スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

文字の大きさ
上 下
25 / 108

浮かれているかもしれない

しおりを挟む
 翌朝はいつも通り、六時半に目が覚めた。
待ち合わせは十時なのに、早く目が覚め過ぎた。
 とりあえず朝の支度をして、朝食用のサンドイッチを食べつつコーヒーを飲む。テレビをつけて、天気予報を確認して見ると、今日は一日晴れていて、相変わらず暑そうだ。
日曜はどこも混んでいるだろうから、気を付けないといけない…。
 サンドイッチを食べ終わるころに洋服の事を思い出し、衣装ケースからチノパンとジーンズ、Tシャツとポロシャツを取り出して、どう合わせるのが良いのか悩んだ。
 普段、仕事の時はスーツだ。ワイシャツの替えとネクタイが数本あれば、事足りる。近所のコンビニやスーパーに買い物に行くなら、Tシャツとジーパンで充分。そんな生活をしていたので、いわゆる『出かける服』というのを持っていない。
 さんざん悩んだが、無い物は仕方が無い。無難な組み合わせを考えて、白のポロシャツにベージュのチノパンとスニーカーを選んだ。
 副島と並んだら、自分は少しでもスッキリと見えて、暑苦しくないようにしなくてはという精いっぱいの努力だった。
 あれこれ悩んでいたせいで気が付いたら、時間は九時を少し回った所だった。
 最寄り駅までは徒歩で十分もかからないが、年上の相手を待たせるわけにいかないので、日和は十五分前には着くように家を出た。
 日和の住んでいるマンションの最寄り駅は、それほど大きい駅ではないので、改札は一つしかない。
 行けばすぐわかるだろうと思いながら歩いて行くと、時間より二十分も早く着いたのに、改札の中に副島が居た。
 黒のTシャツの上から半そでの白いシャツを羽織って、下は黒のスキニーパンツというラフな格好なのに、長めの茶髪と色の薄いサングラスのせいで、とんでもなく目を引く。
 改札を通るために副島の横を通り過ぎる女の人が何人も、チラチラと見ている。
 そりゃ…見るよな。と日和が副島を見ながらそんな風に思っていると、副島がこちらに気づいた。
 サングラスを取ってシャツのポケットにしまうと、手を挙げて、
「三上さぁん、こっちこっち!」
 と、結構大きめの声で呼びかけて来た。
 副島の声につられたように、一斉に視線がこちらに向いたような気がした。
 日和は慌てて副島の方へ駆け寄る。
「すみません、お待たせしないように出て来たつもりだったんですが…!」
「大丈夫、大丈夫。僕が電車の時間読み間違えて、ちょっと早めに着いちゃったんだ」
「そうなんですか…。あ、えっと、電車乗る感じですか?」
「あ、うん! 言うの忘れてたね」
 はは、と笑った副島の顔は、あの時の少年の様な笑顔だった。
「じゃあ、そっち行きますね」
「うん」
 改札を通って、副島のところへ行くと、日和は何となくだが上から下まで見られたような気がした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢のおかあさま

恋愛 / 完結 24h.ポイント:582pt お気に入り:10,699

♡ド田舎×エロショタ×汗だくセックス夏休み♡

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:155

悪魔に憑かれた男

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:20

異世界でのんびり暮らしたい!?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3,116

愛され奴隷の幸福論

BL / 連載中 24h.ポイント:3,834pt お気に入り:1,946

処理中です...