クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?

gacchi(がっち)

文字の大きさ
23 / 42

23.溶け合う

ケニー先生との話が終わって、すぐにジルが部屋に入ってきた。
診察に付き添っていたミトが部屋の外に出る。
婚約しているからといって、二人きりでいいのかとも思うけれど、
寝台を共にしているのに二人きりを気にするのは変な話なのかもしれない。



「診察の結果は大丈夫だったみたいだね。良かった。
 魔力量が多いから少し不安だったんだ。」

私の座るソファに来て、ぴったりと寄り添うように座る。
すぐに肩に手を回されて抱き寄せられると、
吸い寄せられるように頭をジルの胸につけてしまう。
そうか…これが運命の相手ってことなんだ。
あまりにもふれあうのが自然すぎて、逆に離れると違和感がある。
初対面からふれられても嫌じゃなかった。恥ずかしいのは今も恥ずかしいけど。
…でもなぁ、運命の相手か。

「なんだか少し落ち込んでいる?
 やっぱり魔力を勝手に流したのは嫌だった?」

頭の上から降ってくる声が悲しそうで、あわてて否定する。

「そうじゃないの。まったく嫌じゃなかったの。
 …だから少し落ち込んでいるのかもしれない。」

「嫌じゃないことに落ち込んでいる?
 もしかして、ケニー先生から昔話を聞いた?」

「うん。ねぇ、ジルの運命の相手って私?」

真剣に聞いたのがわかったのか、ジルは私を抱き上げてひざの上に乗せた。
ソファで横に座って抱き着いていると、どうしても顔が見えにくい。
こうして座らせて眼鏡を外すのは、ジルなりの真剣な姿勢のようだ。

「俺の運命の相手はリアで間違いない。
 だけど、俺は運命の相手は嫌いだった。
 こんな魔力量で、こんな闇属性で、強力な魅了眼だって言われても、
 そのすべてが俺が望んだものじゃない。産まれた時点で決められていたものだ。
 なのに、それ以上に運命の相手だなんて勝手に決められたことが腹立たしかった。
 俺が望んだことじゃないのに、俺のすべてが勝手に決められていく怖さ。
 周りが勝手に騒いで苦しんで、全部俺のせいだって言って来る。
 この魔力も属性も魅了眼も捨てられるなら、シャハルにくれてやったっていい。
 そう思ってたんだ。」

嘘じゃない。苦しかったってジルの目がそう言ってる。
勝手に周りが騒いで、勝手に周りが欲しがって、その気持ちには共感できる。
石榴姫の血縁で石榴色の目を持って産まれた私に、周りは勝手に騒いだ。
レミアスの王子たちの歳が近かったら、間違いなく王妃にされていただろう。
公爵家の長女にすぎないのに、
王宮で王族教育を受けさせられ、王族扱いで過ごした。
王妃や王子妃たちからは可愛がってもらっていたが、それも望んだわけではない。
一人だけ特別扱いされているせいで、学園の令嬢たちとは友達にもなれなかった。
何が気に入らなかったのか、義妹には一方的に嫌われ、
家でも学園でも攻撃され続けた。
家格に合う令息が少なかった上に、顔合わせのお茶会はすべて義妹に邪魔され、
王族扱いの令嬢な上に厄介者の義妹がいるようでは、
どこの家からもやんわりと断られた。
結婚したいわけでは無かったから、それでも良かったのに、夜会に行けば噂される。
公爵家の石榴姫だなんて呼び名は嫌われている証拠でしかなかった。

ジルも同じように一人で苦しんでいた?
魔王なんて呼ばれて、嬉しいわけないよね。

「だけど、リアに会って、それが全てひっくり返った。
 運命の相手がリアなら、運命を受け入れていいと初めて思えた。
 多すぎる魔力量も、リアと同じならそれでいい。
 闇属性だって、リアの光属性の対だと思えば納得できる。
 魅了眼だって、リアを惚れさせるのには何にも役に立たない。
 リアを惚れさせるには、俺を好きになってもらうには、
 俺自身を見てもらうしかない。
 そう思ったときに、魔力量も闇属性も魅了眼も、
 この身分の肩書だって、何一つ使えない。
 障害にならない代わりに武器にもならない。
 リアの前では、ただの18歳の男でしかないんだ。
 こうして抱き上げて、好きになってくれと願うしかできない。
 俺はとても無力なんだ。」

「…私も、レミアスにいた時は苦しかった。
 石榴姫の血を継ぐ者として大事にされていたけど、
 それは私の中の血が大事だっただけ。
 こんなに魔力量が多いなんて知らなかったし、
 光属性があっても自分を治癒できる以外に使いみちなかったし。
 魅了眼なんてこの国来て初めて知ったから、私に効かない理由もわからない。
 レミアスでは婚約できる相手もいなかったし、友達もいなかった。
 ミトがそばにいてくれなかったら何もできない、ただの令嬢なの。
 この国に来てもシャハル王子に追いかけられて絶望したわ。
 静かに勉強することすらできないのかって、苦しかった。
 ジルと婚約してから、ようやく自由になれた気がする。
 好きなように話せて、好きなだけ本が読めて、一緒にご飯を食べるのが幸せで。
 レミアスで苦しかったことを忘れてしまっていたくらい。
 だけど、ジルの運命の相手って言われて、少し悲しくなってしまったの。」

「俺の運命の相手だったのは嫌だった…?」

「ジルが思ってたことの通りよ。
 この婚約がジルの運命の相手だからって言う理由だけで決められたのなら嫌だと思ったの。
 ジルの心が無いのに、魔力だけ受け取ってしまったのなら、悲しかった。」

感情が高ぶったせいか、泣きたくなかったのに、涙がこぼれてしまった。
頬を伝う感触であわてて手で拭おうとする。
ジルがその前に頬にくちづけて、涙の痕をたどるように何度もキスをする。
髪にはよくキスされていたけど、頬にされたのは初めてで、
近づいたジルの首筋が見えて、自分の心臓の音がうるさい。
どうしてだろう。いつも近づいているし、ふれあっているのに、
まるで違うことのように思える。

「好きだ。」

頬に手をそえたまま、すぐそばにジルの目がある。
まっすぐに見つめてくるジルの目が濡れているように光っていて、目が離せない。
そのままゆっくりとジルの顔が近づいてきて、くちびる同士が合わさる。
すぐさま離れていくのが寂しく感じて、もっとしてほしいと思ってしまう。

「リアが好きだ。ただ好きなんだ。
 運命じゃなくても、リアに会えたことが幸せで、一緒にいたいんだ。
 魔力を返さなくてもいい。それでも、そばにいてほしい。
 俺は、俺のすべてはリアのものだ。」

二度目のキスは、どちらからふれたのかわからなかった。
離れたくなかった。少しも離したくなかった。
ジルに言われたことに返せずにいたことに気が付かないまま、
溶け合うように抱き合ってキスし続けていた。




あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。

豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」 「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」 「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。