47 / 50
第四十七話・伝え合う想い
しおりを挟む
どうしてこんなに安心できるんだろうかと、私は柊人さんの胸に抱かれながら不思議に感じていた。絶対的な信頼というと言い過ぎかもしれないけれど、でも彼は私のことを傷付けたりはしないと信じられる。だって、これまで柊人さんは私に嘘を付いたことはないし、口にしたことは必ず実行する人だと思うから。
言葉少なな分、その重みは誰よりも重い。
だから、彼が傍にいていいと言ってくれるのなら、本当に一緒にいてもいいのだと分かってホッとした。会社の人達には申し訳ないけれど、私は彼の元を離れようとは思わない。でも、それが彼の経営する会社にとって良くない結果になってしまうのは……。彼の足枷になるなんて望んでない。
「大丈夫。縁談を断ったくらいで取引が無くなる相手じゃないから」
私が思っていたことを見透かしたかのように、柊人さんが小さく笑いながら「その程度のことで切られるような仕事はしてきてない」と断言する。さっきのは暴走した部下に反省させる為に大袈裟に言っただけだと。そして、それにと言葉を続ける。
「軽く、今度娘と会ってやってくれって言われただけ。ただの社交辞令だ。それなのに、傍で聞いていた奴等が勝手に騒いで――」
「うん、もう平気だから」
私を安心させるために詳しく説明してくれようとする彼の言葉を途中で遮り、私は柊人さんの頬へと手を伸ばす。そして顔を近付けてその唇を唇で塞いだ。もう言葉は十分過ぎるくらい貰ったからと伝えるべく。
私からの突然の口付けに柊人さんは少し驚いた表情になったけれど、すぐに嬉しそうに口の端を緩めていた。お返しのように私の頬に手を添えて、彼からも顔を近付けてくる。
優しく啄むようなキスの応酬。わざと音を立てては笑い合う。声を出して笑った隙をついて彼の舌が口の中へ潜り込んでくると、私はそれを自分の舌で追いかける。熱い舌が絡んでは互いの熱を確かめ合う。背中へと回されていた腕にキュッと力を込められると彼に必死で求められているのを感じる。私も柊人さんの首に腕を回してさらに身体を密着させた。服越しに彼の体温を感じる。
「はぁ……」
唇が離れると、口から甘い吐息が漏れ出た。呼吸もままならないほど激しいキスに興奮してか、すっかり紅潮した頬が熱い。潤んだ瞳で柊人さんを見つめ返すと、彼も同じような熱っぽい瞳を私へと向けてくる。こんなにも私のことを想ってくれる人と出会えたのは奇跡かもしれない。私はもう一度、彼の腕にキュッとしがみ付き、彼の肩に顔を埋めてから、今どうしても伝えたい言葉を口にする。
「柊人さん、大好き」
言った後、彼の反応が見たくて顔を上げる。てっきり彼の方も何か言ってくれるのかと期待したが、柊人さんは片手で自分の顔を覆い隠して固まっていた。
「柊人、さん?」
どうしたのかと顔を覗き込もうとすると、顔を隠したまま柊人さんが首を横に振ってみせる。手で隠し切れていない耳が赤く染まっているのが見えて、彼が照れて反応に困っているのだと気付いた。そう言えば、私から彼への想いを言葉にしたのは初めてだった。頬がこれでもかというほど緩んでいるから、すごく喜んでくれているのが分かった。
――可愛い……
普段はあまり表情を見せてくれない彼が、自分の感情を持て余して困惑している姿は貴重だ。私がじっと下から眺めていると、柊人さんは気マズいとばかりに顔を横に背けた。何度もハァと憂いを帯びた溜め息をついた後、彼がようやく顔から手を離し私の方を向いてくれる。顔の赤味は収まったみたいだけれど、瞳の熱は冷めたようには見えない。
「ごめん、我慢できない」
そう絞り出すように呟いた後、柊人さんは私の身体を両腕で抱き抱えてソファーから立ち上がる。肩に担ぐような縦抱きに私は驚いて足をバタつかせたが、彼は何も動じずにそのままスタスタと廊下に向かって歩き出す。
「え、えっ、ええっ⁉」
落ちないよう彼の首にしがみ付いていると、廊下を抜けて彼の寝室へと運ばれていた。ベッドの上にぽすんと下ろされて茫然と彼を見上げていると、柊人さんが私の身体に覆い被さるようにして抱き締めてくる。
「咲良、愛してる」
耳のすぐ近くで囁かれた言葉に、私は彼の顔を確かめる。照れているのか真正面にこちらを見ようとしないその頬に、私はそっと唇を近付けた。一緒にいればいるほど、彼のことがどんどん好きになっていく。誠実で真っ直ぐで、でもどこか不器用で。
私が彼に答えるように背中へ腕を回して抱き締め返すと、今度は柊人さんの唇が私の頬やこめかみに繰り返し触れてくる。全てが愛おしいとでもいうように、ゆっくりと落とされていく口付け。私は黙ってそれを受け入れながら、彼の背中を優しく撫でていた。
言葉少なな分、その重みは誰よりも重い。
だから、彼が傍にいていいと言ってくれるのなら、本当に一緒にいてもいいのだと分かってホッとした。会社の人達には申し訳ないけれど、私は彼の元を離れようとは思わない。でも、それが彼の経営する会社にとって良くない結果になってしまうのは……。彼の足枷になるなんて望んでない。
「大丈夫。縁談を断ったくらいで取引が無くなる相手じゃないから」
私が思っていたことを見透かしたかのように、柊人さんが小さく笑いながら「その程度のことで切られるような仕事はしてきてない」と断言する。さっきのは暴走した部下に反省させる為に大袈裟に言っただけだと。そして、それにと言葉を続ける。
「軽く、今度娘と会ってやってくれって言われただけ。ただの社交辞令だ。それなのに、傍で聞いていた奴等が勝手に騒いで――」
「うん、もう平気だから」
私を安心させるために詳しく説明してくれようとする彼の言葉を途中で遮り、私は柊人さんの頬へと手を伸ばす。そして顔を近付けてその唇を唇で塞いだ。もう言葉は十分過ぎるくらい貰ったからと伝えるべく。
私からの突然の口付けに柊人さんは少し驚いた表情になったけれど、すぐに嬉しそうに口の端を緩めていた。お返しのように私の頬に手を添えて、彼からも顔を近付けてくる。
優しく啄むようなキスの応酬。わざと音を立てては笑い合う。声を出して笑った隙をついて彼の舌が口の中へ潜り込んでくると、私はそれを自分の舌で追いかける。熱い舌が絡んでは互いの熱を確かめ合う。背中へと回されていた腕にキュッと力を込められると彼に必死で求められているのを感じる。私も柊人さんの首に腕を回してさらに身体を密着させた。服越しに彼の体温を感じる。
「はぁ……」
唇が離れると、口から甘い吐息が漏れ出た。呼吸もままならないほど激しいキスに興奮してか、すっかり紅潮した頬が熱い。潤んだ瞳で柊人さんを見つめ返すと、彼も同じような熱っぽい瞳を私へと向けてくる。こんなにも私のことを想ってくれる人と出会えたのは奇跡かもしれない。私はもう一度、彼の腕にキュッとしがみ付き、彼の肩に顔を埋めてから、今どうしても伝えたい言葉を口にする。
「柊人さん、大好き」
言った後、彼の反応が見たくて顔を上げる。てっきり彼の方も何か言ってくれるのかと期待したが、柊人さんは片手で自分の顔を覆い隠して固まっていた。
「柊人、さん?」
どうしたのかと顔を覗き込もうとすると、顔を隠したまま柊人さんが首を横に振ってみせる。手で隠し切れていない耳が赤く染まっているのが見えて、彼が照れて反応に困っているのだと気付いた。そう言えば、私から彼への想いを言葉にしたのは初めてだった。頬がこれでもかというほど緩んでいるから、すごく喜んでくれているのが分かった。
――可愛い……
普段はあまり表情を見せてくれない彼が、自分の感情を持て余して困惑している姿は貴重だ。私がじっと下から眺めていると、柊人さんは気マズいとばかりに顔を横に背けた。何度もハァと憂いを帯びた溜め息をついた後、彼がようやく顔から手を離し私の方を向いてくれる。顔の赤味は収まったみたいだけれど、瞳の熱は冷めたようには見えない。
「ごめん、我慢できない」
そう絞り出すように呟いた後、柊人さんは私の身体を両腕で抱き抱えてソファーから立ち上がる。肩に担ぐような縦抱きに私は驚いて足をバタつかせたが、彼は何も動じずにそのままスタスタと廊下に向かって歩き出す。
「え、えっ、ええっ⁉」
落ちないよう彼の首にしがみ付いていると、廊下を抜けて彼の寝室へと運ばれていた。ベッドの上にぽすんと下ろされて茫然と彼を見上げていると、柊人さんが私の身体に覆い被さるようにして抱き締めてくる。
「咲良、愛してる」
耳のすぐ近くで囁かれた言葉に、私は彼の顔を確かめる。照れているのか真正面にこちらを見ようとしないその頬に、私はそっと唇を近付けた。一緒にいればいるほど、彼のことがどんどん好きになっていく。誠実で真っ直ぐで、でもどこか不器用で。
私が彼に答えるように背中へ腕を回して抱き締め返すと、今度は柊人さんの唇が私の頬やこめかみに繰り返し触れてくる。全てが愛おしいとでもいうように、ゆっくりと落とされていく口付け。私は黙ってそれを受け入れながら、彼の背中を優しく撫でていた。
15
あなたにおすすめの小説
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
【完】ソレは、脱がさないで
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング2位
パッとしない私を少しだけ特別にしてくれるランジェリー。
ランジェリー会社で今日も私の胸を狙ってくる男がいる。
関連物語
『経理部の女王様が落ちた先には』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位
ベリーズカフェさんにて総合ランキング最高4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
『FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高11位
『わたしを見て 触って キスをして 恋をして』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高25位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『ムラムラムラモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる