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1章 貧乏が嫌なので冷酷竜人陛下に嫁ぎます
1,突然の婚約破棄
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「遅れてごめんなさい。実はね。人参畑にモグラがいて、農夫に殺されかかっていたの。
なんとかモグラを助けようとしていたら、時間をとられてしまって」
私はそう言うと、エルトングレン公爵令息に深々と頭を下げた。
今日はエルトンの誕生日。
跡取りであるエルトンの為に公爵家の大広間では盛大な誕生パーティーが催されている。
いくつもの煌めくシャンデリアが吊るされた天井。
私なんかが見た事もないご馳走がのった、数々のお皿。
室内は着飾った貴族達の香水の香りでむせかえっていた。
「ひどいじゃないか。僕よりモグラの方が大事だなんて」
エルトンはクシャリと顔をしかめる。
「そんな顔しないで。せっかくのイケメンが台無しよ」
「わかってないな、キャンディ。僕の美しさは、どんな顔をしても変わらないはずだろ」
「そうだったわね。わかったから、そろそろご機嫌をなおしてくれないかしら。
自分で言うのもおかしいけれど、たったニ分の遅刻なんだし」
「さあね。どーしようなか」
エルトンはけだるそうに額にかかった長い金髪をかき上げると、エメラルド色の瞳で私を見下ろした。
ラメ入りの真っ白なスーツを着たエルトンは文句なく美しい。
スラリとした身体に整った顔立ち。
けれどそんな自分を鼻にかけた様子はちっとも魅力的じゃない。
ナルシストなのは、いかにもシマウマ族って感じだけれど。
私の住むバルバド帝国は様々な種族でなりたっていた。
そしてどの種族も始まりは獣人である。
現在は誰もが見た目はほぼ人間だけど。
ただ気質の方には祖先の特徴が強く残っていて、いつのまにか気性の荒い種族が大人しい種族を支配していた。
こうしてできあがった、人種カーストの頂点に君臨するのは歴代の皇帝陛下を輩出した竜族で、
底辺が私の所属するウサギ族だ。
「そうだわ。エルトン。
お誕生日のプレゼントをまだ渡してなかったわね。
高価な物は買えないけれど、貴方の為に心をこめてつくったの」
そう言って、スカートのポケットから、リボンで飾られた小さな箱を取り出して、エルトンに差し出した。
「それにしても、軽いなあ」
エルトンが受け取った小箱をふると、中からカサカサっという音がする。
「良かったら、開けてみてちょうだい」
「ああ」
ぶっきらぼうな声をたてながら、エルトンが結んだリボンをほどいてゆく。
そして箱の中身を手にとり眉をしかめる。
「なんだこれは。えらく不細工なウサギだな」
「お守りなの。このウサギの中には厄除けのお札がはいっているの。
首からぶら下げられるように紐もつけたのよ。
ただ私が不器用だから……」
ピンク色のフェルトでつくったウサギのマスコットの説明の途中で、エルトンは乱暴にウサギを床に投げつけ激怒した。
「こんな安っぽい物を首からぶら下げろだと。
キャンディ。君は僕を馬鹿にしているのか!」
「誤解よ。エルトン。
この布も紐も、私にとっては高価な物を選んだんだから」
「もうその貧乏自慢は聞き飽きた」
「貧乏自慢だなんて、ひどすぎるわ」
「一年前。
たまたま馬車でウサギ村を通りかかった時、僕は君に一目惚れした。
夕陽を浴びながら、人参を手にして畑で明るく笑っている君が天使に見えたんだ。
でも、今は後悔している。
あの時、馬車から下りて君に声をかけた事を」
「あの時は私も心底驚いたわ。
お洒落なシマウマ族の公爵令息が泥臭いウサギ族に一目惚れしたなんて、信じられなかったんだもの」
水と油のような種族がうまくいくだろうか。
エルトンから交際を求められたとき悩んだけれども、それでも彼を受け入れたのは
「心配しなくていい。もし妻になってくれたら、ラビット家の借金はすべて僕が支払う」
という言葉があったらだ。
大昔は強い魔力があったとされるウサギ族も、現在では簡単な生活魔法が使えるだけ。
それでも、魔力があるのはウサギ族だけだから多少は恐がられ、気弱な種族ながらここまで存続できた。
けど、これからますます魔法学が進み、簡単で便利な魔道具が開発されれば、生活魔法なんて
どうでもよくなるはず。
やはり頼れるのは強固な生活基盤。経済力に違いない。
だからエルトンを選んだ。
出会った頃を思い出して押し黙っていると、エルトンがとんでもない事を口走る。
「キャンディ。白状しろ! あの日僕に魅了魔法をかけただろ」
「残念ながら、ウサギ族にはもうそんな魔力は残ってないの。
たとえ残っていたとしても、魅了魔法は相手の瞳をみてかけるもの。
あの状況では無理だわ」
「はん。そうか。ならあれは僕のただの気の迷いだったわけか」
エルトンは呟くと、今度は会場の隅々にまでとどろくような声を上げる。
「キャンディラビット伯爵令嬢。
僕は今ここで君との婚約を破棄する!」
「エルトン。本気で言っているの?」
あまりに突然の出来事に目の前が真っ白になる。
「ああ。そうさ。
真実の愛の相手はキャンディ。君じゃなかった。
そしてついに本物の相手を見つけたんだ。
僕はスエレンキラメック公爵令嬢との婚約を発表する!」
「スエレンですって!?」
驚きすぎて、息がとまりそうになる。
スエレンはお父様の弟の娘で、私の従妹だった。
けれど現在はクジャク国に住んでいて、エルトンとはなんの接点もないはずなのに、一体どうしたっていうの?
「相変わらず鈍いのね。キャンディ。
私達はそういう事なの。悪いわね」
スエレンはエルトンの腕に自分の腕をからめて、勝ち誇ったように笑った。
なんとかモグラを助けようとしていたら、時間をとられてしまって」
私はそう言うと、エルトングレン公爵令息に深々と頭を下げた。
今日はエルトンの誕生日。
跡取りであるエルトンの為に公爵家の大広間では盛大な誕生パーティーが催されている。
いくつもの煌めくシャンデリアが吊るされた天井。
私なんかが見た事もないご馳走がのった、数々のお皿。
室内は着飾った貴族達の香水の香りでむせかえっていた。
「ひどいじゃないか。僕よりモグラの方が大事だなんて」
エルトンはクシャリと顔をしかめる。
「そんな顔しないで。せっかくのイケメンが台無しよ」
「わかってないな、キャンディ。僕の美しさは、どんな顔をしても変わらないはずだろ」
「そうだったわね。わかったから、そろそろご機嫌をなおしてくれないかしら。
自分で言うのもおかしいけれど、たったニ分の遅刻なんだし」
「さあね。どーしようなか」
エルトンはけだるそうに額にかかった長い金髪をかき上げると、エメラルド色の瞳で私を見下ろした。
ラメ入りの真っ白なスーツを着たエルトンは文句なく美しい。
スラリとした身体に整った顔立ち。
けれどそんな自分を鼻にかけた様子はちっとも魅力的じゃない。
ナルシストなのは、いかにもシマウマ族って感じだけれど。
私の住むバルバド帝国は様々な種族でなりたっていた。
そしてどの種族も始まりは獣人である。
現在は誰もが見た目はほぼ人間だけど。
ただ気質の方には祖先の特徴が強く残っていて、いつのまにか気性の荒い種族が大人しい種族を支配していた。
こうしてできあがった、人種カーストの頂点に君臨するのは歴代の皇帝陛下を輩出した竜族で、
底辺が私の所属するウサギ族だ。
「そうだわ。エルトン。
お誕生日のプレゼントをまだ渡してなかったわね。
高価な物は買えないけれど、貴方の為に心をこめてつくったの」
そう言って、スカートのポケットから、リボンで飾られた小さな箱を取り出して、エルトンに差し出した。
「それにしても、軽いなあ」
エルトンが受け取った小箱をふると、中からカサカサっという音がする。
「良かったら、開けてみてちょうだい」
「ああ」
ぶっきらぼうな声をたてながら、エルトンが結んだリボンをほどいてゆく。
そして箱の中身を手にとり眉をしかめる。
「なんだこれは。えらく不細工なウサギだな」
「お守りなの。このウサギの中には厄除けのお札がはいっているの。
首からぶら下げられるように紐もつけたのよ。
ただ私が不器用だから……」
ピンク色のフェルトでつくったウサギのマスコットの説明の途中で、エルトンは乱暴にウサギを床に投げつけ激怒した。
「こんな安っぽい物を首からぶら下げろだと。
キャンディ。君は僕を馬鹿にしているのか!」
「誤解よ。エルトン。
この布も紐も、私にとっては高価な物を選んだんだから」
「もうその貧乏自慢は聞き飽きた」
「貧乏自慢だなんて、ひどすぎるわ」
「一年前。
たまたま馬車でウサギ村を通りかかった時、僕は君に一目惚れした。
夕陽を浴びながら、人参を手にして畑で明るく笑っている君が天使に見えたんだ。
でも、今は後悔している。
あの時、馬車から下りて君に声をかけた事を」
「あの時は私も心底驚いたわ。
お洒落なシマウマ族の公爵令息が泥臭いウサギ族に一目惚れしたなんて、信じられなかったんだもの」
水と油のような種族がうまくいくだろうか。
エルトンから交際を求められたとき悩んだけれども、それでも彼を受け入れたのは
「心配しなくていい。もし妻になってくれたら、ラビット家の借金はすべて僕が支払う」
という言葉があったらだ。
大昔は強い魔力があったとされるウサギ族も、現在では簡単な生活魔法が使えるだけ。
それでも、魔力があるのはウサギ族だけだから多少は恐がられ、気弱な種族ながらここまで存続できた。
けど、これからますます魔法学が進み、簡単で便利な魔道具が開発されれば、生活魔法なんて
どうでもよくなるはず。
やはり頼れるのは強固な生活基盤。経済力に違いない。
だからエルトンを選んだ。
出会った頃を思い出して押し黙っていると、エルトンがとんでもない事を口走る。
「キャンディ。白状しろ! あの日僕に魅了魔法をかけただろ」
「残念ながら、ウサギ族にはもうそんな魔力は残ってないの。
たとえ残っていたとしても、魅了魔法は相手の瞳をみてかけるもの。
あの状況では無理だわ」
「はん。そうか。ならあれは僕のただの気の迷いだったわけか」
エルトンは呟くと、今度は会場の隅々にまでとどろくような声を上げる。
「キャンディラビット伯爵令嬢。
僕は今ここで君との婚約を破棄する!」
「エルトン。本気で言っているの?」
あまりに突然の出来事に目の前が真っ白になる。
「ああ。そうさ。
真実の愛の相手はキャンディ。君じゃなかった。
そしてついに本物の相手を見つけたんだ。
僕はスエレンキラメック公爵令嬢との婚約を発表する!」
「スエレンですって!?」
驚きすぎて、息がとまりそうになる。
スエレンはお父様の弟の娘で、私の従妹だった。
けれど現在はクジャク国に住んでいて、エルトンとはなんの接点もないはずなのに、一体どうしたっていうの?
「相変わらず鈍いのね。キャンディ。
私達はそういう事なの。悪いわね」
スエレンはエルトンの腕に自分の腕をからめて、勝ち誇ったように笑った。
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