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与えられた新たな任務は(3)
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「元々、奴は教育に熱心なエージェントだった。退職する際、出身だった高知県帆堀町のはずれにある広大な土地を買って学校を建てた。海が近くにある荒ら地だったが、奴のおかげでずいぶん周辺は綺麗になってな。地域発展に貢献して大学まで建てた」
遠くを見つめるような目で語った後、ナンバー1は柔らかかった声色を尖らせて「連絡があったのは最近だったが」と話を戻すように言った。
「奴はうちからの年金で、発展途上国に新たに学校を建てて教師もやっている。今年の二月に出発して、一昨日帰ってきたらしい。久しぶりに連絡を受けたと思ったら、妙な事になっていると相談があった。学園敷地内に、大量のヘロインが持ち込まれている、とな」
ナンバー1が言葉を切ると、タイミングを見計らったようにリザが動いた。
机の上に並べられたのは、衛星から映された画像と学校敷地内の見取り図だった。二つの正門が設けられた、高等部校舎と大学校舎が同じ敷地内にある学校だ。
南東に正門を置いた高等学校、北西に正門を置いた大学校舎があり、双方を分け隔てるように細長い庭園が設けられていた。高等学校に対して大学校舎は広く、途中から庭園を遮るように伸びている一階部分は大学職員室となっている。
高等学校は正門から運動場が広がり、北側に体育館とテニスコート、南側に職員車両用出入り口が設けられた駐車場があった。そこから大学校舎に突き進む事は出来ず、間に庭園を置いた先に大学側が同じような駐車場を設けているが、広さはその倍以上はある。
北西に門を構えた大学校舎には、平坦なコンクリートの駐車場が校舎前から西側に向けて続いていた。高等学校二つ分の厚みがある校舎を置き、北側にあけたスペースに体育館と二つのテニスコートに加え、小さな広場を持った憩いの場を設けてある。
渡り廊下のように張り付いた大学校舎の職員室と管理室の横から、北東に伸びる高等学校校舎がそこからは見える。学校敷地内を取り囲む塀にぴったりと張り付いているので、そこから高等部側へ入る事は出来ない。
「理事であり、今は高等学校の校長を務める尾崎の不在の間に、誰かが大量のヘロインを持ち込んだ。大学生の中に使用者が出始めているようだが、それはどうやら覚せい剤らしい。吸引、注射の形跡がない事から口内摂取だろう。持ちこまれているのはヘロインであるにも関わらず、出回っているのが覚せい剤だというのも気になる」
ヘロインは、アヘンから作られる麻薬の中で「薬物の女王」と呼ばれるほど強力な薬物である。強烈な快楽と禁断症状があり依存性も強い。確実に身体をぼろぼろにするヘロインは世界でも厳重に取り締まられている代物だが、薬物の愛好家たちの人気は絶えない。
今年に入って中国で使用者、検挙者ともに急増したというニュースが放送されたのは最近の事である。
価格も薬物の中では一番高価で、特に東アジアのものは純粋で値が高く、国外のマフィア、国内の暴力団組織の資金源とされている。薬物中毒を表す言葉に「ジャンキー」というものがあるが、これは本来ヘロイン中毒を指すものである。
「うちがマークしている東京の金融会社があるが、これから接触がありそうな気配がある。ヘロインは仕入れられたあと、合成麻薬として改良されると推測している」
ナンバー1は断言したが、その表情は神妙だった。
本来ヘロインなどの麻薬は、興奮を抑制するダウナー系に分類されている。覚せい剤はアッパー系と呼ばれ強い興奮作用がある薬物だ。覚せい剤は麻薬とは別ルートで入って来るといわれており、それが同時に同じ場所にある事には疑念が募る。
机に置かれた学園見取り図には、赤い印が付けられた倉庫があった。両校舎の駐車場の間に挟まれた、細い庭園の南西側だ。
「ここに、大量のヘロインがあるっていうんですか?」
見取り図を眺めながら、雪弥は疑う口ぶりだった。ナンバー1は一つ肯き、新しい葉巻を取り出す。
「大学にも高等学校にも、保管庫の役目をした地下倉庫がある。とはいえ、その印がついた場所は改増築前の旧地下倉庫らしくてな。使わなくなった古い道具や資料を少し置いているばかりで、今ではほとんど開けられる事もなく利用されていない。出入りするほどの用もないとの事で、その上に別の倉庫を置いていたようだ」
その簡易倉庫の床部分に、旧地下倉庫に入るための出入り口が収納されているが、現在通っている学生でそれを把握している者はいない。そのため、その上にも道具が積まれているらしい。
「尾崎は、赤外線フィルター内臓の透視機器を眼鏡に仕込んでいる。それで麻薬を確認したらしい」
「ずいぶん物騒な理事長ですね」
「ヘロインはまだ異物混入のされていない純白純正で、国内でそれだけの量が一か所に保管されているのも初めての事だ。自分の領地の異変に気付いて痕跡を辿った先を見て、尾崎はさぞかし驚いただろうな。理事の立場としてどうしたらいいのか分からないと、あいつらしかぬ困った声色だった。私も、それを聞いて驚いた側だが」
雪弥の言葉を無視して、ナンバー1はシガーライターで葉巻に火をつけ、つらつらと話しを続ける。
「あれだけのヘロインを持ち込めるとなると、東京の犯罪組織とは他にも、別の大きなグループがいそうだ。現在中国で大量のヘロインが広まっている事もあり、国外からの密輸業者は中国経由だと見て間違いない」
とはいえ、――と彼はそこで葉巻の煙を口の中に転がし、それを吐き出してからしばし思案してこう言った。
「小さい組織には、やはりそのような手配も用意もまず出来ん。裏にどんなグループが付いているのかは未知数だが、いまのところ、東京の奴らがうまい事その組織をそそのかして手引きしていると推測される。東京で起こっている例の薬物事件と繋がっている可能性が高いせいで、尾崎の要望に早急に対処する事も出来ん状況だ」
ナンバー1は、そこで射抜くような眼孔を雪弥へと向けた。
「東京の方では私が直々に動いているが、その学園に潜入し、情報収集を行いながら動いてくれるエージェントが欲しい。今回はいろいろと腑に落ちない点が多すぎてな、早急に事件の全容を把握したいのだ。そして、大本を叩く時そこも一掃する。国に害がある危険性が浮き彫りになった場合は、違法薬物といえど、うちのやり方で全て消すつもりだ。とにかく、情報が欲しい」
威厳ある重々しい決定指示の後、室内に沈黙が降りた。
リザが近くで静かに控える中、雪弥は、しばし彼の目を見つめ返していた。彼は緊張するわけでもなく、思案するような間を置いて口を開く。
「なるほどね、理事や校長としてその尾崎さんという人は動けない。いや、これからも尾崎理事、尾崎校長として居続けるためにも動いちゃいけないわけですね。それで、手っとり早くあなたに依頼を投げたわけですか」
言って、雪弥は溜息をついた。
その向かいでは椅子に身を沈めたナンバー1が、平然と葉巻の煙をくゆらせている。東京で大きな事件に携わっているとは思えないほど、彼はいつもと変わらぬ様子に戻っていた。
遠くを見つめるような目で語った後、ナンバー1は柔らかかった声色を尖らせて「連絡があったのは最近だったが」と話を戻すように言った。
「奴はうちからの年金で、発展途上国に新たに学校を建てて教師もやっている。今年の二月に出発して、一昨日帰ってきたらしい。久しぶりに連絡を受けたと思ったら、妙な事になっていると相談があった。学園敷地内に、大量のヘロインが持ち込まれている、とな」
ナンバー1が言葉を切ると、タイミングを見計らったようにリザが動いた。
机の上に並べられたのは、衛星から映された画像と学校敷地内の見取り図だった。二つの正門が設けられた、高等部校舎と大学校舎が同じ敷地内にある学校だ。
南東に正門を置いた高等学校、北西に正門を置いた大学校舎があり、双方を分け隔てるように細長い庭園が設けられていた。高等学校に対して大学校舎は広く、途中から庭園を遮るように伸びている一階部分は大学職員室となっている。
高等学校は正門から運動場が広がり、北側に体育館とテニスコート、南側に職員車両用出入り口が設けられた駐車場があった。そこから大学校舎に突き進む事は出来ず、間に庭園を置いた先に大学側が同じような駐車場を設けているが、広さはその倍以上はある。
北西に門を構えた大学校舎には、平坦なコンクリートの駐車場が校舎前から西側に向けて続いていた。高等学校二つ分の厚みがある校舎を置き、北側にあけたスペースに体育館と二つのテニスコートに加え、小さな広場を持った憩いの場を設けてある。
渡り廊下のように張り付いた大学校舎の職員室と管理室の横から、北東に伸びる高等学校校舎がそこからは見える。学校敷地内を取り囲む塀にぴったりと張り付いているので、そこから高等部側へ入る事は出来ない。
「理事であり、今は高等学校の校長を務める尾崎の不在の間に、誰かが大量のヘロインを持ち込んだ。大学生の中に使用者が出始めているようだが、それはどうやら覚せい剤らしい。吸引、注射の形跡がない事から口内摂取だろう。持ちこまれているのはヘロインであるにも関わらず、出回っているのが覚せい剤だというのも気になる」
ヘロインは、アヘンから作られる麻薬の中で「薬物の女王」と呼ばれるほど強力な薬物である。強烈な快楽と禁断症状があり依存性も強い。確実に身体をぼろぼろにするヘロインは世界でも厳重に取り締まられている代物だが、薬物の愛好家たちの人気は絶えない。
今年に入って中国で使用者、検挙者ともに急増したというニュースが放送されたのは最近の事である。
価格も薬物の中では一番高価で、特に東アジアのものは純粋で値が高く、国外のマフィア、国内の暴力団組織の資金源とされている。薬物中毒を表す言葉に「ジャンキー」というものがあるが、これは本来ヘロイン中毒を指すものである。
「うちがマークしている東京の金融会社があるが、これから接触がありそうな気配がある。ヘロインは仕入れられたあと、合成麻薬として改良されると推測している」
ナンバー1は断言したが、その表情は神妙だった。
本来ヘロインなどの麻薬は、興奮を抑制するダウナー系に分類されている。覚せい剤はアッパー系と呼ばれ強い興奮作用がある薬物だ。覚せい剤は麻薬とは別ルートで入って来るといわれており、それが同時に同じ場所にある事には疑念が募る。
机に置かれた学園見取り図には、赤い印が付けられた倉庫があった。両校舎の駐車場の間に挟まれた、細い庭園の南西側だ。
「ここに、大量のヘロインがあるっていうんですか?」
見取り図を眺めながら、雪弥は疑う口ぶりだった。ナンバー1は一つ肯き、新しい葉巻を取り出す。
「大学にも高等学校にも、保管庫の役目をした地下倉庫がある。とはいえ、その印がついた場所は改増築前の旧地下倉庫らしくてな。使わなくなった古い道具や資料を少し置いているばかりで、今ではほとんど開けられる事もなく利用されていない。出入りするほどの用もないとの事で、その上に別の倉庫を置いていたようだ」
その簡易倉庫の床部分に、旧地下倉庫に入るための出入り口が収納されているが、現在通っている学生でそれを把握している者はいない。そのため、その上にも道具が積まれているらしい。
「尾崎は、赤外線フィルター内臓の透視機器を眼鏡に仕込んでいる。それで麻薬を確認したらしい」
「ずいぶん物騒な理事長ですね」
「ヘロインはまだ異物混入のされていない純白純正で、国内でそれだけの量が一か所に保管されているのも初めての事だ。自分の領地の異変に気付いて痕跡を辿った先を見て、尾崎はさぞかし驚いただろうな。理事の立場としてどうしたらいいのか分からないと、あいつらしかぬ困った声色だった。私も、それを聞いて驚いた側だが」
雪弥の言葉を無視して、ナンバー1はシガーライターで葉巻に火をつけ、つらつらと話しを続ける。
「あれだけのヘロインを持ち込めるとなると、東京の犯罪組織とは他にも、別の大きなグループがいそうだ。現在中国で大量のヘロインが広まっている事もあり、国外からの密輸業者は中国経由だと見て間違いない」
とはいえ、――と彼はそこで葉巻の煙を口の中に転がし、それを吐き出してからしばし思案してこう言った。
「小さい組織には、やはりそのような手配も用意もまず出来ん。裏にどんなグループが付いているのかは未知数だが、いまのところ、東京の奴らがうまい事その組織をそそのかして手引きしていると推測される。東京で起こっている例の薬物事件と繋がっている可能性が高いせいで、尾崎の要望に早急に対処する事も出来ん状況だ」
ナンバー1は、そこで射抜くような眼孔を雪弥へと向けた。
「東京の方では私が直々に動いているが、その学園に潜入し、情報収集を行いながら動いてくれるエージェントが欲しい。今回はいろいろと腑に落ちない点が多すぎてな、早急に事件の全容を把握したいのだ。そして、大本を叩く時そこも一掃する。国に害がある危険性が浮き彫りになった場合は、違法薬物といえど、うちのやり方で全て消すつもりだ。とにかく、情報が欲しい」
威厳ある重々しい決定指示の後、室内に沈黙が降りた。
リザが近くで静かに控える中、雪弥は、しばし彼の目を見つめ返していた。彼は緊張するわけでもなく、思案するような間を置いて口を開く。
「なるほどね、理事や校長としてその尾崎さんという人は動けない。いや、これからも尾崎理事、尾崎校長として居続けるためにも動いちゃいけないわけですね。それで、手っとり早くあなたに依頼を投げたわけですか」
言って、雪弥は溜息をついた。
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