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第八十七話 難しい質問
しおりを挟む確かにロウは、彼が魔物の肉を食べると初めて聞いたときは非常にびっくりしたし、正直かなり引いた。そんなものを食べたら身体に悪いんじゃないかとも思った。
しかし、それらの感情や思惑はあるにはあったが、金輪際、話したくも会いたくもない、とまでは思わなかった。この人はそういう人なんだと、自分でも意外なくらい素直に受け入れて、その後は普通に接していた。
その根本的な理由がなんなのかについては、自分自身分かっていなかった。もしかしたら、彼女の性格として、相手をそのままの姿として受け入れるという無意識的なスタンスなのかもしれない。
彼女がそんなことに思いを巡らせていると、彼はズボンのポケットに両手を突っ込みながら、つぶやくように言った。
「ま、ニーサさんに嫌われたとしたら、それはそれで仕方ないわな。いずれは知られることになってただろうし。早いか遅いかの差だな」
「……なんか、思ったよりあっさりしてますね。さっきもそうでしたけど、てっきりもう少し落ち込んでいるのかと」
「いやいや、これでもちゃんと落ち込んださ。まずったなーって思ったし、口が滑ったことを後悔もしたし。でも、ま、なるようにしかならねえし。嫌われたら、それまでだ」
「……ドライですね。好かれたいとは思わないんですか?」
自分で聞いておきながら、ロウはなぜか暗い気持ちになっていた。なんでこんなことまで聞いているんだろうと、心のなかで自問すらしてしまう。
彼女のそんな気持ちに、彼は気付かない。
「うーん……好かれたいかあ……それは難しい質問だな」
「難しい?」
「いやさ、おれってばけっこうひねくれてるからさ。誰かに好かれたいって思うことが、なんか面倒くせーってなるんだよ。そいつの顔色をうかがってるみてえで」
「…………」
相手に好かれたいと思うということは、その者の意に沿うような行動や言動をするということになる。
「なんかさ、それっておれがおれじゃなくなるみてーだなって。自分自身を殺すことになるかもって、だから面倒くせーんだよ」
「…………」
彼のその言葉は、あるいは多くの人々を否定してしまう言葉かもしれない。独特の考え、独特の感性だった。
ロウは小さなため息をつく。
「……確かに、ものすごいひねくれてますね」
「だろ」
「ニーサさんが聞いたら、なんて思うか……」
「面倒くせー奴って思うんじゃね」
「いえ、そうじゃなくて……」
「ん?」
なにか違うのか? ルタが疑問の顔を向ける。しかしロウは小さく首を横に振ると。
「いえ、やっぱりなんでもありません」
「?」
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