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第10話(最終話)破滅しない未来は、とても騒がしい
しおりを挟む交際を始めた――はずだった。
だが、私の日常は何一つ変わらなかった。
「セレ、今日は誰と話した」
「授業の内容は」
「帰宅が五分遅れています」
(むしろ増えてる……)
朝から晩まで、兄たちのチェックは健在だった。
「恋人ができたからって、油断はしない」
「むしろ危険度が上がった」
「当然です」
三兄ユリウスまで即答する。
私の隣に立つカインは、すでに諦めの境地に達していた。
「……これが、許可された交際です」
「覚悟はしていた」
学園でも、変化はすぐに広がった。
「セレフィーナ様、最近雰囲気が柔らかくない?」
「騎士様が、ずっと近くに……」
「兄上たちも増えてる……」
(減らないんだ)
昼休み、中庭。
私はカインと並んでベンチに座っていた。
――正確には、一定の距離を保って。
「……近くないですか」
「規定範囲内だ」
(規定……)
そこへ。
「セレフィーナ様!」
明るい声。
リリアが駆け寄ってくる。
「お二人、お似合いですね!」
「ありがとうございます」
素直に礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「私、安心しました」
「安心?」
「セレフィーナ様が、幸せそうだから」
(この子、天使……)
リリアはすぐに去っていった。
「……脅威ではない」
「はい」
カインが、ふと私を見る。
「後悔していないか」
「何をですか」
「この未来を選んだこと」
私は即答した。
「していません」
破滅も、断罪も、追放もない。
あるのは――
過保護で、騒がしくて、それでも温かい日々。
放課後、屋敷。
兄たちは相変わらずだった。
「デートの内容を報告しろ」
「デート……?」
「中庭で五分、会話した」
「……」
次兄が険しい顔をする。
「短すぎる」
「長すぎだ」
(どっち!?)
三兄が穏やかに言う。
「セレ、楽しかったですか」
「はい」
それだけで、全員が少しだけ満足した顔になる。
夜、庭。
月明かりの下、カインと並んで歩く。
護衛は、少し離れた場所。
「……静かですね」
「奇跡的だ」
私は、空を見上げる。
「前は、ずっと怖かったんです」
「何が」
「未来が」
悪役令嬢。
破滅が約束された存在。
「でも今は」
「……」
「うるさいけど、安心しています」
彼は、私の手にそっと触れた。
「俺は、君の未来を奪わない」
「……はい」
その約束は、何より心強かった。
翌日。
兄たちは新たな規定を追加した。
「正式な婚約は、本人の意思を確認後」
「相手の家柄、人格、忠誠心を再確認」
「子どもが生まれたら、二重警備」
「気が早すぎませんか!?」
全員、真顔だった。
私は思わず笑ってしまった。
――ああ。
破滅しない未来は、とても騒がしい。
でも。
独りではない。
愛されている。
悪役令嬢セレフィーナ・ルヴェリエは、今日も過保護な家族と、静かな最強騎士に囲まれて生きている。
そしてきっと、明日も。
安心で、賑やかな未来が続いていく。
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