電車で苦くて甘いヒミツの関係

水瀬かずか

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電車で苦くて甘いヒミツの関係

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 頭を撫でられる感触で、私の意識は少しずつ浮上して行く。髪を梳き、時折頬を撫でる指先の感触。指は唇をなぞるように動き、顎から首を撫でてゆきそしてまた髪を梳く。くすぐったくて、気持ちよくて時折身をすくませながら「そこ」に身をすり寄せる。

「かな?」

 低い声が、囁くように私を呼ぶ。
 でも気持ちよくてまだ起きたくない。

「んー……」

 と、返事にならない声を返し、そしてまた身をすり寄せる。
 クスクスと笑う声が心地よい。嬉しくて気持ちよくてうっとりと私を包み込んでいる感触を楽しんでいた。

「ほんとにかわいいね、香奈は」

 呟かれる言葉の意味を理解できない程度には目がさめていなくて。でも、その後のふゆっとした柔らかで気持ちの良い感触は唇だと分かるぐらいには目がさめていて。

 あ。キスされてる。

 自覚したとたん、急激に目がさめてゆく。

「……かちょ……?」

 目を開けると大好きな人の姿が、間近でかすんで見える。

「……え……?」

 状況が理解できずに辺りを見渡す。

 ここどこ?

 太陽が差し込む室内は見覚えのない物で。ホテルの一室らしきそんな場所で。
 課長の上半身は裸で、私に半分覆い被さっていて………。
 明るいところで見る裸の課長の姿に、そしてそんな課長から見つめられていることに、一気に羞恥心が込み上げる。
 耐えきれなくて手元のシーツを引き寄せて頭までかぶる。
 そこで気付く。

 え? なに? なんで? 私も、裸……!?

 何が起こっているのか理解できていなかった。

「香奈。顔見せて?」

 シーツの向こうで、課長の声がする。触れるぐらいの近さだと分かるぐらいに、顔を近づけて。
 寝起きの頭は昨夜の出来事を完全に忘れていて、思い出すのに優に十秒はかかってしまった。

 でも思い出してみると、今度は恥ずかしくて顔を出せなくなってしまう。
 顔を隠してしまった私を、課長は咎めることも無理にシーツを引きはがすこともなく、待つように、ゆっくりとシーツ越しに私の頭を撫でていて。

 課長の手、気持ちいい。

 意地悪なこともするけれど、ずっと優しかった課長の手。電車の中でも、昨夜も、そして今も。
 ようやくそれに勇気づけられるように、シーツを少しだけ下ろして目だけ出す。

「あの、昨夜……その……」
「突然にごめんね。香奈が欲しくてがっつてしまったから、びっくりさせたね」

 少し困ったような笑顔に、私は慌てて首を横に振る。
 抱かれるのを望んだのは私だ。躊躇いながらも「彼」との待ち合わせ場所に留まっていたのは、私自身。

 とはいえ確かにびっくりした。濃厚な夜もそうだったけれど、それ以上に彼と課長が同じ人だったという事に。でもその何倍も、ほっとした。
 不安がなかったとは言わない。けれどそれも「好きだよ」「愛している」その言葉で全部払拭された。
 何であんな事したのって言う疑問も、ちゃんと言ってくれてたらって思う気持ちも、それが全部私が好きだったからというのなら、全部どうでも良くなった。

 理性的に考えてみれば、課長のしたことは許されることではない。ひどい、とも思う。でも私は自己嫌悪しながらも「彼」との行為が好きだったし、「彼」が好きだった。
 なにより課長が私の事を好きでやっていたことならば、ひどい事だとも、嫌なことだとも感じなかった。それよりも「嬉しい」と思ってしまった。

「彼」にアブノーマルな性癖を開発され、感覚までもアブノーマルになってしまったのだろうか。それとも、やっぱり元々そういう素質があったのだろうか。

 ちらりと課長の顔を盗み見れば、少しほっとした様子の課長が、表情をゆるめて私を見下ろしている。
 それを見て嬉しいとしか思わない私は、きっともう引き返せないぐらいこの人が好きということ。この人が与えてくれる全てがきっと快感なのだ。

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