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プロローグ
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ここバルバド皇国のラビット村も、どうやら梅雨入りしたようだ。
それが証拠にもう三日も銀色の雨が降り続いている。
だからてっきり今日も雨だと思っていたのに……。
見上げる空はコバルトブルー。そして燦燦と太陽は輝いている。
「もうお父様たら。朝からずーとしかめっ面ね。けど今日、私はラビット伯爵家を発つのよ。
お願いだから、笑顔で送り出してほしいの」
邸の庭に立って、両親と嫁ぎ先からのお迎え馬車を待っている私は、深く額に皺をよせるお父様に薄く笑う。
「だけどキャンディ。私は胸騒ぎがして、しかたないんだよ。
冷酷非道な竜人皇帝陛下に娘が嫁ぐのを止められないなんて、自分が情けなくてしかたない。
ああああ。なんで鉱山が爆発なんかしたんだ!!!
あれがなければ、私が山のような借金をせおう
事もなかったはずだ!!!」
お父様は両手で自分の耳をおさえて絶叫する。
「やめて。お父様。自然災害は誰のせいでもないでしょ。
それに皇帝陛下が冷酷非道だなんて、ただの噂だわ。
実際に会ってみないと、本当のことはわからないはずよ。
それにほら。
『六月の晴れた日に嫁ぐ花嫁は誰よりも幸せになる』って言うじゃない。
まさに今日の私の事だわ。
だからお父様。もうこれ以上悲しまないで欲しいの」
「まあ。お前がそれほど言うなら……」
お父様が渋々口角を上げて、ひきつった笑顔をつくろうとした時だった。
今度はお父様の隣にいた小柄なお母様が真っ白な頬を真っ赤に染めて、いらだった声を上げる。
「あんなのはただの言い伝えで、保障じゃないわ。
キャンディ。お願い。借金の為に無理をするのはやめてちょうだい。
今ならまだ間に合うわ。この縁談はお断りしなさい」
「あら、お母様。
どうしてそんな事をおっしゃるの?
まさかお忘れになったわけじゃないでようね。私のお相手はこの国の皇帝陛下なのよ。
そう簡単に破談にできるわけないでしょ。
もしそうしたらラビット伯爵家はお取り潰しになって、私達は平民になるのよ」
「「それでもいい。どうせ今でも伯爵とは名ばかりの貧乏暮らし。
平民になるのは全然こわくない」」
二人が申し合わせたように、声をそろえる。
「お父様とお母様がそうでも、私は貧乏なんかまっぴらごめんよ。
継ぎはぎだらけのワンピースを着て、人参畑を耕していた貧乏伯爵令嬢が、この国の皇妃になれるの。
こんなチャンスは二度とないわ」
「だけどキャンディ。私達はおとぎ話の中にいるんじゃない。この結婚にハッピーエンドはないはずだ」
「そうよ。キャンディ。竜獣人あがりの野蛮な竜族と私達ウサギ族がうまくいくはずないでしょ。
第一、みすぼらしいラビット家から皇帝陛下とあろうお方が妻を迎えるなんて、どう考えても普通じゃないわ。
きっとこの縁談にはとんでもない裏があるはずよ」
「裏があろうがなかろうが、私はお金さえもらえればいいの」
「「だから私達の事は心配しなくて……」」
「じゃあ。私の可愛い妹。パンちゃんはどうなるの?
お金がなくて、いいお医者様にも診せてあげられないでしょ。
だから私は貧乏が大嫌いなの!」
「キャンディ! 」
私の名前を呼んで、お父様が悔しそうに唇を強く噛んだときだった。
ーゴトゴトゴトー
大きな音をたてて、見るからに豪華そうな四頭立ての馬車がやってきて、私達の前で停車した。
「約束通り迎えにきたぞ。
お前がキャンディラビットだな」
皇家の紋章が刻まれた扉がバタンと開くと同時に、威圧感のある低い声が耳に届く。
声の主は誰もがおそれる皇帝陛下、レインファンバルバドだ。
「陛下自らのお出迎えに感謝いたします」
「そんな社交辞令は必要ない。
俺は急いでいるんだ。はやく馬車にのれ」
陛下は不機嫌そうに眉をよせると、大きな腕で私を横抱きにする。
その瞬間、食べられると思った私は固く目を閉じ身体をピクリと震わせた。
「「あ! キャンディ!」
たぶん両親も私と同じように思ったのだろう。
悲痛な声をだすと、両手で顔をおおった。
すると皇帝陛下は突然空を仰いで豪快に笑う。
「心配はいらない。
竜獣人がウサギ獣人を好んで食ったのは遥か昔の話だ。
では、伯爵。
キャンディはもらってゆくぞ」
鍛え上げられた広い胸に、顔をおしつける形になった私は間近でみる陛下の迫力ある美しさに、一瞬息がとまりそうになる。
燃えるような金髪の長い髪。
どこか憂いをおびた琥珀色の瞳。
整った鼻や口元。
まるで歩く彫刻だ。
こんな立派な方が、なぜ僻地の貧乏伯爵令嬢なんかを皇妃にするのだろう。
遅ればせながら、さっき両親が口にした疑問が頭をよぎる。
「さっそくだが、これから教会で式をあげる」
「おそれながら皇帝陛下。今日が挙式とは聞いておりませんが」
馬車の中の重厚なソファーに座ったとたん、私は目を丸くした。
「実はな。本当は別の女と挙式をあげるはずだったんだ。
だが数日前に逃げられてしまった。
ある貴族の娘で皇后という地位欲しさに結婚を承諾したのだろうが、式が近ずくにつれ嫌になったのだろう。
それで今度は不意打ち作戦にでたんだ」
「花嫁に逃げられないようにする為ですか?
ひょっとして、逃げないような娘なら誰でも良かったって事ですか?」
真向かいに座る皇帝陛下に首を傾けた。
「ああ。そうだ。
ぐずぐずしていると、反皇帝陛下派の息がかかった女を押しつけられるからな。
何をそんな不思議そうな顔をしている。
王族や貴族の結婚に愛など必要ないだろ。
それに貴方だってこの結婚を承諾したのは、はっきりいって金の為のはずだ」
「それはそうだけれど……」
端正な顔を向けられて、思わずうつむいてしまう。
確かにそうだった。
けれど、陛下。
貴方があまりに素敵だから、私の胸の鼓動はなりやまないの。
なんて素直な気持を口にする事なんか、できなかった。
「気にしなくていい。
俺も貴方を愛するつもりはないのだから。
言っておくが、俺は女が大嫌いだ。
だから、子供をもつことは諦めてくれ」
皇帝陛下は氷つくような瞳で私を見据える。
「はい。わかりました」
ラビット家の借金を帳消しにして、妹によりよい
治療を受けさせたい。
その一心で皇妃になる事を決めた。
だから結婚生活にはなんの期待ももってなかった。はずなのに、あまりに麗しい皇帝陛下のお姿に甘い夢を見てしてしまった私は大馬鹿だ。
「やっぱりおとぎ話のようにはいかないようね」
馬車の窓から空を見上げれば、美しい青空がひろがっている。
「六月の晴れた日に嫁ぐ花嫁は誰よりも幸せになる。のよね」
胸が不安と恐怖でいっぱいになった。
けれどもう、引き返す事はできない。
なんの根拠もない古い言い伝えを呟くと、目をとじて黙って馬車に揺られた。
それが証拠にもう三日も銀色の雨が降り続いている。
だからてっきり今日も雨だと思っていたのに……。
見上げる空はコバルトブルー。そして燦燦と太陽は輝いている。
「もうお父様たら。朝からずーとしかめっ面ね。けど今日、私はラビット伯爵家を発つのよ。
お願いだから、笑顔で送り出してほしいの」
邸の庭に立って、両親と嫁ぎ先からのお迎え馬車を待っている私は、深く額に皺をよせるお父様に薄く笑う。
「だけどキャンディ。私は胸騒ぎがして、しかたないんだよ。
冷酷非道な竜人皇帝陛下に娘が嫁ぐのを止められないなんて、自分が情けなくてしかたない。
ああああ。なんで鉱山が爆発なんかしたんだ!!!
あれがなければ、私が山のような借金をせおう
事もなかったはずだ!!!」
お父様は両手で自分の耳をおさえて絶叫する。
「やめて。お父様。自然災害は誰のせいでもないでしょ。
それに皇帝陛下が冷酷非道だなんて、ただの噂だわ。
実際に会ってみないと、本当のことはわからないはずよ。
それにほら。
『六月の晴れた日に嫁ぐ花嫁は誰よりも幸せになる』って言うじゃない。
まさに今日の私の事だわ。
だからお父様。もうこれ以上悲しまないで欲しいの」
「まあ。お前がそれほど言うなら……」
お父様が渋々口角を上げて、ひきつった笑顔をつくろうとした時だった。
今度はお父様の隣にいた小柄なお母様が真っ白な頬を真っ赤に染めて、いらだった声を上げる。
「あんなのはただの言い伝えで、保障じゃないわ。
キャンディ。お願い。借金の為に無理をするのはやめてちょうだい。
今ならまだ間に合うわ。この縁談はお断りしなさい」
「あら、お母様。
どうしてそんな事をおっしゃるの?
まさかお忘れになったわけじゃないでようね。私のお相手はこの国の皇帝陛下なのよ。
そう簡単に破談にできるわけないでしょ。
もしそうしたらラビット伯爵家はお取り潰しになって、私達は平民になるのよ」
「「それでもいい。どうせ今でも伯爵とは名ばかりの貧乏暮らし。
平民になるのは全然こわくない」」
二人が申し合わせたように、声をそろえる。
「お父様とお母様がそうでも、私は貧乏なんかまっぴらごめんよ。
継ぎはぎだらけのワンピースを着て、人参畑を耕していた貧乏伯爵令嬢が、この国の皇妃になれるの。
こんなチャンスは二度とないわ」
「だけどキャンディ。私達はおとぎ話の中にいるんじゃない。この結婚にハッピーエンドはないはずだ」
「そうよ。キャンディ。竜獣人あがりの野蛮な竜族と私達ウサギ族がうまくいくはずないでしょ。
第一、みすぼらしいラビット家から皇帝陛下とあろうお方が妻を迎えるなんて、どう考えても普通じゃないわ。
きっとこの縁談にはとんでもない裏があるはずよ」
「裏があろうがなかろうが、私はお金さえもらえればいいの」
「「だから私達の事は心配しなくて……」」
「じゃあ。私の可愛い妹。パンちゃんはどうなるの?
お金がなくて、いいお医者様にも診せてあげられないでしょ。
だから私は貧乏が大嫌いなの!」
「キャンディ! 」
私の名前を呼んで、お父様が悔しそうに唇を強く噛んだときだった。
ーゴトゴトゴトー
大きな音をたてて、見るからに豪華そうな四頭立ての馬車がやってきて、私達の前で停車した。
「約束通り迎えにきたぞ。
お前がキャンディラビットだな」
皇家の紋章が刻まれた扉がバタンと開くと同時に、威圧感のある低い声が耳に届く。
声の主は誰もがおそれる皇帝陛下、レインファンバルバドだ。
「陛下自らのお出迎えに感謝いたします」
「そんな社交辞令は必要ない。
俺は急いでいるんだ。はやく馬車にのれ」
陛下は不機嫌そうに眉をよせると、大きな腕で私を横抱きにする。
その瞬間、食べられると思った私は固く目を閉じ身体をピクリと震わせた。
「「あ! キャンディ!」
たぶん両親も私と同じように思ったのだろう。
悲痛な声をだすと、両手で顔をおおった。
すると皇帝陛下は突然空を仰いで豪快に笑う。
「心配はいらない。
竜獣人がウサギ獣人を好んで食ったのは遥か昔の話だ。
では、伯爵。
キャンディはもらってゆくぞ」
鍛え上げられた広い胸に、顔をおしつける形になった私は間近でみる陛下の迫力ある美しさに、一瞬息がとまりそうになる。
燃えるような金髪の長い髪。
どこか憂いをおびた琥珀色の瞳。
整った鼻や口元。
まるで歩く彫刻だ。
こんな立派な方が、なぜ僻地の貧乏伯爵令嬢なんかを皇妃にするのだろう。
遅ればせながら、さっき両親が口にした疑問が頭をよぎる。
「さっそくだが、これから教会で式をあげる」
「おそれながら皇帝陛下。今日が挙式とは聞いておりませんが」
馬車の中の重厚なソファーに座ったとたん、私は目を丸くした。
「実はな。本当は別の女と挙式をあげるはずだったんだ。
だが数日前に逃げられてしまった。
ある貴族の娘で皇后という地位欲しさに結婚を承諾したのだろうが、式が近ずくにつれ嫌になったのだろう。
それで今度は不意打ち作戦にでたんだ」
「花嫁に逃げられないようにする為ですか?
ひょっとして、逃げないような娘なら誰でも良かったって事ですか?」
真向かいに座る皇帝陛下に首を傾けた。
「ああ。そうだ。
ぐずぐずしていると、反皇帝陛下派の息がかかった女を押しつけられるからな。
何をそんな不思議そうな顔をしている。
王族や貴族の結婚に愛など必要ないだろ。
それに貴方だってこの結婚を承諾したのは、はっきりいって金の為のはずだ」
「それはそうだけれど……」
端正な顔を向けられて、思わずうつむいてしまう。
確かにそうだった。
けれど、陛下。
貴方があまりに素敵だから、私の胸の鼓動はなりやまないの。
なんて素直な気持を口にする事なんか、できなかった。
「気にしなくていい。
俺も貴方を愛するつもりはないのだから。
言っておくが、俺は女が大嫌いだ。
だから、子供をもつことは諦めてくれ」
皇帝陛下は氷つくような瞳で私を見据える。
「はい。わかりました」
ラビット家の借金を帳消しにして、妹によりよい
治療を受けさせたい。
その一心で皇妃になる事を決めた。
だから結婚生活にはなんの期待ももってなかった。はずなのに、あまりに麗しい皇帝陛下のお姿に甘い夢を見てしてしまった私は大馬鹿だ。
「やっぱりおとぎ話のようにはいかないようね」
馬車の窓から空を見上げれば、美しい青空がひろがっている。
「六月の晴れた日に嫁ぐ花嫁は誰よりも幸せになる。のよね」
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