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第9話 悪役令嬢、恋を許可される
しおりを挟むその日は、やけに静かだった。
朝食の席で、兄たちは妙に落ち着いていた。
過保護な視線も、質問攻めもない。
(……逆に怖い)
私はスプーンを握りながら、そっと周囲を窺った。
「セレ」
長兄アレクシスが、食後の紅茶を置いて口を開く。
「少し、時間を取れるか」
「……はい」
連れて行かれたのは、いつもの書斎。
三人が揃っている。
(これは、覚悟がいるやつだ)
私は椅子に座り、背筋を伸ばした。
「昨日の話を受けて」
「僕たちも、考えた」
三兄ユリウスが穏やかに切り出す。
「セレの人生は、セレのものだ」
「……」
次兄レオンハルトが、腕を組んだまま言う。
「正直に言う」
「嫌だ」
(ですよね)
「だが」
彼は一拍置いた。
「一生閉じ込めるつもりもない」
長兄が頷く。
「条件付きで、自由を認める」
胸が高鳴る。
「条件、ですか」
「そうだ」
三兄が、指を立てて説明する。
「一つ」
「危険な男は禁止」
「基準が曖昧です」
「二つ」
「本人の同意が最優先」
「当たり前では」
「三つ」
「僕たちが会って、話す」
「……面接ですか?」
三人が真顔で頷いた。
(面接……)
次兄が、じっと私を見る。
「……好きな相手はいるのか」
「……」
心臓が跳ねる。
嘘はつけない。
「います」
沈黙。
空気が、ぴんと張り詰める。
「……誰だ」
私は、静かに答えた。
「カインです」
次兄が深く息を吐く。
「……だろうな」
「分かってたんですか」
「態度でな」
三兄が苦笑する。
「隠しきれていませんでした」
長兄が告げる。
「では、呼ぼう」
「今から!?」
「今だ」
(心の準備が!)
午後。
庭に、カインが呼び出された。
兄たちは、完全に包囲する配置。
(これ、圧迫面接……)
「状況は理解しているか」
長兄の質問。
「承知しています」
落ち着いた返答。
「妹に近づく理由は」
「想いがある」
即答。
次兄が眉をひそめる。
「軽く言うな」
「軽くはない」
「将来は?」
「考えている」
「守れるか」
「命を懸ける」
三兄が、じっと彼を見る。
「セレを縛らないと誓えますか」
「誓う」
即答だった。
沈黙。
兄たちが視線を交わす。
やがて、長兄が言った。
「……条件を満たす」
「ただし」
次兄が続ける。
「当面は、監視付きだ」
「当然だ」
(当然なんだ……)
三兄が微笑む。
「おめでとう、セレ」
「……ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
庭を離れ、少し歩いたところで、二人きりになる。
「……すごかったですね」
「覚悟はしていた」
カインは、少しだけ口元を緩めた。
「怖くなかったですか」
「怖かった」
素直な答えに、驚く。
「だが」
「だが?」
「君を失う方が、ずっと怖い」
胸が、熱くなる。
(……破滅なんて)
もう、どうでもよかった。
「正式に、交際を始める」
「……はい」
その言葉は、静かで、確かだった。
屋敷の窓から、兄たちがこちらを見ているのが見えた。
「……見られてますね」
「慣れろ」
(慣れるの!?)
それでも。
私は、笑った。
――悪役令嬢は、恋を許可された。
監視付きではあるけれど。
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