生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子

文字の大きさ
6 / 28

遠のいてしまった天使

しおりを挟む



まだ嫌われたという決定的根拠はない。あくまでも嫌われたことは私の憶測にすぎない。しかし、弟に完全に嫌われていることがわかる事件がおこった。

私が18歳、弟が13歳の時である。その日私は早めに学校が終わり、そそくさと屋敷に帰宅した。前世で見られなかったドラマが再放送しているからできる。

「あぁ~!やっぱりこの俳優さん、いい男ねぇ~。はぁ、近くに居ないかしら。」

華の女子高生でも中身はオバちゃん。この時間が至福の時である。私がドラマを満喫している中、屋敷に一本の電話が鳴った。
いい所なのに…。
心の中でボヤきながら電話に出た。

「はい。」
「稲月さんの家ですか?」
「…はい。」
なんだ。セールスか。セールスなら内容も聞かず切ろうとしたら、電話の相手がとんでもないこと言った。

「て、天使が、痴漢されただと………!?」

ショックのあまり電話を落としてしまった。電話の相手が何かを言っているが、そんなのはどうでもいい。今すぐ天使の元へ向かわなければ。近くにいた舎弟を引き連れ、天使の元へ向かおうとした。
あ、場所聞いてない……。
肝心なことを聞かず、飛び出してしまった自分に憤りを感じた。そんな私を見た舎弟、ヤスは顔を真っ青にしてGPS機能を使い場所を特定した。〇〇駅らしく、ここから少し遠い。その距離すら私を焦らせる。

「お、お嬢。落ち着いてください。もうすぐですから。」
「……えぇ。」

あぁ、陽。どうか、無事でいて。
黒塗りの車は弟の元へ走るのであった。

「陽っ!!」

私は弟がいる部屋の戸を思いっきり開けた。そこには、白い顔をさらに白くした弟が居た。堪らなくなり、その小さい体を抱き締めた。その体は記憶よりも冷たく、震えている。私の心をざわつかせた。

「あぁ!大丈夫?怪我してない?お姉ちゃんが来たからもう大丈夫よ。」

弟は少し肩の力を抜いた。私が来る前、一人で気を張っていたかと思うと苦しくなり、相手への怒りがフツフツと湧いてきた。

「許さない。陽、少し待っててね。お姉ちゃんが社会のゴミくず野郎のブツをちょんぎってくるからね!ヤス、陽を見ててあげて。」
「お、お嬢!!どうかお静まりくださいぃぃぃぃ」

ヤスは私を背後から羽交い締めにする。

「はなせぇー!ヤス!お前のものからちょんぎるわよ?!」

背後でヤスの悲鳴が聞こえる。ガッチリと押さえつけるヤスに護身術をかましてやろうかと思っていたら「姉さん。」と、天使のよく通る冷たい声がした。

「陽……。」
「僕は大丈夫だよ。何もされてない。少し触られただけだから。だから、そんなに騒がないで。」
「さわっ……!?」
「ヤスも何時までそうしてるつもり?」

弟は穏やかに背後にいるヤスに言葉をかける。弟の穏やかな声は久々に聞いた気がした。ヤスは謝りながら私の拘束を素早く解いた。中学生相手に何故怯えているのだろうか、ヤスの行動はよくわからない。まじまじとヤスを見てしまう。
あ、スーツに仕付け糸ついてる。

「姉さん。」

弟の冷たい目が私を見る。いつからそんな目で私を見るようになったのだろうか。
弟はいつしか私を『姉さん』と呼ぶようになった。ずっと『姉様』では恥ずかしかったのだろう。しかし、今の呼び方は何だか距離が出来てしまったようで妙に寂しい。

「帰ろうよ。」

弟は私の返事を聞かずに私の横を通り過ぎる。先に車に向かう弟は、遠くに行ってしまうのではないかと思った。いや、天使はもう私の元から遠のいてしまっていたのだ。

あぁ、天使に嫌われている。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...