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第一章

第六話 ヴァランデル -1-

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「ヴァラン、そういえばアルに会ったよ。もうそろそろ帰れる、だとさ」
  アルが旅に出てから1年と半年が経った頃だろうか。行商の護衛を済ませてここに戻ってくるなりアブゾルフはそう告げてきた。
「そうか。アルは元気そうだったか」
 1月ほど前に手紙が届き、そろそろ帰れそうだとはあったが、息災かは心配でつい尋ねてしまう。
「ああ、変わりはなかったよ。元気そうだった。むしろなんだか晴れ晴れとした漢字すらしたかな」
「そりゃよかった。他には何か言っていたか」
「なんかどうやらロッケッタの街でやることがあるから、それをしてから帰るってさ」
「ロッケッタか……」
 ロッケッタはここから早馬で3日程のところにある街だ。そして、岩壁に囲まれた不毛の土地でもある。


「ヴァランさん、お邪魔しまーす」
 アブゾルフと話していると、同じく仕事を終えたロルフたちが入ってきた。
「そういえばヴァランさん、ロッケッタの話って聞きました?」
「ロッケッタに何があった」
 アルがロッケッタに向かったということを訊いたからか、思わず声が大きくなってしまいロルフを萎縮させてしまった。
「すまん、それで、ロッケッタに何が起きたんだ」
「ロッケッタの街に魔物の大群が押し寄せていて、今大変らしいんですって」


「ロルフ。それ、本当か」
言葉を失った俺の代わりにアブゾルフが尋ねる。
「え、ええ。さっき逃げてきたロッケッタの友人がそう言ってたんで……」
 アブゾルフのあまりの剣幕にロルフが後退している。
「ヴァラン」
「わかってる。すまんな、二人共。臨時休業だ。俺とアブゾルフは今からロッケッタに向かう」
「ちょっとちょっと、ヴァランさん! 今はやばいですよ。もうロッケッタに向かう道は軍によって全部塞がれてます」
「なら山を越えていくだけだ。そこまでは軍も塞げまい」
 ロルフの声を背に俺の部屋に向かう。手入れをし直した、現役時代の装備を棚から引きずり出す。少し古いものの魔法師としては未だに一級品である、黒鋼と白金との合金鎧を魔力を練り込んだ糸で造られた服の上に纏う。

「今から出る。アブ、着いてきてくれるか」
「勿論」
 俺が身支度を整えている間にアブゾルフも終わらせていた。
 そのまま店を飛び出そうとしたところ、ロルフとレーアに腕を掴まれた。
「待ってください、ヴァランさん」
「ヴァランさん。ロッケッタに行くんだったら私達が手伝えます」
 そう言い、レーアが翡翠色の石のついたネックレスを取り出した。
「これはロッケッタの近くにある隠し金庫へと繋がる転移石です。これがあればロッケッタへはすぐに着きます」
「本当か」
「ここで嘘をいうほど悪党じゃないです、私は」

 そして、「申し訳ないですが床を借ります」と言いながらレーアはなれた手付きで床に複雑な魔法陣を描いていく。
「ただ、私の魔力では同時に飛ばせるのは2人で、1日に1往復が限度です。すいません」
 魔法陣を書き終えたレーアがしゅんとした顔をしている。
「その魔力は、他人のを使うことはできるのか」
「え、ええ。使えますが……ただ、私以外が使うとなると消費が大きいので魔法師の方でないと厳しいです」
「魔法師ならここにいる」
「そうでしたか。でしたら、準備の整った方から陣に手を触れてください」
 全員その言葉を聞き即座に陣に手を触れた。

「それではヴァランさん、お願いします」
 レーアが差し出した転移石に魔力を流し込むと視界が光に包まれた。





 光が晴れるとロッケッタの付近であろう、岩山に囲まれた場所に居た。
「ここは」何処だ、という言葉を継ぐ前にレーアが答えた。
「ロッケッタから北西に7kmほど離れた場所です」
「そうか、なら街まで飛んでいく。全員掴まれ」
 人数分の手が背中に置かれたのを確認し、短距離転移の魔法を数度使いロッケッタの城門が見える場所まで来た。
 街中で結界があり転移は使えないため、ここからは城門に向かい走り出す。

「ヴァラン、広場から剣の音! 誰か戦ってる!」
「わかった。すまんがロルフ、レーア、先に行ってるぞ」
 魔力を練りながら崩れた城壁を足場に、屋根と屋根とを伝って広場へ向かう。


 頼む。アル。無事で居てくれ。
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