最強風紀委員長は、死亡フラグを回避しない

百門一新

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六章 悪魔降臨(1)

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 エミルがいた運動場の隅には、ロイが見物人として座っていた。全員が顔を合わせたところで、彼がサードへ顔を向けて偉そうに口を開いてこう言った。

「そっちは、ようやく終わったのか。少し遅かったな」
「…………お前、椅子代わりにしているそれ、理事長の石像じゃねぇの? つか、これって中庭の噴水の方に建っていたやつだよな?」

 そこは、エミルの爆破地点から少し離れた場所だった。ロイは自分の聖剣を地面に突き立て、そこに転がっていた大きな石像に腰かけていた。

 美麗な理事長の顔を見事に模した石像で、彼はその顔部分を躊躇なく尻に敷いている状態だ。実のところお前理事長が嫌いというか、苛々した鬱憤分を晴らすみたいに座っているんじゃ、とサードは指を向けて口にしてしまう。

 だがロイは、そんなサードの意見を無視した。東側校舎の『死食い犬』を一掃した後、エミルが爆音で騒ぎ立てているのに気付き、魔獣を引き寄せるのではないかと推測して途中から合流したのだと語る。

 どうやら生徒会メンバーは、前もって自分たちの担当区分を決めていたらしい。まるで遠足気分で報告するロイとエミルの話を聞きながら、サードは「はぁ」「なるほど」と間の抜けた相槌を打つことしか出来なかった。

「途中でエミルが、中庭を吹き飛ばしたのが見えてな。その時に、石像が宙を舞うのが見えたが、まさかここに落ちているとは予想外で発見した時は笑ってしまった。思った以上に魔獣の数もなかったから、後半はエミルの爆破を見物していたわけだ」
「『死食い犬』って、わざわざ向こうからやってきてくれるから、すっごく楽だったよ!」

 魔法陣の描かれた緑色の腰袋をさげたエミルが、少々煤をつけた顔に、疲れの知らない良い笑顔を浮かべてそう言った。

 言いたいことは色々と浮かんだが、サードはひとまず冷静になるべく、まずは理事長と同じ顔をした石像が、ロイの尻に敷かれている光景から目をそらした。

 生徒会メンバーが、ロイを中心に呑気にも報告会を始めてしまったので、そっと離れて頭上の太陽を仰ぎ見る。ほぼ欠けてしまった太陽は、日差しがほとんど遮られて辺りは随分と薄暗くなっていた。

 笑うような細い三日月形をした太陽の向こうに、血を騒ぎ立てる存在の気配を濃厚に感じた。この状況をどうしたらいいのだろうと、サードは引き続きその件について悩まされる。

 ロイ達がいる状況は、正直に言えば好ましくなかった。ソーマは既に頬や腕に浅い裂傷が見られるし、平気そうなロイやエミルと違って、制服が擦り切れた程度のユーリスとレオンも多少なりに『死食い犬』を相手にした疲労感も滲んでいた。

 結界に閉ざされた学園内は、これから外界とは違う時間が長く流れる。彼らの戦闘能力が人間側お墨付きの高さであろうと、体力的な問題から長期戦は確実に不利になっていくことが想像された。

 所詮は、生身の人間なのだ。数日間という時間を、休まずに戦い続けられるとは到底思えない。

「よし。やっぱりお前らは全員、保健室に閉じこもってろ」

 サードは、ビシリと指を向けてそう断言した。その途端に、ロイが片眉を上げて首を傾げてこう言い返す。

「何を言っているんだ、お前は?」

 ロイだけでなく、他の生徒会メンバーも皆「?」と同じような表情である。

 かなり腹が立つ光景である。余計に苛々したサードは、この計画は『一人の犠牲も出さないために練られたものである』ことを説明した。戦うのは『兵器である自分』の役割であり、ここにお前らがいるのが、かなりおかしな状況なのだ、と遠慮せず言い聞かせた。

「つまり、テメェらに大きな怪我をされたり、瀕死の重傷を負われたり。とくに、うっかり死なれでもしたらめちゃくちゃ困るんだよ――分かったか?」

 最後はそうまとめて、キッパリと言い聞かせるように告げてやった。

 すると、レオンが呆れたように「あなた、話を聞いていましたか?」と、実に不可解だと言わんばかりに眉を顰めてきた。

「悪魔と一緒に『死食い犬の年長者』が待機している可能性がありますから、私たちで『皇帝』をしっかりサポートするという手順を、今さっき、話し合ったばかりでしょう」
「なんか年長者って言い方が嫌だな……。というか、お前ら俺の話をちっとも聞いてないし理解してもいないな!? しかもッ、俺はつい直前のテメェらの話し合いには参加してねぇよ! それに『私たち』ってなんだ、俺は聖騎士じゃねぇし、部下になった覚えもないんだけど!?」

 チクショーこいつらマジで埋めたいッ。

 サードは思いのままに言葉を吐き出すと「ぐぅ」と頭を抱えた。揃いも揃って、とにかく扱いにくいったらありゃしない。人の話くらい聞けよ、と引き続き口の中で忌々しげに愚痴ってしまう。

「頭を抱えるよりも先に、とっとと『首飾り』を返せ。もうお前が持っていても意味がないだろう」

 こちらの意見など聞く耳を持たないと言わんばかりに、膝の上で頬杖をついたロイが、余った方の手を差し出してきた。

 どうやら引く気は微塵もないらしい。サードは頭を上げると、ロイ達を一緒くたに見つめ返したところで、思わず深い溜息を吐いた。

「……あのな、悪魔を確実に殺すために俺がいるのであって、あんたらには事が終わるまで、どっかに隠れていて欲しいんだけど――」
「断る」

 話を途中で遮られてしまい、サードは大きく肩を落とした。レオンが馬鹿を見るみたいな顰め面を向けてきて「諦めの悪い人ですね」と言ってきたので、目も向けずに「うるせぇ」と文句を答え返した。

 彼らを戦いに参加させない方法はないものだろうか。そう思いながら、心底残念そうに溜息を吐いて渋々『皇帝の首飾り』をロイに返した。

 すると、何かに気付いたように、ロイがそっと秀麗な眉を寄せた。

「お前、自分の剣はないのか」
「基本的に肉弾戦だから、支給されてねぇけど?」
「剣術もAの成績だっただろう。慣れている武器があれば貸してやるぞ」
「いらねぇよ。一通り武器は扱えるけど、今は肉体の性能が全部上がってるから、力加減を慣らさないと武器の方が砕けるぜ。前にトム・サリファンの剣をぶっ壊して、すげぇしつこく追い駆け回された」

 トム・サリファンの屋敷には、いくつかの剣が飾られていた。その一本の持ち手を握り潰してしまった事があり、その際に「もし家宝にしている剣だったらどうする」「武器は使い手にとって相棒なんだから簡単に壊すんじゃないッ」と、物を大事にしろと説教されたのだ。

 ロイが、訝しむようにユーリス達へ視線を投げた。実際にサードの戦いを見ていた面々が、素手で問題ないと応えるように頷き返す。

「ふうん、まぁいい。――お前、サリファン子爵を、普段はそう呼んでいるのか?」
「紹介された時から、ずっとそう呼んでる。俺、家名とかよく知らなかったから、名前が『トムサリファン』だと思っててさ。それで、呼び方が定着したんだ」

 サードが答えるそばで、ソーマが「本当に家族じゃないんだ……」と呟いた。日食の様子を確認したレオンが、ふと思い出したように目を戻して尋ねた。

「そういえば、兎の姿をしていた私に『三番目のサード』と名乗っていましたが、本名はないんですか?」

 その問いを聞いた一同の視線が、一斉にサードへと集まった。まじまじと観察するような眼差しに居心地が悪くなって、思わず後ずさってしまう。

「なんだよ……。別にどうだっていいだろ?」
「サード君。実はさ、俺たちは理事長に呼ばれて、続き部屋で二人の話しを聞かせてもらっていたんだよね。名前の件に関しては、俺も個人的に気になっていたんだ」

 ユーリスが、肩をすくめてあっさりとそう言った。

 あの時の物音は、お前らだったのかよとサードは苛々して思った。勝手に彼らに計画を明かして協力をした理事長にも腹が立ってきて、もう隠す必要もないのだとやけになった口調でこう答えた。

「名前なんてねぇよ。物心ついた時は『被検体番号580』、成功検体になったら『ナンバー03』って付けられた。入学の半年前に『サード・サリファン』の名前が用意されたけど、まんま三番目だなって思った。それだけ」

 無駄な質問しやがって、と睨み付けると、ユーリスが「なるほどねぇ」と相槌を打った。

「言われてみれば、『サード』って『三番目』って意味だ」
「感心されてんのか、馬鹿にされてんのか分かんねぇ面だぞ、会計。――まぁ、トム・サリファンも『そのまんまだな』って笑い飛ばしてた。説教する時も追い駆け回す時も、しつこいくらい呼んでくるから、俺も今じゃ『サード』って名前がすっかり身に馴染んだというか」

 お前はサードだぞ、と彼はよく口にしていた。

 わざとそうしている事に途中で気付いていたが、自分は知らない振りをしたのだったと、サードは今更になってそんな事を思い出した。

 サードという名前の『人間』なのだと、トム・サリファンは態度で示した。彼はいつだって対等にぶつかってきて、こちらを道具や兵器として扱おうとしなかった。

 その時、世界から光が消えた。

 不意に訪れた暗黒は、すぐに回復した。再び視界に映し出された景色は、嵐の前触れのように紫かかっていて、ひっそりと静まった不穏な学園敷地内の様子を浮かび上がらせていた。

 全身の血が、ピリピリと騒ぎ出すのを感じた。頭上へ目を向けてみると、そこには完全な日食を迎えた太陽があって――

 ああ、とうとうこの時が来たのだと、サードはそう思った。
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