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2話
しおりを挟む第2話「最初のスキル」
翌朝、学校へ向かう道は妙に静かだった。
昨夜あれだけの光が空を裂いたはずなのに、通行人の会話は「雷みたいだったね」「ニュース大げさすぎ」で片付けられている。
ダンジョンもスキルウィンドウも見えていない――どうやら“見える人間”は限られているらしい。
(俺と凛、そして……月城も?)
ホームルーム前。
教室へ入った俺は、朱音と目が合った。
彼女はいつものように微笑むでもなく、真剣な顔で席の前に立っていた。
「神代くん。ちょっと……屋上、行ける?」
教室がざわつく。
クラスの人気者に呼び出されてるんだから当然だ。
だが俺の心臓は別の理由で跳ねていた。
(やっぱり、朱音も“知ってる”——?)
屋上の扉を閉めた途端、朱音は息を整えもせず口を開いた。
「昨日の、空の光……そのあと、画面が出たでしょ?」
「やっぱり見えてるんだな……」
朱音はぎゅっと唇を結んだ。
「これはただの現象じゃない。あれは“門(ゲート)を開くための衝撃”……。世界中にダンジョンが現れ始めてるわ」
「どうしてそんなこと知ってるんだ?」
「……言えるのはまだ半分だけ。でも、あなたが“向こう側に選ばれた”のは確か」
選ばれた。
昨夜ステータスを見た限り、俺は“選ばれるほど強くない”。
むしろ雑魚寄りだ。
「スキルポイント、振った?」
「いや、まだ」
「じゃあ……一緒に見せて」
距離が近い。
朱音の指先が、俺の胸元のウィンドウへ伸びる。
彼女にも俺のステータスが見えるらしい。
「レベル1でポイント1……でも、伸び方が少し変。普通はこんな“余白”出ないはずよ」
朱音が指差したのは、空欄になっている追加スキル枠。
本来まだ解放されるはずのない場所が淡く光っている。
「神代くん、“特異枠”がある。これは……国家機関でもほとんど確認されてないタイプ」
嫌でも緊張が高まる。
だが同時に、興奮もあった。
「じゃあ……振るぞ」
「ええ。最初の一歩は大事よ」
スキル一覧が表示される。
【基本スキル】
・身体強化(小) SP1
・反応強化(小) SP1
・瞬間記憶 SP1
・解析(低) SP1
そして、一番下の行にだけ、淡い青光を放つスキルがあった。
【???(要求SP1)】
※特異枠専用・効果未解析
「……なんだ、これ」
「普通なら絶対に出ない。“あなたにしか取れないスキル”ってこと」
心臓がドクンと跳ねる。
未知のスキル。リスクもある。
でも、気づけば指はその行に向かっていた。
「取るぞ」
「……ええ、見届ける」
指が触れる。
【特異スキル取得:『成長補正×10』】
【スキル獲得補正:取得経験が10倍に変換されます】
「……っ!?」
思わず息を呑む。
朱音も目を大きく開いた。
「成長……補正? 10倍? こんなの……チートすぎる……!」
胸の奥で、熱が爆ぜた。
ステータスがほんのわずかに脈動し、レベル1の数字が今にも変わりそうなほど膨張している。
(俺は……強くなれる)
そのとき、別のウィンドウが開いた。
【天ノ宮駅前地下迷宮:初入場者ボーナスあり】
【近接者を誘導します】
朱音が息をのみ、俺の手首をつかんだ。
「……来る。ゲートが開いた。神代くん、今日が最初のダンジョンよ!」
心臓の鼓動は恐怖か興奮か、もうどっちかわからなかった。
(でも——行かなきゃ始まらない)
俺たちは屋上を駆け下りた。
―――第2話 了―――
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