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第三十四話 ソワソワ

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 おやっさんが店内を忙しそうに動いている店員の一人に言う。

「ニーサ、客だ。あいてるテーブルに案内して注文を聞いてこい」
「はーい、ただいまー」

 言われた女性店員が入口にいる二人へと早足で向かっていく。……と、来客が二人であることに、特にルタがいることに気付いた彼女はパアッと顔を輝かせると。

「あ、ルタさんじゃないですかっ」

 心底からうれしそうな声を出した。
 その女性店員は昨日の騒ぎでルタが助けた人であり、それに関して彼女は彼に恩を感じているようだった。

「うれしいですっ。また来てくれたんですねっ」
「あ、えーっと、まあ、行きつけの店だし?」
「あはは」

 ルタの言葉に、ニーサはうれしそうな笑顔を浮かべる。特に面白いことを言ったわけでもなかったが、彼女にとってはそれでも楽しいことだったらしい。
 対してルタのほうはというと、さっきまでのひょうひょうとした自然体の態度はどこへやら、ソワソワとどこか落ち着かない様子だった。

「えーっと、ニーサさん? あいている席に案内してもらっても?」
「あ、はい、そうでしたね。こちらです」

 店員としての対応を思い出したらしく、彼女は二人の前に立って、入口から少し離れた場所のあいていたテーブル席へと案内していく。

「こちらになります」

 二人が向かい合って座るのを待ってから、メニューが書かれたリストを二人に手渡して。

「こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」

 そう言って頭を下げると、ニーサは他の作業をするために去っていった。
 彼女が離れたのを見てとって、ルタが安心したというようにホッと息をつく。

「やれやれ……んじゃ、なに食おっかなー」

 ついさっきまでの緊張したような感じはどこへやら、またひょうひょうとした雰囲気に戻って、楽しそうにメニューを眺めている。ニーサがいるのといないのとであまりにも態度が違うことに、疑問を覚えたロウが彼に聞いた。

「なんか、どうかしたんですか?」
「え、なにが?」

 ウキウキとメニューに視線を落としながら彼は聞き返す。質問の意味を分かっていないみたいだったので、ロウは続けて。

「だから、ニーサさんのことですよ。彼女と話すときだけ、あからさまにぎこちなくなってるじゃないですか」
「へ、そうか?」
「そうですよ。なんか、官憲に職務質問される不審者みたいですよ、はたから見てると」
「不審者とは失礼なやっちゃなー」
「実際にそう見えるんですから。なんで彼女だけ、そうなるんですか?」
「え、あ、あーっと……」

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