側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi(がっち)

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28.叔父上の屋敷(アルフレード)

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コレッティ公爵家は母上の生家だから、小さいころからよく遊びに来ていた。
ちょうど同じ年の従兄弟、エルネストがいたから、
遊び相手としてちょうど良かったということもある。

第一王子で王太子教育を受けて育った兄上とは違い、
第三王子だった俺は比較的自由にさせてもらっていた。
だからコレッティ公爵家は俺にとって第二の家族のようなものだ。

社交シーズンが始まってすぐ、コレッティ公爵家で夜会が開かれると聞いて、
めずらしいこともあるもんだと少し驚いた。
いつもなら王宮での夜会の前後に開かれているのに、
社交シーズンがはじまってすぐに開かれるのは初めてかもしれない。

「こんな時期にどういうことだ?」

「あーこれね、宰相に頼まれたらしいよ」

「宰相に?」

「地方貴族が王都に長い間滞在してくれるようにって。
 王宮での夜会と、うちの夜会はほとんどの貴族が出席するだろう?」

「そういうことか」

王都に住んでいる王宮貴族と違って、
地方貴族は必要のない夜会は出席しない。
そのため、王宮と公爵家の夜会の時だけ王都にくる地方貴族は多い。

社交シーズン初めにコレッティ公爵家が開くことで、
地方貴族は王宮での夜会が終わるまで王都にいることになる。
そうなれば、他の夜会にも顔を出すことになるだろう。

「うちとしてはどちらでも良かったけど、
 アルのために引き受けたんだってさ」

「俺のため?」

「だって、そうしたらカファロ侯爵も長い間王都にいるだろう?」

「……」

「少しでも長く王都にいてくれたほうがうれしいだろうって。
 うちの父上が笑ってたよ」

「そうか。叔父上にはお礼を言わないとな」

たしかにディアナはコレッティ公爵家の夜会には必ず出席する。
そうか。社交シーズンの間、ずっとディアナが王都にいることになる。
思っていたよりも長くディアナと過ごせるかもしれない。
そう考えたら頬がゆるむのを止められなかった。

休暇を取るために仕事を詰め込んだせいで、
コレッティ公爵家の夜会の前には会いに行けなかった。
手紙が来ていたからディアナが王都にいるのはわかっている。
本当ならすぐにでも行きたかったけれど、我慢して働いた。

当日、コレッティ公爵家の屋敷に行くと、もうすでにたくさんの貴族が集まっていた。
広間に案内されてすぐに叔父上たちに挨拶をして、
夜会の開催時期を早めてくれたことにお礼を言う。
二人ともうれしそうな顔で、私たちもディアナちゃんに会いたいからと言った。

貴族としての義務や責任は人一倍しっかり感じているくせに、
貴族らしい嫌味や上っ面の会話が苦手で、
まっすぐに人の目を見て答えるディアナに、王族や公爵家は皆がめろめろになった。
本人だけがその事実に気がついていないけれど。

「今日はずっとそばにいるわけにはいかないからな。
 一人でも大丈夫だな?」

「わかってるよ」

「頑張って逃げろよ」

エルネストは次期当主としての仕事があるからとどこかに行ってしまう。
それを見ていたのか、あっという間に王宮貴族たちに囲まれる。

「アルフレード様、ここにいたのですか。探しましたよ」

「あぁ、ギニータ侯爵か。どうかしたのか?」

「ほら、前回お話ししていた孫です。
 やっと学園を卒業しましてな。これが初めての夜会なんですよ」

「そうか」

侯爵の後ろから桃色のドレスを着た金髪の令嬢が顔を出す。
名乗ったのは伯爵家の令嬢だった。他家に嫁いだ娘の子だという。
童顔で小柄。にっこり笑って挨拶してくるが、成人しているようには見えない。

「ぜひ、アルフレード様のおそばに置いていただきたく」

「俺のそばに?」

「ええ、お役に立てると思いますよ」

「役に立つ……優秀なのか?」

今年学園を卒業したということは、俺たちの二つ下のはず。
その学年のA教室には令嬢はいなかった。
ということは、俺の仕事を手伝ってくれている文官より優秀だとは思えない。
首をかしげていると、侯爵はいやいやとにっこり笑う。

「形だけの側近ということですよ」

「それが何の役に立つんだ?」

「ほら、アルフレード様はおひとりで過ごすことが多いでしょう。
 そういう時にお役に立てるかと」

あぁ、そういう。愛人としておそばにと最初から言ってほしい。
いやそうじゃないな。王宮貴族なら、そんな風に直接言うことはない。
最近はそういうまどろっこしい会話をあまりしていないから、忘れかけていた。

「マリアンは可愛らしいでしょう。
 今は側近ということでおそばに置いてもらえたらそれでいいんです。
 もし、お子ができるようでしたら、正式に妻にしていただけたら、と」

「お子……ねぇ」

「ええ。大事なことですからね。
 あの方が妻では、いつになるかわかりませんから」

ディアナのことを言われているのだとわかり、反応しそうになる。
夜会の最中に怒鳴ることはできないと、大きく息を吐く。

「あの……私、ずっとアルフレード様にあこがれていて。
 私ならいつでもおそばにいます!ですから……」

「いらないな」

「え?」

「側近ならエルネストや王宮文官がいるから問題ない」

「え?あの、側近じゃなくて」

「愛人だというのなら、もっと必要ない。
 俺の子が生まれなくても問題ない。
 爵位と領地を王家に返納すればいいだけだからな」

「そんな、アルフレード様」

「必要ない……これ以上しつこいようなら、はっきり文面で断るぞ」

「……申し訳ありません」

文面で断られたとなると、この娘は王族に正式にふられたとなる。
しかも結婚している王族に打診したとなれば、
誰でも愛人の申し出をしたのだとわかる。

つまり、この娘は愛人としてもいらないと断られたことになる。
そんな傷物の令嬢には見合い話は来ない。
さすがにまずいと思ったのか侯爵は孫を連れて去っていった。

やれやれと思っていたら、また違う王宮貴族が寄ってくる。
そしてその隣には着飾った令嬢たち。
……何度も何度も繰り返し断る。
ため息をつきながら相手をしていると、遠くにディアナがいるのに気がついた。

紺色のドレスは肌をしっかり隠した控えめなデザインだが、
ディアナの手足の長さや腰の細さがわかって、良く似合っている。
いつもと違って貴族らしい微笑で応対しているのを見て、
女侯爵として頑張っているんだなと思った。

まとわりついて離れない王宮貴族たちがいなければ、
少しくらいは話に行けるのに。
イラつき始めた時、エルネストに声をかけられた。

「アルフレード様、少しよろしいですか?」

「どうした?」

「うちの両親がご挨拶したいと」

「叔父上たちが?あぁ、わかった。行こう」

コレッティ公爵夫妻が呼んでいるとわかり、王宮貴族たちは渋い顔で去っていく。
助かったと思って小声でエルネストに礼を言う。

「悪いな。もう限界だった」

「わかってる。カファロ侯爵と話したかったんだろう?」

「ああ。だけど、いない……もう帰ったのか」

広間を見回しても紺色のドレスは見つけられなかった。
もう帰ってしまったのか。でも、そろそろ女性は帰ってもおかしくない時間だった。

「まぁ、いいから。こっちにこいよ」

「こっち?離れに何があるんだ?」

「いいからいいから。もう挨拶が必要な貴族とは話したよな?」

「ああ、話したとは思う」

「じゃあ、もういいよ。今日はこれで終わり。
 このままうちに泊まっていけ」

「離れに?」

コレッティ公爵家に泊まるのは別にかまわないが、
突然そんなことを言うなんてどうしたのか。

「ほら、この部屋。
 お前に贈り物だ」

「贈り物?」

「今、一番欲しいものだと思うぞ」

「一番って、そんなの」

ディアナとの時間に決まっている、そう言いかけてエルネストを見る。
うれしそうに笑うエル。こういう顔をしている時は。

「もしかして」

「仕事は終わったんだ。
 今くらいは王族ではなく、アルとして過ごしてもいい。
 迎えは明日の昼に来いと言ってある。
 じゃあな」

ひらひらと手を振ってエルネストは母屋へ戻っていく。
緊張してドアをノックすると、侍女がドアを開けた。
その奥に紺色のドレスが見えて、急いで飛び込んだ。

「ディアナ!」

「やっぱりアルフレードだったのね」


俺の声に振り向いたディアナは、
貴族としてではなく、少女のような顔で微笑んだ。


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