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17. 屈したいほどのグレア *
しおりを挟むチェストの引き出しを開けると、東雲の言うとおり様々な玩具が入っていた。
玩具といっても、子供が遊ぶ類いのものではない。麻紐やビニールテープ、細かな鎖が連なったものにファー付きの手錠なんかもある。ただし、このプレイバーは軽い接触までしか許可していないためか、ローターやバイブレーターといった「いかにも性交用のアイテムです」というものはない。ガチガチのSMプレイ用のアイテムもない。
ちょっとお遊びで……といった様相のものばかりが引き出しの中に入っていた。
それでも、綾春の本能を擽るのには十分だった。
(縛られるなら、縄……ベルト……手錠も、悪くないけど……)
どれで縛られたいのか、なんて変態じみた考えも、今は興奮を押し上げるスパイスになる。
綾春は緩慢な動きで一つ一つを手に取りながら、じっくりと悩む。東雲なら、どんなふうに自分を縛り、拘束してくれるのか……頭の中がそのことだけでいっぱいになっていく。
「久慈さん、どうしました? 決められない?」
チェストの前でもたもたしている綾春の背後から、東雲の声がかかった。振り返れば、小さな笑みを浮かべながら、東雲がじっと綾春を見つめていた。
ソファに座り、優雅に組まれている足は日本人にしては長い。ゆったりと背もたれに体を預けながら座っている姿は、この場を支配する者に相応しい空気を纏っていた。
「好きなものでいいですよ。ちゃんと持って来られますよね?」
「ぁ……じゃ、あ……」
〈Shush〉なんて言われていないのに、声を紡ぐことすら許可が必要だと思えるほど、東雲のグレアは重くて。
けれど、その重さに狂暴な様子は一切なく、どっしりとした重圧の中に混じる甘さのようなものが、綾春の頭と体をびりびりと痺れさせていた。
背中に刺さる視線を感じながら、ようやく引き出しの中から『玩具』を一つ選ぶ。
右手でそっと持ち上げて、ドキドキしながら東雲のもとへと戻った。
「リボン? きれいな色ですね。これで縛ってもらいたい?」
その問いにこくり、と頷く。
綾春が持ってきたのは、太幅のラッピング用リボンだ。サテンでできたそれは藍色で、光沢で艶めいている。
色味は少し違うけれど、いつか見た東雲の皿が思い浮かぶような美しい色のリボンに惹かれて手に取ったのだ。
東雲にリボンを手渡すと、男は「膝立ちになって後ろを向いて」と命じた。
それに逆らうこともなく、綾春は命じられたとおりに膝立ちの状態で東雲に背中を向ける。
シュルッとリボンの端を引っ張っる音に期待が膨らむと、体の横に垂らしていた両腕をとられて、後ろ手に拘束された。手首の部分を三重に縛られ、そこからさらに伸びたリボンで腕と胴をぐるぐる巻きにされる。
「ん……、っ……」
決して強い締め付けではないし、服越しにリボンを巻かれていくだけなのに体温が上がって、息が詰まる。自分を縛り上げる存在がいることに、Subの欲望が満たされていく。
時折、東雲の手が触れるところから、やけに体が疼くようだった。熱いのは綾春の体か、彼の指先か。
彼もまた、綾春のように興奮してくれているだろうか?
不意に気になって、綾春はおずおずと振り返ってみる。その見上げた先にある東雲の頬は、ほんのり上気しているようにも見えた。
「……はぁ、ほんとすごいな、久慈さん。グレアはもっと出しても大丈夫ですか?」
「大丈夫です。もっと……ください」
優しく指示されるのも気持ちいい。
その中で、東雲のグレアがさらに強くなって、背中越しに綾春を支配しようというDomの熱い支配欲を感じた。
——縛られて、征服されていくのが、嬉しい。
「膝立ちで、ぐるっと回って前向いて。倒れないように……そう、上手」
綾春は膝立ちのままで膝とつま先を器用に使いながら、その場で体を動かした。すでに腕は拘束されていて、そのリボンの先を東雲が掴んでいるので動きにくい。ゆっくりと、倒れないようにしながら、ようやく半回転してみせると、上手だと褒めてくれた。それもとても嬉しい。
東雲の言葉は、コマンドに乗っていなくても強制力を感じた。コマンドも欲しいけれど、コマンドがなくてもいろいろと注文をつけて、命じて、従わせてほしくなる。
このDomの言うことを聞きたくて、もっと言葉が欲しくなった。
「はい、できあがり。可愛いですよ、久慈さん。まるで贈り物のようにきれいです」
「は……ぁ、っ……」
正面を向いた綾春の首に緩やかにリボンが回される。腕ごと胴体をぐるぐると巻いたリボンの端同士が、鎖骨の中央あたりで蝶々結びされていた。
これでは綾春自身が、東雲が言うようにラッピングされたプレゼントのようだ。
こうされることを望んでいたのか、自分でもよくわからない。恥ずかしい格好に頬が上気する。
でもきっと……望んで、この藍色のリボンを手に取ったのだ。
(こんなに欲を引き出されるなんて……東雲さんのグレア、すごい……)
ほとんど接触していないのに、自分の欲望が高まっていくのを抑えられない。
内に潜むSubらしい綾春の姿を、どんどん曝けさせられる。軽いプレイなのに、強い快楽を感じていた。
——こんなグレア、感じたことない。
「気持ちよさそうな顔してますね。縛られるの、嬉しい?」
「……ん、っ……」
「Say、久慈さん」
薄暗がりのボックス席では、近くに寄ってようやく相手の表情が確認できるほど。けれど、その表情が確認できるほど近距離に顔を寄せる東雲から、目が離せない。
ぽわぽわと頭が溶けかけながらも、綾春は答えた。
「気持ちいい、です」
すると、満足そうに東雲が笑んだ。
「いい顔。次は、そのきれいな口を開いてほしいな。ね、久慈さん。キスはしません。けど、口開いて、舌出して。Presentくれますよね?」
「ん……っ。こ、ぉ……?」
キスはしないと言われたので、綾春は素直に口をかぱっと開いた。さらに、舌を伸ばして見せる。この間もグレアと、続けざまのコマンドで高揚していて、呼吸に甘さが滲んでいく。
まるで犬のように口を開けて舌を出す自分の姿を想像して、ぶるりと震えた。
——きっと、はしたない姿をしている。
綾春はもはや、どこまでが性的でなく、どこからが性的なプレイなのか、わからなくなってきていた。けれど、約束したとおり接触はほとんどない。
キスはもちろん、顎を持ち上げられることも、頬を触れられることも。頭を撫でられることすらなく、触れられたのはリボンで縛られたときだけ。
「舌、真っ赤ですね。……食べたくなるなぁ」
「あ……ぇ、ふ……」
何か反応したいけれど、舌を出したままだとろくに喋られず、綾春はただただ許可が出るまでだらしなく口を開いて、上目遣いに東雲を見ていた。
彼もまた興奮しているのか瞳は濡れて、ほぅ……と熱い吐息を漏らす。
「見せてくれてありがとう。Good、閉じていいですよ」
「ん……」
舌の渇きを覚え始めた頃、ようやく東雲から許可が下りて、綾春はきゅっと口を閉じた。ごくりと唾を飲み込むと東雲がくくっと笑う。
その反応が堪らなかった。
「顎、つらかったですか?」
「いえ……。でも東雲さんのグレア、すごいから……心臓が、弾けそうです」
「もっと欲しい?」
物静かそうだった瞳は、いまは捕食者のように静かに光っている。
ああ、飲まれそうだ、なんて思って普段は鳴りを潜めている綾春の貪欲なSub性がずくずくと疼く。
欲しいと訊かれれば、頷くほかない。
熱い眼差しを向けて「欲しい」と小さく答えれば、東雲はとびきり色気を帯びた表情を浮かべた。
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