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第25話 皇剣
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「へえ、経験値クリスタルの商売をね」
エドウィンは、俺の話にずっと耳を傾けていた。興味深そうに相槌を打っては、ご満悦の様子だった。
「というわけで、金銭面の補助はこちらで何とかなる。あんまり、お世話になるわけにもいかないからな」
「素晴らしい心がけだよ。そうやって自ら稼ぐ、それは悪くない事だし、ちゃんとした労働の対価だ。レイジ、これからはどうする?」
そう聞かれ、俺はやっぱりこれしかないと思った。
「不穏分子の排除かな」
「いいねえ、そうしてくれるとこちらも有難い。もうすぐ戦いも始まるだろうしね。ルシア様、彼をよろしく」
「お任せください、エドウィン様。ひとまず、サンダーボルト家に注意すればよろしいですね」
「その通り。あとは頼むよ二人共」
相変わらず多忙の身らしく、エドウィンは爽やかな笑顔で去った。本当に毎度毎度、忙しいヤツだなぁ。
「ところで、ルシア、サンダーボルト家について詳しいの?」
「ええ、たまにエドウィン様のお手伝いをしていましたから。だから、ある程度は熟知しているんです。サンダーボルト家は、三大騎士の中でも特に秀でている存在です。当主の名はシャロンです」
「シャロン? 女性か」
「ええ、少女です。わたしと同じくらいの」
「マジかよ。凄いな……」
少女で三大騎士とか、どんな女の子なんだか。今のところはイメージがまったく湧かないけど、そのうち遭遇する機会もあるのだろうか。
◆
身体を鈍らせるワケにはいかないと、俺は庭に出て素振りを続けた。庭が広いからランニングもしたり、少しずつメニューも強化していった。
それを見守るルシアの姿。
ちょっと淋しそうだ。
「ルシア、無理に俺なんかに付き合う事ないよ。見ていてもつまらないだろう」
「そんな事ありません。レイジさんを癒すのも、わたしのお仕事です」
ヒールと、癒しの力で俺を回復してくれる。
おかげで体力も戻り、疲れも取れた。
けれど、やっぱりルシアは切なそうだった。
「そんな顔するなって」
頭を撫でようとすると、ルシア自ら抱きついて来た。
「淋しいです」
「……ルシア」
「ご、ごめんなさい。レイジさんの邪魔をするつもりはなかったのに……わたし」
ルシアは俺から離れて背を向けて、屋敷に戻った。
「…………」
そっか、淋しい思いをさせちゃったか。
トレーニングを中断し、屋敷内へ戻ると執事のカールさんが渋い顔で通路を指さしていた。そっちにルシアが行ったのか。
ありがたい。
◆
ルシアの部屋の前。
ノックして失礼した。
「入るぞ」
中へ入ると、女の子が着替え中だった。
「あれ……」
「え……誰?」
ん!?
おかしい、ここはルシアの部屋だったはず。別の誰かがいた。しかも女の子。見たことも無い桃色髪の。
というか、このままはマズイ。
「し、失礼しましたッ!」
扉を閉めて出て行こうとしたが、首襟を掴まれた。
「うわ!?」
「ふぅん、お主が噂のレイジか」
「――な、ちょ、下着姿でっ!」
「これくらいで喚くな。そうか、ルシアの自慢の男がコイツとはな」
「なっ、ルシアを知っているのか」
「当たり前だ、彼女はある界隈でも有名でね。ルシアが入れ込む理由も分かるな。レイジ、お主は三大騎士になりたのかい」
「それは違う。俺は……」
俺はそうだ、何になりたいんだ?
騎士団を追放され、行く当てもなかった。
今はライトニング家でなんとなくお世話になって、なんとなく上を目指している状況だった。本当にこれでいいのか。
「迷いがあるようだな」
「迷い……俺が?」
「ルシアの事、これからの事、不安要素が沢山あるようだな」
「な、なぜ分かる」
「フン、そういうスキルだよ。あたしはある程度の心を読める。完全ではないがね」
心を読む……すげぇな。
ていうか、この子は何者だよ。
「俺はどうすれば」
「お前は帝国最強の皇剣を目指すがいい。それがルシアにとっての救いともなろう。彼女は言っていたのではないか……連れていってくれと」
――――。
そうだ、あの病室で……
ルシアはそう言っていた。
俺は今やっと思い出した。
そして、最近のルシアの『淋しい』という感情。
思えばあれは、なにか俺に伝えたかったのかもしれない。口では、言葉では現せない何かがあるのかも。だから、ああやって行動で示していたのかも。
「皇剣……それになれば、ルシアはどうなる?」
「言ったろう、救われると。彼女はある呪いに蝕まれているのだよ。いいか、レイジ、お前はその呪いを解く為に、これから奮闘するがいい」
呪い、呪いって何だ。
なんの事だ。
俺は何も聞かされちゃいないぞ。
俺の横を通り過ぎる桃色髪の少女。
「なあ、キミ――あれ、いない」
気づけば、少女の姿はなかった。
……皇剣。
俺はルシアの為なら、なんだって……出来る。
エドウィンは、俺の話にずっと耳を傾けていた。興味深そうに相槌を打っては、ご満悦の様子だった。
「というわけで、金銭面の補助はこちらで何とかなる。あんまり、お世話になるわけにもいかないからな」
「素晴らしい心がけだよ。そうやって自ら稼ぐ、それは悪くない事だし、ちゃんとした労働の対価だ。レイジ、これからはどうする?」
そう聞かれ、俺はやっぱりこれしかないと思った。
「不穏分子の排除かな」
「いいねえ、そうしてくれるとこちらも有難い。もうすぐ戦いも始まるだろうしね。ルシア様、彼をよろしく」
「お任せください、エドウィン様。ひとまず、サンダーボルト家に注意すればよろしいですね」
「その通り。あとは頼むよ二人共」
相変わらず多忙の身らしく、エドウィンは爽やかな笑顔で去った。本当に毎度毎度、忙しいヤツだなぁ。
「ところで、ルシア、サンダーボルト家について詳しいの?」
「ええ、たまにエドウィン様のお手伝いをしていましたから。だから、ある程度は熟知しているんです。サンダーボルト家は、三大騎士の中でも特に秀でている存在です。当主の名はシャロンです」
「シャロン? 女性か」
「ええ、少女です。わたしと同じくらいの」
「マジかよ。凄いな……」
少女で三大騎士とか、どんな女の子なんだか。今のところはイメージがまったく湧かないけど、そのうち遭遇する機会もあるのだろうか。
◆
身体を鈍らせるワケにはいかないと、俺は庭に出て素振りを続けた。庭が広いからランニングもしたり、少しずつメニューも強化していった。
それを見守るルシアの姿。
ちょっと淋しそうだ。
「ルシア、無理に俺なんかに付き合う事ないよ。見ていてもつまらないだろう」
「そんな事ありません。レイジさんを癒すのも、わたしのお仕事です」
ヒールと、癒しの力で俺を回復してくれる。
おかげで体力も戻り、疲れも取れた。
けれど、やっぱりルシアは切なそうだった。
「そんな顔するなって」
頭を撫でようとすると、ルシア自ら抱きついて来た。
「淋しいです」
「……ルシア」
「ご、ごめんなさい。レイジさんの邪魔をするつもりはなかったのに……わたし」
ルシアは俺から離れて背を向けて、屋敷に戻った。
「…………」
そっか、淋しい思いをさせちゃったか。
トレーニングを中断し、屋敷内へ戻ると執事のカールさんが渋い顔で通路を指さしていた。そっちにルシアが行ったのか。
ありがたい。
◆
ルシアの部屋の前。
ノックして失礼した。
「入るぞ」
中へ入ると、女の子が着替え中だった。
「あれ……」
「え……誰?」
ん!?
おかしい、ここはルシアの部屋だったはず。別の誰かがいた。しかも女の子。見たことも無い桃色髪の。
というか、このままはマズイ。
「し、失礼しましたッ!」
扉を閉めて出て行こうとしたが、首襟を掴まれた。
「うわ!?」
「ふぅん、お主が噂のレイジか」
「――な、ちょ、下着姿でっ!」
「これくらいで喚くな。そうか、ルシアの自慢の男がコイツとはな」
「なっ、ルシアを知っているのか」
「当たり前だ、彼女はある界隈でも有名でね。ルシアが入れ込む理由も分かるな。レイジ、お主は三大騎士になりたのかい」
「それは違う。俺は……」
俺はそうだ、何になりたいんだ?
騎士団を追放され、行く当てもなかった。
今はライトニング家でなんとなくお世話になって、なんとなく上を目指している状況だった。本当にこれでいいのか。
「迷いがあるようだな」
「迷い……俺が?」
「ルシアの事、これからの事、不安要素が沢山あるようだな」
「な、なぜ分かる」
「フン、そういうスキルだよ。あたしはある程度の心を読める。完全ではないがね」
心を読む……すげぇな。
ていうか、この子は何者だよ。
「俺はどうすれば」
「お前は帝国最強の皇剣を目指すがいい。それがルシアにとっての救いともなろう。彼女は言っていたのではないか……連れていってくれと」
――――。
そうだ、あの病室で……
ルシアはそう言っていた。
俺は今やっと思い出した。
そして、最近のルシアの『淋しい』という感情。
思えばあれは、なにか俺に伝えたかったのかもしれない。口では、言葉では現せない何かがあるのかも。だから、ああやって行動で示していたのかも。
「皇剣……それになれば、ルシアはどうなる?」
「言ったろう、救われると。彼女はある呪いに蝕まれているのだよ。いいか、レイジ、お前はその呪いを解く為に、これから奮闘するがいい」
呪い、呪いって何だ。
なんの事だ。
俺は何も聞かされちゃいないぞ。
俺の横を通り過ぎる桃色髪の少女。
「なあ、キミ――あれ、いない」
気づけば、少女の姿はなかった。
……皇剣。
俺はルシアの為なら、なんだって……出来る。
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