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23.噂
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次の日から学園内は噂でいっぱいだった。
あの時、ロドルフ様たちを見学していた学生が広めたらしい。
すべての学生に話が伝われば噂も落ち着くと思っていたのに、
それから二週間過ぎても少しも落ち着かなかった。
昼休憩になると迎えに来るミリアがめずらしく遅れていたので、
こちらから迎えに行こうとしたら、
ミリアは廊下で誰かと言い合っていた。
誰だろう。薄茶色の髪をゆるく巻いた令嬢。
化粧をしているのか派手な顔立ちだ。
声をかけたほうがいいのか迷っていたら、
話が終わったようで知らない令嬢は向こう側へと行った。
振り向いたミリアは私がいるのに気がついて駆け寄って来る。
「申し訳ありません、ナディア様。お待たせいたしました」
「ううん、それはいいんだけど言い合ってなかった?
何か問題でも起きたの?」
「さきほど話していたのは義妹のルーミアです」
「ああ、あの……」
父親の再婚相手の連れ子だけど、父親の実子でもある義妹。
ミリアのポワズ子爵家はその子が継ぐことになっている。
本当は父親は婿養子だから、ミリアが継ぐべきなのに。
「何を言ってきたの?」
「……ナディア様がロドルフ様たちと勝負するという噂を聞いてきたようです」
「勝負をやめろとか?」
「いいえ、これであんたも学校からいなくなるのね、と」
「は?」
カフェテリアの隅に行き食事をしながら話を聞けば、
どうやら噂の内容が変わってきているらしい。
「え?負けたら退学?」
「はい……なぜか、そういうことになっているようです。
勝った側は弟子になり、負けた側は潔く学園から去ると」
「え……ロドルフ様たちが負けたらどうするの?」
「……ロドルフ様が勝つと思っている者が六割。
レベッカ様が勝つと思っている者が四割というところでしょうか」
「私は?」
「……」
申し訳なさそうな顔で黙るミリア。
誰も私が勝つと予想していないらしい。
ああ、だからミリアが学園を去ると異母妹が言いに来たわけだ。
私が退学になれば、専属侍女として通っているミリアも辞めなくてはならない。
「わざわざ義妹は嫌味を言いに来たの?」
「そのようです。私が家を出ただけなら気にしないのでしょうが、
クラデル侯爵家の侍女になったのが面白くなかったのでしょう。
なんの特技もないものが勤められる場所ではありませんから」
「それはそうよね」
「おそらく父も私に近づくなと言っていたはずです」
「だけど、学園を辞めるのなら問題ないだろうと思って?」
「そうだと思います」
ため息しか出ない。シリウス様は私が勝つと思っているようだけど、
負けたら本当にどうするんだろう。
ミリアも学園から追い出されてしまうかもしれないのに。
「このまま噂を放置していたら、
本当に辞めさせられちゃうかもしれないよね」
「まさか。ナディア様は負けませんよ」
「どうして?」
「シリウス様が負けさせるとは思えませんから」
「そうかな……」
シリウス様は本気で私が勝つと思ってくれているのかもしれないけれど、
私はまだ魔力調整も終わっていないのに。
赤二だった魔力量はようやく紫二まで減らすことができた。
シリウス様には青三で安定させるようにと言われているけれど、
あとどのくらい頑張ればそうなるのかわからない。
魔術の訓練に入るのはその後。
あと一か月しかないのに間に合うのだろうか。
その日の魔術演習の時間に心配になって噂の話をすれば、
シリウス様は声をあげて笑い出した。
「シリウス様?」
「ああ、悪い。おかしくてな」
「笑い事じゃないんですけど」
「どうしてだ?あいつら、負けたら学園を辞めるんだろう?」
「……噂では」
「ふうん。では、噂を本当にしようか」
「え?」
「今週末の夜会、行く予定はなかったが、一緒に行くぞ」
「ええ!?」
今週末は陛下の誕生祭だったはず。
私はクラデル侯爵家の養女だから、招待状は届いていると思うけれど、
クラデル侯爵家に夜会の出席義務はない。
もちろん、シリウス様にもない。
それなのにわざわざ夜会に行くなんて。
「ああ、その前に仕立て屋を呼んだ方が良いな」
「仕立て屋?」
「届いているドレスではサイズが合わなくなっているだろう。
サイズを測って直しておかないと」
「……そうですね」
二週間前にクラデル侯爵から届いたドレスは、
サイズが多少合わなくても大丈夫なデザインだった。
それでもまた痩せてしまったために、ぶかぶかになってしまっている。
「こんなに急激に痩せるなんて、どうしてでしょうか」
「言わなかったか?」
「え?」
「お前の身体はずっと魔力が貯えられていたんだ。
だから身体も影響されて膨らんでいた」
「ええ?魔力のせいだったんですか?」
「水風船のようなものだ。少しずつ魔力を抜いたから小さくなった。
初めに魔力が安定するまで二か月と言っていただろう。
あともう少し痩せたら止まると思う」
「そうだったんですね……」
ずっと太っていて顔も目鼻が押しつぶされて、不細工だと思っていた。
今は普通の体型で目鼻もちゃんと見える。
どちらかと言えば、わりと美しい方なんじゃないかとさえ思う。
「今日の夜に寮の部屋に仕立て屋を呼んでおく。
サイズを測って、ドレスの直しをしてもらうように」
「わかりました」
あの時、ロドルフ様たちを見学していた学生が広めたらしい。
すべての学生に話が伝われば噂も落ち着くと思っていたのに、
それから二週間過ぎても少しも落ち着かなかった。
昼休憩になると迎えに来るミリアがめずらしく遅れていたので、
こちらから迎えに行こうとしたら、
ミリアは廊下で誰かと言い合っていた。
誰だろう。薄茶色の髪をゆるく巻いた令嬢。
化粧をしているのか派手な顔立ちだ。
声をかけたほうがいいのか迷っていたら、
話が終わったようで知らない令嬢は向こう側へと行った。
振り向いたミリアは私がいるのに気がついて駆け寄って来る。
「申し訳ありません、ナディア様。お待たせいたしました」
「ううん、それはいいんだけど言い合ってなかった?
何か問題でも起きたの?」
「さきほど話していたのは義妹のルーミアです」
「ああ、あの……」
父親の再婚相手の連れ子だけど、父親の実子でもある義妹。
ミリアのポワズ子爵家はその子が継ぐことになっている。
本当は父親は婿養子だから、ミリアが継ぐべきなのに。
「何を言ってきたの?」
「……ナディア様がロドルフ様たちと勝負するという噂を聞いてきたようです」
「勝負をやめろとか?」
「いいえ、これであんたも学校からいなくなるのね、と」
「は?」
カフェテリアの隅に行き食事をしながら話を聞けば、
どうやら噂の内容が変わってきているらしい。
「え?負けたら退学?」
「はい……なぜか、そういうことになっているようです。
勝った側は弟子になり、負けた側は潔く学園から去ると」
「え……ロドルフ様たちが負けたらどうするの?」
「……ロドルフ様が勝つと思っている者が六割。
レベッカ様が勝つと思っている者が四割というところでしょうか」
「私は?」
「……」
申し訳なさそうな顔で黙るミリア。
誰も私が勝つと予想していないらしい。
ああ、だからミリアが学園を去ると異母妹が言いに来たわけだ。
私が退学になれば、専属侍女として通っているミリアも辞めなくてはならない。
「わざわざ義妹は嫌味を言いに来たの?」
「そのようです。私が家を出ただけなら気にしないのでしょうが、
クラデル侯爵家の侍女になったのが面白くなかったのでしょう。
なんの特技もないものが勤められる場所ではありませんから」
「それはそうよね」
「おそらく父も私に近づくなと言っていたはずです」
「だけど、学園を辞めるのなら問題ないだろうと思って?」
「そうだと思います」
ため息しか出ない。シリウス様は私が勝つと思っているようだけど、
負けたら本当にどうするんだろう。
ミリアも学園から追い出されてしまうかもしれないのに。
「このまま噂を放置していたら、
本当に辞めさせられちゃうかもしれないよね」
「まさか。ナディア様は負けませんよ」
「どうして?」
「シリウス様が負けさせるとは思えませんから」
「そうかな……」
シリウス様は本気で私が勝つと思ってくれているのかもしれないけれど、
私はまだ魔力調整も終わっていないのに。
赤二だった魔力量はようやく紫二まで減らすことができた。
シリウス様には青三で安定させるようにと言われているけれど、
あとどのくらい頑張ればそうなるのかわからない。
魔術の訓練に入るのはその後。
あと一か月しかないのに間に合うのだろうか。
その日の魔術演習の時間に心配になって噂の話をすれば、
シリウス様は声をあげて笑い出した。
「シリウス様?」
「ああ、悪い。おかしくてな」
「笑い事じゃないんですけど」
「どうしてだ?あいつら、負けたら学園を辞めるんだろう?」
「……噂では」
「ふうん。では、噂を本当にしようか」
「え?」
「今週末の夜会、行く予定はなかったが、一緒に行くぞ」
「ええ!?」
今週末は陛下の誕生祭だったはず。
私はクラデル侯爵家の養女だから、招待状は届いていると思うけれど、
クラデル侯爵家に夜会の出席義務はない。
もちろん、シリウス様にもない。
それなのにわざわざ夜会に行くなんて。
「ああ、その前に仕立て屋を呼んだ方が良いな」
「仕立て屋?」
「届いているドレスではサイズが合わなくなっているだろう。
サイズを測って直しておかないと」
「……そうですね」
二週間前にクラデル侯爵から届いたドレスは、
サイズが多少合わなくても大丈夫なデザインだった。
それでもまた痩せてしまったために、ぶかぶかになってしまっている。
「こんなに急激に痩せるなんて、どうしてでしょうか」
「言わなかったか?」
「え?」
「お前の身体はずっと魔力が貯えられていたんだ。
だから身体も影響されて膨らんでいた」
「ええ?魔力のせいだったんですか?」
「水風船のようなものだ。少しずつ魔力を抜いたから小さくなった。
初めに魔力が安定するまで二か月と言っていただろう。
あともう少し痩せたら止まると思う」
「そうだったんですね……」
ずっと太っていて顔も目鼻が押しつぶされて、不細工だと思っていた。
今は普通の体型で目鼻もちゃんと見える。
どちらかと言えば、わりと美しい方なんじゃないかとさえ思う。
「今日の夜に寮の部屋に仕立て屋を呼んでおく。
サイズを測って、ドレスの直しをしてもらうように」
「わかりました」
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