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いっぱいたべるきみがすき/スト重視、変な性癖

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※えろ短編といいつつスト重視
※変な性癖





「大食いの一体何が悪いんだよー!!」

 自身が通う大学の学食で、荒れた様子のしのぶが大声でそう叫んだ。
 周囲の学生がじろじろと見ていることに気付いているのかいないのか、構うことなく喚き続けている。男性にしては可愛らしい顔付きの忍は大きな二つの目をうるうると潤ませ、今にも涙をこぼしそうになりながら悲しみに顔を歪ませた。

 そしてついにほろりと一粒零れてしまった涙を見せまいと忍は咄嗟に顔を俯かせた。そんな忍の性ってしまった頭の上に前方から大きな手が伸びてきて、労わるように慰めるように優しい手付きで撫でる。

「また振られたのか?」
「今度こそって思ったのに……っ」
「忍が飯ばっか食ってるからだろー、いい加減学習しなさい」

 先ほどまで撫でていた手を一旦しまった嶺二れいじが冷静に問うと、忍は声を絞り出して独り言のように言った。可愛い見た目と泣き顔も相まって絆されそうになる嶺二だったが、努めて真剣に言い聞かせる。もう幾度目かになるこのやり取りに辟易してもいたし、!!!は忍の為を大切に思っている嶺二だからこそ出てくる言葉でもあった。

 だが当の忍は納得いかない、とでも言わんばかりに頬を膨らませて眉を顰めている。一瞬、その可愛らしい表情に厳しい顔も崩れそうになった嶺二は、気を取り直し再度顔を引き締めると忍から一度も目を逸らすことなく無言の圧力をかけた。

「……ぅぅ、どうせ俺は恋愛なんて出来ないんだ」
「忍……」
「もういいや、いっぱい食べて、食べて、食べまくってやる!」

 嶺二の圧力に負けて諦めたように切ない吐息を漏らす忍は、ぼそっとそう独り言ちた。思い詰めた忍に嶺二もかける言葉なく名前を呼ぶに留まっていると、湿気た空気を払拭するように忍が大声でヤケクソを演じる。上手く取繕っているつもりだろうが嶺二にはそれが余計に痛々しく見えて仕方がなかった。



 数日後、たまたま嶺二が捕まらなかったせいで一人で学食を訪れていた忍の前に、一人の男が相席を申しでた。彼の名前は拓真たくまというらしく、誰もがテーブルに山のように並べられた忍の食事を見て敬遠するところを堂々と話しかけてきたツワモノだった。

 吸い込むように驚異の速度で掻き込む忍とは裏腹に、拓真は通常よりも少し控え目な量の食事をお上品にゆっくりと少しずつ口に運んでおり対照的な二人の姿は周囲から注目を浴びている。
 アンバランスな二人は意外にも共通点も多く、食べるのが何よりも好きな忍と料理が趣味の拓真という二人が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。そして忍の食事が無くなるころにはすっかり気の合う友達になっていた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、テーブルには空の皿が積み重なっている。
 味にも量にも友達にも満足な時間を過ごせてご満悦に手を合わせる忍に向かって、拓真はあまりにも衝撃的な一言を最後に言い放った。忍の目がこれでもかと見開かれる。

「俺と付き合ってよ。俺、死ぬほど料理を作ってたいんだよね……どう? 悪い話じゃないでしょ」

 同性同士だという事に違和感を持つよりも早く、確かにそうかもしれない、と打算的な考えが忍の頭に浮かんだ。大食が原因で今までに何度も別れを告げられてきた忍にとって、願ってもみない好物件が突然向こうから近寄ってきたのだ。大きく揺れる忍の目は誰が見ても分かるくらい、甘い誘惑に揺れ動いていた。
 そんな忍のとどめを刺すように拓真が笑みを深めて言う。

「いつでもどこでも忍の好きなものを好きなだけ作ってあげるよ、なんでも何度でもね」

 甘い劇薬に犯されるようにこくりと頷いた忍の横顔は、今にも蕩けてしまいそうだった。

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