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29.必要なのはあなただけ
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「ディアナ!」
「やっぱりアルフレードだったのね」
部屋に入ってきたのはアルフレードだった。
夜会用の王族服を着たアルフレードはいつも以上に凛々しくて、
声が上ずってしまった。
自分の夫なのに半年ぶりに会うから、緊張してしまう。
「でも、夜会をぬけてきてよかったの?」
「エルがもう仕事は終わりでいいと。
ほとんどの貴族とは挨拶できたはずだ。さすがに疲れたよ」
「あぁ、王宮貴族や令嬢たちに囲まれていたものね」
王宮貴族と令嬢たちに囲まれていたのは見えていた。
無表情で応対しているのを見て、大変そうだなと思っていたが、
私の言葉を聞いて、アルフレードは深いため息をついた。
……この様子では、よほど疲れたらしい。
そういえば、今日はエルネスト様がいなかったから、
一人で断り続けていたはず。それは疲れても当然か。
上着を脱いで置いたアルフレードが私の隣へと座る。
ふわりと香水の匂いがして、大人びた雰囲気のアルフレードにドキリとする。
結婚してから夜会で会うのは初めてだ。
去年の夜会で会ったときは、まだ結婚前だったから、
こんな風に上着を脱ぐような無防備な姿は見なかった。
「もう本当にしつこくて大変だった。
どいつもこいつも同じことばかり言ってくる。
形だけの側近だの、子を産ませるためにそばに置けだの。
なんなんだ。愛人を側近にするのが流行ってるのか?
俺にはどっちもいらないって何度言えばわかるんだか」
「流行ってるのかも?」
エラルドが側近として愛人三人をカファロ領地に連れて行こうとした話は、
いつのまにか学園内で噂になっていたらしい。
まぁ、側近として連れていくと言ったのは中庭だったし、
それを聞いていた学生が他の人に話したのだろう。
まったく関係のない貴族からしたら、面白い話なのだろうから。
「そんなふざけたものが流行ってるのか。
宰相も苦労するはずだな……」
「女性を側近とすること自体は素晴らしいことなのに、
このままでは本当に仕事をしている側近が嫌な思いをしそうだわ」
「あーそれは困るな。たとえば、ディアナが側近だとしたら、
俺とエルネストの仕事はかなり楽になるだろう。
ディアナのような女性がもっと増えてくれないと困るんだがなぁ」
王弟の仕事を私が手伝えたとしたら、それはそれで楽しそうだ。
だけど、残念ながらアルフレードの仕事を手伝うことはできない。
「きっと私がそばにいないからあきらめられないのでしょうね。
王弟夫人として一緒に夜会にいられたら、
そんな馬鹿なことを言う人はいなくなるでしょうに」
私が女侯爵ではなく、王弟夫人として隣にいたのなら、
愛人をすすめるようなことはできないだろう。
さすがに不敬すぎるし、アルフレードが怒ると思う。
だけど、現実は夜会で話すような暇もなく、アルフレードの隣にはエルネスト様がいる。
もうすでに結婚したというのに別れさせてしまえばいいと思われるのは、
私が王都ではなくカファロ領地にいるからだ。
おそらくアルフレードが賜る予定の公爵位と領地を継ぐことができる、
私たちの子どもが生まれるまでは愛人の話は消えないだろう。
「悪い……不安にさせたか?」
「ううん、大丈夫よ。
アルフレードがそんなことしないってわかってるもの」
「ああ、それならいいけど。
俺は本当にディアナを裏切るような真似はしない。
もっと早く断って追い返せるように頑張るよ」
結婚する時もそうだったけれど、あらためて私に誓ってくれるアルフレードに、
離れていても不安にならないのは信じているからだと伝える。
「私は王弟として頑張っているアルフレードも大好きよ」
「俺も侯爵として頑張っているディアナを見るのは好きだよ。
女侯爵としてあいさつ回りしているのが見えていた。
今日のドレスも似合っている。これは俺が作らせたうちの一着だよな?」
「ええ。今日は見てもらえるかもしれないと思って。
こんな風に会えるとは思わなかったけど、うれしい」
今日着てきたドレスは、結婚する時に贈られたドレスの中の一着だ。
今年と来年の社交シーズンは新しくドレスを作らなくてもいいほど、
アルフレードが贈ってくれたものだ。
きっとコレッティ公爵家の夜会なら、遠くから見てくれると思っていた。
「俺がここに来たのは、エルからの贈り物だそうだ」
「贈り物?」
「物というか、二人で過ごす時間だな。
明日の昼までここにいていいそうだ」
「……本当に?」
ここに泊まっていいとエルネスト様から言われたけれど、
アルフレードも泊まるとは思わなかった。
ということは、今日はずっと一緒にいられる?
「ふ……可愛いな。うれしいって顔してる」
「え?だって、うれしくて」
「わかってる。そんな風に素直に喜んでくれるのがうれしいよ。
ディアナにふれてもいいか?」
「ええ、もちろん。私もアルフレードにふれても?」
「ああ」
頬に手を添えられて、くちびるが重なる。
久しぶりの手の感触、少しかたい唇、そしてじっと私を見つめる紫色の目。
私にだけ見せてくれる熱のこもった目が、欲しいと言ってくれている。
「会いたかった……ディアナ」
「……ん」
答えようとしてもすぐに唇はふさがれてしまう。
でも、いいか。話はあとで。今はアルフレードだけを感じたい。
するりと背中に回された手が、ドレスとコルセットのひもを緩めていく。
半年ぶりに私の素肌にふれたアルフレードの手が少しふるえていて、
まだ慣れていないことがうれしくなる。
今だけは王弟ではなく、女侯爵でもなく。
ただのアルフレードとディアナとして、そばにいたい。
明日の昼になればまた離れてしまうけれど。
時間は短くても、私にふれるのはあなたが良い。
ううん、違った。アルフレードじゃなきゃ嫌だから。
形だけの側近も愛人も、私たちには必要ない。
強く抱きしめられて、そっと目を閉じた。
「やっぱりアルフレードだったのね」
部屋に入ってきたのはアルフレードだった。
夜会用の王族服を着たアルフレードはいつも以上に凛々しくて、
声が上ずってしまった。
自分の夫なのに半年ぶりに会うから、緊張してしまう。
「でも、夜会をぬけてきてよかったの?」
「エルがもう仕事は終わりでいいと。
ほとんどの貴族とは挨拶できたはずだ。さすがに疲れたよ」
「あぁ、王宮貴族や令嬢たちに囲まれていたものね」
王宮貴族と令嬢たちに囲まれていたのは見えていた。
無表情で応対しているのを見て、大変そうだなと思っていたが、
私の言葉を聞いて、アルフレードは深いため息をついた。
……この様子では、よほど疲れたらしい。
そういえば、今日はエルネスト様がいなかったから、
一人で断り続けていたはず。それは疲れても当然か。
上着を脱いで置いたアルフレードが私の隣へと座る。
ふわりと香水の匂いがして、大人びた雰囲気のアルフレードにドキリとする。
結婚してから夜会で会うのは初めてだ。
去年の夜会で会ったときは、まだ結婚前だったから、
こんな風に上着を脱ぐような無防備な姿は見なかった。
「もう本当にしつこくて大変だった。
どいつもこいつも同じことばかり言ってくる。
形だけの側近だの、子を産ませるためにそばに置けだの。
なんなんだ。愛人を側近にするのが流行ってるのか?
俺にはどっちもいらないって何度言えばわかるんだか」
「流行ってるのかも?」
エラルドが側近として愛人三人をカファロ領地に連れて行こうとした話は、
いつのまにか学園内で噂になっていたらしい。
まぁ、側近として連れていくと言ったのは中庭だったし、
それを聞いていた学生が他の人に話したのだろう。
まったく関係のない貴族からしたら、面白い話なのだろうから。
「そんなふざけたものが流行ってるのか。
宰相も苦労するはずだな……」
「女性を側近とすること自体は素晴らしいことなのに、
このままでは本当に仕事をしている側近が嫌な思いをしそうだわ」
「あーそれは困るな。たとえば、ディアナが側近だとしたら、
俺とエルネストの仕事はかなり楽になるだろう。
ディアナのような女性がもっと増えてくれないと困るんだがなぁ」
王弟の仕事を私が手伝えたとしたら、それはそれで楽しそうだ。
だけど、残念ながらアルフレードの仕事を手伝うことはできない。
「きっと私がそばにいないからあきらめられないのでしょうね。
王弟夫人として一緒に夜会にいられたら、
そんな馬鹿なことを言う人はいなくなるでしょうに」
私が女侯爵ではなく、王弟夫人として隣にいたのなら、
愛人をすすめるようなことはできないだろう。
さすがに不敬すぎるし、アルフレードが怒ると思う。
だけど、現実は夜会で話すような暇もなく、アルフレードの隣にはエルネスト様がいる。
もうすでに結婚したというのに別れさせてしまえばいいと思われるのは、
私が王都ではなくカファロ領地にいるからだ。
おそらくアルフレードが賜る予定の公爵位と領地を継ぐことができる、
私たちの子どもが生まれるまでは愛人の話は消えないだろう。
「悪い……不安にさせたか?」
「ううん、大丈夫よ。
アルフレードがそんなことしないってわかってるもの」
「ああ、それならいいけど。
俺は本当にディアナを裏切るような真似はしない。
もっと早く断って追い返せるように頑張るよ」
結婚する時もそうだったけれど、あらためて私に誓ってくれるアルフレードに、
離れていても不安にならないのは信じているからだと伝える。
「私は王弟として頑張っているアルフレードも大好きよ」
「俺も侯爵として頑張っているディアナを見るのは好きだよ。
女侯爵としてあいさつ回りしているのが見えていた。
今日のドレスも似合っている。これは俺が作らせたうちの一着だよな?」
「ええ。今日は見てもらえるかもしれないと思って。
こんな風に会えるとは思わなかったけど、うれしい」
今日着てきたドレスは、結婚する時に贈られたドレスの中の一着だ。
今年と来年の社交シーズンは新しくドレスを作らなくてもいいほど、
アルフレードが贈ってくれたものだ。
きっとコレッティ公爵家の夜会なら、遠くから見てくれると思っていた。
「俺がここに来たのは、エルからの贈り物だそうだ」
「贈り物?」
「物というか、二人で過ごす時間だな。
明日の昼までここにいていいそうだ」
「……本当に?」
ここに泊まっていいとエルネスト様から言われたけれど、
アルフレードも泊まるとは思わなかった。
ということは、今日はずっと一緒にいられる?
「ふ……可愛いな。うれしいって顔してる」
「え?だって、うれしくて」
「わかってる。そんな風に素直に喜んでくれるのがうれしいよ。
ディアナにふれてもいいか?」
「ええ、もちろん。私もアルフレードにふれても?」
「ああ」
頬に手を添えられて、くちびるが重なる。
久しぶりの手の感触、少しかたい唇、そしてじっと私を見つめる紫色の目。
私にだけ見せてくれる熱のこもった目が、欲しいと言ってくれている。
「会いたかった……ディアナ」
「……ん」
答えようとしてもすぐに唇はふさがれてしまう。
でも、いいか。話はあとで。今はアルフレードだけを感じたい。
するりと背中に回された手が、ドレスとコルセットのひもを緩めていく。
半年ぶりに私の素肌にふれたアルフレードの手が少しふるえていて、
まだ慣れていないことがうれしくなる。
今だけは王弟ではなく、女侯爵でもなく。
ただのアルフレードとディアナとして、そばにいたい。
明日の昼になればまた離れてしまうけれど。
時間は短くても、私にふれるのはあなたが良い。
ううん、違った。アルフレードじゃなきゃ嫌だから。
形だけの側近も愛人も、私たちには必要ない。
強く抱きしめられて、そっと目を閉じた。
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