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宝石魔術

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「今のはいったい……」

「あれは宝石魔術さ。色によってその強さが変わってね、サファイアなら“打撃”ほどの力。エメラルドなら“斬撃”と同等……ルビーなら“大砲”となる。
 ダイヤモンドなら計り知れない力を発揮するよ。あと黄金もね」


 あの衝撃は、剣の斬撃に匹敵するんだ。
 だから、あんな衝撃で伯爵を吹き飛ばしたんだ。嵐のような凄い威力だった。

 お店の中へ戻り、エゼル様は気を使って椅子を出してくれた。


「ありがとうございます」
「安静にするんだ、ファウスティナ。君の足の捻挫はまだ治っていないのだから」

「はい、大人しくしています。……ところで、エゼル様はどうしてこのようなお店を? 失礼ですが、公爵様ならわざわざお店を開く必要はないのでは」

「魔術師の家系に生まれた僕は、不自由なく生活を送れた。でも、それは与えられたものだ。自分で得たものではない。
 だからね、僕は自分の力で何かを成し遂げたかったんだ」


 なんて素晴らしい。
 帝国の上流貴族は裕福すぎるが故に、一生安泰と言われているほどなのに。
 なにもしなくとも自由な生活を送れる。

 なのに、彼は違った。

 公爵という爵位をお持ちなのに、身分に囚われない生活をしていた。そんな彼が少し遠く感じた。

 ……わたしは貧しい環境から、あの栄光のような日々を手に入れた。黄金が全てを変えてしまった。


 権力、欲望……。
 腐敗していく身の回り。

 うんざりだった。


 わたしは、誰かの“道具”ではない。
 意思を持ち、己の幸せを願うただの少女。

 なのに。


 ――なら、わたしは自分で自分の道を決める。


「エゼル様、わたしも何かをしてみたい」
「ファウスティナ……」
「微力ながら、お店を手伝わせて欲しいのです。お願いです。一生懸命働きますから」

「……分かった」
「本当ですか!」

「君のその真っ直ぐな視線に負けたよ。よろしく」


 微笑んで握手を求めてくるエゼル様。
 わたしはドキドキしながらも手を重ねた。

 大きくてたくましい右手。

 ちょっと顔が熱くなった。


「よろしくお願いします」
「ファウスティナ、顔が赤いよ?」
「……ッッ! だ、だ、大丈夫です。ちょっと疲れているのかもしれません」

「そうか。なら、二階のベッドまで運んであげるよ」
「ちょ、ちょぉ……」


 またお姫様抱っこされてしまった。
 エゼル様の包容力には……負ける。

 丁寧に、
 繊細に、

 僅かな揺れもなく、わたしを運んでくれる。

 時折見せてくれる熱い眼差し。

 この人と一緒にいたい……そう思えてきた。


 わたし、どうしたの……?


 この感じたことのない胸の高鳴りは何なの。
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