王女への献上品と、その調教師

華山富士鷹

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忘却の過去

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「は……」
 言葉にならなかった。
 エデンが処女じゃない?
 でも直接触って確認した時の感覚とエデンの反応は疑う余地も無く処女、だと思った、が?
 そうなるとその後に杉山さんと?
 まさか、2人の事は注意深く監視していたし、杉山さんとて王室の所有物である献上品には手が出せない筈だ。普段のエデンは部屋に缶詰めだから杉山さん以外の誰かの可能性もゼロだ。そもそも最近の話なら、エデンと接触の無いミクが内情を知っているのもおかしい。俺の確認だって、俺自身の経験不足があるから全く不確かだし……だったらやっぱり……
「エデンが少年兵の頃か?」
「捕虜として拷問を受けた時ね」
 奥歯を抜かれただけでは済まなかったのか。
 それもそうだ、ちょっとおかしいとは思っていたんだ。悲しいかな、子供と言えど戦争下では性的な暴力被害も散見される。エデンもその1人だったんだ。
 俺は悔しさのあまり唇を噛み締め、両の拳を強く握り締めた。
 鬼畜の所業だ。
 エデンは幼心にさぞや恐怖や傷を負った事だろう。それを、あの家族は労るどころか戦争が止むまでエデンを戦地で働かせ続けていたのか!
 腸が煮えくり返る。
「杉山さんは知ってるのか?」
「さあ、あの人はお姉ちゃんがどんなになっても受け入れる人だし、本人が忘れようとしているものを無理矢理聞き出したりしないんじゃない?」
 自身のネイルを眺めて、まるで他人事みたいに言うな。
「……」
「病院から家に帰って来た時はほんと別人みたいになってたけど、暫くしたらいつものお姉ちゃんに戻ってて、記憶も曖昧になってたから、本人も忘れてるかもね」
 大の大人ですら戦場ではPTSDになるくらいだ、それが敵国の捕虜になり、拷問と辱めを受けたとあっては記憶を喪失していてもおかしくない。エデンに自殺未遂の痕跡が無いのは自己防衛本能で記憶に蓋をしたからともとれる。
「それで、何でお前はそれを楽しそうに話せるんだ?」
 まるで他人事だな。
「だって妬ましいじゃん、兄弟なのに1人だけあの見た目でさ、杉山さんどころかみーんなお姉ちゃんを好きになるんだもん。お兄さんだってそうでしょ?」
 ミクは爪の手入れをしながらあっけらかんと話したが、これはそんな軽々しい話題じゃない。
 単なる妬みとしてもくだらない。
 だけど、そうか、杉山さんがエデンに手を出さないのはこの事を知らないからか……はたまたエデンを気遣ってか?
 杉山さんはエデンのストーカーである前に紳士な色男だ。あれで人間が出来てる。エデンの気持ちを一番に汲む人間だ、恐らく彼は黙ってエデンを受け入れたのだろう。
 どちらにせよこれで俺の身の振り方も決まった。どうするべきか必然的に道筋が開けたように思う。
「献上品て処女じゃないと駄目なんでしょ?だったらお姉ちゃんはここから追い出される?」
 ミクは瞳に星でも散りばめたかの如く目をキラキラさせて尋ねた。
「そうだね。俺としても残念だけどここに穢れた者は置けない。規約に反する以上、罰則も免れないし」
「かわいそ」
 クスリとミクが小声で嘲笑う。
 ……
「それでエデンを蹴落としたつもりか?」
 こんなもの、他者を陥れたところで本人の価値が上がる訳でも無いってのに。
 子供故の純粋悪か。
「俺は君をエデンの家族だからここに迎え入れたんだけど?」
「お姉ちゃんが追い出されたら私も追い出されるって事?!」
 ミクは焦ったように俺を問い詰めた。
 余程真面目に働きたくないらしい。
「そうかもね。でもその前に一応確認してもいい?」
 最後に、どうしても確認しておきたい事がある。
「確認?」
 ミクは小首を傾げ、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をした。
「エデンが入院してた病院と──ちょっと手を洗ってきてもいいかな?」
「手?」
「君が少し我慢してくれたらここに残ってもいいよ」
「え、マジで?」
 ミクはあからさまにパッと表情を明るくさせたが、俺の次の言葉で口元を引きつらせる。
「ただし途中で音を上げない事。分かった?」
「え、うん」
 ゴクリとミクが唾を嚥下する音が聞こえた。
 俺は入念に手を洗うと、戸惑うミクの両肩を押し、ソファーに仰向けにさせると自身のシャツの袖を捲る。
「な、なに?」
 エデンに指先を突っ込んだ時は驚くほど狭くて締まっていた。ミクが嘘をついていたとしたら、やはりエデンは白じゃないか?
「君は処女だよね?」
「え、あぁ」
 ミクは何かを察して合点のいった様な顔をした。
「私とお姉ちゃんを比較して、本当にお姉ちゃんが処女じゃないのか確認したいって事ね」
「エデンの方はもう確認して、今は半信半疑になってる。君が嘘をついてるんじゃないかってね」
「あのお姉ちゃんに指を?お兄さん、かなりイカれてる。私、捻くれ者だけど嘘はつかない主義なの。認めたくない気持ちはわかるけどさあ、そんなに真実が知りたいならお姉ちゃんが入院してた病院を調べたら?」
「……」
 俺はミクのあすこに指を突っ込むのを止めた。
 それはそうなんだけど、どこかハッキリさせたくなかった自分もいて、ミクの具合とエデンの具合が似ていればとバイアスがかかっていた。
 でもハッキリさせないと、でないと俺は先に進めない。
「電話をするから帰るよ」
 俺はあっさりミクに背を向けた。
「あーあ、そのままねんごろになって側室に昇進出来るかと思ったのに」
 ミクがソファーに足を投げ出した音がする。
「君とねんごろ?あるわけない」
 少女のあすこに指を突っ込むにしても、気分は執刀医の如く冷静だった。
 俺は懐からスマホを取り出し、杵塚に電話をかけながら部屋を出る。
「ちょっと調べてほしい事があるんだけど」
 30分後、俺は杵塚から折り返された電話で衝撃の事実を知る。
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