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二話 『長女と、次女』
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「……」
ピピピピ。ピピピピ。
脇に挟んでいた体温計を取り出し、自分の目の前に出してみた。
「あちゃー……」
父の勘は当たっていた。
37.3℃。紛れもない風邪だ。
我武者羅に料理をしている時は気付かないものだったが、こうして家に入って落ち着くと身体が重りをつけたようにズシンと重い。
春になり暖かくなったはずなのに寒気がして、未だにしまっていないコタツの中に入って動けない。
「うー……。やっぱり、具合悪くなったか……」
タイミングの悪さを呪う。まさか合宿客がいる金曜の夜なんかに風邪を引くとは。
体調が悪いかも、と話すと母はすぐに家に帰って休んでいろと言ってくれた。既に夕食は出来上がっていて、あとはお客さんがきて出すだけだから、と。
父と母、それに悠の三人……。後片付けと明日の朝食の準備。出来なくはないだろうけれど… かなり大変になるのは分かっている。
無理にでも出たほうがいいのではないか、という罪悪感は渦巻く。
しかしもしこの風邪がもっと悪化したのなら……それこそお客さんに移るようなものであったのなら、一大事だ。厨房に入るワケにはいかない。
今は休む事を優先しなくては。もし治れば……明日の朝食の手伝いくらいは出来るかもしれない。
「……ううう……」
しかしまだ、家の風呂の掃除すらしていない。
汗だけでもさっと流して身体を暖めて眠りたいところだが、そのためにコタツから出るのすら寒くてやりたくない。
民宿のお風呂にこっそり入るコトもたまにあるけれど、それはお客さんがいない時だけ。今日は学生の団体。夜中までは使えない。
外にスポーツドリンクも買いにいきたいし、風呂が駄目ならせめてコタツではなく布団をしいて眠りたい。欲を言えば湯たんぽや水枕を…。
……。
「よ、よーし……1,2の3で出るぞぉぉ……」
私は覚悟を決めて、コタツから出ようとした。
「1,2の……」
……。
「駄目だぁぁぁあああ……」
一度私をとらえたコタツという魔物は、そうそうに私を逃してくれはしなかった。
意識が遠のく。身体が休息と眠りを欲しているのが分かる。
……眠い。でも……こんなところで寝たら、それこそ汗をかいて風邪が悪化する。
駄目だ。
寝ては……いけ……な……
その時。
「あれ?姉貴?」
ぼやけた視界にうつったのは、ジャージ姿の妹、夏の姿だった。
「……なつ……」
部活が終わって、帰ってきたのか……。もうそんな時間……。
「どうしたんだよ、顔赤いぞ?……うわ、おでこ熱いじゃん」
心配して駆け寄ってくる妹。額を当ててくれ、私はその冷たさにしばし気持ちよさを感じた。
「……かぜひいたみたい……」
「おいおい、大丈夫かよ。こんなところで寝てないで、寝室いくぞ?ほら、歩ける?」
……差し出された夏の手を私は遠のく意識の中で受け取り、ゆっくりと立ち上がった。
「……さむい……」
家の中の空気がまるで冬のように冷たく感じた。
私の腕を肩に回して、夏は私の身体を抱えるように支えてくれた。
……いつの間に、こんなにたくましくなったのだろう。わたしのいもうとは。
「無理しすぎだよ姉貴は。明日土曜で良かったな、ゆっくり休んでろよ?」
「……でも、おきゃくさん、いっぱいいるし……」
「母さんも父さんもいるだろ。こんな状態でなにバカ言ってるんだよ。いいからぐっすり寝てろ」
「……でも……」
「あー分かった分かった。アタシ手伝うから。それで大丈夫だろ?」
「……でも……なつ、あしたもぶかつ……」
「いいから心配すんな。……ほら、ついたぞ。横になれる?」
「……うん……」
氷のように冷たい自分の布団に、倒れるように横になる。
「今氷嚢と湯たんぽ用意してくるから。寒いだろうけど、ちょっと我慢してろよ?」
「……ありがと……。ごめんね、なつ……」
「なんで謝るんだよ。いいから。目、つぶって、ほら」
……わたしは、うすれていく目の中で……。
たくましくなった私の妹と……小さい頃の、なつのわたしのおもいでの、りょうほうを見ていた。
――
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