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第9話 続き
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「すまない、遅れた」
学人が部室の扉を勢いよく開けて入ってきた。
「待ってたぞ」
「すまん。ちょっと生徒会の方が忙しくてな」
「だろうな。それ以外遅れる理由は考えにくいから分かってるよ」
「そうか」
学人はそう言うと空いている席、いつも自分が座る特等席に座った。
その席は、俺の隣の席だ。
「それで、その顔については触れたほうがいいか?」
「いや、触れなくていいよ……触れる必要はないだろ。いつものことだし」
「そうだな」
学人は俺の顔……紅羽ちゃんに殴られてぼこぼこになった痛々しい顔を見ていた。少し心配したような顔をしているが、もう慣れているのか初めての時ほど心配はしていないようだ。
いつもながらこの時間だとこの顔がデフォルメのように思われていても不思議ではないくらいの確率で、殴られた顔をしている気がする。そろそろ顔の形が変わるのではないかとさえ思えてくる。
「それで3人の姿がどこにもないのだが、どこに行ったんだ?」
と閑散とした部室内を眺めてから学人は不思議そうに言った。不思議に思うのも無理もない。この時間ーーもうすぐ5時になろうとしている時間。それなのに、部室には俺の姿しかなかったのだ。いつもなら学人が部室に来た時点で部員の女子たちは目がハートマークになり騒ぎ出す。それか俺のことをにらむの二択だろう。
「あぁ、3人ならお前を迎えに生徒会室に向かって行ったぞ。会わなかったか?」
「会わなかった……」
「そうか残念」
と俺は肩を落とした。
「……何が残念なんだ?」
その姿を見て学人が聞いてきた。
何が残念だったか。俺は学人に対して女子たちがどんな反応を示すのか見えなかったことが残念だった……ということはない。どちらかというと見たくないものに含まれるだろう。
それを考えると学人と女子たちが合わなかったことは俺からすると良かったことなのかもしれない。
しかし今俺が思っている残念なことはそれではなかった。
俺が残念だと思ったことは
「いますぐ帰れないことが残念だ」
これが俺の本心だった……
俺がそう言った時、ちょうど5時を迎えてしまった。部室内には5時になったことを知らせるチャイムが、なり響いていた。
しかし、残念なことに今だ女子3人は戻ってきてない。このままでは帰ることができない。
「ふぁ~あ」
今鳴っていた5時を知らせるチャイム音で起きたのか、奥の部屋から田中先生が目をこすりながら出てきた。
いつもは起きないくせに、俺たちが起こす前に起きてきただと……!?
「何やってるんだ、おまえら? 5時だぞ帰らないのか?」
田中先生は部室内で何もせずにいる俺たち二人を見てそう問いかけけてきた。
「帰りたくても帰れないんですよ。3人が学人を迎えに行ってて戻ってこないから!」
俺は少し怒り気味に言葉が出てしまう。どうやら待っていることが相当ストレスになってきているらしい。
すると先生は
「いや、いるじゃん。当の本人がお前の横に」
と俺の横に座っている学人を見てそう言った。
「わかっています。でも帰れないんですよ。いや、帰ってこないんですよ3人が」
「そうかなら探しに行くんだな。それが早く帰るための手段だ。まぁ、私はもう帰るけどな。それじゃ」
そう言い残すと田中先生は足早に帰っていった……
そんな先生を俺は羨ましいと思ってしまった。
「よし、探しに行こう!」
俺は先生がいなくなってから1分後、我慢の限界に達していた。
「お、やるきだな」
「当たり前だ。早く帰りたいからな」
俺は願望のために女子3人を探すことを決意して、立ち上がった。
「行くんだな。なら、俺も行こう」
「いや、お前はここにいてくれ」
「なぜ! 二人で探したほうがいいに決まっているだろう」
学人は俺の指図が気に食わないように食い下がる。
しかし、ここは俺に従ってもらおう。そうでなければ帰るのが遅くなる。それだけは避けたい。
「学人ともあろうものがわからないのか?」
「なに!」
学人は驚きの表情を浮かべていた。俺はすかさず切り込む。
「もし二人で探しに出たら、もしすれ違いで戻ってきたら3人と入れ違いになってしまうだろ。そうなればまた3人は俺たちを探しに行ってしまうことだろう。これではまた帰るのが遅くなる。そう遅くなるのだ、帰るのが! これだけは避けなければいけない! 分かったか!」
「あ、あぁわかった。乙樹の言う通りだな。ならば俺は残ろう」
学人は俺の言いたいことを理解してくれたらしい。いや、すべて言ったような気がするな。まぁ、理解してくれたならどっちでもいいか。
「それじゃあ、行ってくる。もし3人が帰ってきたら連絡してくれ。すぐ戻るから」
俺はそう学人に言い残すと走って生徒会室を目指した。
「アイツ結構熱いやつだったんだな……」
部室で1人になった学人はボソッとそうつぶやくのだった……
学人が部室の扉を勢いよく開けて入ってきた。
「待ってたぞ」
「すまん。ちょっと生徒会の方が忙しくてな」
「だろうな。それ以外遅れる理由は考えにくいから分かってるよ」
「そうか」
学人はそう言うと空いている席、いつも自分が座る特等席に座った。
その席は、俺の隣の席だ。
「それで、その顔については触れたほうがいいか?」
「いや、触れなくていいよ……触れる必要はないだろ。いつものことだし」
「そうだな」
学人は俺の顔……紅羽ちゃんに殴られてぼこぼこになった痛々しい顔を見ていた。少し心配したような顔をしているが、もう慣れているのか初めての時ほど心配はしていないようだ。
いつもながらこの時間だとこの顔がデフォルメのように思われていても不思議ではないくらいの確率で、殴られた顔をしている気がする。そろそろ顔の形が変わるのではないかとさえ思えてくる。
「それで3人の姿がどこにもないのだが、どこに行ったんだ?」
と閑散とした部室内を眺めてから学人は不思議そうに言った。不思議に思うのも無理もない。この時間ーーもうすぐ5時になろうとしている時間。それなのに、部室には俺の姿しかなかったのだ。いつもなら学人が部室に来た時点で部員の女子たちは目がハートマークになり騒ぎ出す。それか俺のことをにらむの二択だろう。
「あぁ、3人ならお前を迎えに生徒会室に向かって行ったぞ。会わなかったか?」
「会わなかった……」
「そうか残念」
と俺は肩を落とした。
「……何が残念なんだ?」
その姿を見て学人が聞いてきた。
何が残念だったか。俺は学人に対して女子たちがどんな反応を示すのか見えなかったことが残念だった……ということはない。どちらかというと見たくないものに含まれるだろう。
それを考えると学人と女子たちが合わなかったことは俺からすると良かったことなのかもしれない。
しかし今俺が思っている残念なことはそれではなかった。
俺が残念だと思ったことは
「いますぐ帰れないことが残念だ」
これが俺の本心だった……
俺がそう言った時、ちょうど5時を迎えてしまった。部室内には5時になったことを知らせるチャイムが、なり響いていた。
しかし、残念なことに今だ女子3人は戻ってきてない。このままでは帰ることができない。
「ふぁ~あ」
今鳴っていた5時を知らせるチャイム音で起きたのか、奥の部屋から田中先生が目をこすりながら出てきた。
いつもは起きないくせに、俺たちが起こす前に起きてきただと……!?
「何やってるんだ、おまえら? 5時だぞ帰らないのか?」
田中先生は部室内で何もせずにいる俺たち二人を見てそう問いかけけてきた。
「帰りたくても帰れないんですよ。3人が学人を迎えに行ってて戻ってこないから!」
俺は少し怒り気味に言葉が出てしまう。どうやら待っていることが相当ストレスになってきているらしい。
すると先生は
「いや、いるじゃん。当の本人がお前の横に」
と俺の横に座っている学人を見てそう言った。
「わかっています。でも帰れないんですよ。いや、帰ってこないんですよ3人が」
「そうかなら探しに行くんだな。それが早く帰るための手段だ。まぁ、私はもう帰るけどな。それじゃ」
そう言い残すと田中先生は足早に帰っていった……
そんな先生を俺は羨ましいと思ってしまった。
「よし、探しに行こう!」
俺は先生がいなくなってから1分後、我慢の限界に達していた。
「お、やるきだな」
「当たり前だ。早く帰りたいからな」
俺は願望のために女子3人を探すことを決意して、立ち上がった。
「行くんだな。なら、俺も行こう」
「いや、お前はここにいてくれ」
「なぜ! 二人で探したほうがいいに決まっているだろう」
学人は俺の指図が気に食わないように食い下がる。
しかし、ここは俺に従ってもらおう。そうでなければ帰るのが遅くなる。それだけは避けたい。
「学人ともあろうものがわからないのか?」
「なに!」
学人は驚きの表情を浮かべていた。俺はすかさず切り込む。
「もし二人で探しに出たら、もしすれ違いで戻ってきたら3人と入れ違いになってしまうだろ。そうなればまた3人は俺たちを探しに行ってしまうことだろう。これではまた帰るのが遅くなる。そう遅くなるのだ、帰るのが! これだけは避けなければいけない! 分かったか!」
「あ、あぁわかった。乙樹の言う通りだな。ならば俺は残ろう」
学人は俺の言いたいことを理解してくれたらしい。いや、すべて言ったような気がするな。まぁ、理解してくれたならどっちでもいいか。
「それじゃあ、行ってくる。もし3人が帰ってきたら連絡してくれ。すぐ戻るから」
俺はそう学人に言い残すと走って生徒会室を目指した。
「アイツ結構熱いやつだったんだな……」
部室で1人になった学人はボソッとそうつぶやくのだった……
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