妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

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25、虹色のバルーン

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「さっそく空を飛ぶ魔法を使うなんて、やるじゃん。
 やっぱりアイリーンは魔法の天才だよ」

 丸い目をより丸くさせて、ミーナが大げさに驚く。

「そうじゃないのよ。
 マリーンとカーラに会わないように邸を出たい、と考えていたら自然に身体が宙に浮いたの」 

「へー。
 呪文も唱えずに魔法を発動させたんだ。
 それって上級魔法じゃん」

「そ、そうなのかな」

 頼りない声をだして首を傾ける。

「私がすごいかどうかはともかく。
 空を飛ぶって気持ちいいわね」

 風に髪をなびかせリーフ伯爵家の邸を見下ろしながら、弾んだ声をだす。 

 ぐるりと緑で囲まれた邸は、思っていたよりもずーと小さいかった。

 邸から北から南、東から西へとゆっくりと視線をうつすと、私が1度も訪れたことがない場所をたくさん目にする。

 太陽の光をあびてキラキラと川面を輝かせる川。

 赤い屋根がたくさん見える場所は、きっと平民の家が建ちならぶ町だろう。

 頂に白い雲のかかる高い山々。

 どこかの異国とつながっている紺碧の海。

「ミーナ。
 こうやって上から町を眺めていると、私の悩みなんてとてもちっぽけに思えてきたの。 
   こんなことなら、もっと早くに邸を出るべきだったわ」
 
「大丈夫、大丈夫。
 今からでも全然遅くないよ。
 アイリーンの人生まだまだこれからだ!」

「ありがとう。
 いつもミーナに励まされてばかりね」

 そう言って微笑んだものの、すぐに頬をひきつらせる。

「ねえ、ミーナ。
 これからどこへ行けばいいのかわからないわ。
 宿に泊まるには十分なお金がないし。
 かといって、タダで泊めてくれるような友達もいないし。
 困ったわ」

 これから、どの方向へ進めばいいのかわからない。

 フワフワと宙に浮いたまま胸の前で腕を組んで思案していたら、視界に突然大きな気球がはいってくる。

 気球のバルーンは虹色に光っていた。

「まさか虹の精霊がのっていたりして」

 雲の切れ間をくぐりながら、こちらに流れてくる気球を目を丸くしてながめる。

「思い出した。
 昔、アイリーンが書いた物語にこんなシーンがあったのを。
 もしかしたら、空想が本当になっていたりして。 
 きっとそうだよう。すごいぞ。
 やっぱりアイリーンはただ者じゃない」

 ミーナがそう言うと、楽しそうに空中をグルグルと回り始めた。

「思い出したわ。
『屋根裏部屋のジェニー』ね。
 家族にいじめられている屋根裏部屋に住む少女ジェニーを、虹の精霊が気球にのって助けにくるシーンを書いたんだわ。
 たしか、その時の気球のバルーンも虹色にしたはずよ」

 ハッとして、指をパチンとならした時だ。

 気球が私の前でピタリと止まる。

「物語では、ここで可愛い虹の精霊が手を差し伸べてくるのよ」

 緊張してゴクリとツバを飲み込んで、ジーと気球を見据えた。

 するとどこかで聞き覚えのある声がする。

 力強いけど、優しさを含んだ大人の男の声だ。

「ハリス君、じゃなくてアイリーン。
 君を迎えにきたよ」

 声の主はリトルドリームの主、ブランチさんだった。

 ブランチさんは両手を伸ばして、宙にうく私を抱き寄せるとバルーンにのせる。

「これからはリトルドリームで3人で暮らそう。
 2人を迎えにいく方法を色々考えたあげく、『屋根裏部屋のジェニー』をまねてみた。
 可愛い精霊じゃなくて悪かったね」

 ブランチさんはそう言うと、とても優しい目をして笑う。

「どうして邸を出たことがわかったの?
   どうして私をハリス君じゃなくてアイリーンって呼ぶの?
 どうしてそんなに優しくしてくれるの?
 どうしてブランチさんがここにいるの?」

 他にもいっぱい聞きたい事がある。

 私の頭の中は?あふれそうだ。

 けど、ブランチさんの顔を見た瞬間、ホッとして私はポロポロと涙をこぼしていた。

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