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第三十五話 ツーン
しおりを挟むメニューから目を離して、ルタは瞳を泳がせる。目は口ほどにものを言う……どうやら彼はニーサに対して、わすがに苦手な意識を持っているようだ。
「いや、なんかさ、緊張するというか、どう話したらいいのか分からなくなるんだよな。彼女すっげーニコニコしてるし、変なこと言って引かれたら、なんだかなー、って」
「…………」
その返答を聞いて、なぜだかロウは心の隅がモヤッとした。
「なんですかそれ? あたしにはメチャクチャ引くようなこと言ってるくせに」
「いや、あんたはなんか言えるんだよな、なんでか分かんねーけど。ってか、引いてたのか?」
「気付いてなかったんですか?」
「全然。てっきりノリノリで会話してるもんだと」
「いままでの会話のどこをどう聞けばノリノリに聞こえるんですかっ」
ついツッコミを入れる彼女に、ルタはニヤリと口元を上げる。
「そーゆーとこ。口ではそう言ってても、実は楽しんでんだろ?」
「寝言は寝て言ってくださいっ」
はあ……とロウは深いタメ息を一つついて。
「まあ、そのことはなんか、いいです。それより、さっきの話の続きですけど」
「さっき?」
「あなたのスキルのことですよ。忘れたんですか?」
「ああ、それ? その前にまず注文を決めてからにしようぜ。おれは牛丼と豚丼と馬肉丼と……」
「どんだけ食べるんですかっ。しかもお肉ばっかり。身体に悪いですよ、栄養が偏って」
「今日は一日動き回って疲れたからな、タンパク質をたくさん摂らねーと」
「食べ過ぎです。それに野菜やお魚もバランスよく食べないと」
「あんたは保護者か。いーから、あんたもさっさと決めろよ。さっきの話の続きをするんだろ」
「…………、それじゃあ、あたしは……」
うまく言いくるめられたというか、体よくあしらわれた気もしたが……とりあえず二人は料理を決めると、ホールの作業をしていたニーサを呼んで注文を告げた。
「かしこまりました。ではお料理ができあがるまで、もう少々お待ちください」
彼女は丁寧に頭を下げると、おやっさんがいるカウンターのほうへと向かっていく。さっきルタと話しているときと同様、テーブルに来て注文を聞いて去っていくまでの間、ニーサは終始うれしそうな顔をしていた。
反面、ルタは頬に一筋の冷や汗を浮かべていた。対面に座るロウに、怖々とした感じで聞く。
「なんか、引かれてねーかな? マジかよこいつ肉ばっか何杯も食ってるぞ、って」
ロウはどこかツーンとした調子で応じた。
「なにをいまさら。それがいいって言ったんでしょ」
「うーん、やっぱり野菜や魚も頼んどくんだったか。いやいっそのこと焼き肉やすき焼きにして、こんだけ大量に注文したのはロウなんですって、なすりつけるべきだったか」
「……聞こえてますからね。全部」
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