民宿『ヤマガミ』へ ようこそっ!

ろうでい

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六話 『好きなものは、好き』

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――

翌日の学校は、上の空もいいところだった。
昨日観た特撮ドラマ『装甲剣士 ジンバ』の主役……ジンバの変身姿が頭から離れない。

戦う姿。佇む姿。変身した直後の姿。……全てかっこいい。なんであんなにかっこいい姿がこの世にあるんだろう。そう思う程に、かっこいい。

……はあ。
しかし、それだけを想っていても、心のモヤモヤは晴れない。所詮彼は、テレビの中の存在で……アタシの手には届かないのだから。
どうしたら、この消化不良な気持ちを解消できるのだろう。
誰か、一緒にジンバの事を語れる友達を探せばいいのか?いっそジンバのファンサイトでも探ってみるか?それとも……。

どうしたら、ジンバの存在がアタシの近くにきてくれるのかな。
窓の外の、珍しく晴れ晴れした六月の空を見ながら、その事だけが頭の中でグルグルと渦まいていた。


「……ね、夏センパイ、かっこいいよねー」

「ホント。その辺の男子より断然、山賀美センパイだよー!背も高いし、スタイルもいいし、顔もかっこいいし……!」

「あああ……いっそ告ってみようかな……。やっぱこうしてみてるだけでマジで惚れてくる……」

「抜け駆けしないでよねー。……あー、窓の外見て考え事してるセンパイもイケメンでかっこいいー……」

「何考えてるのかな?やっぱ陸上のコトなのかな……?」


……最近、アタシの教室の入り口に何故か一年生がうろついている事が多い。今日は三人ほどの女子が二つある入り口の一つで、何やら話をしていた。
それに気付くとサッと隠れたりヒソヒソ話をされたりするので、どうもやりづらいのだが……。まさかアタシの事で来ているワケでもないだろうし、気にしなくていいだろう。

そんな事よりジンバだ。
どうしたら、彼に近づく事が出来るのだろう。

いっそ将来的に考えればいいのだろうか。制作会社に就職したり、カメラマンになったり……スーツアクターになって、ジンバのスーツを……。

……。

ジンバを。 アタシが、 着るのか……。

やばい。鼻血が出る。想像しただけでクラクラしてきた……。


「わ、なんかちょっと辛そうな顔……」

「きっと陸上で伸び悩んでるのよ……。悩んでる顔もかっこいいわぁ……」

「なにやってもかっこいいからスゴイのよねぇ……。あーホント神だわー……癒しだわー……」


……いや、しかし……スーツアクターになると言っても、数年後の話になるワケだ。
つまりその頃には『装甲剣士 ジンバ』は恐らく番組終了になり、きっと別の番組になっているはず。

基本的に特撮ドラマは何でもイケるのだが、ジンバへの思い入れは格別。人生で最ものめり込んでいると言っても過言ではない。
遠い将来の事より、とにかく今。特撮ドラマは一年スパンが基本で、ジンバは放送を開始して一カ月……。残り十一カ月でどうジンバに踏み込んでいくのか。
アタシはどう彼に向き合っていけばいいのか。それが問題だった。

……ふう。いくら考えても、その答えは出てこなかった。



「腕組みして考え事してる……。なんか、ホントステキ……」

「テレビの俳優見てる気分だわぁ……ずっと見てられる」

「あーもうセンパイと一日デートしてずっと眺めてたい……」

「私陸上部入ろうかなぁ。そうすればセンパイの事ずっと見てられるし」

「あー、ずるいー。ならあたしも入るー」

「じゃあわたしもー」


……。

ホント、なんか盛り上がってるな、あの一年生たち。
一体何話してるんだろ。


――


その答えは、突然やってきた。

金曜日、部活終わりのアタシは……家でたまたまテーブルの上にあったチラシが目に留まり、それを慌てて取り、その写真と文字を見つめた。


『日曜日特別イベント! あの大人気ヒーロー 『装甲剣士 ジンバ』がNIOMニオムにやってくる!』


「… マジか…」

NIOMとは、この近くにある大型のショッピングモールの事だ。
田舎で、土地だけはたくさんあるこの地域に数年前出来た大きな商業施設でこの民宿からは車で10分、自転車なら1時間以内というところにある。

服や小物、それにスーパーマーケットで買い物をするのがほとんどの用事だが、時折、子ども向けにこういうイベントを行っているのは知っていた。

しかしまさか…。


『装甲剣士 ジンバ』の、ヒーローショーをやっているとはっ……! 盲点だった……!


これだ。
ここ数日悩んでいた事への回答は、これしかない。

ジンバに実際に会う事。それしかなかった。

スーツマニアのアタシにとって、中身がどーだとか声が違うとかはどうでもいい。
目の前に、動くジンバがいる。それだけでアタシの欲求は満たされる。絶対に。

次の日曜。時間は……昼過ぎの15時開始。NIOM一階の吹き抜けのステージで行われるらしい。

絶対に行こう。部活があるが、仮病でもなんでも使ってその日は絶対に休む。
例え台風が吹き荒れようが、どんな事をしてでも自転車でNIOMにたどり着いてやる。
アタシの……この欲求への答えを、見つけるために。


……しかし、問題が、一つだけある。

それは……。


日曜日。

南桑村の村民は……NIOMに買い物に来る確率が、非常に高いのであった。

近隣に数年前に出来た大型商業施設。土日は村民の憩いの場となり、例え用事がなくてもNIOMは周辺屈指のレジャースポットと化している。
それは、大人に限った話ではない。ウチの中学校の知り合いも、NIOMに買い物に来ている可能性が大いにあるのだ。

広い施設とはいえ、モール中心部のメインステージに居るアタシが発見される危険性も、はっきり言ってかなり高い。
正直、この趣味が人に堂々と言える趣味かと言えば……ノーだという自覚は、ある。出来れば、隠しておいて、ひっそりと楽しみたい。

しかし、だからと言ってヒーローショーを捨てるという選択肢は絶対にやめたい。
生でジンバのスーツを拝めるチャンス。しかも遠出をしたりせず、すぐ近くのモールで。お金の節約にもなるわけだ。
絶対に行きたい。

…………。

小一時間、アタシは考えた挙句に、一つの結論に達する。


「……よし。……助けを、借りよう」


――
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