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第五十一話 おかげ

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 早く捕まえなければ、また今夜にでも誰かを襲うかもしれない。誰かが殺されてしまうかもしれない。
 だからこそ、昨夜取り逃したことを後悔しているのかもしれない。

「…………」
「…………」

 そしてまた少しの間、二人の間に沈黙が訪れる。
 それから。ルタが口を開く。

「まあ、なんだ、あんま気に病みすぎんなよ。官憲だって捜査してんだから、すぐに捕まるさ。それこそ今日中にだって」

 励ますように彼女に言って……それを聞いたロウは、真面目な声音で。

「そう……ですよね……」

 自分自身を納得させるようにつぶやく。それから。

「…………、ずっと気になっていたんですけど、どうしてあの通り魔はルタさんのことを先に狙ったんでしょう」
「んー……?」

 意味がよく飲み込めなかったらしい彼が疑問の声を発する。ロウは分かるように、より詳しく。

「魔物とか、敵と戦うときの基本です……普通、弱いほうから順に狙っていって、確実に相手の戦力を削いでいくものだから……」

 冒険者としての、戦闘における基本。倒すのが難しく時間も掛かる強敵よりも、短時間で簡単に倒せる弱い相手から倒していく……という基本戦術。
 そうすることで確実に敵対勢力の規模と士気を削いでいき、着実に勝利へと近付いていく。
 昨夜においては、なぜ通り魔はロウではなく先にルタを狙ったのかということ。

「なんか、その言いかただとあんたよりもおれのほうが強いって、認めてるみてーだなー」

 茶化すように彼は言ったが、ロウは依然真剣な様子を崩さないで。

「……ええ……悔しいですけど、実際そうですから」
「…………、こりゃ驚いた」

 まさか本当に肯定するとは思っていなかったのだろう、ルタは意外だという声を出す。
 それに対して、ロウはチラリと彼のほうを見ながら。

「そりゃ、あたしだってさすがに認めないわけにはいかないですから。あの通り魔が襲ってきたとき、一早く気付いたのはルタさんで、あたしは一瞬遅れてしまいました」

 それより前のことも思い出すように。

「エビルボアのときも、冒険者とのケンカのときも、スケルトンタイガーのときも、一緒にいたあたしはあまり役に立ちませんでした。全部あなたのおかげでした」
「おいおい、エビルボアにトドメを刺したのはあんただろ」
「それだって、ルタさんのおかげです。あたし一人なら殺られてました。撤退用のアイテムもありませんでしたし」
「…………」

 彼女の言っていることは正しい。彼と出会った二日前からいままでにおいて、遭遇した戦いのすべてを彼が片付けていた。

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