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2.逃走

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まずい、早くここから逃げなければ。
すぐに逃走経路を思い出し、バルコニーに出る。
夜会始まってすぐだったから、バルコニーにはまだ誰もいないはずだ。
自分の姿が広間から見えなくなってすぐ、口の中にある液体を吐き出した。
ハンカチを口の中につっこんで、残りの液体もできる限りハンカチに吸わせる。
きっと追いかけてくるものは中庭に逃げたと思うでしょうね。
バルコニーを横に突っ切って建物を曲がり、最初の通用口で王宮の中に戻る。
王宮内の廊下で足音が響かないように靴を脱いで手に持ち、
すぐ近くの階段を駆け上がった。

王宮で受けた教育で緊急時の避難についても教えられている。
この国の王族は暗殺される危険性と隣り合わせだからだ。
だから、王宮内のどこを通ればいいのかは頭に入っていた。

媚薬を吐き出したとはいえ、少量は口にしてしまっている。
今は何よりも先に医術士室に行って解毒薬をもらうことを優先しなければいけない。
二階の奥の階段を降りると執務室の横にある医術士室の前に行ける。
階段を降りて、医術士室を開けようと扉に手をかけたが、鍵がかかっている。
もうすでに医術士は帰宅してしまっているようだ。
夜間に医術士が待機しているとすれば後宮近くになる。
そこまで行く前に動けなくなりそうだった。

さっきから激しい動悸と、身体の奥から熱がこみあげてくるのを感じる。
ほとんど口にしていなかったのに、この効き目。かなり強い媚薬だったようだ。

…どうしよう。
このままうずくまっていたら、見つかるかもしれない。
ふと見えた執務室の先、宰相室から光が漏れているのが見えた。
扉がきちんと閉まっていないということは、誰かがいる。

あの扉は宰相室。もしかしているのだろうか…彼が。
…彼ならまだ仕事をしているに違いない。
もし彼がいたとして、助けてって言っても、大丈夫?
迷ったけど、もうすぐ限界がきそうだった。

なんとか宰相室の前までたどり着くと、崩れ落ちるように扉を押して入った。
そのまま倒れるように床に座り込んでしまう。


「どうした?…ジェイか?」

懐かしい声が聞こえる。誰かほかの人と勘違いしているみたいだけど…。


「令嬢?おい、大丈夫か、…え?ミルティア?」

近付いてきて、ようやく私だと気がついたらしい。
すぐさま抱きかかえて、呼びかけてくれるけど、もう限界だった。

「…媚薬、飲まされて…。」


「媚薬?」

それだけ伝えると、カインはすぐさま私を抱き上げ、奥の部屋に連れて行った。
ソファに座らせると、何か机から探し出してきて戻って来た。

「ミルティア、口を開けて。解毒薬だよ。」

背中を支えるように抱きかかえ、瓶のふちを口に当ててくれる。
少しこぼしてしまったけど、なんとか解毒薬を飲み込むことができた。
良かった…これで最悪の事態は無さそう。

「ミルティア、ここに簡易寝台があるから、少し休んで。
 1時間もすれば動けるようになるはずだから。
 …公爵家に連絡はしないほうがいいね?
 俺と会ったのが知られるとまずいだろう?」

そういう理由ではなかったけど、家に連絡されると困る。
うなずこうとして、身体がうまく動けないことに気が付く。
解毒薬が効いていない?こみあげてくる熱を逃げせずに息ができない。

「…?ミルティア?聞こえてる?…解毒薬が効いていないのか?
 ミルティア、ごめん。少しだけ我慢して。」

寝台に寝かされたまま横向きにされ、ドレスを脱がされて行く。
そのままコルセットの紐をゆるめられ、下着姿にされる。
恥ずかしいけど、それよりも苦しい。早く楽にしてほしい。
身体中をまさぐって、ぐちゃぐちゃにしてほしい。
こんな欲望がどこに眠っていたのか、どこまでも湧き出して止まらない。


「…お…がい。さわ…て…カイ…ン。」

「…っ。ミルティア、ごめん…。
 俺がしちゃいけないのはわかってる…けど、さわるよ?」

違う…謝らないで。
カインがいいの。カインじゃなきゃ嫌なの。
その思いは伝えられないまま、
すぐに恐ろしいほどの気持ち良さに何も考えられなくなっていった。
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