最強風紀委員長は、死亡フラグを回避しない

百門一新

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序章 悪魔と半悪魔体の少年

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 悪魔は、人間の魂を食らうために闇から現れる悪の化身、といわれていた。

 聖書に語られる神とは違い、悪魔は永遠の時を生きることは出来ない。存在を存続させるためには、強い魔力を持った人間の魂が必要で、神の加護を持つ人間の魂は、条件を揃えないと取り出すことが出来ない――とされている。

 悪魔が人間の体から魂を取り出すには、『宣誓契約』でゲームの内容とルールを定め、対象の人間との勝負に勝たねばならない。

 それが絶対のルールだった。

 けれど、それはある時までは、ただの言い伝えでしかなかった。悪魔という存在は、聖書で伝えられているばかりで実物も実体も確認されてはいなかったのだ。誰もが、語り継がれる本の中の話だと思いながら、神や天使や奇跡の存在だけを信じていた。

 だが、とうとう≪一匹の悪魔≫が、月食と共に降臨し孤島にある学園に降り立った。

 初めて存在が確認された悪魔と対峙したのは、『皇帝』一族の嫡子だ。悪魔に『宣誓契約』を迫られた彼は、慎重にゲームのルールを定め、自分の将来の配下となる信頼のおける友人らと共に『宣誓契約』を承認した。

 戦いは最後まで決着がつかず、悪魔は『宣誓契約』の勝敗が付かなかったことで強制封印が掛かり、月食の闇に封印された。

 それからというもの、未だ有効である『宣誓契約』再戦の封印が解ける百年ごとに、悪魔はゲームに勝つため学園に降り立つことになった。

 その学園で、百年ごとに繰り広げられるようになった悪魔との戦いが、現在の聖アリスト教会学園の『月食の悪魔』の全てである。

 血によって交わされる『宣誓契約』は、同じ血を引く人間に代々継がれるため、学園にいる次期『皇帝』が百年に一度悪魔と戦った。悪魔は人間の寿命感覚の常識がないため人間の顔の識別がきかないらしく、次代『皇帝』が当主から譲り受けるペンダントを目印に、子孫たちに勝負を挑んだ――という。

 そのたび、多くの優秀な若者が、戦いによる被害を受けて命を落とした。そして『宣誓契約』で手を貸すことを許された末裔の生徒たちも、次代の『皇帝』を守るために命を落としていった。

 悪魔の身体は、強い魔力と異質な細胞によって構成されており、『宣誓契約』に定められていない人間の攻撃は無効化されてしまう。そのため『宣誓契約』に参加しなかった者たちが加勢に入れない現状が、彼らの死亡率を圧倒的に高めてもいた。
 
 国は悪魔によって繰り返される惨事に終止符を打つべく、分析と研究を続けた。学園の建つ孤島で繰り広げられた戦いで、共通の友人や肉親を殺された者たちの怨みや正義感は、研究をより大規模なものへと押し上げて、それはとうとう、非人道的な対悪魔兵器の開発にまで発展した。

「『月食の悪魔』については緘口令が敷かれ、悪魔との戦いを定められた『次期皇帝』と、彼に仕える聖剣士の一族の末裔たち、そして歴史によって悪魔に肉親を奪われた人間たちの子孫だけが知っている。――つまりは、知らない一般人の方が圧倒的に多い。出来るだけ、余計なことを悟らせないよう行動しろ」

 血と黴の匂いが満ちる地下研究施設の牢で、繰り返し語られる『月食の悪魔』の話。それを聞いて育ったその少年は、最近は同じ注意事項ばかりを述べるなと思いながら、またしても語る研究者の男の顔を見つめていた。

 太陽の日射しを知らない白過ぎる肌、色素の抜け落ちた銀色の髪。その少年の赤い瞳は、育った薄暗く血生臭い環境を思わせない、どこか無邪気な輝きも宿っており、それを環境牢屋の外にいた大人たちが威圧的に睨みつけていた。

「お前は、悪魔を殺すべくマーシャが命を掛けて産み落とした『半悪魔』であり、自分が兵器であることを忘れるな」
「悪魔の血液を媒介に生まれたお前の身体は、十八までは生きられないだろう。身体の半分を占める悪魔細胞は、人間の細胞組織を巻き込んで、通常の数十倍の速さで分裂と再生を続けている」
「我々は、この日のために多くの子供と大人を犠牲にしてきた。失敗は許されないぞ」

 死刑者が、国王の指示で次々と地下施設へ送られ、それを半悪魔として生み出された少年たちが戦闘実験で殺してきた。研究機関は強い半悪魔体を選別するため、実験体同士でも常に殺し合いをさせていた。

 そうして残った、たった一人の半悪魔体の少年。

 実験体の中で、一際輝く銀髪をしたその少年は、少し考えるように視線を泳がせてコテンと首を傾げた。

「あんたらは、俺が最後の頼みの綱だと言うけどさ。まぁ確かに、俺が最後まで生き残った実験体ではあるけど、失敗したらどうすんの?」
「優秀な成功体であるお前は、失敗しない。悪魔細胞を完全活性すれば、七日七晩は戦える」
「うーん、でもさ、悪魔が目覚めるのはまだ先なんだろう? 途中で編入すればいいのに、なんで入学から潜伏待機しなきゃならないんだ?」
「違和感なく溶け込むためだ。諜報部と連絡が取れても不自然でない立ち場を用意してある。うまく動くんだぞ。裏切れば――」
「裏切るつもりはないから安心しろよ。折角ご指名頂いたんだから、顔も知らない母親に『親孝行』ってのも悪くない」

 破損しなかった臓器はないほど訓練は厳しかった。しかし、少年は世話を焼いてくれた一部の研究者たちの事は好きだった。

 喜ぶべきは、もう仲間や人間を殺さなくてもいい、という事だろう。

 研究と調査によって、悪魔は快楽的な殺戮衝動を持っている事が分かっていた。その細胞を半分受け持った半悪魔体については、それが人間に向かないよう徹底して教育され、破壊と殺戮の衝動が悪魔に向くよう改良されている。

 勿論、教育と改良の途中で失敗したモノは、すぐに処分された。彼は仲間達がそうやって狂い、『処分』されていくのも実際に見てきた。

「これから、お前は『上』でトム・サリファンの息子として、半年間の実地研修で地上生活に慣れてもらう。問題がなければ予定通り、聖アリスト教会学院に入学だ――いいな、『ナンバー03』」
「了解」
「なお現時点より、お前の名は『サード』となる。あとの細かい設定は『上』に向かいながら説明する」

 少年は話を聞きながら、次に与えられた名前が、旧帝国語で数字の三を意味する言葉であると分かって、適当過ぎやしないかと笑いが込み上げそうになった。しかし、蔑む目を持った研究者たちは、不真面目な態度を取られることを嫌うと知っていたので、彼は笑いを堪えて、従順そうに押し黙る振りをしたのだった。
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