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18. 今夜はここまで *
しおりを挟む「そう言ってもらえて良かった。じゃあ、もっとあげます」
「あっ……。ッ、んぅ」
また一段とグレアが強くなる。
びりびりと体を痺れさせるような感覚に、綾春の渇望がいっそう強まる。
いけないとわかっているのに、もっと先が欲しくなっていた。
心なしか、綾春の中心がじんわりと熱を孕み始めている。このままプレイを続ければ、いけないところを兆してしまいそうだった。
「ああ……顔、蕩けちゃってますね。俺のグレア、そんなにいい? Say」
「いい、です……。すごく……重くて、気持ちいい……。たまんない……」
「よかった。俺のこと、ちゃんと感じ取ってくれてるんですね。Good boy」
頭を撫でられ、頬を手の甲で撫でられる。
彼に従うと褒めてもらえるのだとわかって、多幸感が湧き上がる。
綾春に応じるかのように、東雲のグレアはどんどん重くなっていく。
けれど、それに恐怖や怖気を感じることはなかった。もっと欲しい。もっともっと欲しい。そんな気持ちが体の中で暴れていく。
「久慈さん、もっとお尻落とせますか? 顔はUpで」
「っ、ん……」
膝立ちの姿勢から尻を落とすように言われ、綾春はぐっと腰を下げた。そのまま床に尻をつけるのは苦手なので、正座をベースに膝の間を空けたような形になる。もちろん、そのポーズへ移行するうちも、コマンドを与えられたとおりに俯かずに顔は上げたままでいた。
「うん、いいですね。Good boy」
東雲のグレアとコマンドは本当に不思議だ。
接触はほとんどなく、嗜虐プレイもせいぜいリボンで縛り上げる程度。しかも体をぎちぎちに縛り付けるようなものではなく、ソフトなものだ。口の中を見せろという、一見少しアブノーマルなものはあったけれど、基本的には子供騙しのようなものばかり。
それなのに、綾春の中でカラカラに乾き切っていた水槽へ、じゃぶじゃぶと水を注ぐように喜悦を与えてくれる。おそらくこれは、圧倒的なグレアのせいだ。そして東雲が放つコマンドや言葉、声が綾春にとって脳が痺れるほどに心地良いから。
与えても与えても、まだあげる、まだ与えてあげようと注がれる東雲からの支配欲が気持ち良すぎるから。
(もっと……もっと、欲しい……)
しかし、もっと重いグレアを浴びたいと思ったそのとき、綾春の希求に反して、東雲は僅かにグレアを弱めた。
「今日はここまでにしましょう。これ以上はお互い、逆につらくなると思うんで」
「ぁ……で、も……」
優しくも冷たい言葉が降ってきて、戸惑う。
もっとグレアとコマンドが欲しい。それなのに……。
「久慈さんはいい子だから、俺の言うこと、聞けますよね? さぁ、Stand up。最後にその可愛らしくて、はしたない姿をじっくり見せてください」
プレイ終了のコールを残念に思いながらも、綾春は命じられたとおりにゆっくりと立ち上がった。
すると、ソファに座っていた東雲も腰を上げて、先ほど言ったとおりに視線を上下に動かして、リボンで縛られた綾春を隅々まで眺めていく。
「リボン、お似合いでしたね。それに、たくさん従えて偉かったですよ。Good boy。とっても良かったです」
綾春を褒める言葉をたくさん言いながら、東雲は綾春の首元のリボンをシュルッと解き、ぐるぐるに巻かれていた胴や腕を解放していく。その解放感を残念に思いつつも、よくできたと褒められて、とても満たされた気持ちになった。
リボンをすべて解かれると同時に、東雲のグレアはすっ……と消えていってしまった。
◇◇◇
「はい、どうぞ」
差し出されたのは、カップに入った温かなハーブティー。
綾春はそれを受け取って、一口飲んだ。
東雲とのプレイのあと、綾春はボックス席のソファでぼーっと座っていた。そうして綾春がぼんやりしている間に、東雲はカウンターのほうへ戻ってハーブティーを注文して戻って来たのだ。
「まだ、ぼんやりしてますね。体調が悪いとかはあります?」
「それは大丈夫です」
「よかった。プレイ、ありがとうございました。久慈さん、上手に従ってくれましたね。好きなものも取ってこれたし、可愛いところも見せてくれて。俺も満たされました」
ふわっと香ってくるコーヒーの匂い。隣を見れば、東雲は自分とは別の形のカップを口にしている。それで彼が持っているカップから香る匂いだと気づいた。そういえば昼間はアイスコーヒーを飲んでいたな、なんてことを思い出す。セーフワードを決めたときにも似たようなことを考えていた。
綾春もコーヒーは好きだ。しかし、プレイ後のこの状況で刺激物をとるのはどうかとも思って、コーヒー以外の優しいものを東雲にお願いしたのだ。
でも、彼と同じものを飲めば良かったかも、なんて思った。
「久慈さんは、グレアとコマンドに弱いほうなんですかね? まだ蕩けてて、可愛いです」
拳二つほど空けたところに座った東雲が訊ねた。
「い、いえ……むしろ一般的には強いほうだと思います。俺、ランクはAなんで、他のSubに比べたら弱くないはずです。その俺がこうって、東雲さんのグレアがすごすぎるんですよ。余韻が、まだ残ってます」
はぁ……と、まだ熱っぽさを孕んだ感嘆の吐息を漏らす。
綾春はプレイが終わってからも、ボックス席から出られずにいた。理由は簡単で、プレイで浴びたグレアとコマンドから得た、本能的な快楽の余韻が抜けないからだ。
頭の中がまだぼんやりしていて、体もどこか宙に浮いているかのような感覚がする。動きも緩慢なので危なっかしい。東雲からも「座っていてください」と心配されるほどに、抜けきれていない状態だった。
「サブスペースって感じじゃないので、大丈夫だと思いますけど、もう少しのんびりしててください。なんだか、ぽわぽわしてますし。まあ見てる俺としては、愛らしくていいなって思いますけどね」
「すみません、付き合わせてしまって。それにしても、軽いプレイでこれかぁ……。東雲さんとのプレイでサブスペースに入ったら、とんでもないことになりそうですね。恐ろしいくらいです」
東雲の言うように、サブスペースに入っているわけではない。
Sub space——単にSpaceとも言われるそれは、SubがDomのコントロール下に入った状態を指す。この状態になるとSubは頭がふわふわして、多幸感に満ち、酩酊しているような状態になる。端的に言うと、Subとしてはまさに夢心地で、サブドロップとは真逆の状態になるのだ。
綾春は今回のプレイでサブスペースには至ってない。しかし今、頭がぼんやりして心地の良い状態が残っている。
(すごいプレイだった……。軽いコマンドだけなのに、こんなになるなんて)
Subとして生きてきた中で、これだけ隷属欲が刺激され、満たされる感じは初めてだった。正直言えば、またやってみたい。……そう思わずにはいられないプレイだった。
けれど、相手は取引相手だ。
そう易々と『プレイ相手』として関係を続けるものではない。
「久慈さん」
先ほどまでのプレイと、東雲との関係を考えながらぼんやりしていると、不意に名前を呼ばれた。
「——また俺と、プレイしませんか?」
それは思いがけない提案だった。綾春は目を丸くして、東雲を見た。
「……東雲さんと?」
「はい。お嫌でなければ、検討していただけませんか。今日みたく軽いプレイの相手として」
「それは……」
思わず返答に詰まる。
(軽いプレイの相手をしないか、だって?)
東雲は本気で言っているのだろうか。
けれど、綾春を真っ直ぐに見つめている瞳にも、その双眸が浮かぶ表情も、冗談ではない空気を纏っている。東雲からグレアは出ていないのに、綾春はどことなくプレッシャーを感じていた。
「俺とのプレイは気持ちよくなれませんでした?」
「いえ、それは……」
視線や表情だけでなく、飾ることのない言葉が真っ直ぐに綾春に届く。
物静かな男性だと思ったのは何日前だっただろうか。葉山で初めて会ったとき、彼のことを紳士的なDomだと思ったのは、そう遠い過去ではない。
静かだけれど着実に、時間は流れているのだから。
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