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9章 旅は新たなステージへ(3)
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「俺だって鬼じゃねぇからな。運転出来ないようなら、乗る時にそう言うだろうと待ってたら、こいつが文句も言わずに運転席についちまったから、そのまま運転させてやったんだよ」
「突っ込みどころを逃したんだよ! お前が、あんまりにも自然にクロエを受け取るから、俺、どうしたらいいか分かんなくなっちゃうでしょう!?」
「でも、エル君って免許が取れる年齢だったんだねぇ。僕は、そこにびっくりしちゃったよ」
「信じてなかったのッ? 俺、子どもじゃないって初めから言ってたけど!?」
すると、スウェンが数秒間、笑顔のまま沈黙した。その後ろでは、セイジが「え」と出た声を押さえるように、さっと口に手をあてて黙りこんだ。
しばらくして、スウェンが唐突に踵を返した。
「さっ、ここから向こうが次のエリアだよ。皆、心して突入するように」
爽やかな笑顔で逃げられた。エルは、心の中で「畜生」と嘆いた。長い付き合いをする訳でもないのだから、実際年齢を明かす必要はないのかもしれないが、こう見えても二十歳であるのだ。
本当の年齢ぐらい、訊いてくれたっていいんじゃないか?
次の機会があれば、真っ先に年齢を主張しよう、とエルはそう心に決めた。
目の前には、相変わらず暗い国道が続いていたが、スウェンが宙に触れると、途端に景色は光りの壁に遮られた。
まるで水が立っているように、その表面は滑らかに波打ち、眩しい光を反射させていた。
「ここを乗り越えれば、五番目のセキュリティー・エリアだ。空間としての完成度は、ここから高くなるらしいから、十分気を付けていこう」
完成度が高くなる、と聞いて、エルはこの世界で感じていた違和感について理解出来た気がした。つまり、五感に触れる感覚がリアルにもなる、という事なのだろう。
スウェンが先に光りの壁に足を踏み入れて、続いて、セイジが光りの向こうへと飲み込まれていった。
エルは、次の世界に何が待ち構えているか分からないと思い、念の為ボストンバックを抱え持った。鞄の口から顔を覗かせているクロエと目を合わせ、「用意はいい?」と尋ねる。
すると、後ろからログが「早く行けよ」と、エルの背中を靴の裏で押した。
エルは、心の準備も出来ないまま、目まぐるしい光りの洪水の中に投げ出された。飛び蹴りでエリアを超えてしまった事に対して、ログは根を持っていたのだろうと察し、エルは「子供かッ」と突っ込んだ。
エルは光りの洪水に揉まれながら、ログに文句の一つでも言ってやろうと考えていたのだが、次の瞬間、眩しい日差しと空の青さが目を焼いて、怒りを忘れた。
到着した世界は、とても眩しかった。身体中に降り注ぐ太陽の熱や、吹き抜ける海風の涼しさを鮮明に覚えて、エルは、ゆっくりと瞬きする間に考えた。
青い空には夏の雲が流れ、斜面を下った先には広大な海が広がり、長閑でリアルな美しさがエルの五感に突き刺さる。
「……ここ、どこ? というか、本当に仮想の世界なのか?」
エルはそう呟き、額に浮かび出した汗を拭った。
「突っ込みどころを逃したんだよ! お前が、あんまりにも自然にクロエを受け取るから、俺、どうしたらいいか分かんなくなっちゃうでしょう!?」
「でも、エル君って免許が取れる年齢だったんだねぇ。僕は、そこにびっくりしちゃったよ」
「信じてなかったのッ? 俺、子どもじゃないって初めから言ってたけど!?」
すると、スウェンが数秒間、笑顔のまま沈黙した。その後ろでは、セイジが「え」と出た声を押さえるように、さっと口に手をあてて黙りこんだ。
しばらくして、スウェンが唐突に踵を返した。
「さっ、ここから向こうが次のエリアだよ。皆、心して突入するように」
爽やかな笑顔で逃げられた。エルは、心の中で「畜生」と嘆いた。長い付き合いをする訳でもないのだから、実際年齢を明かす必要はないのかもしれないが、こう見えても二十歳であるのだ。
本当の年齢ぐらい、訊いてくれたっていいんじゃないか?
次の機会があれば、真っ先に年齢を主張しよう、とエルはそう心に決めた。
目の前には、相変わらず暗い国道が続いていたが、スウェンが宙に触れると、途端に景色は光りの壁に遮られた。
まるで水が立っているように、その表面は滑らかに波打ち、眩しい光を反射させていた。
「ここを乗り越えれば、五番目のセキュリティー・エリアだ。空間としての完成度は、ここから高くなるらしいから、十分気を付けていこう」
完成度が高くなる、と聞いて、エルはこの世界で感じていた違和感について理解出来た気がした。つまり、五感に触れる感覚がリアルにもなる、という事なのだろう。
スウェンが先に光りの壁に足を踏み入れて、続いて、セイジが光りの向こうへと飲み込まれていった。
エルは、次の世界に何が待ち構えているか分からないと思い、念の為ボストンバックを抱え持った。鞄の口から顔を覗かせているクロエと目を合わせ、「用意はいい?」と尋ねる。
すると、後ろからログが「早く行けよ」と、エルの背中を靴の裏で押した。
エルは、心の準備も出来ないまま、目まぐるしい光りの洪水の中に投げ出された。飛び蹴りでエリアを超えてしまった事に対して、ログは根を持っていたのだろうと察し、エルは「子供かッ」と突っ込んだ。
エルは光りの洪水に揉まれながら、ログに文句の一つでも言ってやろうと考えていたのだが、次の瞬間、眩しい日差しと空の青さが目を焼いて、怒りを忘れた。
到着した世界は、とても眩しかった。身体中に降り注ぐ太陽の熱や、吹き抜ける海風の涼しさを鮮明に覚えて、エルは、ゆっくりと瞬きする間に考えた。
青い空には夏の雲が流れ、斜面を下った先には広大な海が広がり、長閑でリアルな美しさがエルの五感に突き刺さる。
「……ここ、どこ? というか、本当に仮想の世界なのか?」
エルはそう呟き、額に浮かび出した汗を拭った。
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