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91.今年一番の驚き
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部屋に入って来たシアは水城に気づいて少し驚いた顔になった。
「あら?レオナルド殿下、ごきげんよう」
「こんにちはグレイシア嬢」
丁度良かったとシアに駆け寄り水城が此所にいる理由を話すとシアは納得してくれた。
「確かにラノフ様だけでは殿下は此所にお呼びするのはいけませんね。ですが問題ありません!」
自信満々にシアは入ってきた空いたままのドアに振り替える。
そこには見覚えのある鮮やかな赤髪の男の新緑の瞳が面白そうに此方を見ていた。
「メ、メイヴィス様!?」
「く……ふ……お久しぶりですアンジェリカ嬢」
肩を震わせ笑いを堪えるように口許に手を当てたジョセフの側近候補のメイヴィス・チェンバロンドがいた。
そこで俺は自分が令嬢らしかぬ行動をしていたと気付き顔を赤らめて俯きながら二人を部屋の中へ通した。
入り口で、まるでとうせんぼするかの如く話しかけ、あまつ、もう一人の存在すら気付きもせず、話し込んでしまったのだ。
どんな時でも焦らず、緊急の時にこそ落ち着いて焦った顔を見せず堂々としなくてはいけないとリーチェに言われていたのに……。
王太子妃教育と言うか淑女教育をリーチェから受け始めて一年、まだまだ先は長そうだ。
俺は二人にソファに誘い、お茶を淹れてきますと、その場を離れた。
二人分のカップと四人分のお茶を入れたポットをトレーに乗せて戻るとシアは二人掛けに座り、その向かいにメイヴィス、水城はお誕生日席の一人掛けに移っていた。
俺はシアの横に座りお茶を注いでシアとメイヴィスの前に置いた。
二人からお礼を言われて、頷いてから水城を見る。
「レオナルド殿下もお代わりはいかがですか?」
「ありがとうございます。頂きます」
にっこり微笑み空になったカップを受け取り注ぐ。
自分の分にもお茶を注いでから、シア達に先程の無礼を詫びた。
「気になさらないでくださいませ。ですが、驚きましたわ。いつの間にレオナルド殿下とアンジェは仲良くなってらしたの?」
「え!?えと……一年の終わりの学力試験の後に……王宮に登城する機会がありまして……その際に……」
「お二人が温室でお茶をしていた所に、ご一緒させてもらったんです。未来の義姉上と仲良くなりたくて」
前世の知り合いで、仲間意識があってなんて言えないし、最後は少し濁して誤魔化す作戦に出た。
俺は嘘が下手だから、逆に言わない方が無難かなと思ったからだ。
水城も援護してくれたので、特に追及されることはなかった。
内心ホッとしているとノック音がして返事をすると豊が入ってきた。
本を借りに行っていただけなのに随分遅かったなと思いながら見ると面子に少し驚いているらしく目を見開いて固まっている。
そうだよな。今日は俺とシアしかいない予定だったし、ここの利用者は女性しかいなかったしな。
数秒固まってた豊は、我に戻ると俺とシアにも遅くなりましたと声をかけてから、男二人に頭を下げた。
「君がラノフですね?」
「お目にかかれて光栄ですレオナルド殿下。ランカナ領タイタス村のラノフと申します」
「タイタスって苗字じゃなくて村の名前だったの!?」
「「え?」」
俺の叫びに四人とも驚愕して此方を見た。
あ、やべ、これやっちゃった?
豊が頭を抱えて水城が苦笑いしているのが見えた。
しょうがないじゃないか!知らなかったんだから!今年一番の驚きだったんだよ!
俺は羞恥心から頬が赤くなって隠すようにうつ向いた。
そんな俺に笑いを堪えながら、メイヴィスが説明をしてくれた。
平民には基本苗字を持っているものは居ないこと。
昔学院に同じ名前の平民の生徒が同じ学年に居て、呼ばれる本人たちも、呼ぶ先生も混乱していたらしい。
そりゃ、名前読んだら二人揃って振り向かれたら先生も困るわな。
だからそのうち○○○の○○○と呼ぶようになったそうだ。
それ以降、また同じ状況になられては堪らないとその次の平民の生徒には貴族の様に家名の代わりに村や町の名前を使う様にしたらしい。
「まあ、例外もいますけどね」
「例外ですか?」
「二年には商人の娘がいるでしょう?彼女は父親の商会の名を使ってるんですよ。まあ宣伝も兼ねてるんでしょう。学院側としては必ずしも村の名前でなくてはいけない訳ではありませんから。要は、個人が判別されれば良いわけですからね」
なるほどなと頷いてから、お礼を良いながら、メイヴィスは何故そんなに詳しいんだろうと不思議に思っていると、俺の考えが読めたのかまた笑いを堪える。
常識知らなくて悪かったな!こちとら一年分しか記憶ないんだよ!言えないけど!
「もう!メイヴィスお兄様、アンジェを苛めないでくださいまし!アンジェ、メイヴィスお兄様が詳しいのは彼の父親が学院の最高責任者だからですわ」
あれ?前に姉の夫の父親が学院を任されてるって……メイヴィスのチェンバロン公爵家にシアの姉が嫁いでて……あああああああああ!!
つまり、この学院の最高責任者がチェンバロン公爵って事じゃないか!!!
何で今まで気づかなかったんだろう……
「まさか、それもご存知なかったのですか?結構周知の事実だと思ってましたが……君も知っていたか?」
そう言って豊を見たメイヴィスに豊は当然だと言わんばかりに頷いたのだった。
「あら?レオナルド殿下、ごきげんよう」
「こんにちはグレイシア嬢」
丁度良かったとシアに駆け寄り水城が此所にいる理由を話すとシアは納得してくれた。
「確かにラノフ様だけでは殿下は此所にお呼びするのはいけませんね。ですが問題ありません!」
自信満々にシアは入ってきた空いたままのドアに振り替える。
そこには見覚えのある鮮やかな赤髪の男の新緑の瞳が面白そうに此方を見ていた。
「メ、メイヴィス様!?」
「く……ふ……お久しぶりですアンジェリカ嬢」
肩を震わせ笑いを堪えるように口許に手を当てたジョセフの側近候補のメイヴィス・チェンバロンドがいた。
そこで俺は自分が令嬢らしかぬ行動をしていたと気付き顔を赤らめて俯きながら二人を部屋の中へ通した。
入り口で、まるでとうせんぼするかの如く話しかけ、あまつ、もう一人の存在すら気付きもせず、話し込んでしまったのだ。
どんな時でも焦らず、緊急の時にこそ落ち着いて焦った顔を見せず堂々としなくてはいけないとリーチェに言われていたのに……。
王太子妃教育と言うか淑女教育をリーチェから受け始めて一年、まだまだ先は長そうだ。
俺は二人にソファに誘い、お茶を淹れてきますと、その場を離れた。
二人分のカップと四人分のお茶を入れたポットをトレーに乗せて戻るとシアは二人掛けに座り、その向かいにメイヴィス、水城はお誕生日席の一人掛けに移っていた。
俺はシアの横に座りお茶を注いでシアとメイヴィスの前に置いた。
二人からお礼を言われて、頷いてから水城を見る。
「レオナルド殿下もお代わりはいかがですか?」
「ありがとうございます。頂きます」
にっこり微笑み空になったカップを受け取り注ぐ。
自分の分にもお茶を注いでから、シア達に先程の無礼を詫びた。
「気になさらないでくださいませ。ですが、驚きましたわ。いつの間にレオナルド殿下とアンジェは仲良くなってらしたの?」
「え!?えと……一年の終わりの学力試験の後に……王宮に登城する機会がありまして……その際に……」
「お二人が温室でお茶をしていた所に、ご一緒させてもらったんです。未来の義姉上と仲良くなりたくて」
前世の知り合いで、仲間意識があってなんて言えないし、最後は少し濁して誤魔化す作戦に出た。
俺は嘘が下手だから、逆に言わない方が無難かなと思ったからだ。
水城も援護してくれたので、特に追及されることはなかった。
内心ホッとしているとノック音がして返事をすると豊が入ってきた。
本を借りに行っていただけなのに随分遅かったなと思いながら見ると面子に少し驚いているらしく目を見開いて固まっている。
そうだよな。今日は俺とシアしかいない予定だったし、ここの利用者は女性しかいなかったしな。
数秒固まってた豊は、我に戻ると俺とシアにも遅くなりましたと声をかけてから、男二人に頭を下げた。
「君がラノフですね?」
「お目にかかれて光栄ですレオナルド殿下。ランカナ領タイタス村のラノフと申します」
「タイタスって苗字じゃなくて村の名前だったの!?」
「「え?」」
俺の叫びに四人とも驚愕して此方を見た。
あ、やべ、これやっちゃった?
豊が頭を抱えて水城が苦笑いしているのが見えた。
しょうがないじゃないか!知らなかったんだから!今年一番の驚きだったんだよ!
俺は羞恥心から頬が赤くなって隠すようにうつ向いた。
そんな俺に笑いを堪えながら、メイヴィスが説明をしてくれた。
平民には基本苗字を持っているものは居ないこと。
昔学院に同じ名前の平民の生徒が同じ学年に居て、呼ばれる本人たちも、呼ぶ先生も混乱していたらしい。
そりゃ、名前読んだら二人揃って振り向かれたら先生も困るわな。
だからそのうち○○○の○○○と呼ぶようになったそうだ。
それ以降、また同じ状況になられては堪らないとその次の平民の生徒には貴族の様に家名の代わりに村や町の名前を使う様にしたらしい。
「まあ、例外もいますけどね」
「例外ですか?」
「二年には商人の娘がいるでしょう?彼女は父親の商会の名を使ってるんですよ。まあ宣伝も兼ねてるんでしょう。学院側としては必ずしも村の名前でなくてはいけない訳ではありませんから。要は、個人が判別されれば良いわけですからね」
なるほどなと頷いてから、お礼を良いながら、メイヴィスは何故そんなに詳しいんだろうと不思議に思っていると、俺の考えが読めたのかまた笑いを堪える。
常識知らなくて悪かったな!こちとら一年分しか記憶ないんだよ!言えないけど!
「もう!メイヴィスお兄様、アンジェを苛めないでくださいまし!アンジェ、メイヴィスお兄様が詳しいのは彼の父親が学院の最高責任者だからですわ」
あれ?前に姉の夫の父親が学院を任されてるって……メイヴィスのチェンバロン公爵家にシアの姉が嫁いでて……あああああああああ!!
つまり、この学院の最高責任者がチェンバロン公爵って事じゃないか!!!
何で今まで気づかなかったんだろう……
「まさか、それもご存知なかったのですか?結構周知の事実だと思ってましたが……君も知っていたか?」
そう言って豊を見たメイヴィスに豊は当然だと言わんばかりに頷いたのだった。
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