【完結】欲張りSubは欠陥Domに跪く

秋良

文字の大きさ
17 / 77

17. 屈したいほどのグレア *

しおりを挟む


 チェストの引き出しを開けると、東雲の言うとおり様々な玩具が入っていた。
 玩具といっても、子供が遊ぶ類いのものではない。麻紐やビニールテープ、細かな鎖が連なったものにファー付きの手錠なんかもある。ただし、このプレイバーは軽い接触までしか許可していないためか、ローターやバイブレーターといった「いかにも性交用のアイテムです」というものはない。ガチガチのSMプレイ用のアイテムもない。
 ちょっとお遊びで……といった様相のものばかりが引き出しの中に入っていた。

 それでも、綾春の本能をくすぐるのには十分だった。

(縛られるなら、縄……ベルト……手錠も、悪くないけど……)

 どれで縛られたいのか、なんて変態じみた考えも、今は興奮を押し上げるスパイスになる。
 綾春は緩慢な動きで一つ一つを手に取りながら、じっくりと悩む。東雲なら、どんなふうに自分を縛り、拘束してくれるのか……頭の中がそのことだけでいっぱいになっていく。

「久慈さん、どうしました? 決められない?」

 チェストの前でもたもたしている綾春の背後から、東雲の声がかかった。振り返れば、小さな笑みを浮かべながら、東雲がじっと綾春を見つめていた。
 ソファに座り、優雅に組まれている足は日本人にしては長い。ゆったりと背もたれに体を預けながら座っている姿は、この場を支配する者に相応しい空気を纏っていた。

「好きなものでいいですよ。ちゃんと持って来られますよね?」
「ぁ……じゃ、あ……」

Shush黙って〉なんて言われていないのに、声を紡ぐことすら許可が必要だと思えるほど、東雲のグレアは重くて。
 けれど、その重さに狂暴な様子は一切なく、どっしりとした重圧の中に混じる甘さのようなものが、綾春の頭と体をびりびりと痺れさせていた。

 背中に刺さる視線を感じながら、ようやく引き出しの中から『玩具』を一つ選ぶ。
 右手でそっと持ち上げて、ドキドキしながら東雲のもとへと戻った。

「リボン? きれいな色ですね。これで縛ってもらいたい?」

 その問いにこくり、と頷く。
 綾春が持ってきたのは、太幅のラッピング用リボンだ。サテンでできたそれは藍色で、光沢で艶めいている。
 色味は少し違うけれど、いつか見た東雲の皿が思い浮かぶような美しい色のリボンに惹かれて手に取ったのだ。

 東雲にリボンを手渡すと、男は「膝立ちになって後ろを向いて」と命じた。
 それに逆らうこともなく、綾春は命じられたとおりに膝立ちの状態で東雲に背中を向ける。

 シュルッとリボンの端を引っ張っる音に期待が膨らむと、体の横に垂らしていた両腕をとられて、後ろ手に拘束された。手首の部分を三重に縛られ、そこからさらに伸びたリボンで腕と胴をぐるぐる巻きにされる。

「ん……、っ……」

 決して強い締め付けではないし、服越しにリボンを巻かれていくだけなのに体温が上がって、息が詰まる。自分を縛り上げる存在がいることに、Subの欲望が満たされていく。
 時折、東雲の手が触れるところから、やけに体が疼くようだった。熱いのは綾春の体か、彼の指先か。

 彼もまた、綾春のように興奮してくれているだろうか?

 不意に気になって、綾春はおずおずと振り返ってみる。その見上げた先にある東雲の頬は、ほんのり上気しているようにも見えた。

「……はぁ、ほんとすごいな、久慈さん。グレアはもっと出しても大丈夫ですか?」
「大丈夫です。もっと……ください」

 優しく指示されるのも気持ちいい。
 その中で、東雲のグレアがさらに強くなって、背中越しに綾春を支配しようというDomの熱い支配欲を感じた。

 ——縛られて、征服されていくのが、嬉しい。

「膝立ちで、ぐるっと回って前向いて。倒れないように……そう、上手」

 綾春は膝立ちのままで膝とつま先を器用に使いながら、その場で体を動かした。すでに腕は拘束されていて、そのリボンの先を東雲が掴んでいるので動きにくい。ゆっくりと、倒れないようにしながら、ようやく半回転してみせると、上手だと褒めてくれた。それもとても嬉しい。

 東雲の言葉は、コマンドに乗っていなくても強制力を感じた。コマンドも欲しいけれど、コマンドがなくてもいろいろと注文をつけて、命じて、従わせてほしくなる。
 このDomの言うことを聞きたくて、もっと言葉が欲しくなった。

「はい、できあがり。可愛いですよ、久慈さん。まるで贈り物のようにきれいです」
「は……ぁ、っ……」

 正面を向いた綾春の首に緩やかにリボンが回される。腕ごと胴体をぐるぐると巻いたリボンの端同士が、鎖骨の中央あたりで蝶々結びされていた。
 これでは綾春自身が、東雲が言うようにラッピングされたプレゼントのようだ。

 こうされることを望んでいたのか、自分でもよくわからない。恥ずかしい格好に頬が上気する。
 でもきっと……望んで、この藍色のリボンを手に取ったのだ。

(こんなに欲を引き出されるなんて……東雲さんのグレア、すごい……)

 ほとんど接触していないのに、自分の欲望が高まっていくのを抑えられない。
 内に潜むSubらしい綾春の姿を、どんどん曝けさせられる。軽いプレイなのに、強い快楽を感じていた。

 ——こんなグレア、感じたことない。

「気持ちよさそうな顔してますね。縛られるの、嬉しい?」
「……ん、っ……」
Say言って、久慈さん」

 薄暗がりのボックス席では、近くに寄ってようやく相手の表情が確認できるほど。けれど、その表情が確認できるほど近距離に顔を寄せる東雲から、目が離せない。
 ぽわぽわと頭が溶けかけながらも、綾春は答えた。

「気持ちいい、です」

 すると、満足そうに東雲が笑んだ。

「いい顔。次は、そのきれいな口を開いてほしいな。ね、久慈さん。キスはしません。けど、口開いて、舌出して。Present見せてくれますよね?」
「ん……っ。こ、ぉ……?」

 キスはしないと言われたので、綾春は素直に口をかぱっと開いた。さらに、舌を伸ばして見せる。この間もグレアと、続けざまのコマンドで高揚していて、呼吸に甘さが滲んでいく。
 まるで犬のように口を開けて舌を出す自分の姿を想像して、ぶるりと震えた。

 ——きっと、はしたない姿をしている。

 綾春はもはや、どこまでが性的でなく、どこからが性的なプレイなのか、わからなくなってきていた。けれど、約束したとおり接触はほとんどない。
 キスはもちろん、顎を持ち上げられることも、頬を触れられることも。頭を撫でられることすらなく、触れられたのはリボンで縛られたときだけ。

「舌、真っ赤ですね。……食べたくなるなぁ」
「あ……ぇ、ふ……」

 何か反応したいけれど、舌を出したままだとろくに喋られず、綾春はただただ許可が出るまでだらしなく口を開いて、上目遣いに東雲を見ていた。
 彼もまた興奮しているのか瞳は濡れて、ほぅ……と熱い吐息を漏らす。

「見せてくれてありがとう。Good可愛かったです、閉じていいですよ」
「ん……」

 舌の渇きを覚え始めた頃、ようやく東雲から許可が下りて、綾春はきゅっと口を閉じた。ごくりと唾を飲み込むと東雲がくくっと笑う。
 その反応が堪らなかった。

「顎、つらかったですか?」
「いえ……。でも東雲さんのグレア、すごいから……心臓が、弾けそうです」
「もっと欲しい?」

 物静かそうだった瞳は、いまは捕食者のように静かに光っている。
 ああ、飲まれそうだ、なんて思って普段は鳴りを潜めている綾春の貪欲なSub性がずくずくと疼く。

 欲しいと訊かれれば、頷くほかない。
 熱い眼差しを向けて「欲しい」と小さく答えれば、東雲はとびきり色気を帯びた表情を浮かべた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

処理中です...