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第一章

第六話 ヴァランデル -2-

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 ヴァランと別れて旅をしても、幸か不幸か誰一人として生存者を見つけることはできなかった。そして行く先々で何かしらあの化物の話を調べたが特に収穫もなかった。

 そしていつしか、自分自身の中にかつては確かに存在していた復讐への執念というのも薄れていき、何だか憑き物が落ちたような気がしていた。




 旅も終わりに差し掛かった頃、アブゾルフと出会った。ヴァランは変わらないというが、店には常連が増えたということを聞いて、思わず嬉しくなった。
 そしてアブゾルフと別れ旅の最後の目的地であるロッケッタに向かった。あの化物が姿を見せたという街だ。
 ただ、そこへ向かう街道でロッケッタ方面から急いで逃げてくる人達と出会い、話を聴いたところ魔物の大群が攻めてきたのだという。

 魔物は、基本的に人が集団で住む場所を襲うことはない。だとすると、街を襲撃するような魔物の大群の出現、というのは人為的なものだろう。
 私の家を襲った人間と何かしら関係があるかもしれない。

 まさか、と思い街道を駆け抜けた。


 私がロッケッタに到着したときには既に街はモンスターに囲まれていた。剣を抜き悲鳴が大きい方へと駆け出した。
 そこでは街の人の避難を行っている冒険者たちがいて、彼らと合流をした。

 ロッケッタは小さな町であることが幸いしたのだろう、全ての住人を町の外までに避難させるまでにそんなに時間は掛からなかった。
 そして、外へと逃げ切れた人々は数人の金の冒険者と銀の冒険者が街道付近で戦うことで逃げていった住民たちがモンスターに追撃されないように安全を確保することになった。それそれ以外の冒険者たちで銀以上の者は街に残った魔物を掃討することとなった。
 掃討班となったのは金が8人、銀が25人。それらを3つに分割し1つが戦闘をする間は1つが警戒、そして残り1つは休養という3交代制で戦い続けた。途中から街道に逃げていく魔物を防いでいた冒険者たちも合流してからは安定して戦っていた。
 そうして2、3日を過ぎた頃だろうか。街に巣食ったモンスターをほぼ全て討ち滅ぼす事ができ、皆で広場にて休憩をすることとなった。この頃には金の冒険者が5人に銀が8人と数は大きく減ってしまっていた。


 私が合流してから倒したモンスターの中には私の家族を殺したものは居なかった。もっとも、対峙するだけで震えるような化物がこの場に居たとしても、これだけの冒険者がいるのだ。きっとどこかで倒していてもおかしくはない。
 
 そう思い、腰を浮かせて皆のところへ向かおうとした時だった。周囲が突如として暗くなり、思わず空を見上げた。

 。そう気付いたものは多く居ただろう。ただ、運が悪いことに皆が座り込んだ瞬間であったため、満足に動ける者はほとんど居なかった。
 幸い私は少しだけ離れた場所に居たため、直接何かの下敷きになることはなかった。
 轟音が響き辺りに土煙が漂った。

 土煙が晴れるとそこにはロッケッタの周囲の何処かからか削り取ったのか、30mほどの巨岩が噴水の会った場所に落ちていて、その上には龍のような外見のモンスターがいた。
 ただ、龍と違うのは人型である点だ。


 その魔物には見覚えはなかった。私の家族を殺したのは牛のような化物だったからだ。

 だが、それでもあの魔物が私の家族を殺した化物だ、と本能が感じていた。


 私が動くよりも早く、無事であった他の冒険者が襲いかかる。この3日間を生き延びたのは銀や金の冒険者の中でも優秀な人達のはずだった。
 しかし、ヤツが腕を振るうと同時にモンスターに切りかかった全ての冒険者の胴体が両断されていた。

 化物。規格外。そんな単語が頭を過り、思わず足が竦んだ。
 だが、ここで足を止めるわけにはいかない。地面を全力で蹴り飛ばし、距離を詰める。
 全力で斬りかかるが、あまりに硬質なヤツの皮膚に弾かれた。
「実力差がわからないバカも居るものだな」

 この声は。聞き覚えがあった。あの化物だ。
「その声は!」
「おや、私のことをご存知かな」
「お前に家族を殺された者だ!」
 首を目掛けてナイフを振り抜く。確かに肉を切った感触はあったが、切った先から瞬時に再生していくのが見えた。
「なるほど。だが、不思議だな。皆殺しにして歩いているはずなんだがな」
 私のナイフを掴んだ奴が軽く腕を振るう。それだけで私は10mほど飛ばされてしまう。

「そういえば思い出したよ。お前は私が他の冒険者を始末したのを見て一瞬でも脚を止めた臆病者だったな。それで思い出すことができたよ。昔に家族を盾に生き延びた女が居たな。ソフィ・アージェント、と言ったかな」


 心火を燃やしながらも、冷静であることを意識する。
 装備の下に仕込んだ魔法札に魔力を流し込み、全力の一撃をやつの脳天目掛けて食らわせた。

 そのはずだった。

「ソフィ・アージェント。貴様はやはり庸劣だな。生かす価値もなかったようだ」
 確かに全力の一撃のはずだった。だが、奴には傷一つつけられなかった。そして今度は腕を掴まれ、そのまま骨が折られる。

「英雄の血を引く者として期待をしていたが無駄だったな。家族の元に行け」

 振り上げられた腕が勢いよく振り下ろされた。
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