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第六章・黒槍二双
【第三節・銀蜻蛉】
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「……まさか、あなたまでお店を出しているとは」
「ああっ!! 君達が日頃から、スピカ嬢達の為に頑張っているのは聞いているからねっ!! 俺は俺にできることをしたまでさっ!!」
午後二十五時四十一分。ベファーナに教えてもらった通り、人混みに流され突き当りまで進むと、シルクハットにスーツ姿の蜘蛛男――――アラネアが店を構え、声高らかに客を呼び込んでいた。
彼の話によると一週間程前にボルドー町長へ直接面会し、【機神】を引き連れ街へ駆け込んでしまったことを謝罪しつつ、スピカやローグメルク、ティルレットを【魔物混じり】と説明し、街の出入りと【夜市】の出店許可を正式に得たとのこと。彼に協力してもらい、町長らに【魔物混じり】やスピカらの街への出入りや理解を得ようとも以前皆で思案していたが……【機神】の一件もあり、実行へ移すのは見送っていたのだ。
素性を伏せてはいるものの、正式に認められ出入り可能になったのは、こちらにとっても大きな進展である。心配かけまいと何も言わずに危険を冒したのは少々気に掛かったが、未知の遺跡や秘境を探索する【冒険家】の職業を考えれば、彼にとってこの手の交渉は毎回博打に近いものなのだろう。
「ふん。こちらへ一声も掛けず、秘密裏に話を進めていたのはいただけませんね。交渉立会人として私かポラリス司祭、どちらかを同席させておくべきだったのでは?」
僕の隣へ立つアダムは眉を曲げて訝しんでいる。アラネアも気まずそうにシルクハットを被り直し、苦笑いを返した。
「それは……確かにそうだね。皆が皆、俺達を受け入れてくれるわけじゃないし、こういう日でも無きゃスピカ嬢達が出歩くのもまだ少し難しい。ボルドーさんは良い人だけれども、流されて悪い話にも付け込まれやすいって噂もある。副司祭の言うように、立会人は必要だったかも」
「アダム、アラネアさんは僕らの立場も配慮してくれたんだよ」
「……どのような手段を取ろうと、危険の伴う選択であることは理解している。だからこその情報交換と連携だ。単身ならどう不利益を被ろうが、身内へ気に掛ける事は無い。しかしだ。より密に情報を共有できれば、私達が裏から手を回せる仕事もある。一発勝負の博打であれば、尚更成功させる為に尽力すべきだ」
「………………」
「信用は一朝一夕で得られるものではありませんし、出自や種族を偽ったとしても、スピカさんらの素性を見抜く勘の鋭い者は民衆だけでなく、日々出入りする旅人にも少なからずいます。今回は目を瞑りますが、次に大きな交渉を行う際は我々にも声を掛けて下さい」
アダムは腕組みを解いてアラネアと向き合い、溜め息混じりに理解を示してくれた。これまで何かと彼らに対し二・三歩引いた態度をとっていたアダムだが、拒絶から入らずに連携しようと協調性を見せたのは初めてで、驚いてぽかんと開いた口が塞がらなかった。アラネアもいつも以上に柔らかい彼の対応に、赤い瞳を丸くする。
「……なんだその間抜け面は。私が見極める立場であることは変わりない。だが、上司にとって有益ならば、時に折れるのも部下の努めというもの。無論、これは私が上になった場合も含めた話だ。お前も私に蹴落とされないよう、精々次の一手を考えておけ」
「またまた~、そんなこと言ってぇポーラ司祭を支える気満々の癖に~。恥ずかしいからってそんな言い訳しなく――――でぇっ!?」
茶化しに入ったアポロの左足を、アダムはブーツの靴底で力強く踏みつけ痛みで黙らせる。表情一つ変えずに行われた容赦のない口封じだったが、アダムの性格的にも譲れない物があるのだろう。受け入れ流してやることも必要だと、二人のやり取りを見て学べた。それでも幾分他人へ寛容になった彼が垣間見れたことを、僕は嬉しく思う。
「アラネアさんのお店は……仕立て屋さん、ですか?」
そんな僕らを尻目に、新人は木板で簡易的に組み立てられた商品棚に乗る、鮮やかな生地を指差してアラネアへ尋ねる。
「うん。各種生地に布地、スーツに合わせるちょっとした細かいアクセサリーもあるよ。そうだ、良ければ君達も竜人族の【浴衣】を試着してみないかい? 子供向けに小さめな物も何着か用意してたんだけど、スピカ嬢へ着せるには少し小さ過ぎるし、一度誰かに袖を通してもらいたかったんだ。新人ちゃんなら……うん、ピッタリか少し大きいかぐらいだね。どうだい?」
「え、えっ、えっと……ど、どうしましょう……?」
アラネアに勧められた【浴衣】を前に、不安気にこちらを見る新人へ頷いて返す。
「試着相手がいなくてお困りのようですし、君が差し支えなければ、お手伝いできることは引き受けても構いません。アラネアさんが仕立てた物ですし、きっと似合うと思いますよ」
「……で、ではその……自信はありませんが、よろしくお願いします」
「おっ!! そういう事なら俺もお願いします、アラネアさんっ!! それ着て街中歩き回れば宣伝代わりになりますし、竜人族の【浴衣】は俺も話で聞いていて興味あったんですよねぇ」
アダムの足を持ち上げ強引に退かしながら、アポロも試着を希望した。【浴衣】は鮮やかな赤や青など目立つ色から、元の生地に近いであろう淡い白色、スーツと同じ濃い黒……上下繋がった一枚布を、腹の辺りへ帯で留めて着用する物らしい。体格に拘らず、ゆったりと着こなすにも良さそうだ。アラネアも両手と背に生えた四本の足を合わせ、笑顔を見せる。
「ありがとうっ、とっても助かるよっ!! 司祭と副司祭はどう?」
「今着ている服よりも涼しげで、今夜のような蒸し暑い日には丁度良さそうです。ただ、あまりこういった物を着る機会も無く……是非一着、見繕っていただけますか?」
「勿論さっ!!」
「アダム、君は?」
「ふむ……一人だけが揃っていないのは見栄えが悪い。控えめな色合いの物を着させていただこう。……購入するとはまだ言ってないがな」
「わかっているとも。売り手がどんなにおだてても、最後は本人が納得するかどうかが大事だからね。因みに商品の返品はいつでも受け付けているよ。着用の仕方は荷馬車の中で教えるから、ちょっと待ってて。店番にローグメルクを呼んで来るよ」
「? ローグメルクさんも来ていらっしゃるんですか?」
「うん。彼だけじゃなく、スピカ嬢にティルレットさん、シスターも来ているよ。ローグメルクとティルレットさんは少し離れた場所でお店を出してて、スピカ嬢とシスターは荷馬車の中で接客中。左は女性用の荷馬車、男性諸君は右の荷馬車へ入ってくれ」
僕の質問へアラネアは頷いて答えると露店の背後、二台並んだ屋根付きで大きめの荷馬車を指す。あの二人も店を構えているのか。ティルレットの商品は想像がつくが、ローグメルクは何を売っているのだろう?
「まったく……民衆の中にも、見抜ける者がいると言ったばかりなのに……」
「まぁまぁ。折角の【夜市】だし、二人やアラネアさんが普通に人々と交流できるのは、本人や街にとっても悪いことばかりじゃないよ。楽観視してるわけじゃないけど、いずれはこれを日常にするのが僕らの目標だから……少しでも近付けてたのを実感できて、喜ばしいじゃないか」
こちらの顔を見て、頭痛そうにアダムは呆れた表情をしてうなだれる。君へ負担を掛け過ぎるのは良くはないが、あまり頼らないと頼れと言われる。上司として部下への……【負担の加減】と言えばいいのか。荷馬車内で接客をしている、スピカへ一度相談してみるべきかもしれない。
***
アラネアの指導に従って羽織り、帯を締めて襟元を直し、姿見で【浴衣】を着た自分を映す。灰色の布地と黒い帯。慣れてないせいか、腹部に巻かれた帯の締め付けが少々きついものの、背筋が伸び、着ぶくれもしないので司祭服や私服と比べすらっとして見える。装飾は手縫いと思われる……蜻蛉だろうか? 下半身部分の布地へ昆虫が一匹、銀の糸で大きくあしらわれていた。
「存外、様になっているじゃないか」
左隣で着替えていたアダムも着替え終わったのか声をかけられ、視線を姿見から彼へ向ける。アラネアがアダムへ選んだのは、暗めの濃い紺色の浴衣と灰色の帯。下半身部分の装飾はこちらと違い、胴の長い白い龍が身をくねらせて、こちらを見上げていた。
「そう言うアダムも似合ってるよ。僕は……君と比べて細く見える。あと、動きやすくて姿勢も綺麗に見えるけど、お腹の締め付けが少しきついかな」
「鍛錬不足だ。【昇級】以外で成長しない【受肉】の肉体も、鍛えれば多少なりとも筋肉が付き、骨も太くなる。上半身が強調されるのも相まって、貧相な筋肉が見てとれるな。その【浴衣】姿では女に見えるぞ」
「うーん……もしかして、似合ってない?」
「……ふっ」
「いや、鼻で笑わないでよ」
鏡に映る自分自身と、愉悦そうにこちらを眺めるアダムを見比べる。……ここまで明確な差が出ていると、如何に彼が日々鍛錬へ励み、努力していたかが分かってしまう。彼に負けないよう、鍛錬で【受肉】の肉体を鍛えなければ。
「お二人共、俺はどうです? 姿見だと全体が見えなくて……」
アダムの後ろへ立つアポロは、明るい緑の【浴衣】に紫の帯を巻き、装飾は……ひれの長い魚が数匹、白い糸で縫われ、【浴衣】の上を穏やかに泳いでいるようだ。彼にとってこの姿見は少々小さいのか、狭い荷馬車内では引いて見るのも難しい。だが、その体格の良さがより際立ち、力強さもありながら爽やかな色合いで重苦しくないという、絶妙につり合いがとれて逆に違和感を覚えるほど似合っていた。
「腹正しいな。主に表情が」
「そうじゃなくてっ、似合ってるかどうか聞いてるんですよっ!!」
「に、似合ってます。似合ってますよ、アポロ。ただあまりに似合い過ぎて、アダムは感想に困っただけです」
「あー、良かったっ!! 小さ過ぎて不格好に見えてないかって心配だったんですよっ!! あまりこう、目立つ色合いの服着るってのもないもんで、街中歩き回るのに指差されて笑われたら、アラネアさんや一緒に歩く司祭達にも迷惑かけちゃいますしねっ!! あっはっはっはっ!!」
安堵した様子で笑う彼は両手を腰へ当て、改めて胸を張って僕らへ見せる。……生まれながらの性別を持たない【天使】が男らしく、女らしくあろうと意識した事は今の今までなかったが、格好よく着こなす二人を見ると華奢な体躯の自分は羨ましく思った。【下級天使】時代、酒場でペントラが僕へ「もっと太りな」と言っていた意味はこういう事か。
「ポーラ司祭っ!!」
「はい?」
「良く似合ってますよっ!! 俺は身体が大き過ぎて、そんな綺麗に着こなせないですから羨ましいですっ!!」
突っ張った肩周りを、少し窮屈そうにしてみせるアポロ。気を遣わせてしまった……いや、純心で口の軽い彼の場合は本心か。どちらにせよ、【綺麗】と褒められるのは悪い気はしない。
「ありがとうございます。早速、アラネアさんに見ていただきましょう」
***
三人揃って荷馬車を出ると、新人【天使】は先に着付けが終ったのか、アラネアは彼女の周りを眺めて回りながら手にした手帳へ何かを書き込み、背後に立つ【浴衣】を着た赤髪の女性が、新人の長い髪を櫛と髪留め紐で結上げている場面に出くわす。新人の【浴衣】は薄桃色に紅白の花模様が全体へ装飾され、大きめの赤い帯も映えている。新人はこちらの存在へ気付くと、恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く。
「ん? おぉっ!! やっぱり俺が見立てた通りだっ!! 皆とっても似合っているよっ!! アポロ君はサイズがそれしか無くて不安だったんだけど、バッチリだねっ!!」
「ありがとうございますっ!! んでも、そっちの女性は?」
「ふっふっふっ、ペントラさんだよっ!! 君達よりも一足早く来ていて――――」
「――――ちょい静かにしてて。手元が狂っちまうよ」
「あ、ごめん」
アラネアへ目もくれずに口をつぐむよう促す、【浴衣】を着た赤髪の女性――――ペントラは、いつものように後ろ髪を短く結わえておらず、肩程の髪をおろしていた。新人の長く茶色い髪を梳いては忙しなく動かし、結わえ、丸めて纏め……左右二つの小さな丸い球状の塊へと、形を変える。
「ほい、いっちょ上がりっ!! 髪結わえるなんて久し振りだから、鏡で確認するついでにシスターにも確認してもらうといいさね」
「あ、ありがとう……ございます、ペントラさん。でも、これ、ペントラさんの髪紐ですし……」
「いいっていいってっ!! どっちも予備だし、アタシのはまた買えばいいんだから気にしない気にしないっ!! それよりほら、あそこで鼻の下伸ばしてる男連中にも見せてやりなよっ!!」
ペントラは新人の背をぽんっと押して、こちらへと歩かせる。【浴衣】で更に細く小さく見え、長い髪がまとめ上げられた首周りは夜風が通り、涼し気で可愛らしい。
「どう……でしょうか?」
「へぇー、小人みたいで可愛いなっ!! 短く髪を纏めても似合うじゃんかっ!!」
「ええ。一枚あなたを被写体に描きたいくらい、お洒落さんになりましたね」
「え……えへへ……」
アポロと僕に褒められ、もじもじと胸の辺りで両手を動かす新人。一方、アダムは右手で自身の口元を押さえ、彼女から目を逸らしている。お気に召さなかったのだろうか?
「アダム?」
「……ああ? その……すまない。なんだろうな、この感情は。上手く……整理できない」
「?」
「アダム副司祭。私……変、ですかね?」
不安気に見つめる新人へ、彼は軽く咳払いして顔を少し赤らめながら、押さえていた口元の手を離し首を左右へ振る。
「そんなことはない。とても……似合っている。恐らく、この心を燻るものが、【愛い】という感情なのだろう……な」
「あっ……ありがとうございますぅ……」
「だから、はは早く……か、鏡で自分の姿を見てくるといいっ!! 私に……少し、この感情を理解する時間をくれ……っ!!」
緊張した様子のアダムは言葉を詰まらせながら言い切ると、再び口元を押さえ、こちらへ背を向けてしまった。それを見た新人も無言で頷くと、もう一台の荷馬車へと入って行く。共にそのやり取りを見守っていたアポロはニヤニヤと笑い、ペントラと僕の間に立ち、屈んで肩を組む。
「あの生真面目で小うるさい副司祭も、【愛い】なんて言うんですねぇ」
「ま、まあ……初めての感情に戸惑うのは無理もありません。僕もそうでしたから」
「じゃあ、ポーラ司祭は今のペントラさんを見てどう思います?」
「あ、アタシは……鉄仮面女に挑発されて、着ざるを得なかったって言いますか……どうかね?」
左右の特徴的な長い袖を振るペントラの黒い【浴衣】には、全体に赤・黄・青の火花の装飾が縫われ、彼女と同じ髪色の帯も合わさり華やかである。肩の出たコートにズボン、ブーツの普段の装いと違い、たおやかな印象に僕でさえ他人と見間違えてしまった。
「赤い髪と帯が黒い【浴衣】で映えて、とても綺麗です。荷馬車から出てきた時、声を聞くまで誰かわかりませんでした」
「ん……んふふふ、そうだろぉ? そんじょそこいらの町娘や、鉄仮面女には負けない自信があるさねっ!! いわゆる大人の色気って奴よっ!!」
「色気?」
「感じない? こう、艶やかだーとかさ」
「………………」
「そんな真剣な顔で見ないでおくれよっ!? 悪かったっ!! あんたに理解を求めたアタシが悪かったよっ!!」
「姐さん、そこで身を引いちゃダメですよ。自爆で恥ずかしがってないで押さないと……」
「黙ってなマッチョ君っ!!」
【色気】……そう口にした彼女の望む答えが分からなかったが、顔を真っ赤にするからには褒めて欲しかったのだろう。ペントラはあまりにも感情表現豊かで、どう答えるべきか迷ってしまう。【艶やか】の意味は分かるが、【色気】は美しい・可愛らしいとはまた違うのだろうか? ……今の彼女へ言葉の意味を聞いても、答えてくれそうにない。
ペントラはアポロの手を払い、僕の背をいつもの調子で力強く叩く。
「そう言うポーラはまーた随分可愛らしくなっちゃったじゃないかっ!? 女のアタシより女っぽいってどういうこったいっ!? マッチョやクソガキと比べて、細いんだよあんたはっ!! なんなら今日の【夜市】で、スピカちゃんと美味いもんたらふく食って来なさいなっ!!」
「痛いです。……スピカさんとシスターは、今も荷馬車内に?」
「ん。スピカちゃんはあんまりにも人が多いもんだから、緊張してるみたいさねぇ。アタシや新人ちゃんも誘ったんだけど、シスターが寂しいといけないからって出て来ないんだよ。シスターは構わないって言ってるし……あんたやアポロが誘えば、付いて来るんじゃないかい?」
「ははぁ、どうしましょうか司祭」
ペントラの話す彼女の様子からは緊張と、自分が外へ出ていいのかという迷いを感じる。初めて見る賑やかな光景や環境音に、好奇心旺盛な彼女が全く興味がない訳でもなさそうだが。
「……一先ず、聞くだけ聞いてみましょう。無理強いはしませんが、彼女にとっても良い経験になるでしょうし。いざとなれば、僕らも付いています」
「そうさね、よろしく頼むよ。待ってる間、アタシはブツブツ言ってるクソガキをからかって暇潰してるわ」
「……お手柔らかにお願いします」
***
新人の入った荷馬車の戸口を引く。そこには天井へ吊るしたランプの下で、新人をくるくる見て回るスピカと困惑する新人……泣いているのか、ハンカチに顔を押し当てるシスターの姿があった。二人ともいつもの装いではあるが、儀式めいた光景に挨拶をしようと開いた口から声が出ない。
「あっ!! 今晩は、お兄さんっ!! アポロさんっ!! 見てくださいっ!! 【天使】ですよ【天使】っ!! 可愛すぎてこれを【天使】と呼ばずになんて呼びましょうかっ!?」
「ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうござい――――」
「あの……お二人共、お、落ち着いて……」
アポロと顔を見合わせ、苦笑いしながら荷馬車内へと足を踏み入れる。スピカも想像していたより、外の空気へ不安を感じてはいなさそうだ。
「今晩は。スピカさん、シスター。アラネアさん達を含め、皆さんが街の【夜市】へいらしているとは思いもしませんでした」
「お久し振りです、シスターっ!! スピカちゃんも元気そうでなによりっ!! でも、スピカちゃん。ちょっとウチの新人が困ってるから、可愛いのはわかるんだけど放してくれない?」
「んん~……こんな可愛い【天使】を創造するだなんて、クソったれな神は相当変態なんでしょうねぇ……」
アポロの声も耳に届いていないのか、彼女は新人の背後から手を回して抱きしめる。少女のスピカよりもやや小さい新人は、両手で抱えられると大きな人形のように見えてしまう。
「ありがとうご――――まぁっ!? ポラリス司祭にアポロ様っ!! お二人共、【浴衣】姿が大変似合っていらっしゃいますわっ!!」
こちらへようやく気付いたシスターが、目元の涙を水色のハンカチで拭き取りながら、【浴衣】姿を褒めてくれた。箱を椅子代わりにした彼女の傍には、紅茶の入った二つのカップにポット、焼き菓子の乗った皿が乗せられており、二人で外の賑やかな声を聴きながら過ごしていたのが察せられる。
「……シスターは、外へ出られなくても?」
「私が出ていっても、周りの人々から怖がられてしまいますもの。この人々の声や歩く音を、傍で感じられるだけで充分ですわ」
「……すみません。皆さんで街を歩き回れる、折角の機会なのですが……」
「いいえっ、自分の容姿に問題があるのは重々承知しておりますものっ!! 司祭様が謝るようなことではありませんわっ!!」
「仮装……って、言い切るのも厳しいしなぁ。でも来年にはどうにかできるよう、考えておきますよ」
「そんな滅相もございませんっ!! 【天使】様達と、こうして対等にお話し出来るだけでも十分ですのに……っ!!」
シスターは頭と両手をカタカタ音をたてて左右へ振り、恐れ多そうに振る舞う。彼女の頬骨や額には、焦りのあまりに汗らしき液体が滲みだしている。皮膚も臓器も無い身体構造でどうやって水分を生み出しているのか、不可思議でならない。生前(?)は、名のある魔術師であったともペントラより聞いている。失礼で無ければ、どういった経緯でそうなったかもいずれ尋ねてみたいものだ。
「私の事はともかく、お二人はスピカ嬢をお誘いに来てくださったのでしょう?」
「え、ええ。スピカさんがよろしければですが……いかがでしょう。アポロは【夜市】に詳しいですし、僕らも付いています。皆さんで一緒に回りませんか」
「………………」
提案を聞いたスピカは、新人を抱きしめたままやや俯く。行きたいのは山々でも、安全な荷馬車の外へ一歩踏み出す不安の方が強いか。ティルレットの様に頭を覆い、左角を隠せれば良いのだが……彼女よりも大きく、目立つ角を自然に隠すのは少々難しい。
僅かな沈黙の後、スピカはぽつりぽつりと話し始めた。
「……ボクが、この街を出歩いてもいいのでしょうか? ローグメルクやティルレットは周囲に溶け込み、自然に振る舞うのが上手で、人当たりもいいです。ですが……もし今回、迂闊な行動をしたばっかりに、二度とお兄さん達の街へ入れなくなってしまうんじゃないかと思うと……踏ん切りがつかないんです」
「………………」
「スピカちゃん……」
「正直、ボクは【夜市】への参加を反対していました。町長から許可を得られたとしても、日頃から交易を行っている街や魚人族の港町と比べ、危険に見合わないと想像してましたから。……それでも、今日の二人やアラネアさんも楽しそうで、時々入ってくるお客さんはシスターを見て怖がりもしますが、逃げずに優しく接してくれる人もいたり……単純にボクが、臆病なだけなのではと……悩んでいます」
彼女や僕がまだ訪れたことのない村や街・王都と比較すれば、この街は種族への偏見はかなり緩やかであろう。しかし、多くの人々が行き交う街であるからこそ、彼女や【悪魔】を良く思わない人も少なからずいるのも事実。絶対に安全とは、こちらも言い切れない――――
「――――だとしても、将来はこれが日常になります。出自や種族に拘らず、例え【悪魔】や【魔物】であったとしても、共存を望むのであれば受け入れる。……僕やあなたが望んでいた形に、この街は一歩近付くことが出来ました。今後の選択すべき正しい道はまだ視えず、今はまだ小さな変革でしょう。ですが、アラネアさんが繋いでくれたこの一歩。スピカさんにも応えていただきたいのが本心です」
「………………」
「実は……僕も【夜市】へまともに参加するのは初めてで、恥ずかしながら少し浮かれ気味です。初めて見る食べ物や衣装、曲芸、画材、演奏。……色褪せたあの頃に比べ、いろんな物へ目移りしてしまいますし、アポロや新人、アダムと巡り歩けて、今夜がとても楽しいんです。感情的に訴えるのは立場上良くないと理解しているのですが、一つの街で様々な文化に触れられる今夜出歩かないのは、勿体ないですよ?」
「おおっ、それは確かにっ!! 滅多に聴けない竜人族の演奏や、日付の変わる時間にでっかい花火も上がる。今の時間は今しかないんだ。機会を逃したら悔しさが残るし、来年までもどかしく待たなきゃいけないぞ」
僕の言葉に続けてアポロも屈んで目線を合わせ、スピカへ笑いかける。新人は何も言わなかったが、僕らの言葉に頷き、彼女の手をそっと握った。スピカは目を泳がせ、静かに見守っていたシスターへ視線を向ける。
「私は大丈夫ですわ。こんなにもお優しい【天使】様達と過ごせるんですもの。きっと、楽しい夜になりますわ。いってらっしゃい」
優しい口調で語りかけるシスターの言葉に――――彼女も、頷いて答えた。
「……い、いってきます。お土産は、何がいいですか?」
「そうですわねぇ。私は物より、皆さんと今夜楽しく過ごしたお土産話がいいですわ。お願いできます?」
「……勿論ですっ!! 任せてください、シスターっ!!」
***
シスターへ背を向け、荷馬車の戸口の前へ立つ。ここを跨いでしまえば、もうお兄さん達の街だ。安全が約束されていない……今はまだ、堂々と父の名を名乗れない世界。人々の視線や偏見の不安もあるし、どんなものがあるのかと期待している自分もいる。お兄さん、アダム、アポロ、新人、アラネア、ペントラ……皆、ボクが踏み出す瞬間を待っているんだ。
瞼を閉じて、深呼吸。……この一歩は、皆が繋いでくれた目標への――――手が二つ、瞼を開いた視線の先に差し出される。一つは褐色肌の大きな手。もう一つは清潔感のある白い手袋の手。
「お嬢、足元にお気を付けてっ!!」
「ご心配であれば、不肖もスピカお嬢様のお傍に付いて行きましょう」
無邪気に笑うローグメルクと、僅かに微笑えんで見せるティルレット。いつもと変わらない、二人の温かな雰囲気に、たかが一歩踏み出すのに迷っていた自分が、馬鹿らしくなった。主のボクが、【普通】になることを恐れてどうするんですか。
「もう……二人共、ボクはそこまで子供じゃないですよ?」
二人の手を取って荷馬車の縁を跨ぎ、木板の階段へと一歩踏み出す。人の臭い、食べ物の匂い、笑い声、地面を踏みしめる幾つもの足音、光り輝く街灯や露店の明かり。見たことが無いくらい大勢の人、人、人。……種族は人間が多いが全員ではなく、【魔物混じり】と思われる角の生えた男性と女性も歩いている。この街が特別なだけかもしれないが、ボクの大きな角も大した物ではなく、案外【普通】なのではと感じてしまった。
「僕達の街へようこそ、スピカさん。今夜は皆さんで【夜市】を沢山楽しみましょう」
お兄さんは心の底から嬉しそうに微笑む。銀の蜻蛉の装飾が入った【浴衣】を纏い、ボクを導いてくれる【天使】はとても綺麗で……今日まで生きられたことへ、これから皆で過ごせる時間へ、深く感謝した。
ああ、どうか……何事も無く、今宵が楽しい夜で終わりますように。
「ああっ!! 君達が日頃から、スピカ嬢達の為に頑張っているのは聞いているからねっ!! 俺は俺にできることをしたまでさっ!!」
午後二十五時四十一分。ベファーナに教えてもらった通り、人混みに流され突き当りまで進むと、シルクハットにスーツ姿の蜘蛛男――――アラネアが店を構え、声高らかに客を呼び込んでいた。
彼の話によると一週間程前にボルドー町長へ直接面会し、【機神】を引き連れ街へ駆け込んでしまったことを謝罪しつつ、スピカやローグメルク、ティルレットを【魔物混じり】と説明し、街の出入りと【夜市】の出店許可を正式に得たとのこと。彼に協力してもらい、町長らに【魔物混じり】やスピカらの街への出入りや理解を得ようとも以前皆で思案していたが……【機神】の一件もあり、実行へ移すのは見送っていたのだ。
素性を伏せてはいるものの、正式に認められ出入り可能になったのは、こちらにとっても大きな進展である。心配かけまいと何も言わずに危険を冒したのは少々気に掛かったが、未知の遺跡や秘境を探索する【冒険家】の職業を考えれば、彼にとってこの手の交渉は毎回博打に近いものなのだろう。
「ふん。こちらへ一声も掛けず、秘密裏に話を進めていたのはいただけませんね。交渉立会人として私かポラリス司祭、どちらかを同席させておくべきだったのでは?」
僕の隣へ立つアダムは眉を曲げて訝しんでいる。アラネアも気まずそうにシルクハットを被り直し、苦笑いを返した。
「それは……確かにそうだね。皆が皆、俺達を受け入れてくれるわけじゃないし、こういう日でも無きゃスピカ嬢達が出歩くのもまだ少し難しい。ボルドーさんは良い人だけれども、流されて悪い話にも付け込まれやすいって噂もある。副司祭の言うように、立会人は必要だったかも」
「アダム、アラネアさんは僕らの立場も配慮してくれたんだよ」
「……どのような手段を取ろうと、危険の伴う選択であることは理解している。だからこその情報交換と連携だ。単身ならどう不利益を被ろうが、身内へ気に掛ける事は無い。しかしだ。より密に情報を共有できれば、私達が裏から手を回せる仕事もある。一発勝負の博打であれば、尚更成功させる為に尽力すべきだ」
「………………」
「信用は一朝一夕で得られるものではありませんし、出自や種族を偽ったとしても、スピカさんらの素性を見抜く勘の鋭い者は民衆だけでなく、日々出入りする旅人にも少なからずいます。今回は目を瞑りますが、次に大きな交渉を行う際は我々にも声を掛けて下さい」
アダムは腕組みを解いてアラネアと向き合い、溜め息混じりに理解を示してくれた。これまで何かと彼らに対し二・三歩引いた態度をとっていたアダムだが、拒絶から入らずに連携しようと協調性を見せたのは初めてで、驚いてぽかんと開いた口が塞がらなかった。アラネアもいつも以上に柔らかい彼の対応に、赤い瞳を丸くする。
「……なんだその間抜け面は。私が見極める立場であることは変わりない。だが、上司にとって有益ならば、時に折れるのも部下の努めというもの。無論、これは私が上になった場合も含めた話だ。お前も私に蹴落とされないよう、精々次の一手を考えておけ」
「またまた~、そんなこと言ってぇポーラ司祭を支える気満々の癖に~。恥ずかしいからってそんな言い訳しなく――――でぇっ!?」
茶化しに入ったアポロの左足を、アダムはブーツの靴底で力強く踏みつけ痛みで黙らせる。表情一つ変えずに行われた容赦のない口封じだったが、アダムの性格的にも譲れない物があるのだろう。受け入れ流してやることも必要だと、二人のやり取りを見て学べた。それでも幾分他人へ寛容になった彼が垣間見れたことを、僕は嬉しく思う。
「アラネアさんのお店は……仕立て屋さん、ですか?」
そんな僕らを尻目に、新人は木板で簡易的に組み立てられた商品棚に乗る、鮮やかな生地を指差してアラネアへ尋ねる。
「うん。各種生地に布地、スーツに合わせるちょっとした細かいアクセサリーもあるよ。そうだ、良ければ君達も竜人族の【浴衣】を試着してみないかい? 子供向けに小さめな物も何着か用意してたんだけど、スピカ嬢へ着せるには少し小さ過ぎるし、一度誰かに袖を通してもらいたかったんだ。新人ちゃんなら……うん、ピッタリか少し大きいかぐらいだね。どうだい?」
「え、えっ、えっと……ど、どうしましょう……?」
アラネアに勧められた【浴衣】を前に、不安気にこちらを見る新人へ頷いて返す。
「試着相手がいなくてお困りのようですし、君が差し支えなければ、お手伝いできることは引き受けても構いません。アラネアさんが仕立てた物ですし、きっと似合うと思いますよ」
「……で、ではその……自信はありませんが、よろしくお願いします」
「おっ!! そういう事なら俺もお願いします、アラネアさんっ!! それ着て街中歩き回れば宣伝代わりになりますし、竜人族の【浴衣】は俺も話で聞いていて興味あったんですよねぇ」
アダムの足を持ち上げ強引に退かしながら、アポロも試着を希望した。【浴衣】は鮮やかな赤や青など目立つ色から、元の生地に近いであろう淡い白色、スーツと同じ濃い黒……上下繋がった一枚布を、腹の辺りへ帯で留めて着用する物らしい。体格に拘らず、ゆったりと着こなすにも良さそうだ。アラネアも両手と背に生えた四本の足を合わせ、笑顔を見せる。
「ありがとうっ、とっても助かるよっ!! 司祭と副司祭はどう?」
「今着ている服よりも涼しげで、今夜のような蒸し暑い日には丁度良さそうです。ただ、あまりこういった物を着る機会も無く……是非一着、見繕っていただけますか?」
「勿論さっ!!」
「アダム、君は?」
「ふむ……一人だけが揃っていないのは見栄えが悪い。控えめな色合いの物を着させていただこう。……購入するとはまだ言ってないがな」
「わかっているとも。売り手がどんなにおだてても、最後は本人が納得するかどうかが大事だからね。因みに商品の返品はいつでも受け付けているよ。着用の仕方は荷馬車の中で教えるから、ちょっと待ってて。店番にローグメルクを呼んで来るよ」
「? ローグメルクさんも来ていらっしゃるんですか?」
「うん。彼だけじゃなく、スピカ嬢にティルレットさん、シスターも来ているよ。ローグメルクとティルレットさんは少し離れた場所でお店を出してて、スピカ嬢とシスターは荷馬車の中で接客中。左は女性用の荷馬車、男性諸君は右の荷馬車へ入ってくれ」
僕の質問へアラネアは頷いて答えると露店の背後、二台並んだ屋根付きで大きめの荷馬車を指す。あの二人も店を構えているのか。ティルレットの商品は想像がつくが、ローグメルクは何を売っているのだろう?
「まったく……民衆の中にも、見抜ける者がいると言ったばかりなのに……」
「まぁまぁ。折角の【夜市】だし、二人やアラネアさんが普通に人々と交流できるのは、本人や街にとっても悪いことばかりじゃないよ。楽観視してるわけじゃないけど、いずれはこれを日常にするのが僕らの目標だから……少しでも近付けてたのを実感できて、喜ばしいじゃないか」
こちらの顔を見て、頭痛そうにアダムは呆れた表情をしてうなだれる。君へ負担を掛け過ぎるのは良くはないが、あまり頼らないと頼れと言われる。上司として部下への……【負担の加減】と言えばいいのか。荷馬車内で接客をしている、スピカへ一度相談してみるべきかもしれない。
***
アラネアの指導に従って羽織り、帯を締めて襟元を直し、姿見で【浴衣】を着た自分を映す。灰色の布地と黒い帯。慣れてないせいか、腹部に巻かれた帯の締め付けが少々きついものの、背筋が伸び、着ぶくれもしないので司祭服や私服と比べすらっとして見える。装飾は手縫いと思われる……蜻蛉だろうか? 下半身部分の布地へ昆虫が一匹、銀の糸で大きくあしらわれていた。
「存外、様になっているじゃないか」
左隣で着替えていたアダムも着替え終わったのか声をかけられ、視線を姿見から彼へ向ける。アラネアがアダムへ選んだのは、暗めの濃い紺色の浴衣と灰色の帯。下半身部分の装飾はこちらと違い、胴の長い白い龍が身をくねらせて、こちらを見上げていた。
「そう言うアダムも似合ってるよ。僕は……君と比べて細く見える。あと、動きやすくて姿勢も綺麗に見えるけど、お腹の締め付けが少しきついかな」
「鍛錬不足だ。【昇級】以外で成長しない【受肉】の肉体も、鍛えれば多少なりとも筋肉が付き、骨も太くなる。上半身が強調されるのも相まって、貧相な筋肉が見てとれるな。その【浴衣】姿では女に見えるぞ」
「うーん……もしかして、似合ってない?」
「……ふっ」
「いや、鼻で笑わないでよ」
鏡に映る自分自身と、愉悦そうにこちらを眺めるアダムを見比べる。……ここまで明確な差が出ていると、如何に彼が日々鍛錬へ励み、努力していたかが分かってしまう。彼に負けないよう、鍛錬で【受肉】の肉体を鍛えなければ。
「お二人共、俺はどうです? 姿見だと全体が見えなくて……」
アダムの後ろへ立つアポロは、明るい緑の【浴衣】に紫の帯を巻き、装飾は……ひれの長い魚が数匹、白い糸で縫われ、【浴衣】の上を穏やかに泳いでいるようだ。彼にとってこの姿見は少々小さいのか、狭い荷馬車内では引いて見るのも難しい。だが、その体格の良さがより際立ち、力強さもありながら爽やかな色合いで重苦しくないという、絶妙につり合いがとれて逆に違和感を覚えるほど似合っていた。
「腹正しいな。主に表情が」
「そうじゃなくてっ、似合ってるかどうか聞いてるんですよっ!!」
「に、似合ってます。似合ってますよ、アポロ。ただあまりに似合い過ぎて、アダムは感想に困っただけです」
「あー、良かったっ!! 小さ過ぎて不格好に見えてないかって心配だったんですよっ!! あまりこう、目立つ色合いの服着るってのもないもんで、街中歩き回るのに指差されて笑われたら、アラネアさんや一緒に歩く司祭達にも迷惑かけちゃいますしねっ!! あっはっはっはっ!!」
安堵した様子で笑う彼は両手を腰へ当て、改めて胸を張って僕らへ見せる。……生まれながらの性別を持たない【天使】が男らしく、女らしくあろうと意識した事は今の今までなかったが、格好よく着こなす二人を見ると華奢な体躯の自分は羨ましく思った。【下級天使】時代、酒場でペントラが僕へ「もっと太りな」と言っていた意味はこういう事か。
「ポーラ司祭っ!!」
「はい?」
「良く似合ってますよっ!! 俺は身体が大き過ぎて、そんな綺麗に着こなせないですから羨ましいですっ!!」
突っ張った肩周りを、少し窮屈そうにしてみせるアポロ。気を遣わせてしまった……いや、純心で口の軽い彼の場合は本心か。どちらにせよ、【綺麗】と褒められるのは悪い気はしない。
「ありがとうございます。早速、アラネアさんに見ていただきましょう」
***
三人揃って荷馬車を出ると、新人【天使】は先に着付けが終ったのか、アラネアは彼女の周りを眺めて回りながら手にした手帳へ何かを書き込み、背後に立つ【浴衣】を着た赤髪の女性が、新人の長い髪を櫛と髪留め紐で結上げている場面に出くわす。新人の【浴衣】は薄桃色に紅白の花模様が全体へ装飾され、大きめの赤い帯も映えている。新人はこちらの存在へ気付くと、恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く。
「ん? おぉっ!! やっぱり俺が見立てた通りだっ!! 皆とっても似合っているよっ!! アポロ君はサイズがそれしか無くて不安だったんだけど、バッチリだねっ!!」
「ありがとうございますっ!! んでも、そっちの女性は?」
「ふっふっふっ、ペントラさんだよっ!! 君達よりも一足早く来ていて――――」
「――――ちょい静かにしてて。手元が狂っちまうよ」
「あ、ごめん」
アラネアへ目もくれずに口をつぐむよう促す、【浴衣】を着た赤髪の女性――――ペントラは、いつものように後ろ髪を短く結わえておらず、肩程の髪をおろしていた。新人の長く茶色い髪を梳いては忙しなく動かし、結わえ、丸めて纏め……左右二つの小さな丸い球状の塊へと、形を変える。
「ほい、いっちょ上がりっ!! 髪結わえるなんて久し振りだから、鏡で確認するついでにシスターにも確認してもらうといいさね」
「あ、ありがとう……ございます、ペントラさん。でも、これ、ペントラさんの髪紐ですし……」
「いいっていいってっ!! どっちも予備だし、アタシのはまた買えばいいんだから気にしない気にしないっ!! それよりほら、あそこで鼻の下伸ばしてる男連中にも見せてやりなよっ!!」
ペントラは新人の背をぽんっと押して、こちらへと歩かせる。【浴衣】で更に細く小さく見え、長い髪がまとめ上げられた首周りは夜風が通り、涼し気で可愛らしい。
「どう……でしょうか?」
「へぇー、小人みたいで可愛いなっ!! 短く髪を纏めても似合うじゃんかっ!!」
「ええ。一枚あなたを被写体に描きたいくらい、お洒落さんになりましたね」
「え……えへへ……」
アポロと僕に褒められ、もじもじと胸の辺りで両手を動かす新人。一方、アダムは右手で自身の口元を押さえ、彼女から目を逸らしている。お気に召さなかったのだろうか?
「アダム?」
「……ああ? その……すまない。なんだろうな、この感情は。上手く……整理できない」
「?」
「アダム副司祭。私……変、ですかね?」
不安気に見つめる新人へ、彼は軽く咳払いして顔を少し赤らめながら、押さえていた口元の手を離し首を左右へ振る。
「そんなことはない。とても……似合っている。恐らく、この心を燻るものが、【愛い】という感情なのだろう……な」
「あっ……ありがとうございますぅ……」
「だから、はは早く……か、鏡で自分の姿を見てくるといいっ!! 私に……少し、この感情を理解する時間をくれ……っ!!」
緊張した様子のアダムは言葉を詰まらせながら言い切ると、再び口元を押さえ、こちらへ背を向けてしまった。それを見た新人も無言で頷くと、もう一台の荷馬車へと入って行く。共にそのやり取りを見守っていたアポロはニヤニヤと笑い、ペントラと僕の間に立ち、屈んで肩を組む。
「あの生真面目で小うるさい副司祭も、【愛い】なんて言うんですねぇ」
「ま、まあ……初めての感情に戸惑うのは無理もありません。僕もそうでしたから」
「じゃあ、ポーラ司祭は今のペントラさんを見てどう思います?」
「あ、アタシは……鉄仮面女に挑発されて、着ざるを得なかったって言いますか……どうかね?」
左右の特徴的な長い袖を振るペントラの黒い【浴衣】には、全体に赤・黄・青の火花の装飾が縫われ、彼女と同じ髪色の帯も合わさり華やかである。肩の出たコートにズボン、ブーツの普段の装いと違い、たおやかな印象に僕でさえ他人と見間違えてしまった。
「赤い髪と帯が黒い【浴衣】で映えて、とても綺麗です。荷馬車から出てきた時、声を聞くまで誰かわかりませんでした」
「ん……んふふふ、そうだろぉ? そんじょそこいらの町娘や、鉄仮面女には負けない自信があるさねっ!! いわゆる大人の色気って奴よっ!!」
「色気?」
「感じない? こう、艶やかだーとかさ」
「………………」
「そんな真剣な顔で見ないでおくれよっ!? 悪かったっ!! あんたに理解を求めたアタシが悪かったよっ!!」
「姐さん、そこで身を引いちゃダメですよ。自爆で恥ずかしがってないで押さないと……」
「黙ってなマッチョ君っ!!」
【色気】……そう口にした彼女の望む答えが分からなかったが、顔を真っ赤にするからには褒めて欲しかったのだろう。ペントラはあまりにも感情表現豊かで、どう答えるべきか迷ってしまう。【艶やか】の意味は分かるが、【色気】は美しい・可愛らしいとはまた違うのだろうか? ……今の彼女へ言葉の意味を聞いても、答えてくれそうにない。
ペントラはアポロの手を払い、僕の背をいつもの調子で力強く叩く。
「そう言うポーラはまーた随分可愛らしくなっちゃったじゃないかっ!? 女のアタシより女っぽいってどういうこったいっ!? マッチョやクソガキと比べて、細いんだよあんたはっ!! なんなら今日の【夜市】で、スピカちゃんと美味いもんたらふく食って来なさいなっ!!」
「痛いです。……スピカさんとシスターは、今も荷馬車内に?」
「ん。スピカちゃんはあんまりにも人が多いもんだから、緊張してるみたいさねぇ。アタシや新人ちゃんも誘ったんだけど、シスターが寂しいといけないからって出て来ないんだよ。シスターは構わないって言ってるし……あんたやアポロが誘えば、付いて来るんじゃないかい?」
「ははぁ、どうしましょうか司祭」
ペントラの話す彼女の様子からは緊張と、自分が外へ出ていいのかという迷いを感じる。初めて見る賑やかな光景や環境音に、好奇心旺盛な彼女が全く興味がない訳でもなさそうだが。
「……一先ず、聞くだけ聞いてみましょう。無理強いはしませんが、彼女にとっても良い経験になるでしょうし。いざとなれば、僕らも付いています」
「そうさね、よろしく頼むよ。待ってる間、アタシはブツブツ言ってるクソガキをからかって暇潰してるわ」
「……お手柔らかにお願いします」
***
新人の入った荷馬車の戸口を引く。そこには天井へ吊るしたランプの下で、新人をくるくる見て回るスピカと困惑する新人……泣いているのか、ハンカチに顔を押し当てるシスターの姿があった。二人ともいつもの装いではあるが、儀式めいた光景に挨拶をしようと開いた口から声が出ない。
「あっ!! 今晩は、お兄さんっ!! アポロさんっ!! 見てくださいっ!! 【天使】ですよ【天使】っ!! 可愛すぎてこれを【天使】と呼ばずになんて呼びましょうかっ!?」
「ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうござい――――」
「あの……お二人共、お、落ち着いて……」
アポロと顔を見合わせ、苦笑いしながら荷馬車内へと足を踏み入れる。スピカも想像していたより、外の空気へ不安を感じてはいなさそうだ。
「今晩は。スピカさん、シスター。アラネアさん達を含め、皆さんが街の【夜市】へいらしているとは思いもしませんでした」
「お久し振りです、シスターっ!! スピカちゃんも元気そうでなによりっ!! でも、スピカちゃん。ちょっとウチの新人が困ってるから、可愛いのはわかるんだけど放してくれない?」
「んん~……こんな可愛い【天使】を創造するだなんて、クソったれな神は相当変態なんでしょうねぇ……」
アポロの声も耳に届いていないのか、彼女は新人の背後から手を回して抱きしめる。少女のスピカよりもやや小さい新人は、両手で抱えられると大きな人形のように見えてしまう。
「ありがとうご――――まぁっ!? ポラリス司祭にアポロ様っ!! お二人共、【浴衣】姿が大変似合っていらっしゃいますわっ!!」
こちらへようやく気付いたシスターが、目元の涙を水色のハンカチで拭き取りながら、【浴衣】姿を褒めてくれた。箱を椅子代わりにした彼女の傍には、紅茶の入った二つのカップにポット、焼き菓子の乗った皿が乗せられており、二人で外の賑やかな声を聴きながら過ごしていたのが察せられる。
「……シスターは、外へ出られなくても?」
「私が出ていっても、周りの人々から怖がられてしまいますもの。この人々の声や歩く音を、傍で感じられるだけで充分ですわ」
「……すみません。皆さんで街を歩き回れる、折角の機会なのですが……」
「いいえっ、自分の容姿に問題があるのは重々承知しておりますものっ!! 司祭様が謝るようなことではありませんわっ!!」
「仮装……って、言い切るのも厳しいしなぁ。でも来年にはどうにかできるよう、考えておきますよ」
「そんな滅相もございませんっ!! 【天使】様達と、こうして対等にお話し出来るだけでも十分ですのに……っ!!」
シスターは頭と両手をカタカタ音をたてて左右へ振り、恐れ多そうに振る舞う。彼女の頬骨や額には、焦りのあまりに汗らしき液体が滲みだしている。皮膚も臓器も無い身体構造でどうやって水分を生み出しているのか、不可思議でならない。生前(?)は、名のある魔術師であったともペントラより聞いている。失礼で無ければ、どういった経緯でそうなったかもいずれ尋ねてみたいものだ。
「私の事はともかく、お二人はスピカ嬢をお誘いに来てくださったのでしょう?」
「え、ええ。スピカさんがよろしければですが……いかがでしょう。アポロは【夜市】に詳しいですし、僕らも付いています。皆さんで一緒に回りませんか」
「………………」
提案を聞いたスピカは、新人を抱きしめたままやや俯く。行きたいのは山々でも、安全な荷馬車の外へ一歩踏み出す不安の方が強いか。ティルレットの様に頭を覆い、左角を隠せれば良いのだが……彼女よりも大きく、目立つ角を自然に隠すのは少々難しい。
僅かな沈黙の後、スピカはぽつりぽつりと話し始めた。
「……ボクが、この街を出歩いてもいいのでしょうか? ローグメルクやティルレットは周囲に溶け込み、自然に振る舞うのが上手で、人当たりもいいです。ですが……もし今回、迂闊な行動をしたばっかりに、二度とお兄さん達の街へ入れなくなってしまうんじゃないかと思うと……踏ん切りがつかないんです」
「………………」
「スピカちゃん……」
「正直、ボクは【夜市】への参加を反対していました。町長から許可を得られたとしても、日頃から交易を行っている街や魚人族の港町と比べ、危険に見合わないと想像してましたから。……それでも、今日の二人やアラネアさんも楽しそうで、時々入ってくるお客さんはシスターを見て怖がりもしますが、逃げずに優しく接してくれる人もいたり……単純にボクが、臆病なだけなのではと……悩んでいます」
彼女や僕がまだ訪れたことのない村や街・王都と比較すれば、この街は種族への偏見はかなり緩やかであろう。しかし、多くの人々が行き交う街であるからこそ、彼女や【悪魔】を良く思わない人も少なからずいるのも事実。絶対に安全とは、こちらも言い切れない――――
「――――だとしても、将来はこれが日常になります。出自や種族に拘らず、例え【悪魔】や【魔物】であったとしても、共存を望むのであれば受け入れる。……僕やあなたが望んでいた形に、この街は一歩近付くことが出来ました。今後の選択すべき正しい道はまだ視えず、今はまだ小さな変革でしょう。ですが、アラネアさんが繋いでくれたこの一歩。スピカさんにも応えていただきたいのが本心です」
「………………」
「実は……僕も【夜市】へまともに参加するのは初めてで、恥ずかしながら少し浮かれ気味です。初めて見る食べ物や衣装、曲芸、画材、演奏。……色褪せたあの頃に比べ、いろんな物へ目移りしてしまいますし、アポロや新人、アダムと巡り歩けて、今夜がとても楽しいんです。感情的に訴えるのは立場上良くないと理解しているのですが、一つの街で様々な文化に触れられる今夜出歩かないのは、勿体ないですよ?」
「おおっ、それは確かにっ!! 滅多に聴けない竜人族の演奏や、日付の変わる時間にでっかい花火も上がる。今の時間は今しかないんだ。機会を逃したら悔しさが残るし、来年までもどかしく待たなきゃいけないぞ」
僕の言葉に続けてアポロも屈んで目線を合わせ、スピカへ笑いかける。新人は何も言わなかったが、僕らの言葉に頷き、彼女の手をそっと握った。スピカは目を泳がせ、静かに見守っていたシスターへ視線を向ける。
「私は大丈夫ですわ。こんなにもお優しい【天使】様達と過ごせるんですもの。きっと、楽しい夜になりますわ。いってらっしゃい」
優しい口調で語りかけるシスターの言葉に――――彼女も、頷いて答えた。
「……い、いってきます。お土産は、何がいいですか?」
「そうですわねぇ。私は物より、皆さんと今夜楽しく過ごしたお土産話がいいですわ。お願いできます?」
「……勿論ですっ!! 任せてください、シスターっ!!」
***
シスターへ背を向け、荷馬車の戸口の前へ立つ。ここを跨いでしまえば、もうお兄さん達の街だ。安全が約束されていない……今はまだ、堂々と父の名を名乗れない世界。人々の視線や偏見の不安もあるし、どんなものがあるのかと期待している自分もいる。お兄さん、アダム、アポロ、新人、アラネア、ペントラ……皆、ボクが踏み出す瞬間を待っているんだ。
瞼を閉じて、深呼吸。……この一歩は、皆が繋いでくれた目標への――――手が二つ、瞼を開いた視線の先に差し出される。一つは褐色肌の大きな手。もう一つは清潔感のある白い手袋の手。
「お嬢、足元にお気を付けてっ!!」
「ご心配であれば、不肖もスピカお嬢様のお傍に付いて行きましょう」
無邪気に笑うローグメルクと、僅かに微笑えんで見せるティルレット。いつもと変わらない、二人の温かな雰囲気に、たかが一歩踏み出すのに迷っていた自分が、馬鹿らしくなった。主のボクが、【普通】になることを恐れてどうするんですか。
「もう……二人共、ボクはそこまで子供じゃないですよ?」
二人の手を取って荷馬車の縁を跨ぎ、木板の階段へと一歩踏み出す。人の臭い、食べ物の匂い、笑い声、地面を踏みしめる幾つもの足音、光り輝く街灯や露店の明かり。見たことが無いくらい大勢の人、人、人。……種族は人間が多いが全員ではなく、【魔物混じり】と思われる角の生えた男性と女性も歩いている。この街が特別なだけかもしれないが、ボクの大きな角も大した物ではなく、案外【普通】なのではと感じてしまった。
「僕達の街へようこそ、スピカさん。今夜は皆さんで【夜市】を沢山楽しみましょう」
お兄さんは心の底から嬉しそうに微笑む。銀の蜻蛉の装飾が入った【浴衣】を纏い、ボクを導いてくれる【天使】はとても綺麗で……今日まで生きられたことへ、これから皆で過ごせる時間へ、深く感謝した。
ああ、どうか……何事も無く、今宵が楽しい夜で終わりますように。
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