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混同
〈一〉希望
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「――手分けして探そう!」
菜月を探しに皆でやって来た旧校舎。校舎内に入るなりそう提案した佳織は、自然とゴミが散乱した方へと足を向けた。
昨日こちらに行かなかったのは、明らかに入りづらいと思ったからだ。それは壊れた机などのゴミが散らかっているせいでもあるし、隙間から覗く廊下の床板の状態が目に見えて悪いというのもある。
上に物があるせいで水はけが悪いのだろうか。頭上にも反対側と比べて蜘蛛の巣が多いのは、肝試しに訪れる者たちも無意識にこちら側を避けるからだろうか。ならばその分危険も多いのでは――ふと浮かんだ考えを佳織は振り払った。
危険だろうが何だろうが、自分がこちらに行くべきなのだ。亜美は怖いものが苦手で、たまは虫が大嫌い。紗季は常に自分を諌め皆の安全を確保しようとしていた。元はと言えばそれらを無視する形で自分のわがままを押し通し、その結果として彼女たちを巻き込んでしまったのだから、自分が一番リスクを侵さなければならないだろう。
「私が奥まで行くから!」
たまの返事を待たず、佳織はなるべく無事そうな足場を選んで廊下の先へと進んでいった。
菜月は一階にいるだろうか。二階は危険だと彼女も分かっているはずだが、理由さえあれば危険を顧みない性格だ――校舎内を進みながらも、佳織は菜月が行きそうなところを考え続けた。
未だ菜月が何故ここに戻ってきたのか佳織には分からない。だが倒壊の危険のある場所に自分たちとの合流を待たずに一人で入っていったということは、それだけ緊急度が高いのだろう。となれば、いつ足元が崩れるか分からない上階に向かっていたとしてもおかしくはない。
(どうか無事で……!)
怪談云々以前に危険な場所なのだ。自分のせいで友人に何かあったらと思うと気が気ではなかった。
菜月がどんな目的でここに来たかも分からないため、佳織は教室などを覗き込むだけではなく机や椅子などのゴミでできた物陰も探していった。ゴミ同士の間に人が入れそうな隙間を見つければ、自分の手が汚れるのも厭わずそれをどかして菜月がいないことを確認する。
そうして菜月を探して旧校舎の中を駆け回っていると、微かに「ここ!」という声が佳織の鼓膜を震わせた。慌てて声の方へと向かえば、上階へと続く階段の陰から私服姿の菜月が出てくるところだった。
「ッ菜月! もうっ……心配したんだから!」
思わず菜月に飛びつけば、「わっ!」と驚いたような声が上がる。それでも佳織は菜月を抱き締める腕の力を緩めることができず、目から溢れてくる安堵の涙を抑えるので精一杯だった。
旧校舎に行きたいと言い出したのは自分だが、友人を傷つけたかったわけではない。だから菜月が一人で旧校舎に行ってしまったと分かった時は強い焦燥感を抱いたのだ。もし菜月が怪我をしてしまったら。もし何も知らない菜月が、自分のいないところでかくれんぼを始めてしまったら。
そんな恐怖を感じた瞬間、佳織は昨日の自分の行動を恥じた。紗季には何度も怪談の続きを話すべきではないかと言われたのに、自分の気持ちを優先してそれに従わなかったのだ。そのせいで紗季にあたってしまったのは否めない。あんなこと、少しでもこの怪談を信じているなら言うべきではなかったのに。
(戻って紗季に謝らないと……)
菜月から身体を離して歩きだそうとした時、「紗季は?」と菜月が声を上げた。
「紗季? 一緒に来てるけど……」
「本当? よかったぁ……」
心底安堵したと言わんばかりの菜月の様子に、佳織は首を傾げる。一体どうしたのかと聞こうとした瞬間、ギシ、と床板の軋む音がしてその疑問は頭の隅に追いやられた。
「あ、菜月いた!」
そこには自分たちの声を聞きつけたのか、廊下からこちらを覗き込むたまがいた。
彼女もまた顔に安堵を浮かべ、「心配したんだよぉ」と言いながら菜月の元へと駆け寄る。
「亜美たちに連絡しないと」
たまは菜月に怪我がないことを確認すると、スマートフォンを取り出しながらもと来た方へと佳織たちを促し歩き出した。だが数歩進んだところで、菜月が「ねえ」と声を上げる。
「紗季って今日スマホ忘れた?」
「え? どうだろう……そんなことは言ってなかったけど……」
菜月の質問にたまがううんと首を捻る。
「さっきからどうしたの? 妙に紗季のこと気にしてるけど……」
佳織が尋ねると、菜月は苦笑いしながら「考えすぎだったんだけどさ」と話しだした。
「昨日、紗季が『もういいよ』って答えるの聞いた気がしたんだよね。気の所為だと思ってたんだけどさ、たまが私に『もういいかい?』って何度も言ったか聞いてきたから、もしかして何かいたんじゃないかって……。もしそうなら、紗季はその何かに答えちゃったかもしれないじゃん? だから……」
自信なさそうに言う菜月に、たまが怪訝な表情を向ける。
「そんなの紗季本人に聞けばよくない? ――あ、紗季がスマホ忘れたってそういうことか」
「そうそう、連絡つかなくて」
「なら私に聞いてくれればよかったのに」
「そうなんだけどさ……」
言い淀みながら、菜月は佳織を一瞥した。その視線の意味が分からなかった佳織は内心動揺しつつも、「どうしたの?」と平静を装う。
「その……実は紗季にちょっと聞いちゃったんだよね、怪談の続き。勿論全部じゃないよ? 紗季も佳織の邪魔するつもりはなかったみたいで」
(ああ、それで……)
だから菜月は自分の様子を窺ったのだ、と佳織は胸を撫で下ろした。自分があの怪談の続きを別の機会に取っておきたいと話していたのを知っているから、それを抜け駆けするような形で紗季から聞いてしまった菜月は後ろめたさを感じているのだろう。
佳織がそう納得していると、たまが「怪談がどうしたの?」と菜月に話の続きを促していた。
「えっと……紗季は『答えたらいけない』って。何に答えたらいけないのかは聞いても教えてくれなかったんだけど、状況的にみんなが聞いた『もういいかい?』って声のことなんじゃないかと思ってさ」
「確かに……」
菜月の言いたいことが分かったのか、たまは少しだけ気味の悪そうな表情を浮かべた。
「でもさ、それこそ私に紗季のこと聞いてくれれば解決したんじゃない? 何も起こってないって」
たまが思いついたように言ったが、菜月は「いや……」と眉間に力を入れる。
「私が紗季から聞いてたのはもう一つあってさ……『答えると閉じ込められる』っていうの。だから本当自分でも馬鹿だと思うんだけど、てっきり紗季は閉じ込められちゃったんじゃないかと思ってそこまで考えられなかったんだよね」
「……ってことは、全部菜月の考えすぎだったってこと?」
不満そうな口調に反して、たまの顔には安堵が浮かんでいた。
それを見た菜月も申し訳なさそうにしながら、「だから考えすぎだったんだって」と言って自分のスマートフォンを取り出す。
「見てこれ。紗季、昨日のかくれんぼ中からメッセージ見てな――ってうわ、こんなに探してくれてたんだ」
メッセージアプリを開いた菜月は、今初めて自分に送られた大量のメッセージに気が付いたらしい。「ごめん、見てなかった」と言いながら、改めて「昨日から紗季、メッセージ見てないんだよ」と言い直した。
「なんで紗季が見てないって分かるの?」
「ほらここ、既読三件しかない。いつもだったら四件つくはずなのにさ。まあこれだけだと私の後に送ってる亜美以外の誰かは分からないから紗季に連絡したんだけど、いくらメッセ送っても返事が来なかったから……」
たまの問いに、グループチャットの画面を見せながら菜月が答える。
「それにさっきからここに送ってた二人ももう自動的に既読になってるはずだから、やっぱり見てないのは紗季だったんだよ」
「あ、そっかぁ。でも紗季の返事待ってるならもっとちゃんとスマホ見てよ。すごく心配したんだから」
「ごめんって。個別にも何回も送っててそれでも返事ないからさ、もう『わー!』ってなっちゃって自力で探す方に集中しちゃったというか……みんなにまで心配かけたのは完全に私の落ち度です」
そう真面目な口調で言いながら、菜月は深々と頭を下げた。
「まあ菜月はそういうことあるから仕方ないけどさぁ……。でも個別に送っても返事ないってことは、やっぱり紗季はスマホなくしちゃったのかな? さっきから紗季だけどこを探したって書き込んでくれないし」
不思議そうに言うと、たまは「とりあえず亜美に菜月見つかったって言うね」とスマートフォンを手に、少し前に文字を打ってあった送信前のメッセージを二人に見せた。
「待って」
それまで黙って二人のやり取りを聞いていた佳織は、無意識のうちにたまの腕を掴んでいた。たまは驚いたようにしながら、「言っちゃ駄目なの?」と首を傾げている。
違う、そうじゃない。考える時間が欲しい――そう伝えることすらできないくらい、佳織の頭の中は混乱していた。
菜月の耳を信じるならば、紗季は「もういいよ」と答えたのだ。だが自分はそれを紗季の口から聞いていない。
それなのに彼女は昨日何事もなかったかのように現れたし、今日も普通に自分たちと過ごしていた。ということは、やはり菜月の聞き間違いで紗季は答えていないのだろうか――そんなことを考えながら佳織は自分のスマートフォンを取り出し、紗季からの最後のメッセージを確認した。
『とにかく後でちゃんと話し合おうよ』
(――……違う)
その瞬間、佳織はそう確信した。
何故なら自分は昨日から紗季に話しかけられていない。口頭で話しづらいからアプリ上でやり取りしたいのだとしても、スマートフォンを失くしたと紗季が言わないはずがない。
紗季の性格を考えれば、彼女がこの言葉を反故にするはずがないのだ。
『閉じ込められている間は入れ替わっちゃうの』
脳裏に蘇った言葉に、どくどくと心臓が激しく騒ぎ立てる。無理にそれを落ち着けようとして表情が不自然に強張る。
そんな自分を心配してか、菜月たちが「佳織……?」と呼ぶ声が聞こえたが、佳織はそれどころではなかった。
「……紗季じゃない」
「え?」
「あれは紗季じゃない! 初音ちゃんだ!」
佳織は興奮で声を荒らげた。
紗季は答えたのだ、あの声に――この旧校舎にいる少女、初音に。
(本当だったんだ……!)
自分が聞いた怪談は事実だったのだ。紗季は今頃きっと初音とかくれんぼをしているはず。昨日は半信半疑だったせいで断念したが、初音とかくれんぼができると分かれば選択肢は一つだけ。
「みんなでかくれんぼしよう、初音ちゃん!」
佳織の嬉々とした声が、朽ちかけた旧校舎内に響き渡った。
菜月を探しに皆でやって来た旧校舎。校舎内に入るなりそう提案した佳織は、自然とゴミが散乱した方へと足を向けた。
昨日こちらに行かなかったのは、明らかに入りづらいと思ったからだ。それは壊れた机などのゴミが散らかっているせいでもあるし、隙間から覗く廊下の床板の状態が目に見えて悪いというのもある。
上に物があるせいで水はけが悪いのだろうか。頭上にも反対側と比べて蜘蛛の巣が多いのは、肝試しに訪れる者たちも無意識にこちら側を避けるからだろうか。ならばその分危険も多いのでは――ふと浮かんだ考えを佳織は振り払った。
危険だろうが何だろうが、自分がこちらに行くべきなのだ。亜美は怖いものが苦手で、たまは虫が大嫌い。紗季は常に自分を諌め皆の安全を確保しようとしていた。元はと言えばそれらを無視する形で自分のわがままを押し通し、その結果として彼女たちを巻き込んでしまったのだから、自分が一番リスクを侵さなければならないだろう。
「私が奥まで行くから!」
たまの返事を待たず、佳織はなるべく無事そうな足場を選んで廊下の先へと進んでいった。
菜月は一階にいるだろうか。二階は危険だと彼女も分かっているはずだが、理由さえあれば危険を顧みない性格だ――校舎内を進みながらも、佳織は菜月が行きそうなところを考え続けた。
未だ菜月が何故ここに戻ってきたのか佳織には分からない。だが倒壊の危険のある場所に自分たちとの合流を待たずに一人で入っていったということは、それだけ緊急度が高いのだろう。となれば、いつ足元が崩れるか分からない上階に向かっていたとしてもおかしくはない。
(どうか無事で……!)
怪談云々以前に危険な場所なのだ。自分のせいで友人に何かあったらと思うと気が気ではなかった。
菜月がどんな目的でここに来たかも分からないため、佳織は教室などを覗き込むだけではなく机や椅子などのゴミでできた物陰も探していった。ゴミ同士の間に人が入れそうな隙間を見つければ、自分の手が汚れるのも厭わずそれをどかして菜月がいないことを確認する。
そうして菜月を探して旧校舎の中を駆け回っていると、微かに「ここ!」という声が佳織の鼓膜を震わせた。慌てて声の方へと向かえば、上階へと続く階段の陰から私服姿の菜月が出てくるところだった。
「ッ菜月! もうっ……心配したんだから!」
思わず菜月に飛びつけば、「わっ!」と驚いたような声が上がる。それでも佳織は菜月を抱き締める腕の力を緩めることができず、目から溢れてくる安堵の涙を抑えるので精一杯だった。
旧校舎に行きたいと言い出したのは自分だが、友人を傷つけたかったわけではない。だから菜月が一人で旧校舎に行ってしまったと分かった時は強い焦燥感を抱いたのだ。もし菜月が怪我をしてしまったら。もし何も知らない菜月が、自分のいないところでかくれんぼを始めてしまったら。
そんな恐怖を感じた瞬間、佳織は昨日の自分の行動を恥じた。紗季には何度も怪談の続きを話すべきではないかと言われたのに、自分の気持ちを優先してそれに従わなかったのだ。そのせいで紗季にあたってしまったのは否めない。あんなこと、少しでもこの怪談を信じているなら言うべきではなかったのに。
(戻って紗季に謝らないと……)
菜月から身体を離して歩きだそうとした時、「紗季は?」と菜月が声を上げた。
「紗季? 一緒に来てるけど……」
「本当? よかったぁ……」
心底安堵したと言わんばかりの菜月の様子に、佳織は首を傾げる。一体どうしたのかと聞こうとした瞬間、ギシ、と床板の軋む音がしてその疑問は頭の隅に追いやられた。
「あ、菜月いた!」
そこには自分たちの声を聞きつけたのか、廊下からこちらを覗き込むたまがいた。
彼女もまた顔に安堵を浮かべ、「心配したんだよぉ」と言いながら菜月の元へと駆け寄る。
「亜美たちに連絡しないと」
たまは菜月に怪我がないことを確認すると、スマートフォンを取り出しながらもと来た方へと佳織たちを促し歩き出した。だが数歩進んだところで、菜月が「ねえ」と声を上げる。
「紗季って今日スマホ忘れた?」
「え? どうだろう……そんなことは言ってなかったけど……」
菜月の質問にたまがううんと首を捻る。
「さっきからどうしたの? 妙に紗季のこと気にしてるけど……」
佳織が尋ねると、菜月は苦笑いしながら「考えすぎだったんだけどさ」と話しだした。
「昨日、紗季が『もういいよ』って答えるの聞いた気がしたんだよね。気の所為だと思ってたんだけどさ、たまが私に『もういいかい?』って何度も言ったか聞いてきたから、もしかして何かいたんじゃないかって……。もしそうなら、紗季はその何かに答えちゃったかもしれないじゃん? だから……」
自信なさそうに言う菜月に、たまが怪訝な表情を向ける。
「そんなの紗季本人に聞けばよくない? ――あ、紗季がスマホ忘れたってそういうことか」
「そうそう、連絡つかなくて」
「なら私に聞いてくれればよかったのに」
「そうなんだけどさ……」
言い淀みながら、菜月は佳織を一瞥した。その視線の意味が分からなかった佳織は内心動揺しつつも、「どうしたの?」と平静を装う。
「その……実は紗季にちょっと聞いちゃったんだよね、怪談の続き。勿論全部じゃないよ? 紗季も佳織の邪魔するつもりはなかったみたいで」
(ああ、それで……)
だから菜月は自分の様子を窺ったのだ、と佳織は胸を撫で下ろした。自分があの怪談の続きを別の機会に取っておきたいと話していたのを知っているから、それを抜け駆けするような形で紗季から聞いてしまった菜月は後ろめたさを感じているのだろう。
佳織がそう納得していると、たまが「怪談がどうしたの?」と菜月に話の続きを促していた。
「えっと……紗季は『答えたらいけない』って。何に答えたらいけないのかは聞いても教えてくれなかったんだけど、状況的にみんなが聞いた『もういいかい?』って声のことなんじゃないかと思ってさ」
「確かに……」
菜月の言いたいことが分かったのか、たまは少しだけ気味の悪そうな表情を浮かべた。
「でもさ、それこそ私に紗季のこと聞いてくれれば解決したんじゃない? 何も起こってないって」
たまが思いついたように言ったが、菜月は「いや……」と眉間に力を入れる。
「私が紗季から聞いてたのはもう一つあってさ……『答えると閉じ込められる』っていうの。だから本当自分でも馬鹿だと思うんだけど、てっきり紗季は閉じ込められちゃったんじゃないかと思ってそこまで考えられなかったんだよね」
「……ってことは、全部菜月の考えすぎだったってこと?」
不満そうな口調に反して、たまの顔には安堵が浮かんでいた。
それを見た菜月も申し訳なさそうにしながら、「だから考えすぎだったんだって」と言って自分のスマートフォンを取り出す。
「見てこれ。紗季、昨日のかくれんぼ中からメッセージ見てな――ってうわ、こんなに探してくれてたんだ」
メッセージアプリを開いた菜月は、今初めて自分に送られた大量のメッセージに気が付いたらしい。「ごめん、見てなかった」と言いながら、改めて「昨日から紗季、メッセージ見てないんだよ」と言い直した。
「なんで紗季が見てないって分かるの?」
「ほらここ、既読三件しかない。いつもだったら四件つくはずなのにさ。まあこれだけだと私の後に送ってる亜美以外の誰かは分からないから紗季に連絡したんだけど、いくらメッセ送っても返事が来なかったから……」
たまの問いに、グループチャットの画面を見せながら菜月が答える。
「それにさっきからここに送ってた二人ももう自動的に既読になってるはずだから、やっぱり見てないのは紗季だったんだよ」
「あ、そっかぁ。でも紗季の返事待ってるならもっとちゃんとスマホ見てよ。すごく心配したんだから」
「ごめんって。個別にも何回も送っててそれでも返事ないからさ、もう『わー!』ってなっちゃって自力で探す方に集中しちゃったというか……みんなにまで心配かけたのは完全に私の落ち度です」
そう真面目な口調で言いながら、菜月は深々と頭を下げた。
「まあ菜月はそういうことあるから仕方ないけどさぁ……。でも個別に送っても返事ないってことは、やっぱり紗季はスマホなくしちゃったのかな? さっきから紗季だけどこを探したって書き込んでくれないし」
不思議そうに言うと、たまは「とりあえず亜美に菜月見つかったって言うね」とスマートフォンを手に、少し前に文字を打ってあった送信前のメッセージを二人に見せた。
「待って」
それまで黙って二人のやり取りを聞いていた佳織は、無意識のうちにたまの腕を掴んでいた。たまは驚いたようにしながら、「言っちゃ駄目なの?」と首を傾げている。
違う、そうじゃない。考える時間が欲しい――そう伝えることすらできないくらい、佳織の頭の中は混乱していた。
菜月の耳を信じるならば、紗季は「もういいよ」と答えたのだ。だが自分はそれを紗季の口から聞いていない。
それなのに彼女は昨日何事もなかったかのように現れたし、今日も普通に自分たちと過ごしていた。ということは、やはり菜月の聞き間違いで紗季は答えていないのだろうか――そんなことを考えながら佳織は自分のスマートフォンを取り出し、紗季からの最後のメッセージを確認した。
『とにかく後でちゃんと話し合おうよ』
(――……違う)
その瞬間、佳織はそう確信した。
何故なら自分は昨日から紗季に話しかけられていない。口頭で話しづらいからアプリ上でやり取りしたいのだとしても、スマートフォンを失くしたと紗季が言わないはずがない。
紗季の性格を考えれば、彼女がこの言葉を反故にするはずがないのだ。
『閉じ込められている間は入れ替わっちゃうの』
脳裏に蘇った言葉に、どくどくと心臓が激しく騒ぎ立てる。無理にそれを落ち着けようとして表情が不自然に強張る。
そんな自分を心配してか、菜月たちが「佳織……?」と呼ぶ声が聞こえたが、佳織はそれどころではなかった。
「……紗季じゃない」
「え?」
「あれは紗季じゃない! 初音ちゃんだ!」
佳織は興奮で声を荒らげた。
紗季は答えたのだ、あの声に――この旧校舎にいる少女、初音に。
(本当だったんだ……!)
自分が聞いた怪談は事実だったのだ。紗季は今頃きっと初音とかくれんぼをしているはず。昨日は半信半疑だったせいで断念したが、初音とかくれんぼができると分かれば選択肢は一つだけ。
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