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第二十二章 森のほとり
4 奥様の目覚め
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4 奥様の目覚め
ーーおくさま
誰かが、僕の肩を揺すっている。
遠慮がちに、おそるおそる。
僕は目を開けた。
「……奥様?!」
目の前には、懐かしい顔があった。
「マフ!」
マフはびっくりしたように飛び退いた。
ーーあれ?
僕もちょっとした違和感に戸惑う。
「マフ……?」
もう一度マフを呼ぶ。
何だか、自分の声じゃないみたい。
いがらっぽくて、野太い声。
「お、お許しを」
マフもマフで、いつものような笑顔を返してはくれない。なんだか怯えたように僕を見ている。
僕は仰向けに倒れていた。マフの背後には青空が広がっているものの、辺りは一面の雪景色。
「ここは……?」
懐かしい、針葉樹の森の湿った匂い。寝そべったまま、僕は辺りを見回した。
「僕の家だ!」
僕は勢いよく起きあがろうとした。
「うっ!」
腰が痛い。髪も背中も、雪に埋もれて痛いほど冷たい。そんでもって、体の節々が痛い。
「だ、大丈夫ですか、奥様」
マフは僕に手を貸してくれた。僕はその手を取ろうとして、動きを止める。
「どうしました?」
僕の手?
5本の腸詰肉の先に赤い唐辛子みたいなのが刺さってるけども。これは、指かな?
指先から手のひらに至るまでお肉パンパン。根元にはいくつかの宝石。指輪がめり込んでいるんだ。
「いや……あれ?」
思わずぐーちょきぱーを作ってみる。ちゃんと言う事を聞く。やっぱり、これは僕の手なんだね?
指輪を一つ一つ眺める。黒に緑に、猫目石。どれもツヤツヤの美しい宝石だけど、ケイトのくれた指輪ではなかった。
両腕を持ち上げて、まじまじと眺める。僕の腕はこんなに逞しかったっけ? 腕というより、太ももみたいだ。
褐色がかったなめらかな腕。外側の皮膚は香油を塗り込んだみたいに艶々と光っていた。
「大丈夫ですか?」
マフがかがみ込んで、僕を助け起こしてくれる。僕のお腹も腰もトドみたいにだぶついて丸くて、簡単には持ち上がらない。マフは重たそうに息を切らした。
僕は呆然としていた。事態が飲み込めない。けれど、四苦八苦して僕を起こそうとしているマフがさすがに気の毒になった。
「ありがとう、大丈夫だよ」
マフは目を丸くして僕を見た。
「よっこらしょ!」
僕は掛け声をかけて立ち上がった。全身でお肉が波打つ感覚によろける。骨という骨の周りに、お布団を巻き付けられてるみたいだ。
「奥様、頭を打ったのではありませんか?」
僕を支えてくれながら、マフは言った。
「おくさまって……?」
僕はぼんやりとマフを見る。いつもより低い位置にマフの顔がある。
そういえば、さっきからマフは僕のことを、おくさまって呼ぶけれど。
「えっ! もしかして!」
首から下を見下ろす。まだ雪の残る季節だというのに、黒いドレスの襟元は大胆に開いている。日焼けした豊かな谷間には、大きなルビーのネックレスが傾いて乗っかっている。
ーーナイスバディとお言い!
ザクロさんの声が脳裏にこだまする。僕は思わず胸を押さえた。
「な、ないすばでぃ……」
「は?」
マフが変な目で僕を見てる。僕はその灰色の目を覗き込んで、僕の面影を探した。マフは涙ぐみ、なぜか許しを乞いながらブルブル震えた。
「は、はい! ナイスバディでございます……」
僕は自分の顔を手でまさぐる。むちっとした手触り。あごのラインがどこにもない。丸い鼻に、分厚い唇。
間違いない。
「僕っ……ザクロさんになってる?!」
ーーおくさま
誰かが、僕の肩を揺すっている。
遠慮がちに、おそるおそる。
僕は目を開けた。
「……奥様?!」
目の前には、懐かしい顔があった。
「マフ!」
マフはびっくりしたように飛び退いた。
ーーあれ?
僕もちょっとした違和感に戸惑う。
「マフ……?」
もう一度マフを呼ぶ。
何だか、自分の声じゃないみたい。
いがらっぽくて、野太い声。
「お、お許しを」
マフもマフで、いつものような笑顔を返してはくれない。なんだか怯えたように僕を見ている。
僕は仰向けに倒れていた。マフの背後には青空が広がっているものの、辺りは一面の雪景色。
「ここは……?」
懐かしい、針葉樹の森の湿った匂い。寝そべったまま、僕は辺りを見回した。
「僕の家だ!」
僕は勢いよく起きあがろうとした。
「うっ!」
腰が痛い。髪も背中も、雪に埋もれて痛いほど冷たい。そんでもって、体の節々が痛い。
「だ、大丈夫ですか、奥様」
マフは僕に手を貸してくれた。僕はその手を取ろうとして、動きを止める。
「どうしました?」
僕の手?
5本の腸詰肉の先に赤い唐辛子みたいなのが刺さってるけども。これは、指かな?
指先から手のひらに至るまでお肉パンパン。根元にはいくつかの宝石。指輪がめり込んでいるんだ。
「いや……あれ?」
思わずぐーちょきぱーを作ってみる。ちゃんと言う事を聞く。やっぱり、これは僕の手なんだね?
指輪を一つ一つ眺める。黒に緑に、猫目石。どれもツヤツヤの美しい宝石だけど、ケイトのくれた指輪ではなかった。
両腕を持ち上げて、まじまじと眺める。僕の腕はこんなに逞しかったっけ? 腕というより、太ももみたいだ。
褐色がかったなめらかな腕。外側の皮膚は香油を塗り込んだみたいに艶々と光っていた。
「大丈夫ですか?」
マフがかがみ込んで、僕を助け起こしてくれる。僕のお腹も腰もトドみたいにだぶついて丸くて、簡単には持ち上がらない。マフは重たそうに息を切らした。
僕は呆然としていた。事態が飲み込めない。けれど、四苦八苦して僕を起こそうとしているマフがさすがに気の毒になった。
「ありがとう、大丈夫だよ」
マフは目を丸くして僕を見た。
「よっこらしょ!」
僕は掛け声をかけて立ち上がった。全身でお肉が波打つ感覚によろける。骨という骨の周りに、お布団を巻き付けられてるみたいだ。
「奥様、頭を打ったのではありませんか?」
僕を支えてくれながら、マフは言った。
「おくさまって……?」
僕はぼんやりとマフを見る。いつもより低い位置にマフの顔がある。
そういえば、さっきからマフは僕のことを、おくさまって呼ぶけれど。
「えっ! もしかして!」
首から下を見下ろす。まだ雪の残る季節だというのに、黒いドレスの襟元は大胆に開いている。日焼けした豊かな谷間には、大きなルビーのネックレスが傾いて乗っかっている。
ーーナイスバディとお言い!
ザクロさんの声が脳裏にこだまする。僕は思わず胸を押さえた。
「な、ないすばでぃ……」
「は?」
マフが変な目で僕を見てる。僕はその灰色の目を覗き込んで、僕の面影を探した。マフは涙ぐみ、なぜか許しを乞いながらブルブル震えた。
「は、はい! ナイスバディでございます……」
僕は自分の顔を手でまさぐる。むちっとした手触り。あごのラインがどこにもない。丸い鼻に、分厚い唇。
間違いない。
「僕っ……ザクロさんになってる?!」
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