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第1幕 パティシエ入門
第2話 爺ちゃんとの約束・中編
しおりを挟むオレの名前は旭孝太郎。
今年十六歳、高校生になる──男だ。多分。背丈は百六十五センチで、ちょっと低いけどこれからどんどん伸びていく予定。まあ、父さんが百八十だし、母さんも百七十と高いから、オレもそのぐらいにはなる……はず。
中学前では部活と菓子作りに明け暮れていた。ちなみに部活は野球部で、ピッチャーだ。エースの村田のようなストレート百五十キロとかの武器がある訳じゃない。あえて言うなら投げる球のコントロールが上手いってことだ。部活動は夏に引退したが、たまに後輩の練習相手で集まれる三年は集まっていた。
本当は中学の時に、爺ちゃんの店の手伝いをするはずだったんだけど、体力がないと叩き出されてしまった。結果、中学三年は体力を鍛えるという名目で、運動部に入った。んでもって、高校に入ったら本格的に爺ちゃんの店を手伝う──つまりは住み込み、アンド弟子入り。となるはずだった。
──そう、中学三年の卒業式前に爺ちゃんが倒れた。それも自主的に参加した部活中に。
入院がどのくらいなのか。
仕事に復帰は?
オレの修行は?
聞きたいことは山積みだけど、父さんに「病室の外で待っていろ」と襟首をつかまれて、部屋を追い出された。
「父さん、爺ちゃん、話し終わった?」と、三分も経たずに病室のドアを勢いよく開けたのだが──
「三分で終わる訳ないだろう!」
「相変わらず、落ち着きのない奴だな」
頭を小突かれたのち、病室から追い出された。
「それだけ元気なら店の手伝いをしてやってくれ」と爺ちゃんは言っていたが、オレは首を傾げた。洋菓子店は遅くても、夜八時か九時には閉めていたはずだ。
クリスマスやバレンタインなどの繁忙期なら、分からなくはないけど……。
考えても答えは出ず、ひとまず爺ちゃんの店に行くことにした。父さんが部活用のバッグを回収してくれたので、体が軽い。
病院を出るとすっかり日が落ちて、星空と街灯が道を照らす。
やや肌寒い風がオレの頬を掠めた。
「二週間後には、ここに住むのか……。ま、受かればだけど」
長閑さは、埼玉とあんまり変わらないと微苦笑しつつ、オレはのんびりと坂を下った。
***
この町も《アヤカシ》との共存生活は浸透しており、商店街も前は《ふれあい》だとか言っていたが、今は駅名と同じく《まほろば商店街》という名前に変わったと、去年の夏休みに爺ちゃんから聞いた。
商店街の入り口は真新しく、木材で作られた入口は鳥居に近い。
「……っていうか、陽明門並みに凝った趣向なんだけど」
神獣やら鳥と妙に作り込まれた──芸術品。こういう趣向を凝らした作品は、菓子作りの技法にも参考になる。
「にしてもマジでかっこいい! これ誰が作ったんだろう? たしか誰々作とか書いてあるよな──」
「おい少年。暗くなるから早く帰った方がいいぞー」
不意に声をかけられ、オレはハッと周囲を振り返る。だが見渡しても主婦ばかりで、声の主ではなさそうだった。
「ん?」
空耳かと視線を戻そうとして、ふと頭を上げると提灯の明かりが更に増した。
「よう。もっと照らすか?」
「わあ!?」
釣瓶火だ。木にぶら下がる怪火。ただ延焼の恐れはなく、松の古木から落下して人を捕食する生首妖怪──と、記述されているが、元々は《木の精霊》だそうだ。
しかし今は人を食べる代わりに、町内会や地域の人々が肉マンを献上するという事で、提灯の明かりとなる事を承諾──この手の知識はオレも把握している。というのも、学校の必須科目である《アヤカシ学》で習ったからだ。
これも《アヤカシ》との共存する上で、社会に出て必要とされる知識といえる。
「あー、えっと。照らしてもらったのに、すみません。オレ、今、手持ちがなくて、肉マンが買えません……」
「ん? 少年が気にすることないぞー。町内会の連中がくれるし。あ、でもくれるなら欲しいぞなー」
「ぞな」って、なんか妙な語尾だな。ブームとか?
「あー、んー。甘いものなら、今度差し入れるんで、それでどうっスか……です」
「ん、お!? もしかして《アヤカシ洋菓子店》か?」
「へ? 爺ちゃんの店以外にそんな店があったッスか……です?」
オレは小首を傾げる。去年の夏休みに来たときはそんなことは言ってはいなかったはずだ。しかし、このご時世だ。ライバル店が一つや二つ、いや三つとか爺ちゃんの店の前に出来たら──
「おー! メチャクチャ燃える! 貴重な情報アザッス! じゃあ、オレ帰ります!」
そう言うと、商店街の中を駆け出す。釣瓶火が後ろで何か言っていた気がするが、よく聞こえなかった。とにもかくにも、向かうは爺ちゃんの店。
人通りの多い商店街の中間、十字路の先にその店はある。《Eudaemonics》・千葉店。外装はシンプルな白、木の両扉、小窓が左右に二つ。そこからショーケースが見える。照明はオレンジで温かさを演出していた。入り口の床は煉瓦でオレは懐かし気に入口の前に立つ。
扉はやや重く、子どものころは片方しか開けなかったが、今は苦も無く両扉を開いた。
からん、とドアベルの涼やかな音が店内に響く。中に入ると、聞き覚えのあるオルゴールが店内に流れていた。
二十畳くらいの店内に四、五人のお客さんがいた。時計を見るとすでに八時近い。仕事帰りに立ち寄る人が多いのかもしれない。
「いらっしゃいませ」
よく通る声が出迎えてくれた。
見た目は二十代後半の男だ。しっかりとした体格で、スポーツか何かやっていたような体つきに、背丈は百八十に届くかどうかで、メチャクチャかっけー。
髪は短髪で、コックコート姿が似合う。一つ目の色は琥珀色と珍しい。
「ん?」とオレは小首を傾げた。あんな人いただろうか? もしかして爺ちゃんが倒れたから、他の店舗からの助っ人だろうか。
ふと、もう一人の従業員と目が合った。
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