のこと、からかってる?
だとしたら、たいそうな演技派だ。見上げたその顔には揶揄の気配はまったくない。
ほんとう……なんだとしたら。
俺は、べつの世界に飛ばされたのかもしれない。
異世界、ってやつ?
異世界。うん。
うえぇ、まじかよ、ラノベかよ。
こんなことって、あるのかよ!
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