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03. あーあ、万事休す
「優秀な魔術師って聞いてたが、大したことねぇなぁ。ぐははっ!」
「所詮噂でしたね。さて、早く闇市へ連れていきましょう」
「や、やだっ。誰か助け、むごっ……!」
暴れることを諦めた僕は、それでもなんとか逃れようと、せめて大声で叫ぼうとして……残念ながら、それも阻まれてしまった。口元をしっかりと覆われて、さらに猿轡までされてしまったからだ。叫び声を上げようにも、もごもごと布が邪魔をして叫べない。
(あーあ、万事休す。せめてどっかで隙を見て逃げ出せないかな……)
これ以上暴れても仕方がない。
僕は腹を括って、隙を見つけて逃げ出す方向に考えを変えた。といっても、落としちゃった杖はたぶん拾ってくれないから、杖なしで魔術を使う方法も考えないといけないんだけど。
とにかく、がむしゃらに暴れても無駄なことはわかったから、頭とひらめき、あとは観察力で勝負するしかない。杖がなくても一応魔術は使えなくはない。精度はすごく落ちちゃうし、暴発しやすいんだけど、やれなくはない。
「へへっ、ようやく大人しくなりやがった。そんじゃ早速……ん?」
ようやく何の抵抗も見せなくなった僕に気を良くして、鼻歌でも歌いそうな男たちが急に足を止める。
僕は熊の獣人男に、荷物のように軽々と肩に担がれているので、足を止めた理由はわからない。顔を上げようにも、縛り上げられた体はうまく動かない。
「あぁ? なんだてめぇ?」
「……きみたちが噂の人攫いか」
なんだなんだと思っていたら、男の声が聞こえてきた。
よく通る、凛とした声。声の感じからして男性だ。ってことは……もしかしたら、運よく助けが来たのかもしれない!
「はぁ? だったら、なんだってんだよ」
「んんーっ、むごっ、んぐぅー!」
「煩いですよ、まったく」
「んぐっ」
せっかくの機会を逃すわけには! と必死に声を出したら、またもや赤髪の男に怒られて脇腹を小突かれた。言葉遣いも見た目も柔和そうに見えて、とんでもない悪人だ。まあ人を攫おうって時点で相当悪い輩ではあるけれど。
でも、脇腹を突かれた痛みと引き換えに、僕が合意の上でこんな状態にさせられているってわけじゃないことは、さっきの声の主に伝わったはず。
成人男性三人が小柄な男一人を縄で縛って担いで持っていこうって絵面がすでにおかしいと思ってくれてはいるだろうけど……友人同士の揉めごとかなーとか、ちょっと怪我して担がれてるだけかなーとか思われるわけにはかない。
誰かはわからないけれど、僕は第三者の登場に賭けるしかないのだ。念には念をいれないと。せっかくのチャンスなのだから。……これが声の主が人攫いたちの仲間だったら、また別の手段を考えよう。
(どうか、腕の立つ人でありますように! せめて助けを呼びに行ってくれますように……!)
声の主は一人だったから、もしかしたら三対一だ。腕が立つ人だったらいいなと思いつつも、そう都合よくいかないだろう。せめて一縷の望みよ、繋がれ! と祈る想いでいると、突然ひゅんっと何かが空を切る音が聞こえた。その次の瞬間、ザシュッ、ドカッ、バタッという物騒な音も続く。
「うぎゃああああ!」
「ひぃぃっ!」
「……ッ!」
「んぐぅっ」
三者三様の悲鳴とが聞こえたと思ったら、僕は地面に投げ出された。僕を担いでいた熊の獣人が膝をついたのだ。ちなみに最後の格好悪い悲鳴は僕が上げたもの。ぐるぐる巻きの体じゃ受け身を取れるわけもなく、盛大に地面に落ちた。左半身が痛い。
でもおかげで、熊の獣人の拘束から逃れることができたので、僕は必死に起き上がろうとした。そこへ先ほども聞いた、男らしい声の主が近寄ってきたみたいで、僕に優しく声をかけてくれた。
「もう大丈夫。こっちへおいで」
ひょいっと体を持ち上げられて、蹲る熊の獣人や髭男、赤髪の男から引き離される。それから猿轡を外されて、ぐるぐる巻きにしていた縄もナイフで切って外してくれた。
「……っぷは! あ、あのっ、ありがとうございますっ」
僕は開口一番、お礼を言った。
がばっと顔を上げて、目をまんまるにする。だって目の前には、ものすごく顔が整った、びっくりするぐらいの美男がいたんだ。
先ほどの熊の獣人ほどの体躯はしてないけれど、鍛え抜かれた立派な体をした長身の男性。耳や尻尾はないから種族はフツーの人間だろう。そして容姿が、何よりずば抜けている。
僕の可愛い系とは違って、男らしさがしっかりと出た顔つきの、きらきらと星が瞬いているみたいな好青年。短めにそろえた薄茶色の髪に、すっと通った鼻梁。意志の強そうな藍色の瞳は夜空みたいで、そこに金色が混じっていて不思議な色合いをしている。彼を見た十人に十人が、その瞳から目が離せないような蠱惑的なきらめきをしていた。
「よかった。怪我はない? あー、あちこち擦りむいてるな。手当てしてあげるよ。でもその前に、ちょっと待っててくれ」
にっこりと笑う男に呆気に取られているうちに、彼は僕を全身ささっと目視で確認してから、その場を離れる。「よかった助かったー」とか「左半身が痛いや」とか「この人、かっこよすぎない?」とかいろんな感想が浮かんでは消えてをしているうちに、その美男は地面に伸されている人攫いたちを要領良く縄で縛って、太い木の幹にぐるぐる巻きにしていった。
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