残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?

gacchi(がっち)

文字の大きさ
18 / 61

18.言い訳(ルーク)

クライブ様に呼ばれて怒られるのは初めてではない。
だが、これほど竜気につぶされるような感じは初めてだ。

「後宮にいる妃候補の前でリディのことを番だと言ったそうだな」

「……はい」

「どういうことだ。ルークはまだ番を感じ取れないはずだが」

「番だと感じ取ったわけじゃないですけど、
 これはクライブ様のせいでもあります」

「俺のせいだと?」

ぎろりとにらまれたけれど、俺にだって言いたいことはある。

「竜人と竜族の婚約なんて番以外にないじゃないですか。
 俺とリディが婚約したことをどう説明するつもりだったんですか?」

「ああ。説明していなかったか。
 リディは竜族ではあるが、たぐいまれな才能の魔術師だ。
 それを保護する目的で俺が婚約を命じた、と説明させる予定だった」

「は?……魔術師として保護?まったく聞いてないですけど」

「そのことは俺とラディのうっかりだな。
 最初から婚約させるつもりだったと言っただろう。
 竜化するまでの仮の婚約だと」

「はぁ……」

ちゃんと説明してくれれば、あんなに焦らずに済んだのに。

「でもまぁ、番かもしれないというのは本当なんだな?」

「本当です……少なくとも俺の竜気は拒否しませんでした。
 あれだけ魔力が強い相手なら反発も強そうなのに」

「ふむ……まぁ、数年は確実に一緒にいるんだからな。
 仲が悪いよりかはいいだろう。
 だが、番だと判明するまでは手は出すなよ?」

「出しませんよ。
 リディが竜人になる前に子を産むようなことがあれば、
 俺は自分を許せないでしょうから」

「まぁ、そうか」

竜族の状態で子を産めば、竜族として産まれてしまう。
番だとしても、番契約を結んだ後でなければ竜人は産まれないからだ。

俺は自分の子どもを先に死なせるようなことは望んでいない。
竜人の子として生まれた竜族がどんな扱いになるのかもわかっている。
後から生まれた異母兄弟が竜人だった場合、
どれだけ兄弟間で恨まれることになるのかも。

「今は、番かもしれない婚約者として、リディのことはちゃんと守ります。
 いえ、守らせてください」

「お前がそう決めたのであれば、後は任せよう」

「では、リディのところに戻っても?」

「……いいか、手を出すなよ?」

「わかってます」

しつこいクライブ様の念押しにうんざりしながらも返事をする。
もうすでにクライブ様はリディを娘だと思っている。

本当は竜王になるはずだった弟のアーロン様。
その子孫として現れたリディ。
アーロン様の話はクライブ様に聞かないようにとハンスから言われた。
きっと何かあるんだろうとは思う。

アーロン様は番を見つけたはずなのに、
リディは娘ではなく子孫だと言うし、竜人ではなく竜族だ。
アーロン様がいなくなって、たったの百四十年。
その間にいったい何が起きたのか。アーロン様はどこにいるのか。
もう探さなくていいと言われた意味は。

わからないことだらけだが、わかっていることもある。
俺はリディを放っておけない。
外見は小さくて幼くて綺麗なのに、
中身はしっかりしていて強気で危なっかしい。

まだ会ってから数日だけど、目が離せないと思った。
妹だと言っていても、俺じゃなくてラディに懐いているのがむかつく。

最初、あの部屋にリディが住み始めたと聞いて、
もしかしたらラディの番なのかもしれないと思った。
ラディが番を探すために他国を回っているのを知っているから。

まだ百二十歳のラディが番を探しに行っているのは、
ラディがそれだけ強い竜人だからだ。
おそらくクライブ様は次の竜王にラディを選ぶ。
だから、竜王になって身動きが取れなくなる前に、
番を得て安定してほしいんだと思う。

見知らぬ令嬢がラディの番かもしれないと思って、
なんだか胸がざわついた。
不審者に間違えられたことの不満だろうと思ったけれど、
ラディの番じゃないとわかって、なぜか喜んでしまった。

俺が婚約者になってもラディに頼ろうとするリディに、
会って間もないのだから仕方がないけれど、頼ってほしいと思ってしまう。
正直言って、ラディがまた他国に番を探しにいってくれてほっとした。

だけど、リディが番だと思っていたわけじゃない。
言い訳がそれ以外見つからなかったから、とりあえず抱きしめた。

俺とリディは魔力が強すぎるから、
番でなければ反発するだろうとわかっていたから。

するんと何の抵抗もされずにリディが俺の腕の中に入ってきた。
その瞬間、離れていたのが不思議なくらいしっくりきた。

番だと嘘を言うのに、ためらいはなかった。
自分の中で嘘を言っている感じは一切なかったから。

本当に番かもしれない。
それを確認するのはリディが竜化してからになるけれど。
どっちにしても、アーロン様の子孫だなんて名家の令嬢のリディは、
番でもなければ俺は相手にしてもらえない。

番かもしれないは、俺の中では、番であればいいのに、に変わった。



リディの部屋に戻ると、少し前に眠ったとエリナに言われる。
何も言わずに交代させてくれたエリナに感謝して、ベッドの横の椅子に座る。

リディは熱で暑いのかうなされているようだ。
毛布からはみ出した手を取ると、くるんと寝返りを打って俺の方を向く。

「ルークぅ……どこぉ」

「ここにいるよ。もうどこにもいかない」

「……ん」

安心したようなリディの額にキスをして、しまったと思う。
手を出さないって約束、どこまでなら許されるんだろう。


あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

追放された聖女ですが、辺境で幸せにお務めをしています  〜追放の主犯の姉は、聖女の務めに耐えられず破滅しました〜

ゆうき
恋愛
幼い頃から聖女として酷使され、家族にも愛されなかったベル。 双子の姉に婚約者を奪われ、ついには「聖女の務めを放棄し、姉に押し付けた」という濡れ衣を着せられ、危険な辺境へ追放されてしまう。 ――こんな地獄から解放されるなら、どこへでも行く。 しかし、辿り着いた地でベルを待っていたのは、温かい歓迎と、人々の優しさだった。 中でも辺境伯で騎士団長のリオネルは、厳つい姿とは裏腹に穏やかで優しく、ベルを大切にしてくれた。 一方、王都では姉が聖女の務めに追い詰められ、次第に破綻していく。 さらに、リオネルの隠された秘密と、辺境を覆う瘴気の謎が、ベルの運命を大きく揺るがす――。 ☆全四十六話。予約投稿済みです。タイトルを変えました。前タイトル『婚約破棄に追放? 謹んでお受けいたしますので、もう放っておいてください』☆

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。