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第4章 勇者の剣と剣の巫女

第216話 その勇気は誰が為に?

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「もういい、とはどういうことじゃ。訳を申してみよ。」


 サヨちゃんはまだ収まらない怒りを表情に残したまま、俺に顔を向ける。自分を非難するのが許せないんだろう。


「アイツを責めても事態は良くならない。そう思わないのか?」

「そなた、妾の立場をわかった上で言っておるのだろうな?」


 そうでなければ、消し炭にでもするぞ、と言わんばかりの刺すような視線を俺に向ける。でも、俺は逃げずにまっすぐサヨちゃんの視線を受け止める。


「わかっているさ。サヨちゃんは竜帝の後継者で、その責務は誰よりも重い。俺達人間じゃ想像もつかないくらいに。その使命から逃げずに跡を継いだからアイツのことが許せないんだろう?」

「……。」


 サヨちゃんは無言で相変わらず、俺に視線を向けている。視線の強さは変わらないが、感情が少し和らいだような気がする。


「サヨちゃんは継ぐまでに時間の猶予はかなりあったはずだ。その間に竜帝の責務の事や自分の事をじっくり考えることは出来たはず。多分、竜帝もそれをわかった上で色々サヨちゃんの好きなようにさせてくれてたんじゃいのか?」

「……。」


 まだ断片的な情報しかないが、サヨちゃんは世界中を旅して、魔法の勉強をしたり、歴代の勇者達にも会っていた。それはサヨちゃん自身も語っていたし、他の人からも聞いた。


「サヨちゃんは恵まれていたんだよ。でも、アイツは違う。サヨちゃんみたいに時間がなかったんだと思う。アイツは自分でやりたいことがいっぱいあったんだと思う。でも、いきなり巫女にならないといけなくなった。巫女になってしまったら、自分の心に蓋をして生きていかないといけなくなる。それに耐えられなかっただろうな。」

「そうじゃな。そなたの言いたいことはわからなくもない。」


 サヨちゃんは俺の話を聞いているうちに落ち着きを取り戻したようだ。しかし……、


「でも、そなたはどうするつもりなのじゃ?自らの剣を手に入れる事も敵わず、魔王にどう立ち向かうつもりじゃ?」

「魔王か……。そんなことよりも先にやることがあるだろ?魔王自身も猶予をくれてるんだ。急がなくても逃げやしないだろうさ。」


 そう、やることがある。俺にしかできない、勇者の俺にしか出来ないことがある。


「アイツを…ミヤコを救いに行く。苦しんでる人一人を救えないようじゃ、勇者を名乗る資格はないからな!」
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